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こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


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料理の楽しみ

「ああ、そうだ。美月」

「はい?」

「この前は買い物をありがとう。頼んだもの、全部ちゃんと届いたよ」

「あ、よかったです」

「糸も針も、みんな喜んでた。あの小さな醤油差しも、さっそく使い方を考えてるみたいだ」

「急須になる予定のやつですね」

「そうそう」

「ジャムとクッキーも?」

 聞くと、ユクルさんが満足そうに頷いた。

「もちろん」

「そこだけ返事が早い」

「大事だからね」

 リラさんが呆れたようにユクルさんを見る。

「長、クッキーはほとんどご自分用でしょう」

「みんなにも分けるよ」

「ほとんど?」

「……半分くらいは」

「怪しいですね」

 思わず笑う。

「でも、ちゃんと届いてよかったです」

「本当に助かったよ。人間のものをあれだけまとめて揃えるのは、私たちだけじゃ難しいからね」

「また必要なものがあったら言ってください」

「ああ。その時はお願いするよ」

「今日は何にします?」

「私は梅酒をいただいてみたいです」

「リラさん、飲むんですね」

「もちろん」

「私は甘いやつ」

「ユクルさんは聞かなくても分かります」

「ひどいなあ」

「食べるものはどうします?」

「私は、おすすめをいただきたいです」

 リラさんが厨房の方を気にするように見る。

「人間の料理は、あまり食べたことがなくて」

「じゃあ、少しずついろいろ出しますね」

「お願いします」

「ユクルさんは?」

「私もそれで」

「ユクルさんは慣れてるでしょう」

「だから朔太郎に任せれば間違いない」

「よく分かってるな」

 厨房から、おじいちゃんの声が返ってくる。

 まず出したのは、味の染みたふろふき大根。

 それから、里芋の揚げ出しに、きのこの茶碗蒸し。

 焼き物にはししゃもを少し。

 リラさんは一皿運ぶたびに、興味深そうに料理を眺めていた。

「これが、ふろふき大根……」

「里にもあります?」

「似たものはあります。でも、こんなふうには食べません」

「じゃあ、ぜひ」

 リラさんが箸を伸ばしたところで。

 からん。

 もう一度ベルが鳴った。

「こんばんはー。寒っ!」

「あ、知佳さん。いらっしゃい」

 知佳さんが肩をすくめながら入ってくる。

「今日めっちゃ冷えるね」

「外、そんなに?」

「もう冬だよ。冬」

 コートを脱ぎながら、カウンター席へ座る。

「ビール?」

「今日は熱燗にする」

「あれ。珍しい」

「寒いから」

「なるほど」

 グラスを用意していると。

「あれ?」

 知佳さんがカウンターを見た。

「このコースター、新しい?」

「あ」

「かわいい。これ手作り?」

「そうなんです」

「すご。刺繍めっちゃ細かいね」

 隣に座っているリラさんを見る。

 言いたい。

 ものすごく言いたい。

 作った人、隣にいますよって。

「どうしたの?」

「いえ。なんでもないです」

 リラさんを見ると。

 少しだけ口元が緩んでいた。

「こういうの作れる人、器用だよねえ」

「……ありがとうございます」

 リラさんが小さく言う。

「え?」

「いえ。素敵なものですね、と」

「ああ、ですよね」

 私は笑いを堪える。

 ユクルさんは完全に面白がっていた。

「知佳さん、食べるものは?」

「あ、食べる。今日まだちゃんと晩ご飯食べてない」

「ご飯ものにする?」

「する」

「今日は鮭ときのこの炊き込みご飯がありますよ」

「それ」

「即決」

「お腹空いてるんだって」

 笑いながら、炊き込みご飯を茶碗によそう。

 鮭の淡い桃色と、舞茸やしめじ。

 細く切った人参も混ざって、湯気と一緒に出汁の香りが立ち上る。

「あと、何かつまむ?」

「んー……今日何ある?」

「里芋の揚げ出しと、大根の煮物。ししゃもも焼けますよ」

「じゃあ、里芋とししゃも」

「はーい」

「頼みすぎかな」

「晩ご飯なんだからいいんじゃない?」

「それもそうか」

 炊き込みご飯を置くと、知佳さんが嬉しそうに箸を取った。

「こういうの家じゃ作んないんだよねえ」

「炊き込みご飯?」

「一人分だと面倒じゃん」

「ああ、それは分かる」

 一口食べて、知佳さんの顔が緩む。

「ん。おいしい」

「よかった」

 その横では、リラさんがふろふき大根を食べながら、興味深そうに知佳さんの茶碗を見ていた。

「あれは何ですか?」

「炊き込みご飯です」

「ご飯と一緒に、最初から具を炊くんですか?」

「そうですよ。今日は鮭ときのこですね」

 リラさんが感心したように茶碗を覗き込む。

「里でも作れそうですね」

「きのこなら、たくさんあるんじゃないですか?」

「あります。鮭は難しいですけど」

「別に同じ具じゃなくてもいいんじゃない?」

 知佳さんが何気なく言う。

「そこにあるもので作れば」

「……なるほど」

 リラさんが真面目に頷いた。

「人間の料理を、そのまま真似する必要はないんですね」

「そりゃそうでしょ。食べるの自分たちなんだから」

 あっさり言って、知佳さんはまた炊き込みご飯を口へ運ぶ。

 ユクルさんが、隣で小さく笑った。

「知佳さんは、迷いがないね」

「え? 何がです?」

「いや。なんでもないよ」


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