『木いちご』のジャム
大きな通りから一本入って、少し走ったところで、おじいちゃんが車を曲がった。
住宅と小さな店が並ぶ通り。
その一角に、小さな喫茶店があった。
入口には木の看板が掛かっている。
――『果実と焼菓子 木いちご』。
「おじいちゃんも、よく来てたの?」
「俺は何度か来ただけだ」
「おばあちゃんの方が来てたんだ」
「あいつは街に出ると、勝手に店増やしてたからな」
「顔なじみを?」
「買い物先をだ」
二人で車を降りて、おしゃれな木の扉を開ける。
珈琲とバターの甘い香りに、少しだけ果実の酸っぱい匂いが混じっている。
レジ横には瓶詰めのジャム。
棚にはクッキーやパウンドケーキ。
奥に小さな喫茶スペース。
優しそうな女性が私たちに気づいて声を掛ける。
「あら、水森さん。お久しぶりですね」
「そちらは?」
「孫だ」
「ああ……小夜さんのお孫さん?」
「はい。美月です」
「まあ。似てるわねえ」
「そうですか?」
「目元が少し」
女性は懐かしそうに笑った。
「小夜さん、よく来てくださってたのよ。新しいジャムを出すと、だいたい一度は試してくれて」
「そんなに?」
「ええ。気に入ると、まとめて買っていかれて」
「中でもイチゴのジャムは、よく選んでいかれてね。『山に住んでるお友達が好きなの』って、いつもクッキーと一緒に」
「……山のお友達」
思わずおじいちゃんを見る。おじいちゃんは知らんぷりをして、棚のジャム瓶を眺めていた。
(やっぱりユクルさんのことだ……)
「今日もイチゴですか?」
店主の女性に聞かれて、私は大きく頷いた。
「はい! イチゴのジャムを二つ……ううん、三つと、バタークッキーを二箱お願いします」
「かしこまりました。今朝ちょうど新しいのが炊きあがったばかりなんですよ」
綺麗に包まれたジャムとクッキーを受け取る。
おばあちゃんも、こうして何度もこの包みを持って帰ったのだろうか。
そう思うと、手の中の紙袋が少しだけ特別なものに感じられた。
お会計を済ませて店を出ると、冷たい風が少し強く吹いていた。
車のトランクは、百円ショップの日用品や、小さなナイフ、ハンカチ、麻布、それにイチゴジャムでずいぶん賑やかになっていた。
「お腹すいたね」
「帰ってから食えばいい」
「えー」
「ここからならすぐだろ」
買い物を終えた私たちは、そのまま家へ戻ることにした。




