こもれびの朝
◇
翌朝。
目を覚ますと、窓の外は薄く白くなっていた。
昨夜の雪が、少しだけ残ったらしい。
時計を見る。
まだ九時を少し回ったところ。
「……もうちょっと寝たい」
布団の中で呟くと、脇に丸くなっていたたびが、ふにゃりと小さく鳴いた。
首元に鼻を寄せてくる。
布団の温もりに、また引き戻されそうになる。
けれど、今日は昼の喫茶店を開ける日だ。
「はいはい、起きるよ」
私が渋々布団を抜け出すと、たびも「まだ暖かいのに」と言いたげに不満そうな声を漏らし、のそのそとついてきた。
母屋へ移動して簡単に朝食を済ませる。
「美月、昼のパン、仕込み終わってるぞ」
「ありがと、おじいちゃん。焼き上げるね」
足元では、たびが日の当たる畳の上へ移動し、また丸くなって目を細めていた。
そのまま店の厨房へ向かった。
昼用のシチューを仕込み、発酵を終えたパンをオーブンに入れる。
そしてサンドイッチ用の卵を茹でておく。
鍋の中では、大きめに切った人参とじゃがいも、鶏肉がことこと音を立てていた。
ひと息ついてから自室へ戻り、身支度を整える。
十時半を回った頃。
鏡の前で、肩より少し長い髪を後ろでひとつに結ぶ。
仕事の邪魔にならないようにまとめて、エプロンの紐をきゅっと結んだ。
来月で二十九歳。
会社員だった頃とはまるで違う生活だけれど、こうして店に立つ毎日にも、ようやく体が馴染んできた。
外へ出る。
朝の光の下で見る店は、夜の『おぼろ月』とは少し印象が違う。
深い茶色の木壁に、白い漆喰。
大きめの窓には細い木の格子が入り、急な勾配の屋根には昨夜の雪がうっすら残っている。
古い家ではあるけれど、きちんと手入れされていて、どこか小さな洋館にも見える。
ただ、入口には暖簾を掛けられる軒があり、その横には木の看板。
洋風なのか和風なのか。
昔から、少しだけ説明に困る家だ。




