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こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


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30/65

百円ショップ

家が並ぶ道を抜けると、景色はすぐに開けた。

 収穫を終えた畑。

 葉を落とした木々。

 道の脇には、昨日の雪がところどころ薄く残っている。

 根雪になる前のこの時期は、景色がまだ秋なのか、もう冬なのかよく分からない。

 道路も乾いているところと濡れているところが混ざっていた。

「夜、凍るかな」

「冷えればな」

「帰り遅くならないようにしよ」

「そのために早く出たんだろ」

 しばらく走る。

 最初は畑と林ばかりだった道沿いに、少しずつ店が増えてきた。

 コンビニ。

 ガソリンスタンド。

 大きな看板。

 走っている車の数も、さっきまでとは違う。

「おー。街だ」

「何回も来てるだろ」

「久しぶりだとちょっと楽しいの」

 信号で車が止まる。

 私は窓の外を眺めながら、買い物のメモをもう一度開いた。

「まず、どこから行く?」

「百均」

「ジャムじゃないんだ」

「食い物は最後だ」

「ああ、そっか」

 そうだ。

 鹿野さんや葉月さんにも、何かお土産を見ていこう。

 おじいちゃんは、街で一番大きな百円ショップに向けて車を走らせた。

 平日の午前中だというのに、駐車場には思ったより車が停まっていた。

「広いねえ」

「前にも来ただろ」

「久しぶりだから」

 入口でかごを一つ取る。

 店内には台所用品から文房具、清掃用品に園芸用品まで、商品が整然と並んでいた。

「まず何から見る?」

「包丁だな」

「小さいやつ?」

「ああ」

 キッチン用品の棚へ向かう。

 果物用の小さなナイフに、薬味を切るための小ぶりな包丁。

 いくつか見比べて、おじいちゃんが一本を手に取った。

「これでも少し大きいな。ちょっと行ったところのショッピングセンターで、キャンプ用の細工ナイフを見た方がいいかもしれん」

「向こうの人たちには、ペティナイフでも大きな包丁になっちゃうもんね」

「そうだな」

 次は裁縫用品のコーナーへ移動する。

「細い針と、丈夫な縫い糸……」

「それだな」

 頼まれていた針のセットと糸をかごへ入れる。

 毛糸も見つかった。

 軽くて手触りの柔らかそうなものを何色か手に取る。

「どれがいいと思う?」

「暖かけりゃなんでもいい」

「そういう問題じゃないと思うけどなあ」

 仕立て上がったときの可愛らしさを想像しながら、暖かそうな明るい色合いをいくつか選んだ。

 そのまま店内を歩いていると、キャンプ用品の棚が目に入る。

「あ」

 手のひらに載るくらいの小さな折り畳みテーブル。

 人間から見れば、ちょっとした調味料や小物を置く程度のサイズだ。

 でも。

「これ、ハルさんたちには立派なちゃぶ台じゃない?」

 おじいちゃんが足を止めた。

「……まあな」

「こっちは?」

 手のひらサイズのシェラカップを持ち上げる。

「鍋になりそう」

「でかい」

「みんなで囲む大鍋」

「……まあ、煮込みならいけるか」

「これも」

 今度は、組み立て式の小さなミニラック。

「食器棚とか、本棚になりそう」

「美月」

「なに?」

「買い物増やすなよ」

「まだ見てるだけだよ」

「お前の『見てるだけ』は一番信用ならん」

「ひどい」

 そう言いながらも。

 人間の街では何でもない日用品が、森の奥の里ではまったく別の生活道具に化ける。

 そう思うと、見慣れた百円ショップの棚が急に宝の山に見えてきた。

「使えそうなの、いっぱいあるね」

「『使えそう』と『必要なもの』は違うぞ」

「ハンカチも見てみる?」

「そうだな」

 タオルやハンカチの棚へ向かう。

 何枚か並んでいたけれど、無地だったり、柄が大きすぎたり。

 里の仕立て屋さんが求めているような、小さな花柄で、地の色が明るいものは見つからなかった。

「これもショッピングセンターで見た方がいいね」

「そうだな」

 そのまま日用品の棚を見て回っていると、ふと目に留まったものがあった。

「……あ、これ」

「なんだ」

 私は日用品の棚から、硬めの毛が付いた手のひらサイズのブラシを一つ取り、おじいちゃんに見せた。

「鹿野さんに」

「掃除用だぞ」

「持ち手を木に括り付けたら、背中掻きにちょうどよくない?」

「鹿に掃除用品を土産にするな」

「絶対使うって」

 結局、ブラシはかごに入れた。

「急須は?」

「この辺だな」

 おじいちゃんが手に取ったのは、急須ではなく、小さな陶器の醤油差しだった。

「それ、醤油差しだよ」

「向こうじゃ急須になる」

「ああ……」

 確かに、コロポックルが両手で持つなら、ちょうどいいくらいの大きさだ。

「茶葉は?」

「向こうで茶こしを付ける」

「改造するんだ」

「そのまま使えるものばかりじゃない」

 結局、百円ショップでは頼まれていたものをいくつかと、予定になかった鹿野さん用のブラシを買った。

「なんだかんだ、大荷物になったね?」

「お前が余計なもん入れるからだ」

「ブラシ一個だけじゃん」

「毛糸も増えてたぞ」

「色違いだよ」

「同じようなもんだろ」

「全然違うよ」

 そんなことを言いながら車へと戻った。

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