里からの使者
戸が閉まり、冷たい風が一瞬だけ足元を撫でる。
私は空いた皿を下げながら、ふう、と小さく息をついた。
「じゃあ美月ちゃん、俺もそろそろ行くわ」
三浦さんが毛糸の帽子を深くかぶり、席を立つ。
「はい。足元気をつけてくださいね」
「まだそこまで年寄りじゃない」
「七十過ぎてるでしょう」
「余計なお世話だ」
三浦さんは会計を済ませると、そのまま家へ帰っていった。
昼の『こもれび』は、いつもこんなものだ。
忙しい日もあれば、誰も来ない日だってある。
だからといって、焦っても仕方がない。
気を急いても、いいことなんてあまりない。
来る人が来て。
食べたいものを食べて。
少し休んで帰っていく。
今は、それくらいがちょうどいいと思っている。
そのとき。
入口に吊るしていた香草の束が、かすかに揺れた。
「ん?」
足元を見る。
敷居のすぐ外に、小さな人影が立っていた。
人間の膝にも届かない背丈。
深い色の外套をまとい、胸元には葉と月を組み合わせたような小さな紋章が留められている。
ハルさんが使っている硬貨と同じ模様だ。
そして、その人はコロポックルだった。
その人は店の中をちらりと確認すると、私を見上げた。
「水森美月殿でいらっしゃいますか」
「はい」
ずいぶん丁寧な人だ。
「里守の館より、朔太郎様へお届け物を預かって参りました」
「里守の館から?」
「はい」
差し出されたのは、私の親指ほどしかない小さな封筒だった。
封には、さっき胸元にあったものと同じ紋章が押されている。
私は落とさないよう、そっと手のひらで受け取った。
「おじいちゃんに渡しておきます」
「お願いいたします」
小さな使者は帽子の庇に手を添えて一礼すると、雪の残る道をトコトコと歩いていってしまった。




