お礼のかたち
◇
それから、数日が過ぎた。
雪は降ったり、解けたり。
朝に白くなっていた道路も、昼には濡れたアスファルトへ戻っている。
その日も『こもれび』は、いつも通りの時間に店を開けた。
午前中の客がひと段落して、私は空いたカップを片付けていた。
そのとき。
入口に吊るした香草の束が、かすかに揺れた。
「あ」
戸の向こうを見る。
敷居の外に、小さな人影が立っていた。
深い色の外套。
胸元には、葉と月を組み合わせた小さな紋章。
見覚えがある。
「こんにちは」
「水森美月殿。先日はありがとうございました」
あのとき、里守の館から手紙を届けてくれたコロポックルだ。
「こんにちは。今日は受け取りですか?」
「はい。お願いしていた品を受け取りに参りました」
「ちょうどまとめてありますよ」
そこで、ふと思う。
「そういえば、お名前聞いてませんでしたよね」
「ああ。失礼いたしました」
小さな使者は姿勢を正した。
「ユノンと申します」
「ユノンくん」
「……くん」
「嫌でした?」
「いえ」
ほんの少しだけ困ったような顔をした。
たぶん嫌ではないらしい。
「それから、こちらを」
ユノンくんが外套の内側から、小さな革袋を取り出した。
かすかな金属音がする。
「あ。買い物の分?」
「はい」
受け取って中を覗くと、葉と月の模様が刻まれた硬貨が何枚か入っていた。
『おぼろ月』でユクルさんたちが使っていたものと同じだ。
「おじいちゃん」
袋を渡す。
おじいちゃんは中身を一度見ただけで、
「ああ。これでいい」
と頷いた。
「早いね」
「昔から使ってるからな」
「こちらは、仕立て屋からです」
今度は、ユノンくんが別の包みを差し出した。
「仕立て屋さん?」
「今回の買い出しのお礼に、と。……以前、小夜さまに頼まれていたものを、今回ようやく仕上げたそうです」
「おばあちゃんに?」
「人間のお店で使う、小さな敷物をいつか作ってほしいと」
包みを開く。
中に入っていたのは、何枚かの小さな布。
一枚ずつ、縁に細かな刺繍が入っている。
葉っぱ。
小さな木の実。
三日月。
「かわいい……」
「作るの、大変だったんじゃない?」
「向こうでは大きな仕事だったと思うぞ」
おじいちゃんが一枚つまみ上げる。
「こいつらからすれば、人間用のコースターなんて敷物みたいなもんだからな」
里から買い出しを頼まれたときは、代金とは別に、こうして向こうで作ったものを添えてくれることがある。
硬貨は、買ったものの代金。
そして、これは――手間をかけてくれたことへの、お礼らしい。




