雪の降る夜に
しばらくすると、吉原さんは最後の豚汁を飲み干した。
「ふう……食った食った」
「お粗末さまでした」
「いやいや。今日も旨かった」
吉原さんは満足そうに腹をさすりながら、財布を取り出した。
「ごちそうさん」
「ありがとうございました」
吉原さんは隣のユクルさんを見る。
「俺なんかの話でよければ、いくらでも聞くよ」
「ありがとう」
ユクルさんが素直に頭を下げる。
「じゃあ、また来るわ」
「はい。お待ちしてます」
吉原さんは笑いながら上着を羽織り、暖簾をくぐって外へ出ていった。
からん、とベルが鳴る。
「俺もそろそろ帰る」
鹿野さんが残っていた酒を飲み干し、席を立った。
「鹿野さんもですか?」
「ああ。雪が強くなる前にな」
「山、気をつけてくださいね」
「慣れている」
鹿野さんが懐へ手を伸ばしかける。
「あ、お代は大丈夫ですよ」
「ん?」
「昨日いただいたきのこの分、まだ残ってますから」
「そうだったな」
「今日の分を引いても、まだ少しある」
おじいちゃんが横から言った。
「なら、また来る」
鹿野さんはそう言って、ちらりとユクルさんを見る。
「先頭だけで走るなよ」
「……覚えておくよ」
ユクルさんが小さく笑った。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました。またどうぞ」
鹿野さんも暖簾をくぐり、雪の中へ消えていった。




