↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こもれびと、おぼろ月  作者: 日旅こつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/67

小さな離れ

一息つくと、かちり。

 店の奥から、小さな音がした。

 住居側との境にある小さな扉が開き、白い足先がひょこっと現れる。

「はいはい。終わりましたよ」

 たびが悠々と店へ入ってきた。

 営業中は絶対にこちらへ来ないくせに、閉店した途端これだ。

 私の足元までやってくると、たびは一度だけ、

「にゃあ」

 と鳴いた。

「遅かったって?」

「にゃ」

「仕事だから、仕方ないでしょう」

 たびは尻尾をゆっくり揺らす。

 その先は、人の目には分かりにくいほど、ほんの少し二股に分かれている。

「はいはい。ご飯でしょ」

「美月」

 厨房から、おじいちゃんが呼ぶ。

「なに?」

「たびに魚やるなよ。ちゃんと猫用のご飯にしろ」

「分かってるって」

 私の足元で、たびが不満そうに「にゃあ」と鳴いた。

 器に猫用のドライフードを入れ、ぬるま湯を少しかけてほぐしてやる。たびは待ちきれない様子で鼻を鳴らし、器を置くと勢いよく食べ始めた。

「よしよし」

 頭を少し撫でてから、店の片付けを完全に終えて奥の戸を開ける。

 店と住居は、同じ建物の中にありながら、ほとんど別の家のように分かれている。

 表側は店。

 一階にカウンターと厨房。

 二階には昼の喫茶店で使うテーブル席がある。

 その奥が、私たちの住居だ。

 店とは別に階段があり、おじいちゃんの部屋や客間もこちら側にある。

 そして私は、母屋のさらに奥に建つ離れを使っている。

「美月、暖かくして寝ろよ」

 厨房を片付け終えたおじいちゃんが、奥へ向かう私に声をかけてきた。

「はーい。おじいちゃんもお疲れさま」

 おじいちゃんに手を振って、渡り廊下へ向かう。

 ご飯を食べ終えたたびが、いつの間にか私の後ろを当然のような顔でついてきていた。

 外はもうすっかり暗くなっていた。

 屋根のある渡り廊下の向こうで、細かな雪が静かに降っている。

「寒っ」

 肩をすくめながら離れの戸を開けると、たびがするりと先に滑り込んだ。

 中は暖かい。

 棚には、おばあちゃんから譲り受けた薬草の瓶や、小さな木箱。

 壁際には古い机。

 その横には、使い込まれた乳鉢が置いてある。

 私の部屋になった今でも、ところどころに、おばあちゃんの名残がある。

「ただいま」

「にゃっ」

 返事をするみたいに鳴いたたびに笑って、エプロンを外した。

 たびはもう自分の席と決めているのか、古い丸椅子の上に飛び乗り、丸くなって毛づくろいを始めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。