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リゼット嬢のお節介~エライザ伯母さまの恋は実るしかないと思います~  作者: 稀月 更


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2/10

第2話 伯母さま作・至宝のオーダードレスは悪役もとい我儘令嬢の物に?

ようやく伯母さま登場、お裁縫登場……ええ、あくまでお手伝いさせて頂きます、そう、お手伝い……。

「あらあら。そんなところに座り込むものではなくてよ。だから家の鍵を渡すと何度も言ったでしょう、わたしはこんな風なのだから。随分(ずいぶん)待ったの? ごめんなさいね。さあ入ってリゼット」

 おや? まあ。もしかせずとも30分以上経っていたのかしら。感覚的にはここでうたた寝でもしていたように頭がはっきりしません。

「ぼーっとしていたら時間が過ぎていましたから、待ったという気はしませんわ。それに鍵を持つのは……」

「ああ、シルビアにでも咎(とが)められたのでしょ? “リズがエライザ姉さんの家の鍵を持ったら五分で失くしてしまうでしょ”ってところかしら? リゼット、シルビアが貴女(あなた)に対して嫌味以外のことを言っているのを聞いたことがないわよ?」

 …………え、それ以外って言ってないんですか、私の母は。

「え、と。ご明察の通りですわ、伯母さま」

 ああやっぱり出来る方……。ええもう一言一句(いちごんいっく)違(たが)わず、そのままのセリフを言われましたとも。

「シルビアの性格から気づいたというよりはね……貴女よ、リゼット」

 ……え?

「貴女が……健気に母親の言うことをそのまま真に受けて、どこかで関心を持ってほしいと思っていた頃の私とそっくりにおどおどしてみせたからよ」

「……それはつまり――伯母さまもその、何と申しますか、お祖父さまやお祖母さまの言いなりになっていたことがあるってことですの? でも――」

 私が言葉を紡ぐ間に伯母さまはすぐにこくこくと頷かれました。

「お察しの通り何にもならないどころかきっとわたしが何かの気を遣ったなんてことさえ分かってくれてなどいないわ」

 そうなのでしょうね。

 孫娘の私からみても時々お祖父さまたちの娘2人への扱いの違い……態度の落差にぎょっとしてしまうことがありましたもの。しかもご本人たちはそれを何らおかしい状態だと気づいていらっしゃらない。

 つまり……私が母の言いつけを守ろうと、結局は母娘(おやこ)の親しみのようなものは生まれないであろう連綿たる血の呪いといったところでしょうか。

 はっきり虐待されているわけでもなく、普通の会話も交わす絶妙な関係性の家族というものの方が、場合によっては厄介です。どこかでもっと本当の真心のようなものを期待してしまうのです。

 それなりに真っ当でそれなりに壊れた家庭であるからこそ、そんな願望が強まるだなんて皮肉ですね。


「それにしてもリゼット……。貴女と来たらほんとに毎週、従者も連れずに通ってくるのだもの。さあそのへんてこりんな帽子もお取りなさいな」

 へんてこ……って、結構気に入っているのですが――。だってこのお帽子、デザインしたのは他でもない伯母さまですわ。

 まあ表現するならば、頭と眼の上全体まで見えなくしてしまえるほど大きな帽子――というよりは変装でもするように覆って、と言った風合いでしょうか。東の島国だかでシノビだかなんとか呼ばれるような……?

 しかしこの場所に着くまでの間には、少々治安の悪い地域もあるもので――。誘拐に始まる数多(あまた)の犯罪を懸念してくださった伯母さまが特別製作してくださったのです。それにこの長いプラチナブロンドは隠さないとさすがに目立ちすぎてしまいますものね。



「さあ今日の分を仕上げてしまえるかしらね。面白いデザインのドレスなのだけれど。きっと社交界では羨望の的になるわ」

 裁縫好きが高じて帽子や手芸装飾をちまちまと販売していたら、どんどんこのようなデザインでワンピースは出来ないかしら? あらそれならカーディガンとか……。いっそドレスに挑戦して頂けない? などの要望にお応えされているうち、素敵なお洋服職人がいるという噂が広がり、それがまた噂を呼び、今では遠い場所からでもご依頼の封書を頂くようになったのです。

 それはそうでしょう。伯母さまの裁縫の腕に加えアクセサリの付け方や、選び方、合わせ方――更には釦(ボタン)の使い方、レースやフリルを膨らませたりそっと忍ばせたりと、あらゆる創意工夫のセンスがずば抜けているのです。そしてオリジナルでデザインしたドレスも、見た方々がみな思わず溜め息をもらしてしまうような、洗練されてうつくしく、そしてオリジナリティが溢(あふ)れているのです。


 伯母さまのような才能をお持ちの方を私は他に知りません。 

 だからこそエライザ伯母さまのような素敵な方が、どなたかに愛され添い遂げないなんてもったいないという気がします。その幸せを望んでいたのに伯母さまは諦めてしまわれている……。そもそも伯母さまは恋というものにも割と疎(うと)いお方。けれどとっても寂しがり屋さんであるのは嫌と言うほど知っています。幼児の頃は抱きまくら代わりにされていましたもの。


 ここは姪である私がひと肌脱ぐ所ですわよね?

 たとえお節介と言われようと伯母さまの一番の理解者だと自負している私は、これがただのエゴでもどうにかしたいと思ってしまうのです。

 またぼうっとしている間に、伯母さまは作業部屋を行ったり来たりし始めています。

 さて今日も今日とて。名ばかりですが伯母さまの一番弟子としてお手伝いをしましょう。先刻うかがった限りでは、大物を承ったご様子ですが……。今日が期日だなんて、間に合うのでしょうか。もしかしたらかなり遅くなって、うっかりと明日は学園に遅刻してしまうやも知れませんが――ある程度のことは既(すで)にやらかしているのですから、これ以上気にしても仕方ないようにも思います。

「午後5時までに仕上げるって、オーダーを受けてからなんだか随分(ずいぶん)と急ですわね」

「そうなのよ。本当に直ぐのパーティに必要なんだって言われてね。手が離せなかったわ!」

 そう言って伯母さまはまたぱたぱたと作業部屋へ。

 きい、と静かに作業部屋の戸を開けると、エライザ伯母さまは針やらレースの端やらを咥えたり肩に掛けたりされて、手際よくさっさと作業に取り組まれています。私のお手伝いといえば途中途中の雰囲気を見て、お茶を入れたり簡単なものを縫い付けたり、道具を渡したり片づけたり……。まあ小間使いのような感じになってしまいます。それ以上の役には立てないのが情けないのですが――。


「今回のドレスはまだ私も拝見してませんのに、今日が締め切りだなんて――」

 そしてその眼の前には、もう既に煌びやかな輝きの見える製作途中のドレスがトルソーに着せられていました。

 その意匠が凝らしに凝らされたドレスに、私の眼は釘付け、もうはりつけ? 縫い付け? られたようになります。

 これまでのどのドレスより繊細でうつくしい布地の合わせやレース遣い。基本はベロア素材のグレーとペールピンクの布を交互に組み合わせたデザイン。大き目のフリルの衿と、トップスはそれ以外シンプルなのに、素材のグラデーションでスカートまでの組み合わせを流麗に見せています。

 スカートは交差したデザインの下に、パニエは機能性も備えた充実したものになっているよう。そしてドレス全体を覆うように巡らされた、リボンと蝶が交差してひらひら舞っているような模様の銀糸と金糸の刺繍。一体何時間かけたらここまでの細かく、それでいて無駄に目立ち過ぎない洗練された刺繍を施せると言うのでしょうか……。

 ほう、と感動の溜め息を吐いて、これをお召しになる御婦人を羨んでしまいそうにな……あら?

「あの伯母さま?」

 疑問に思うが直ぐさま、伯母さまに詰め寄ってしまいます。

「こちらはどなたの為のドレスですの? だって御婦人用にしてはサイズが小さいですし、何より少しデザインが……なんというか幻想的過ぎやしませんかしら?」

「そうねえ。貴女では着られないサイズだし16歳の令嬢の為なら、子供っぽいデザインかもね」

「……5年前の私だったら絶対にこれを着たかったのですが! これは一体どなたからのご依頼の品(オーダー)ですか? それに使っている布もレースも一流品。随分と高価なドレスになってしまったと思われますがっ」

 んん? あら? 伯母さまったら寝不足なのですね、ちょっとお肌が荒れていますわ。ん? 伯母さまの眼ってこんなにはっきりと鶯(ウグイス)色と茶が混じったような感じだったかしら……。光の加減? それにしては随分と大きな瞳――。

 そこではっと、もはや伯母さまに圧し掛かるような体勢になっていることに気が付きました。

「リゼット……近い。近いわ、落ち着きなさい、貴女、それはとても令嬢の所作ではないわ……」

 若干伯母さまが引いていらっしゃる……。

「――ああ、とっても興奮してしまいましたわ。こんな豪華なドレス、一体どこの御令嬢がお召しになるのですか?」

 深い溜め息と共に感嘆の意を込めてうかがうのを、伯母さまは蟹のように横に歩いて距離を取りながら返してくださいます。何故そのような変な歩き方をなさっているのかしら?

「……ウィンザー公の御令嬢、マーガレット様のドレスよ。彼女のこと、貴女なら知っているわよね?」

 ええ勿論(もちろん)、存じておりますとも。……おてんばどころでは済まないという悪評も、その実態そのものをも、目(ま)の当たりに致しましたから……。


 悪役令嬢、ならぬ我儘(わがまま)令嬢とでも言いますか……。ん? 悪役令嬢とはなんのことでしたっけ……?


 ここまでお読みいただきありがとうございます! リゼットは仲良しだからといって伯母さまにごちゃごちゃとお節介を焼こうとしているって結構どうなの、って感じですが……。まあそれについては後日起こることが。実際ここら辺(令嬢は良い縁談という概念?)を緻密に時代考証せず異世界的な近世、って感じで少しごまかしましたが……割と早くに嫁ぎ先も名家である、とか女性の権利とは……と考えだすと一生かかる命題なので。バークレー家も家柄が良いわけでして、リゼットもこんこんと幼少時より言い聞かせられてきたのでしょう。“良い家に嫁ぐのが女の幸せよ” ……まあなんか怖いですね。教育って洗脳だなあってよく思います。

 次回は26日の18時過ぎ頃となる予定です。星評価やコメント、ブックマークなど励みになりますので頂けるとありがたいです! では失礼します(*- -)(*_ _)

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