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神授のAI相棒と全戦全勝!神に選ばれし使徒となった俺、最強の軍師として伝説になりました  作者: 物々しい
第1章

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2/5

言葉 ── 神授のAI相棒、現地語を翻訳補佐! 商隊と遭遇

歩く。


ただ、歩く。


膝丈の青い草を踏み分けて、人影っぽい点に向かう。

一歩。

また一歩。


距離が、縮まらない。


「……マジでこれ、近づいてんのか?」


『近づいてますよ〜♪ ちょっとずつ♪』


ちょっとずつ、を強調されると逆に不安だった。


草原は、馬鹿みたいに広い。

地平の手前、霞んだあたりにある点が、いつまでも点のままだ。


地球の感覚で「あれくらいなら十五分」と見積もると、たぶん三倍は外す。

いや、下手したらもっと外す。


喉が渇いてきた。

さっき土と草の味で湿らせた唇が、もう乾いている。


腹も、そろそろ何か入れたい。


死後の続きとはいえ、身体は普通に消耗するらしい。


「歩くだけで結構くるな」


『直人さん、運動不足ですか〜?』


「ほっとけ。意識低い系現代日本人なんて、こんなもんだろ」


笑い声みたいな光の揺らぎが、頭の上で起きた。


カイラは、こういう時ちゃんと相槌を打ってくる。

役に立つかは別として、無言よりはずっとマシだった。


ゲームだったら、ここはスキップだ。


《移動中……》


そんなテロップが出て、画面が暗転して、次のシーンに飛ぶ。

けれど、現実にはテロップがない。


足元の草を、また踏んだ。


点が、少しずつ形を持ち始める。


馬らしき動物が一頭。

その横に、小ぶりな荷車。

前後に人。


人数は、四人。


四人のうち一人は、ゆったりした服を着ていて、手には何も持っていない。

残り三人のうち二人は、革鎧みたいな身軽な装備で、腰に剣を提げていた。

最後の一人は、荷車のそばで手綱を引いている。


『直人さん、あの方たち、こちらを見て止まりました♪ 手が剣の柄の近くです♪ 完全に警戒モードです♪』


「……だろうな」


カイラに言われなくても、それは見れば分かった。


向こうから見れば、何もない草原の真ん中から、変な格好の男が一人で歩いてくるわけだ。


グレーのパーカー。

ジーンズ。

スニーカー。


この世界基準では、たぶん不審者でしかない。


俺だって警戒する。


俺は両手を、肩のあたりまでゆっくり上げた。

歩く速度も落とす。


一歩ずつ。

手のひらを見えるようにしたまま、近づいていく。


護衛らしき二人は、剣を抜かなかった。

けれど、柄に手を添えたまま、こちらをまっすぐ見ている。


ゆったりした服の男。

たぶん商人だ。


その男が、護衛二人を手で軽く制した。


距離が、十数歩。


向こうが何かを言った。


声は低く、しっかりしていた。


そして、それがすんなり意味になって入ってきた。


「妙な格好だな。一人か。武器は?」


──……は?


俺は一瞬、止まった。


聞こえた音は、知らないはずの言葉だった。

子音の硬さも、母音の伸び方も、日本語じゃない。


なのに、頭の中で勝手に意味が並ぶ。


翻訳された、というより、直接、意味として届いた感じだった。


『よかったですね〜♪ ちゃんと宿ってます♪ たぶん例の神様、ここは抜かりなかったみたいです♪』


カイラが頭上で、得意げに光を強くした。


いや、得意げになるのはお前の手柄じゃないだろ。

そう思ったが、今は置いておく。


俺は口をゆっくり開いた。


「一人です。武器はない。というか、何も持ってません」


出てきた音は、自分の声ではあった。

けれど、自分が知っている音ではなかった。


喉が、勝手に違う形に動いている。


耳に届いてから、ようやく気づいた。


ああ。

いま俺、現地語を喋ったな。


訛りはあるかも、とカイラは言っていた。

たぶん、訛っている。


商人の眉が、ほんの少しだけ動いた。


商人はしばらく俺を見て、それから護衛のほうに頷いた。

護衛二人の手が、剣の柄から離れる。


「面倒事は嫌いだ。あんたも、たぶん嫌いだろう」


「嫌いです」


商人は、ほとんど笑わない口元でそう言った。


『今の方の言い方、けっこう敬意込みです♪ 商人さんなので、相手の出方を見て丁寧度を選ぶ習慣があるみたいです♪』


カイラが耳元で解説を入れてきた。


ありがたいような、余計なような。

でも、敬意込みだと分かったのは助かった。


返し方を間違えなくて済む。


「マジで通じてる」


口の中で、小さく日本語が漏れた。

それはたぶん、誰にも届かなかった。


商人は、レーゲルと名乗った。


革鎧の二人は、ノルドとカイ。

荷車のそばで手綱を引いているのが、もう一人の連れで、商隊の親方の甥だという。


名前は早口で言われて、うまく拾えなかった。


「あんたは?」


「キタミ・ナオト」


「キタァミィ・ネィオト」


レーゲルが一度、繰り返した。

区切りが変だった。


まあ、許容範囲だ。


「ここはどこですか?」


「ヒソリ草原の北寄りだな。アンザ街道からは、東に半日ほど逸れている」


地名は全部、初めて聞く音だった。


意味としては届いている。

けれど、それがどこにあるのかは分からない。


地球の地図と、接続できない。


当たり前だ。

たぶん、ここはもう地球じゃない。


「ヒソリ……。あんたたちは、どっちへ?」


「エルロン村まで。今日中には着く」


「エルロン村」


「小さな村だ。そう知られてもいない」


レーゲルは、それ以上説明しなかった。

詮索もしてこなかった。


俺が「気づいたらここにいた」と言うと、ふん、と短く息を吐いただけだった。


「変わった事情だな」


それだけ言って、終わりだった。


ありがたい商人気質だった。


俺はいま一番気になっていることを、口にした。


「あの……俺、金とか何も持ってないんです」


レーゲルは、少しだけ口角を上げた。


「気にするな」


「いや……でも」


「ここからエルロン村まで、半日ほどある」


レーゲルが視線を北のほうに向けた。


「──山賊が出る区間でな」


「……山賊」


異世界っぽい単語が、さらっと出てきた。


できれば最初のイベントは、もう少し平和なやつがよかった。

薬草採取とか。

迷子の子供探しとか。


いきなり山賊は、難易度が高い。


「人数が多いほうが、連中も襲いにくい。襲われたら散って逃げる。あんたも一人として加わってくれ。それでいい。飯と寝床は、村に着いたら出してやる」


レーゲルの口調は、淡々としていた。


──つまり、囮か。


『直人さん、ちゃんと意味分かってます?』


カイラが心配そうに耳元で囁いた。


「分かってる」


『おお、覚悟が早いですね♪』


覚悟というか、選択肢がないだけだろ。


ここで「やっぱり遠慮します」と言って草原に置いていかれるほうが、よっぽど困る。


腹は減る。

夜は来る。

水もない。


一人でいるよりは、商隊にくっついたほうがまだマシだ。


「分かりました。ありがとうございます」


レーゲルは頷きもせず、視線を荷車のほうに戻した。


俺はついでに、もう一つ訊いた。


「カイラ。この人たち、何の商売してる?」


『えーと、布と陶器と……雑貨みたいですけど、この地域の商隊については、私あんまり詳しくないんですよ〜♪ 詳しくお話ししてみないと分かりません♪』


たぶんが多い。

知らないことも多い。


神様のお届け物は、思ったより仕様の幅が狭かった。


それでも、いないよりはずっといい。

たぶん。


歩き出した。


俺は商隊の最後尾につく。


レーゲルが先頭。

護衛のノルドとカイが、荷車の左右。

甥が、馬の手綱。

俺が、しんがり。


しんがり。


つまり、囮の最有力候補のポジションだ。


それを分かった上で、文句は言わなかった。

言ったところで、状況は良くならない。


夕日が傾き始めていた。


昼下がりの白が、いつのまにか黄色を抜けて、薄い橙に変わっている。

草の色も、根元のほうから少しずつ影に沈んでいく。


『良かったですね〜♪ 村ならご飯が食べられますよ♪』


カイラが頭の上で、機嫌よく回った。


「お前、食事できるの?」


『私はいいんです♪ 直人さんが食べてください♪』


「……そう」


便利なんだか、何なんだか、よく分からない。


でも、村に着けば何か食えるらしい。

それは、今いちばん現実的な情報だった。


風が後ろから吹いた。

草が、進む方向にだけ揺れる。


頭の上の小さな光が夕焼けの色を吸って、少しだけ橙に染まっていた。


俺は商隊の足音に合わせて、もう一歩進んだ。


──この時の俺はまだ知らなかった。


レーゲルの言った山賊が、ただの脅しではなかったことを。

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