第7話 さあ舞踏会で踊りましょう? どっちの意味です?
誰がどう踊るのでしょうね。
いよいよ?
とうとう?
舞踏会だかパーティの日になってしまいました。うん、ああ――あまり行きたくはない気がしますね。
招待状を見た記憶だと、パーティは確かサフォーク伯の邸宅で行われるとのこと。子供の頃は両親と何回かご挨拶に向かった場所ですが、そのうちに連れ歩くのは妹のロゼッタだけになりましたし……。別に卑屈になるつもりはなく事実なだけですが、どうでしょうね。
というわけにて馬車でついたのは、記憶と変わらない――いえそれなりに老朽化してはいるのでしょうけれど、あの何事にも細やかなサフォーク夫人の監督のおかげでしょう。庭の手入れや掃除が行き届いている屋敷はいまも気品に充ちています。
「リゼット様、お一人で歩き回られないでください。そもそも馬車を降りる時はちゃんとわたくしの手をお取りになられて……。バークレー家の評価に繋がることだと常々言われているではありませんか」
…………。
「別にあなたは私の執事ではなくて、雇い主はお父様。こんな跳ねっかえりの面倒をみてくれなくても構わないわ」
「そういう訳にはまいりません! まったくお分かりでしょうに――そこら辺はお嬢様が多少大人になられてください!」
若いバトラーというのは面倒くさい……。お父様はこの裏表の激しい執事を何故雇っているのでしょう。裏の顔に気づいていらっしゃらない? 別に私にあてがうならバレットでも充分ですのに。
※執事であるバトラーより下の従僕
「……あいにくあなたが私をどんな風に言っているかを教えてくれる、私寄りのメイドの子もいるんですわよ?」
どうせバークレー家の長女は期待されない落ちこぼれなのですし。というよりあまり親しくないのでついてこられても気詰まりなのですよねえ……。
「……ちょっと用事があるのでホールで待っていて頂戴」
さすがに従者も連れずにずっとはいられません。ひとつ声を掛け、私は目的の場所を探します。
廊下を歩いて、ここは来賓用の部屋……?
どこまで聴こえているのでしょうこれは、といった叫び声のような怒鳴り声というのか、きんきんとした声が響いています。
「~~でっ。今流行りのとは全く違うじゃない! 可愛くもない粗悪品のドレスなんて、絶対イヤ!」
あらまあ。予想通りというか、お約束といいますか……。
デザインには好みがあるかも知れないけれど、あれだけ質の良い生地や素材で作られたドレスを粗悪品ですって? なんていう……。
と気づけばそこのドアをノックしている私がいるのでした。
「はい、すみません、今取り込み中でありまして……」
ウィンザー家の執事と思われる初老の男性が応対に出てきましたが、私の姿を見るとすぐに頭を低くしました。
「失礼致しました、バークレー家御令嬢のリゼット様でしたか!」
またドレスの端をつまみ挨拶をします。
「ええごきげんよう。私もこちらに招待されておりましたの。そうしたら、どうもなにか“ご事情”がおありのようですからもしかしたらお力になれるかもと」
それからもっとにっこりと微笑んでみせます。
「お節介かしらとも思ったのですけれど、マーガレットさんが気に入らないのはもしかして私の伯母がオーダーを受けたドレスだったのかしらと。そう、なんというか責任を感じてしまいまして……」
途中から私は表情を曇らせ、いかにも申し訳ないといった“風”に告げました。執事の顔が青ざめていってしまいましたが、悪いけれど今は構っていられません。
というより今大人気の覆面服飾家が私の伯母とは知らなかったわけですね。確かにこの間、ウィンザー卿といらした家来の中には老齢のこの方、いらっしゃらなかったですし。
「……っと――いえ、リゼット様のせいでは全くありませんし、今注目のオーダーメイドの仕立て屋が、いえ、仕立て屋様が伯母さまで、らっしゃって……。ごほん、しょ、少々お待ち下さい!」
今この人、咳をするのではなくごほんって言葉で言ったみたい……? ええ、いえ、待ちましょう。待つのは得意ですもの。と、一旦部屋の扉が閉まるかというところで、あちらから蹴り破ったのだろうかと錯覚する勢いと音で、もう一度扉が開きます。そして小さな下着姿の女の子が顔を真っ赤にして私を見上げているのでした。もっと奥の部屋で着替えていたのでしょうが、男性である執事の眼も構わず、更には他の来賓客のことも構わずどこまでも飛び出していきそうな勢いです。
「あら……「リゼットお姉さま‼」」
私はウィリアム・ウィンザー様のお申し入れにまだお返事をしていないのですが、何故か社交場で会うとこの妹の方にくっついてこられるようになったのです。
「マーガレット……。すみません執事さん、女同士の話があるので奥の部屋に入らせて頂きますわ」
さすがに子供とはいえ、自分の仕える屋敷の令嬢。執事さんはさっと身を翻して、全く逆の方向に会釈をしながらこの部屋からも出て行ってしまいわれました。まあ丁度良いでしょう。
「お姉さま、わたくしの苦悩をきいてください! なんだってお父さまはこんな色合いの地味っちいドレスなんて!」
その部屋の散らかり様で、一体どんな惨劇が繰り広げられたか一瞬で分かります。そして――“あれ”を見た瞬間、私の頭の中で何かがぴしっと割れました。
「マーガレット。……もしかせずとも、そちらに放り投げられているのが、そのオーダしたお品なのかしら」
ああここに伯母さまが居なかったのは不幸中の幸いでしょうか。けれど伯母さまと同じくらいあのドレスに愛着のある私が、無惨に放り投げ、一度か二度は踏みつけてすら居そうな様相を呈している悲しい状態を目の当たりにしてしまいました。
ふうむ。へえ……。さてどうしたものか。
そうこれは完全に私怨です。けれどまあ……マーガレットを甘やかし放題にし過ぎた罰と、私に見られた運の悪さを呪って頂きましょう。それに私だって悪魔ではありません。別にそんなに悪いことにはならないでしょう。
「具体的にどう気に入らないのかしら?」
マーガレットはお腹から思い切り息を吐き出して言い切りました。
「ぜっっんぶっ! ですわ!」
ほーう、全部ですの?
もはや何も返す言葉もありません。
「ほんっとにこれを作った人は最近の流行を何にもご存知ないみたいね!」
まあそれは確かにあまりないかも知れないですね。伯母さまあの家からあまり出ないですし。でも最近の流行って……。
「マーガレット、貴女はどんなドレスを期待していたの?」
下着姿のままくるりと振り返ると、ふんっと鼻を鳴らし無い胸を反らして彼女は言ってのけます。
「もっちろん、あのお花の飾りがたあっくさんついている、色は太陽や薔薇のような派手派手になるのがいいと思っていたのですわ!」
……太陽と、薔薇? えーっと光って目立って輝きたいってことでいいのかしら。
組み合わせがあまりに突拍子もないので、割と頭に浮かんできません。ただ、今街で流行しているというドレスのデザインについては知っていました。
「最近って確か薄い布を花びらのように小さく切って、それを何枚も重ねてドレスにつけて大量に花が咲いているようにしているデザインをよく見るわよね」
一気にこのお嬢ちゃんの眼が輝きます。
「そう! それのことですわ! さっすがお姉さま!」
ふぅ、あのドレスが流行っているのにはそれなりの理由があるのですが……。
あ。もしかしたら良いことを思いついたかも……。
「ちょっと、待っていてくれる、マーガレット? すぐに戻りますから」
「えっ。と、お姉さまっ?」
そう言って私はひらり、会場の方へ赴きます。さすがに今の自分の姿に気が付いたのか、マーガレットは追っては来ません。
あの流行りのドレスですが――あれは素材が安いために量産出来て、購入もしやすいから庶民で少し成り上がった者なども買える品。品質の悪さが分かっている上流の夫人方は鼻から相手にしないような類のドレス。花柄にカットしたものをちゃんと加工し、縫製すれば綺麗なものになるかも知れませんが、あらゆる工程をカットし低コストで作られた、見掛け倒しの品。でもマーガレットは“あのドレスがいい!”というのですから仕方ありませんわよね。
典型的な我儘令嬢書きやすいですね。リゼット嬢が黒くなっていってますが、それも作者としては好みです。次回は10月6日昼過ぎを予定しています。顔マークや、宜しければ評価、コメントなどを頂けると非常に喜びます。お読みくださりありがとうございました。(*‘∀‘)




