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20/21

数 ── AI相棒の包囲戦術で民兵拠点攻略! 増え続ける戦果報告を処理する

最初のうち、数字はありがたかった。


荷車二十五台。

食料便二便。

医薬便一便。

捕虜百二十六。


数で出されると、分かりやすい。

多いのか、少ないのか。

足りるのか、足りないのか。

昨日より増えたのか、減ったのか。


会社でも、そうだった。

売上、工数、残チケット、ページビュー、ユニークユーザ数、クリック率。

表に数字が入ると、とりあえず会議は前に進む。


この世界でも、そこはあまり変わらない。


ただ、朝の軍師府で渡された報告書には、見慣れない項目が増えていた。


「北街道北東、ラウム谷に敵民兵が集まっています」


ソフィアが読み上げる。


「兵は、千五百から二千ほど。倉庫が並んでいます。谷の西側には荷を抱えた者たちの群れ。東側には木柵。北へ抜ける山道があります」


「民兵」


俺は地図を見た。


ラウム谷。

アシュフォルトから北東へ伸びる街道の脇にある、浅い谷だ。

聖ヴァルディアの地図では、そのあたりから先は魔王国領と塗られている。


カイラが水色の光を三つ置いた。


『敵さんは、街道を止めるつもりですね♪倉庫群があるので、そこを拠点にしています♪』


「正面から行くと?」


『谷が狭いので、兵が詰まります♪味方の被害も増えます♪』


嫌な言い方だ。

でも分かりやすい。


ライナーが腕を組んだ。


「では、どうする」


『逃げ道を押さえるのが良いです♪』


カイラが谷の北、東、南に線を引いた。


『北の山道を押さえます♪東の木柵は燃やさず囲みます♪南の街道は開けておいて、武器を置いた人だけ通します♪』


「北の山道を押さえる。東の木柵は燃やさず囲む。南の街道は開けておく」


俺は口に出した。


ソフィアがすぐに命令文へ直す。


「北山道を軽装隊で封鎖。東木柵を弓兵と盾兵で包囲。ただし火攻めは禁ずる。南街道に退路を残し、武器を捨てた者のみ通す」


「火攻め禁止」


マルコが少し意外そうな顔をした。


「燃やすと、倉庫も道も使えなくなる」


「なるほど! 勝ったあとに困ります!」


「それです」


カイラが頭の上で回った。


『倉庫の中身も使えます♪道も残ります♪』


言っていることは明るい。

内容は戦争だ。


もう、その差にも慣れてきた。


ライナーは地図を見て、短く頷いた。


「やる」


伝令が走る。


木札が動く。


また作戦が始まった。


---


ラウム谷の報告は、昼前から次々届いた。


「北山道、封鎖成功!」


「東木柵、包囲完了!」


「南街道、武器を捨てた者が出始めました!」


軍師府の空気が明るくなる。


正面からぶつかっていない。

火も出していない。

道も倉庫も残っている。


勝ち方としては、かなり綺麗だった。


「使徒様、また道が通ります!」


マルコが嬉しそうに言った。


「まだ途中だ」


「はい! ですが、これは通ります!」


この男の明るさは、たまに予言みたいに当たる。


午後には、その通りになった。


「ラウム谷、敵主力が武器を置きました! 倉庫群、確保!」


伝令が叫んだ。


部屋の中から、声が上がる。


「よし!」


「北街道が伸びるぞ!」


「使徒様の策だ!」


違う。

カイラの解析と、ソフィアの命令文と、ライナーの実行力と、兵士たちの足だ。


そう思った。

でも、口には出さなかった。


ソフィアがこちらを見る。


「北見様」


小さな声だった。


「はい」


「お見事でした」


それは反則だ。


使徒様でも軍師殿でもなく、北見様で褒められると、受け取り方が分からなくなる。


「みんなの仕事です」


なんとか言った。


ソフィアは少しだけ微笑んだ。


「はい。皆の仕事です」


その言い方が、今日は少しだけ柔らかかった。


---


夕方、戦果報告が届いた。


いつものように、書記兵が机に板を置く。

ソフィアが確認し、ライナーが立ったまま読む。


「聖ヴァルディア側の被害、四百九十七」


四百九十七。


多い。

だが、前線の将校たちは表情を崩さなかった。


「敵兵の戦死、推定千五百八十。捕虜四百十二」


千五百八十。

四百十二。


数が続く。


「倉庫群、七棟確保。食料、麦袋換算で二千六百。矢束、約九百。荷車三十一」


おお、と声が上がった。


麦袋二千六百。

荷車三十一。


こちらは分かりやすく、ありがたい数だった。


「武器を持たぬ者の死傷、二千三百四十一。南倉庫へ移した者、千二百四。焼けた家、七十三」


そこで、少しだけ部屋が静かになった。


二千三百四十一。


俺はその数を見た。


さっきまでの数と同じように、板の上に並んでいる。

同じ黒い字。

同じ大きさ。


でも、目がそこで止まった。


二千三百四十一。


多い。


多い、と思った。


それ以上の言葉は、すぐには出てこなかった。


「民兵が混じっていた」


誰かが言った。


将校の一人だったと思う。


「谷では、鍬を置いた手で弓を取る。誰が武器を持つか、見ただけでは分からん」


別の将校が頷く。


「それでも、倉庫と街道を確保できたのは大きい」


会議が続く。


俺は反論しなかった。


反論する言葉がなかった。

そもそも、何に反論すればいいのかも分からなかった。


『直人さん』


カイラが、いつもより少し近くで光った。


『今回の作戦で、武器を持たぬ者の死傷は二千三百四十一です。でも、北街道は確保できました♪』


「……うん」


声が小さくなった。


『止まると、次の谷でも同じことが起きます。補給と移送を先に決めましょう♪』


その言葉で、少しだけ息が戻った。


考える順番を変える。


今ここで必要なのは、粥と荷車と見張りだった。


俺は顔を上げる。


「次の補給です」


ソフィアが、すぐ筆を構え直した。


「はい」


---


そこからの会議は早かった。


ラウム谷に見張りを置く。

倉庫の麦を三つに分ける。

捕虜は南倉庫へ移す。

負傷兵は旧商館へ。

街道沿いから移した者たちには、まず粥を配る。


報告は、また作業に戻った。


「麦袋二千六百のうち、八百は前線用。六百は負傷兵と、街道沿いから移した者たち用。残りは南門倉庫へ」


俺が言うと、ソフィアが書く。


「前線八百、救護六百、南門倉庫へ残余」


「捕虜と街道沿いから移した者たちは、同じ列にしないほうがいいです。揉めます」


「移送列を分けます」


「焼けた家の分は、板材と布を先に」


「板材、布、井戸番を追加」


言葉にすると、動き出す。


さっきまで板の上に並んでいた数が、荷車と粥と見張りに変わっていく。


少し楽になる。


かなり楽になる。


『良い整理です♪』


カイラが明るく言った。


「そうか」


『はい♪次の手が打てます♪』


次。


この世界に来てから、いつも次がある。

次の橋。

次の砦。

次の荷車。

次の勝利。


次があるなら、進むしかない。


---


夕方前、南門の近くに大鍋が並んだ。


麦粥。

薄いスープ。

水桶。

布束。


朝の報告書に並んでいた数が、鍋と桶と荷車になっていく。


「救護列、こちら!」


「南倉庫行きは西側へ!」


「負傷兵の搬送、先に通せ!」


声が飛ぶ。

荷車が動く。

書記兵が名を呼び、兵士が木札を渡し、炊事係が椀を並べる。


全部が整っているわけではない。

怒鳴り声もある。泣き声もある。列も曲がっている。


それでも、動いていた。


「使徒様、粥の列、回っております!」


マルコが大鍋の横から手を振った。


「鍋も勝ったか」


「勝っております!」


何にだ。


でも、少し笑えた。


ソフィアが隣で板を確認する。


「前線用の麦袋八百、搬出済み。救護用六百、炊事場へ。南門倉庫への残りも、夜までには入ります」


「いいですね」


「はい」


ソフィアは頷いた。


「先ほどの数、ちゃんと配れているようです」


その言い方はソフィアらしかった。

でも、今は分かる気がした。


板の上にあった数が、粥と荷車になっていく。

それなら、見ていられる。


「このまま回しましょう」


「承知しました」


ソフィアの返事が、すぐ隣で聞こえた。


---


夜、軍師府の窓から外を見た。


広場には、今日も青い旗が立っている。

兵士たちがラウム谷の勝利を話している。

荷車が増え、倉庫から麦袋が運ばれている。


「ラウム谷が通ったぞ!」


「使徒様!」


「麦が入った!」


歓声は、昨日より少し疲れていた。

それでも、確かに明るかった。


ソフィアが隣に来た。


「北見様」


「はい」


「お疲れですか」


「少し」


正直に言った。


ソフィアは何も言わず、小さな木杯を差し出した。

薄いスープだった。


「食べるほどではないと思いまして」


「健康管理が細かくなってる」


「必要です」


即答だった。


俺は受け取った。

温かい。


「ありがとうございます」


「はい」


ソフィアは地図を見た。


「今日も、勝ちました」


「はい」


勝った。


ラウム谷を押さえた。

倉庫も取った。

北街道も伸びた。

補給も組み直した。


数は多かった。

でも、勝った。


俺は木杯を両手で持ったまま、窓の外を見た。


「明日も、勝ちましょう」


自分で言ってから、少し驚いた。


ソフィアが静かに微笑む。


「はい、使徒様」


今は、その呼び方でもよかった。


広場の歓声が、また少し大きくなる。


俺は窓辺で片手を上げた。


兵士たちが叫ぶ。


「使徒様!」


「北街道に光を!」


胸の奥に、まだあの数は残っていた。


けれど、目の前にはもう次の地図があった。

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ε(・Θ・。)з~『読了、お疲れ様でした〜♪ 楽しんでいただけた可能性が少しでもありましたら、下の☆☆☆☆☆評価やブックマークが有効です♪ 作者さんの継続率が上がります。たぶん♪』
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