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リゼット嬢のお節介~エライザ伯母さまの恋は実るしかないと思います~  作者: 稀月 更


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9/10

第9話 知らぬ真相のカケラ・新たな未来のカケラ


 2人を送り出してすぐに私もさっと身なりを整え続きます。

 もうダンス曲が流れ優雅に泳ぐような巧みなステップを踏む方々と、お互いに照れては恐る恐ると言った風に舞う初々しいカップルなどなど……。

 そしてホールに踏み出した私の前にするりと滑り込んで来る影……あ、忘れていました。

「っと、ウィリアムさ、ま……お久しぶりですわね」

「きみは……今しがたまで、私の婚約申し込みの返事どころか存在そのものが記憶の彼方だっただろう……」

 まあ。鋭い……いえ失態を見抜かれているとは、ごまかし……いえ、言い訳? しませんと……。

「いえ……慎重に慎重を期して熟考させて頂いておりました。だってウィンザー家となると、さすがに格式が……」

 精一杯、分不相応なのではないだろうかという戸惑いを表情に浮かべてあるはずですが……。

「そこまで思うほど、きみの出自も低くはないだろう。ところで――」

 くるりと振り返ると、ウィリアムは行儀悪くある一人の御令嬢を向かって指をさします。

「ところできみ、あそこにいるあんぽんたんは――うちのたった一人の令嬢と呼ばれる身分の者で合っているのだろうか」

 あんぽん……なんですって? 

 そしてその言い回しは?


 ウィリアムはウィンザー家の人間でありながら、時々よく分からないスラングか何かを使います。まあ悪口なんでしょうけれど。

「貴方にそう見えるのでしたら、そうではないのかしら……」

 もうどうにでもなれーという気分でぼんやり答える以外ありません。

「とりあえず、他の方に誤解されないようにその指をお止めくださいな。流行りのドレスが着たかった結果でしょう、あれは。それより……」

 私は満面で妖艶にも見えるだろうか、という程度の笑顔を取り繕います。

「私をダンスの相手に誘いに来てくださったわけではないのですか……?」

「……っ。もちろん、そうだ、きみと踊ろうと――踊ってくださいますか、リゼット嬢……」

 にっこり微笑んで、そっと差し出された男の人のかっしりした手の上に自分のそれを重ねます。

「――よろこんで」

 これは別にお世辞の類ではなく、ウィリアム・ウィンザーのような好青年に丁寧に接されて悪い気などしません。まあお互い出自と教育のわりにはダンスが下手なんですけれどもね。


 床に躓(つまづ)いたり、うっかりバランスを崩して倒れそうなったりしていても、私達の素性を周りの皆さんはご存知だからでしょう。くすくすと嗤(わら)われることもなく、私達は好き勝手なダンスを作り出したりしていつのまにか笑いあっていました。

「舞踏会なんて、ダンスは苦手ですし結局は家の威光でへりくだってくる人達と挨拶を交わすものって気乗りがしなかったのですけれど……。こういう羽目の外し方は、楽しいですわね」

 そう告げますと、ウィリアム・ウィンザーもその薄い唇をにっと少し悪い風に曲げて言いました。

「私も貴女のそういった笑顔を見たのは初めてで、とても新鮮で楽しいよ」

 思っていなかっただけで、彼とは意外と気が合ったりするのかしら。

 なんて、私は少し酔っぱらったように浮かれているのでしょう。


「それにしてもじい……うちの執事に聞いた話を思い出してしまうな……」

 ふっとウィリアムが呟きましたが何のことか分かりません。

「えっと、なんの――お話なのでしょう?」

 ぼうっとした独り言だったのか、少しおどおどとして喋るべきか否かを逡巡されたようでした。

「その、10数年ほど前の夜会での話、らしいんだが――ある一人の姫君が現れたそうだ。それはもう誰も見たことがないほど、容姿も所作もうつくしく、完璧なご令嬢だったと言う。けれども――分かるだろう、高嶺の花過ぎて男性陣は遠巻きにしていたらしいんだ」

 あら。ら? この、お話って……。

「そこをどこぞのまた名家の令嬢だかが悪知恵を絞って、男性たちに嫌がられている、陰口を叩かれているのだ、とそれとなく周囲から固めたり、噂で流しただかなんだかでとにかくまあ性悪なことをしたらしい。結局その姫君のような麗しのご令嬢は数回で姿を見せなくなり、恐らくはその奸計にはまって傷ついたまま最悪の事態に――とかいうどこまでか本当か分からない話ではあるのだが……」

 ええと、ええ、はい。うーん。あら。死んだことにされている? ええっと……。

「何故に私を見てそれを思い出されたのですか?」

「ああ、いや、きみは普段あまり感情を表に出さないだろう? だから同じような誤解をされやすいタイプのように思えてね。まあそれでも今日のそんな無邪気な笑顔を見てしまったら気品高く澄ましたきみも素敵だけれど、惚れ直してしまったよ、ははは」

 改めて今その話を知ってみると――なんだか違うものが見えてくるようです。


「その姫君は、本当に傷ついたから舞踏会に来なくなったのでしょうか――」

「……えっ?」

 ウィリアムは心底不可解といった風な表情を浮かべていました。

「きみ……何か知っているの?」

「――いいえ。何も知らないようなものですが……もしかしたら全く違う理由かも知れませんよ? それに悲哀ものはあまり好まないものでして」

 本当にそのご令嬢は傷ついたからパーティーを永久欠席にされたわけでは無い気がします。

 元々好きだったことを主体にして生きるのは厳しい家の生まれ。そもそも“女”は内助の功とか、なにがしか男性を引き立てて子供でも家でも何かの世話をしていろと強いられることが多い。いつか時代か世界が変わってもっと違う風潮になるとしても、その時も今もまだ難しいかも知れませんね。

 そもそもやっかみの陰口やら噂がどのくらいの規模でどんな風に耳に入ったかは分かりません。けれどそれを鵜呑みにするような単純な脳細胞を姫君はお持ちでないでしょう、ちょうどそれを利用したのだろうと考えた方がしっくりきます。

 そのまま誰にも気に入られなければ嫁ぎ先も決まりません。

 誰にも声をかけられませんでした、と一応そのままそれを令嬢のレールを外れる大義名分にしてしまえば、そのうち放逐されることまで織り込み済みだったのでしょう。ある意味そのくらいしないとお祖父さまたちは納得しなかったでしょうし。

 そうして本当にやりたいことをやっている今があると知ったら――その時に周りにいた方々はどう思われるのかしらね。


 ところであの少女達がホールでどうなっているかと見まわしてみますと。

 遠巻きにしながらも注目されているのは、新星リラ・デュークの方です。そして彼女はいつもと違う視線に戸惑いつつも、頬を赤らめながら微笑んでいます。これは良い出会いがあるかも知れませんね。

 まあ人はやっぱり見た目から入るものなのですね。その後に出自を知ったり、元々知っている場合はそこの部分が付け入る隙、利用価値として考えているのですし。

 さて出自は完璧なマーガレットですが……。ドレスの安っぽさと、装飾品の豪華さがちぐはぐで妙な印象になっています。まあ彼女目当ての男性は当然いるわけですが、今日の騒ぎを聞いていたならどうなることやら。

 けれどまあ2人ともまだまだほんの12歳程度、その間に色々と変わることもあるでしょう。 


 ――…………!

 ざわめいた音が聞こえたのは、ダンスを止めて少し休憩しながら思いを巡らせていた時でした。

「……ウィリアム様、何か空気が変わった気がするのですけれど……」

 隣でドリンクを手にしていたウィリアムも、ん? と言った様子でホールを見まわします。

「なんか……あ……れ? 誰か――――?」


 あれは? 聞いたことがある。昔なにか見たことがある気がするわね。

 誰かに似ているな……? なんだったか、おとぎ話か何かだった気がするのだが――

 本当に存在する人のことだったの――?


 周りが良く分からないざわめきを見せます。特に、年配の方々が――?

「あれって――まさか……」

 ウィリアムがちょうど今入ってきた、すらりとして顔は扇子で大部分を隠されたご婦人を見て呟きました。

「聞いていたイメージとぴったりだ……。あの方はまさか、十数年前の、幻の姫君――か?」

 ――……えっ?

 な、嘘でしょう? まさかあの女性って――ええー……こういう場は苦手だったのではないんですか?


 お読みくださりありがとうございます。評価・コメントなど頂けるとありがたいです。顔マークをください(笑)。次回10話目でたぶん最終回になるとは思うのですが、謎の人物……全然謎じゃないんですが、タイトル回収がされますので、まあよく考えたら伯母さまの恋って考えると誰も興味ない感じになってしまうんですが、私は何故そのタイトルで書き始めたんだろうと自分で謎になっています。エライザ伯母さまは自分の母の姉、でおばさま、と呼称するしかないのですが実際は別に30代前半で、私の母が自分の姉、つまりは私の伯母は昔から綺麗で云々と褒めそやしていたのでその印象が強いんでしょう。


 次回の投稿は14日㈬か15日㈭18時前後を予定しています。私が勝手にイメージしている舞踏会やら社交界ですので楽に目を通して頂けたらさいわいです。(*- -)(*_ _)

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