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神授のAI相棒と全戦全勝!神に選ばれし使徒となった俺、最強の軍師として伝説になりました  作者: 物々しい
第1章

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招き ── 砦に連行された俺、AI相棒の嘘つき判定で尋問突破

人の声で目が覚めた。


物置の壁にもたれたまま、座って眠っていたらしい。

首が痛い。

背中も痛い。


外で、誰かが誰かを呼んでいた。


鶏らしき鳴き声。

鍋を叩く音。

井戸の水音。


朝の音だった。


戸の隙間から、白い光が差し込んでいる。

昨夜の松明の橙とは、別のものだった。


「……生きてるな」


『生きてますよ〜♪』


頭の上で、カイラが機嫌よく光った。


立ち上がると、関節がいくつか文句を言った。

俺はそれを無視して、戸を押す。


村は、半分だけもとに戻っていた。


倒れていた人影は、もう井戸のそばにはない。

代わりに、井戸の石組みの一部が欠けていた。


誰かが、布を被せた何かを村の端のほうに運んでいる。


それが何なのかは訊かなかった。

訊くべき場所でもなかった。


村人が俺に気づくと、頭を下げた。


さっきまで、妙な格好の余所者を見る目だった人たちが、布で包んだ干し肉と、根菜と、固いパンを、俺の腕に押し付けてくる。


「助かった。これ、持ってってくれ」


「いや、こんなに」


「いい。村で出せるのは、それくらいだ」


押し問答にはならなかった。


俺は両手で受け取って、もう一度、頭を下げた。


レーゲルが馬の鞍を整えていた。

荷車も、もう半分ほど積み直されている。


「で、お前はどうする」


訊かれて、俺は口をゆっくり開いた。


──そういえば、どうする?


考えていなかった。


昨日、商隊にくっついて村に来た。

夜に山賊に襲われた。

明け方まで、頭がうまく動かなかった。


その先のことは、何も。


「……どうしましょうかね」


「俺は次の取引先に向かう。エルロン村の北西だ。街道沿いに──」


そこで、レーゲルが口を止めた。


地面の振動が、足の裏に伝わってくる。

それから、馬蹄の音がはっきり聞こえた。


数頭。


村の南の方角からだ。


馬上の影が、五つ、六つ。


革の鎧。

揃った装備。

腰の剣の鞘も、形が同じだった。


山賊の粗末さとは、別の世界の整い方だった。


先頭の男が、村の入口で馬を止めた。


四十くらい、と見えた。

日に焼けた肌。

短く刈った髪。


表情に、特に何も書いていない。

怒りも。

憐れみも。

興味も。


馬からは降りなかった。


鞍の上から村の中を、ゆっくり見渡す。


「ガルシス砦の巡回だ。変事はあるか」


そこまで言って、隊長は井戸のそばの欠けた石組みに目を留めた。


それから、村の隅に運ばれた、布で覆われた何かに目を移す。

眉が、わずかに動いた。


「……あったようだな。話せ」


村人たちが、さっと道を空けた。

誰も隊長と直接、目を合わせない。


村長が前に進み出て、深く頭を下げた。


さっきまで俺に礼を言った男とは、別人みたいに腰が低かった。


「お見回り、ご苦労さまでございます」


「挨拶はいい。何があった」


「へえ。夜半に山賊が押し入りまして。数は、おそらく二十ほど」


「死傷者は」


「死人が二人。怪我人が五人。井戸の周りで、なんとか食い止めました」


「賊は」


「逃げました。商隊の方々に助けていただきまして」


村長はここで一度、息を整えた。

それから軽く、俺のほうに手を向ける。


「それと、こちらの余所者の方が、戦いの差配を。お陰で、村はこの程度で済みました」


「余所者?」


「身元は、私どももまだ。商隊の方が街道で拾われたそうで」


隊長らしき男の視線が、ようやく俺に移った。


鞍の上から、上から下まで、ゆっくり撫でる。


グレーのパーカー。

Tシャツ。

ジーンズ。

スニーカー。


「妙な格好だな」


──また「妙な格好」か。


これで三回目だ。

レーゲル、村長、隊長。


みんな、最初に同じことを言う。

そのうち、この世界の挨拶だと思いそうになる。


「名は」


「キタミ・ナオト」


「キタミ・ネィオト」


隊長が俺の発音を、無表情に繰り返した。

区切りは、レーゲルより少し近かった。


「どこの者だ」


──そして、また同じ質問だ。


口に出さず、頭の中だけでため息をついた。

答えはまだ、決まっていない。


「遠くから来ました」


隊長の目が、少しだけ細くなった。


「遠く、では足りん」


ですよね。


「……俺にも、まだ分からないことが多くて」


「ふむ」


納得した顔ではなかった。

だが、その場で詰めるつもりもないらしい。


隊長は一度、村長に視線を戻した。


「身元不明者の保護。ならびに、変わった戦術を扱う者の調査。辺境警備の規則だ」


それから、また俺を見た。


「ガルシス砦まで来てもらう。准将が見る」


「それは、拒否できるんですか」


「勧めはしない」


即答だった。


「お前自身のためでもある。余所者が指揮を執ったという話は、村の口を通って残党の耳にも入る。ここに残るほうが危うい」


──つまり、断る選択肢はない。


それを、規則の形で並べてくれているだけだ。


レーゲルの「囮」を思い出した。

あれよりは少しだけ、丁寧な体裁だった。


「分かりました」


縛られはしなかった。


代わりに、馬の後ろを歩く形になった。

両側に、兵士が一人ずつ。


完全に自由ではない。

けれど、囚人扱いというほどでもない。


微妙なところだった。


出立の準備が整いかけたとき、レーゲルがゆっくり、隊長の馬の前に進み出た。


「隊長殿。一つだけ」


隊長が、視線だけで応じた。


「こいつを丁重に扱え、とは言わん。だが、粗末に扱ったとなれば、その話は商隊の間を回る」


低い声だった。


睨んでもいない。

詰めてもいない。


ただ、事実だけを置いた、という言い方だった。


隊長は、わずかに頷いただけだった。

否定も肯定もしない。


レーゲルも、それ以上は押さなかった。


レーゲルが俺の方を見る。


それから、自分の鞄から、布で包んだ干し肉と革の水袋を取り出して、俺の腕に押し付けた。


「持っていけ」


「いや、これは」


「持て」


二度目は、少しだけ強かった。


「……ありがとうございます」


レーゲルは答えなかった。


鞍の革紐を、また手で確かめ始める。

俺の方はもう見なかった。


ありがたい商人気質だった。


村人が、村の入口まで出て見送ってくれた。


何人かが頭を下げた。

何人かが手を振った。


子供が、何か言いたそうな顔をした。

けれど結局、何も言わずに口を閉じた。


歩き始めて、しばらくしてから。

カイラが耳元で囁いた。


『直人さん、これ大丈夫ですか〜?』


「知らん」


『私もちょっと分からないんですよ〜♪ でも、隊長さんの所作、暴力の予兆はなさそうです♪』


「それ、安心していいのか?」


『半分くらいは♪』


「半分かよ」


街道は、思ったより整っていた。


踏み固められた土。

馬車の轍が二本。


それが、緩く北へ向かっている。


日が傾く頃には、地平の手前に低い石壁と木造の建物がぽつぽつと見え始めた。


ガルシス砦、らしかった。


砦は、想像していたよりずっと簡素だった。


石積みは胸の高さ程度。

その内側に、木造の小屋がいくつか建っている。


物見櫓らしき木組みが一つ。

馬を繋ぐ柵。

煮炊きの煙。


要塞、というより、ちょっと真面目な集落と言われた方がしっくりくる。


辺境、というのは、こういうものらしかった。


俺は小屋のひとつに通された。


木の机。

木の椅子が二脚。

窓は小さく、油紙が貼ってある。


縛られはしない。

ただし、鍵は外からだけ掛かる仕様。


たぶん。


机を挟んで、隊長が座った。


椅子をきしませながら、書類を一枚、机に置く。


「名」


「キタミ・ナオト」


「出身」


「遠くから」


「それはもう聞いた」


ですよね、二回目。


──さて。


『直人さん、今、相手は嘘つき判定中ですよ♪ 曖昧すぎると怪しまれます♪』


頭の上で、カイラが小声で解説を入れてきた。

俺にしか聞こえない声だ。


──マジか。カイラさん、ナイス。


「東の方の山岳地帯です」


口が勝手に喋った。


咄嗟だったが、嘘としてはそんなに変な形にはならなかった。

山岳地帯、というのは確かめようがなくて便利だ。


「山岳地帯の、どこだ」


「ここで通じる名前ではないと思います。集落も小さかったので」


隊長は、しばらく俺を見た。


『今の言い方、けっこう自然でしたよ♪ 商人さんへの言い方より丁寧度が下がってます♪ 相手の信頼度が少し上がりました♪』


──え、上がったの?

下がったんじゃなくて?


『下がったのは丁寧度です♪ 商人さんには軽くて、隊長さんには重めに振っています♪ 相手の格に合わせる感じで自然です♪』


カイラが得意げに光を強めた。


俺は机の下で、こっそり指を握り直した。


──あれ。


俺、こういう局面で、意外と粘れるかもしれない。


そんな感覚が、ちらっと頭の隅をよぎった。

よぎっただけだった。


けれど、ゼロではなかった。


「戦の捌きは、どこで覚えた」


「父が、軍にいた時期がありました。子供の頃から、その手の話を聞かされていて」


「父の名は」


「もう亡くなっています」


これも、口が勝手に組み立てた。


隊長は書類に何かを書き込んだ。

書き込む手は止まらない。


完全に信じている顔ではなかった。

けれど、追及もやめた。


「ここで待て」


それだけ言って、隊長は椅子を引いた。


扉が閉まる音。

鍵が掛かる音。


俺は椅子の背に、ゆっくりもたれた。


背中に汗をかいていた。


『お疲れ様でした〜♪』


「……これ、マジでヤバいやつ?」


『えーと、たぶん大丈夫です♪ 敵意は強くないです♪ あの隊長さん、直人さんを警戒してますけど、害意ではないです♪』


「警戒と害意って、そんなに違うのか」


『違います♪ 警戒は「何者か知りたい」、害意は「どうにかしたい」です♪ 今は警戒寄りです♪』


「その分類、地味に怖いな」


カイラの解説は、相変わらず微妙にズレている。

そして、相変わらずちょっと役に立った。


しばらくして、扉が開いた。


隊長が戻ってきた。

書類は、もう持っていない。


「上に報告した」


「上?」


「ライナー准将だ」


──ライナー、准将。


俺は頭の中で、その音を一度繰り返した。


准将、というのがこちらの軍でどれくらいの位なのかは知らない。

けれど、隊長が「上」と言うときの抑揚で、それがかなりの「上」であることは伝わった。


「明朝、准将がお前を見る」


「見る、ですか」


「そうだ」


「面接みたいですね」


「面接?」


「あ、いや。こっちの話です」


隊長はそれ以上、突っ込まなかった。


「妙な真似はするな」


「しません」


隊長は、頷きとも言えない頷きをして、また出ていった。


鍵がもう一度、外から掛かった。


俺は立ち上がって、油紙の窓に近づいた。


小さな窓だった。


指で押すと、紙の繊維がうっすら浮かぶ。

外の薄暗い空気が、向こう側にあるのが分かった。


油紙の内側を、指でなぞる。


夜の青が、紙の向こうでゆっくり深くなっていた。


『直人さん、寝た方がいいですよ♪ 明日、偉い人ですから♪』


「だな」


『身だしなみ、大事です♪』


「この格好で身だしなみも何もないだろ」


グレーのパーカー。

Tシャツ。

ジーンズ。

スニーカー。


この世界に来てから、ずっと妙な格好扱いされている装備一式だ。


『でも、清潔感はありますよ♪』


「フォローが現代的すぎる」


頭の上で、カイラがぽうっと光った。


昼の白でもない。

夜の橙でもない。


ただの淡い色だった。


──まだ、何かが続いている。


そう思って、それ以上は考えないことにした。


考えると、たぶん眠れなくなる。


俺は椅子に座り直した。

机に肘をついて、目を閉じる。


明日、准将に会う。


異世界に来て、まだ二日目。

なのに、もう軍の偉い人間に面通しされるらしい。


……展開、早くないか?


そんなことを思いながら、俺の意識はゆっくり沈んでいった。

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