みんな同じお客さん
温かいお絞りをユクルさんへ渡す。
「それで、今日は何にします?」
「何がある?」
「豚汁と、銀だらの西京焼き。大根と厚揚げの煮物。あとは、秋に漬けたきのこの醤油漬けと、にしん漬けがありますよ」
「いいね」
ユクルさんは少し考えてから、にこりと笑った。
「じゃあ、全部少しずつ」
「全部?」
「少しずつだから」
「そういう問題かなあ」
私が首を傾げると、おじいちゃんが横から口を挟んだ。
「食えるなら出してやれ」
「食べられるよ」
「じゃあ決まりですね」
まずは豚汁を椀によそう。
ごぼう、大根、人参、じゃがいも。
豚肉の脂が味噌と混ざって、湯気と一緒にやさしい匂いが立ち上る。
「熱いですよ」
「ありがとう」
ユクルさんが両手で椀を包む。
その様子だけ見ていると、里の長というより、寒い日に温かい汁物を楽しみにしている近所のおじいさんにしか見えない。
からん、と入口のベルが鳴った。
「こんばんはー」
「いらっしゃいませ。あら、吉原さん。お久しぶりです」
入ってきたのは、仕事帰りらしい中年の男性だった。
何度か来ている人で、今日は肩に少し雪を乗せている。
「寒いねえ。なんか温かいもんある?」
「ちょうど豚汁ありますよ」
「それだ。それと熱燗。あと焼き魚あったらそれね」
「銀だらの西京焼きありますよ」
「じゃあそれ」
吉原さんはユクルさんの隣から一つ空けた席へ腰を下ろした。
「こんばんは」
ユクルさんが先に声をかける。
「ああ、こんばんは」
吉原さんも何気なく返す。
たぶん、この人は隣に座っている白い髭の老人が、森の奥にある小さな里の長だなんて思ってもいない。
それでいい。
ここでは、みんな同じお客さんだ。




