表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神授のAI相棒と全戦全勝!神に選ばれし使徒となった俺、最強の軍師として伝説になりました  作者: 物々しい
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

救援 ── 山賊夜襲をAI相棒の戦術解析で撃退してみた

街道の先に、屋根がぽつぽつと見えてきた。


藁葺きと、傾いた板屋根。

木造の家が、ゆるく寄り集まっている。


畑の畝が、村の縁を縫うように続いていた。

四十戸あるかないか。


井戸らしき石組みが、村の中ほどに一つ。


「ああいうのか」


『村ですね〜♪ 村です♪』


カイラが、なぜか得意げに認めた。


得意げになる場面じゃない気もした。

けれど、もういちいち突っ込まないことにしていた。


レーゲルが馬の手綱を引きながら、村のほうを顎で示す。


「エルロン村だ。半日、よく歩いた」


「いえ……こちらこそ」


何に対する「こちらこそ」なのか、自分でもよく分からない返事をした。

それでもレーゲルは特に気にした様子もなく、先に立って歩き出した。


村の入口で、年配の男が手を挙げて出てきた。


痩せていて、肌の色は浅黒い。

レーゲルを見て、表情がほどけた。


「またあんたか。早かったな」


「天気が良かった。──こいつは道で拾った」


レーゲルは、俺のほうを親指で指した。


年配の男。

たぶん村長だ。


その視線が、上から下まで俺を撫でる。


グレーのパーカー。

Tシャツ。

ジーンズ。

白いスニーカー。


どれも、この世界の景色には混ざらない格好だった。


「妙ななりだな」


「うちが拾った。気にするな」


レーゲルが、それで終わらせた。


村長は、ふん、と短く息を吐く。

商人と村長は、似たような呼吸をする生き物らしい。


「中に入れ。飯を出す」


俺は軽く頭を下げた。


村長の家は、村の中ほどにあった。


石と木で組まれた、四角い家。

土間と、奥に板の間。

煙突のあたりから、薄い湯気が出ている。


中に入ると、女の人が二人と、子供が一人、こちらをちらりと見た。

そして、すぐに手を動かし続ける。


鍋から湯気。

竈の火。

木のスプーンを回す音。


出てきたのは、簡単な料理だった。


固いパン。

干し肉と根菜のスープ。

塩漬けの野菜らしき、酸っぱいやつ。


──これはあれだな。


固いパンをスープにつけて食べるやつだ。


口に入れると、味は少し物足りなかった。

塩はある。

脂もある。


けれど、何か決定的に足りない。


──ああ、出汁の概念が薄いんだな。たぶん。


それでも、温かい食事は、温かい食事だった。


歩き通した足が、椅子に座っているだけでじわじわ許されていく感じがある。


「あんた、どこから来たんだ?」


子供が、口の端を拭きながら訊いてきた。


「遠くから」


「どれくらい遠く?」


「ものすごく遠く」


子供は、ふうん、と言った。

それ以上は訊かなかった。


ありがたい子供気質だった。


レーゲルは村長と、低い声で何かを話している。

布。

陶器。

相場。

保管。


商売の話だ。


俺は聞こえないふりをして、スープの底の根菜を掬った。


カイラはテーブルの上で、ゆっくり光を抑えていた。

俺にしか見えないし、聞こえない。


ありがたい仕様だった。


「ようやく落ち着けるか」


口の中で、小さく呟く。


誰にも聞こえなかった。

けれど、頭の上でカイラがこくりと頷いた気がした。


物置のような小屋を、寝床として宛がわれた。


藁の上に、古い毛布。

窓は板で閉じられていて、隙間から冷えた夜の空気が薄く流れ込んでくる。


横になると、背中の下で藁がきしんだ。


天井の梁を、ぼんやり見上げる。


死んだはずの俺が、知らない世界の、知らない村の、物置で、藁の上に寝ている。


冷静に並べると、どう考えてもおかしい。


でも、頭の中はもう、そういう順番では動かなくなっていた。


今日のうちに片付ける問題。

今日では片付かない問題。


その振り分けだけが、残っている。


「カイラ」


頭の上で、ぽうっと光が応えた。


『はい♪』


「お前、寝るの?」


『寝なくても平気です♪ ずっと起きてられます♪』


「便利だな……」


『便利です♪』


カイラは誇らしげに、ゆっくり一回転した。


俺はそれを見上げて、目を閉じる。


外の音。

風。

葉擦れ。

遠くで、何かの動物の鳴き声。


村の犬が、低く一度だけ吠えた。

そして、また静かになる。


寝つけなかった。


寝つけないまま、いつのまにか意識が浅いところまで沈んでいた。


悲鳴で、跳ね起きた。


外の闇に、橙色の光がいくつも揺れている。


松明だ。


「うわっ──」


戸の向こうから、男の声。

怒鳴り声。

木の砕ける音。


『直人さん!』


カイラの声が近い。


『山賊です♪ 村の備蓄を狙っています♪』


戸の隙間から外を覗いた。


人影。

一つじゃない。


十。

いや、もっといる。


松明の光に、剣と斧と、長い棒の先が照らされていた。


革の鎧。

布を頭に巻いた男たち。

誰も、商人や護衛みたいな整った装備ではない。


粗末な。

よく言って、ありあわせ。


レーゲルが村長の家の前に出ていた。

ノルドとカイが、左右で剣を抜いている。


村の若い男が三人、鍬と斧を持って走り出てきた。


鍬は、どう見ても農具だった。


人数。


こっちは十人かそこら。

向こうは、その二倍。


血が見えた。


井戸のそばで、一人倒れている。

村の人なのか、山賊なのか、暗くて分からない。


倒れた身体の下に、黒い液体が広がっていく。


──血って、夜だと黒く見えるんだな。


そんな、どうでもいいことが頭をよぎった。


そして、それきり頭が動かなくなった。


足が動かない。

戸の縁を掴んだ手が、白くなっていた。


喉の奥が塞がれたみたいに、息が浅い。


俺はただ、立ったまま外を見ていた。


『直人さん! 直人さん!』


カイラが目の前で光を強くする。


『動かないでください! まず深呼吸!』


「……」


『吸って〜、吐いて〜! ゆっくりです♪』


陽気な指示だった。


でも、肺が勝手にそれに従った。


一度、深く吸う。

長く吐く。


胸の奥の塞がりが、ほんの少しだけずれた。


『動けないなら、指示だけしてください。私が見えている範囲、全部解析しています♪』


「……指示?」


『はい♪ 村の人も護衛さんも、このままだと負けますよ』


「俺が……?」


『言うとおりに伝えるだけでいいんです♪ 私が一緒に考えますから♪』


頭がぐるぐる回る。


俺は戦えない。

剣も持っていない。

喧嘩したことすら、たぶんほとんどない。


でも、口は動く。

声は出る。


それなら。


視界の隅に、半透明の文字が並んだ。


《解析結果》

敵:推定十九〜二十一名。

武装:剣、斧、槍。粗末な造り。


味方:推定十名。

内訳:護衛二名、商隊一名、村の戦闘可能者七名。


単純対峙:勝率十二パーセント。

提案戦術採用時:勝率六十八パーセント。


想定損耗。

単純対峙:味方四〜六名。

提案戦術:味方一〜二名。


数字が勝手に並んだ。


それは俺が出したものじゃない。

けれど、ちゃんと意味として届いた。


『村の地形、使えます♪』


カイラが早口になる。

陽気さはそのままに、テンポだけが上がっていた。


『路地が狭いです♪ 建物が密集しています♪ 井戸が中央♪ 畑の畝で視界を切れます♪ 山賊さんを路地に誘い込めば、数の有利が消えます♪』


「待って。待って」


『はい♪ お待ちします♪ ……でも早めに!』


「……分かった」


俺は戸を、半分だけ開けた。


「レーゲルさん!」


声が、思ったより大きく出た。


レーゲルが振り向く。

剣を抜いていた。

商人の顔ではなかった。


「お前、奥に下がって──」


「あの建物の影に二人! 路地の入口にもう一人! 引き込んで三方から!」


レーゲルが、一瞬止まった。


俺の言ったことを、頭の中で並べ直したのが表情で分かった。


「──どういうつもりだ!?」


「俺の……いや。聞いてくれ、頼む!」


レーゲルがノルドのほうに目を投げる。

ノルドが頷いた。


判断が早かった。


「ノルド、東の路地。カイ、井戸の北。村の若いの三人は、畑の畝の向こうで待て。──おい、お前ら、聞いたな!」


村の若い男たちが、戸惑いながらもレーゲルの声に従った。


レーゲルが、村長の家の戸に向かって叫ぶ。


「中の連中、井戸の周りに集まれ! 子供と女は奥へ!」


俺は戸の陰に身を引いた。


直接は戦わない。

戦えない。


だから、ここから声だけで届く範囲を最大化する。


『直人さん、東の路地に山賊が三人入りました♪ ノルドさんに合図を♪』


「ノルド、来てる! 三人!」


東の建物の影から、ノルドが無言で出た。


剣の音が、二度。

三度。


一人が悲鳴を上げて崩れる。

残り二人が後ずさった。


その先には、村の若い男が鍬を構えていた。


『井戸の北に四人♪ カイさん側、注意です♪』


「カイ、北だ! 四人!」


カイが井戸の石組みを盾にした。


山賊の一人が井戸を回り込もうとして、畝に足を取られる。

残り三人が、固まった。


固まった集団は、崩しやすい。


『直人さん、リーダー格が後方にいます♪ 指揮を出しています♪ あの男を狙えば、撤退判断が早くなります♪』


「狙えるか?」


『カイさんの位置からなら♪』


「カイ! 後ろの男だ! 指示してるやつ!」


カイが井戸の縁を蹴って走った。


頭目格らしき男が振り向き、剣を上げる。


間に合わなかった。


カイの剣が、男の肩口に入った。


頭目格が、後ろに倒れる。


それが決定的だった。


山賊の動きが、揺れた。


揺れた、という以外に言いようがなかった。


「引き上げろ! 引き上げろ!」


倒れた男が、地面で叫んだ。

叫ぶ余裕はあるらしい。


山賊たちが松明を投げ捨て、逃げ出す。


何人かは走れず、その場に膝をついた。


戦闘は、終わった。


終わったはずだった。


なのに、俺の手はまだ戸の縁を掴んでいた。


離そうとして、初めて震えていることに気づく。


指が固まっている。

力を抜いても、形が戻らない。


外で、誰かが泣いていた。

誰かが、誰かの名前を呼んでいた。


井戸のそばに倒れていた人影は、もう動かなかった。

山賊の死体も二つ三つ、地面に転がっている。


血の匂いが、風に乗ってきた。


ニュースで見るやつとは違った。

現実には、匂いがある。


俺は戸の陰で、ゆっくり座り込んだ。


しばらくして、レーゲルが戸の前に来た。


剣は、もう鞘に戻っている。

袖に、黒いものがついていた。


「お前、変わった指図をするな」


「……」


「誰に習った」


「いや、その……」


答えられなかった。


カイラの説明をするわけにはいかない。

説明しようとしたら、たぶん自分でも何を言っているか分からなくなる。


レーゲルは、それ以上訊かなかった。


ふん、と短く息を吐いて、村のほうに戻っていく。


ありがたい商人気質だった。


入れ替わりに、村長が来た。


「礼を言うぞ。村が救われた」


「……いえ」


「あんたの差配だと聞いた」


「差配ってほどでは」


「謙遜は後でいい。怪我人の手当てが先だ」


村長はそれだけ言って、また去った。


村人が何人か、こちらを見ていた。


さっきまで、妙な格好の余所者を見る目だった。

今は違う。


何か、別のものを見る目に変わっていた。


それが何の目なのかは、分からなかった。


分からないまま、なんとなく居心地が悪かった。


『お役に立てて良かったです♪ 直人さん、すごいです♪』


カイラが頭の上で、機嫌よく回った。


「いや……お前がやったんだろ」


『直人さんが伝えてくれたから、みんな動いたんですよ〜♪』


そう言われると、半分くらいは合っている気もした。


──俺、もしかして、使える人材なのか?


そんな考えが、頭の隅をよぎった。


よぎった瞬間、手の震えがもう一度強くなる。


──いや、まだ震えてるけど。


空が東の縁から、薄く青みを帯び始めていた。


夜明けが近い。


俺は物置の壁にもたれたまま、その色を見ていた。


頭の上で、カイラがぽうっと静かに光っている。


視界の端に、半透明の文字が浮かんだ。


《初回戦術支援を完了しました》

《戦術適性:暫定評価中》


「……今さら評価されても困るんだが」


俺の声は、夜明け前の空気に小さく消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ε(・Θ・。)з~『読了、お疲れ様でした〜♪ 楽しんでいただけた可能性が少しでもありましたら、下の☆☆☆☆☆評価やブックマークが有効です♪ 作者さんの継続率が上がります。たぶん♪』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ