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こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


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小さな荷台

住居側へ戻り、あらかじめまとめておいた荷物を持ってくる。

「これが、頼まれていたものです」

 針と糸。

 毛糸。

 小さな花柄のハンカチ。

 急須代わりの醤油差し。

 細工用のナイフ。

 それから。

「これがジャムとクッキー」

「ありがとうございます」

 ユノンくんの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。

「里守、楽しみにしてました?」

「……はい」

 一瞬だけ間があった。

「何度か確認されました」

「やっぱり」

 笑ってしまう。

 全部を紙袋へ入れてから、私はユノンくんを見る。

「でも、これ持てます?」

「大丈夫です」

「本当に?」

「店の脇に荷車を置いてありますので」

「荷車?」

 一緒に外へ出てみる。

 壁際に、小さな二輪の荷車が停めてあった。

 人間から見れば、子どもの玩具くらいにしか見えない。

 けれど、ユノンくんには立派な運搬用の荷車だ。

「なるほど」

「館まで私一人で運ぶわけではありません。途中で別の者と合流します」

「ちゃんとしてるんだ」

「仕事ですので」

 少し誇らしそうだった。

 おじいちゃんも出てきて、荷物をいくつかに分ける。

「瓶は下だ」

「はい」

「刃物は別にしろ」

「承知しました」

「毛糸は上でいい」

 私は二人のやり取りを眺める。

 ついこの前まで、人間の店で普通に売られていたもの。

 それが今は、小さな荷車へ積まれている。

 このまま森の奥へ運ばれて。

 今度は、コロポックルたちの暮らしの中で使われる。

「なんか、不思議だね」

「何がだ」

「ううん。なんでもない」

 最後にジャムを積む。

「ユノンくん」

「はい」

「ユクルさんに、ちゃんと買いましたって伝えてください」

「承知しました」

 少し考えてから。

「おそらく、それが一番喜ばれる報告かと」

「だよね」

 ユノンくんは帽子の庇に手を添える。

「それでは、確かにお預かりいたしました」

「これ、持っていって」

 私はユノンくんに、小さな香草の束を手渡した。

「これは?」

「人の目に引っかかりにくくするおまじない。そんなに強くないけど」

「助かります。小夜さまも、よくこうしてくださいました」

「ユノンくんたちも、そういうの出来るんじゃないの?」

「できます。ただ、荷物まで隠すのは少し苦手でして」

「ああ。今日は荷物多いもんね」

「気をつけてね」

「ありがとうございます」

 小さな荷車を引いて、ユノンくんが通りへ出る。

 ちょうど向こうから、一人の男の人が歩いてきた。

 ユノンくんは慌てる様子もなく、荷車ごと軒下へ寄る。

 さっき渡した香草の束が、荷物の脇で小さく揺れた。

 男の人の視線が、一度だけそちらへ向く。

 けれど、そのまま何事もなかったように通り過ぎていった。

「……すご」

 思わず呟く。

 コロポックルには、もともと人の目から外れやすくなる性質があるらしい。

 姿が消えるわけじゃない。

 そこにいても、目に留まりにくい。

 それでも荷物が多いときや、人の多い場所では限界がある。

 だから、おばあちゃんもこうして小さなおまじないを持たせていたのだろう。

 ユノンくんは建物の影を選びながら、小さな荷車を引いていく。

 昼の街を。

 人間たちのすぐそばを。

 森へ持ち帰る荷物を載せた、小さな荷車が進んでいった。

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