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19/21

拡大 ── AI相棒の退路遮断で小砦が次々降伏! 戦線も荷車も北へ伸びる

朝いちばんの仕事は、勝利報告を聞くことになった。


すごい言い方だと思う。

でも、本当にそうなっていた。


市庁舎の軍師府には、朝になると伝令が来る。泥のついた靴で階段を上がり、息を整え、板に挟んだ報告書を差し出す。


「北街道、第二中継所を確保」


「東丘陵の見張り台、降伏」


「西の荷橋、損傷軽微。通行可能です」


勝った。

また勝った。

今日も勝った。


言葉にすると、かなり雑だ。

でも、耳に入るたびに胸の奥が熱くなる。


『順調です♪』


カイラが地図の上を泳いだ。

アシュフォルトの北側に、水色の光が三つ、四つ、五つと増えている。


「順調すぎて、逆に落ち着かないな」


『怖くありません♪状況が整理されています♪』


「それなら助かる」


たぶん、落ち着かないのは俺だけだ。


ソフィアが板に報告を写している。

彼女の字はいつ見ても整っていた。戦場の報告なのに、机の上に置かれると急に仕事の顔になる。


「使徒様。本日までの確保地点です」


ソフィアが地図に木札を置いた。


北街道の中継所。

東丘陵の見張り台。

西の荷橋。

南倉庫から伸びる補給路。


青い木札が、アシュフォルトの外へ広がっていく。


「広がってるな」


思わず言った。


「はい。戦線が北へ広がっています」


戦線。


聞き慣れてきた。

聞き慣れていい言葉なのかは分からない。

でも、今は分かりやすい。


俺たちは勝って、進んでいる。


---


ライナーが来たのは、その少し後だった。


灰色の外套に、泥が跳ねている。前線を見てきたのだろう。

部屋に入るなり、地図の前に立った。


「次だ」


早い。


「まだ朝ですよ」


「敵は待たん」


それはそうだ。


ライナーは北東の一帯を指した。


「ミルゼン小砦。東の石塔。西の古い荷橋。この三つをどう扱う」


「また三つ」


最近、三つセットが多い。

分かりやすいから助かるけど、地味に疲れる。


『正面から三つ落とす必要はありません♪』


カイラがすぐに光った。


ほら来た。


『ミルゼン小砦は街道を塞いでいますが、食料の搬入は西の荷橋頼りです♪』


『東の石塔は見張り用で、水場が南側にあります♪西の荷橋を押さえて、東の水場を封じると、ミルゼンは孤立します♪』


カイラが地図の上に、細い水色の線を引く。


小砦。

石塔。

荷橋。


それぞれを殴るのではなく、つながりを切る。


「西の荷橋を先に押さえる。東の石塔は水場を取る。ミルゼン小砦には、逃げ道があるうちに降伏を促す」


俺は言葉にした。


ソフィアのペンが走る。


「西荷橋を軽装隊で確保。東石塔の南側水場を封鎖。ミルゼン小砦へ降伏勧告。北への退路は残し、武装解除を条件とする」


「北へ逃がすんですか」


マルコが入口の横で言った。


今日は南門ではなく、軍師府に戻っている。肩にまだ荷駄場の埃がついていた。


「全部ここで戦うより、どいてもらったほうが早い」


「なるほど! 道が空きます!」


分かり方が素直で助かる。


『道が空くと、荷車も通れます♪』


「それが一番大事かもしれない」


ライナーが短く頷いた。


「やる」


また早い。


ソフィアが命令文をまとめ、伝令が走る。地図の上の木札が、また北へ動いた。


その動きを見るだけで、身体の奥が熱くなる。


昨日の見張り台で触れた指の熱とは違う。

これは、戦場が動く時の熱だ。


どちらも、かなり困る。


---


昼前、西の荷橋は落ちた。


落ちたというより、守備兵が退いた。

軽装隊が橋の南側へ回り、北側に旗を見せたところで、橋番の兵は荷車二台を置いて逃げたらしい。


「西荷橋、確保! 橋梁損傷なし!」


伝令の声に、軍師府が沸いた。


「橋が無事なの、いいですね」


俺が言うと、ソフィアがすぐ頷いた。


「はい。橋を直す手間が省けます」


現実的。

でも、本当にそうだ。


次に、東の石塔から白い布が上がった。


水場を押さえられたからだ。

石塔の兵は半日も粘らず、武器をまとめて降りてきた。


「東石塔、降伏! 味方損耗なし!」


味方損耗なし。


この言葉は、何度聞いても強い。


マルコが拳を握った。


「使徒様、またです!」


「まただな」


また勝った。


そう言っていい空気だった。


午後には、ミルゼン小砦の門が開いた。


西の荷橋を失い、東の水場を取られ、北への道だけ残された小砦は、こちらの降伏勧告を受け入れた。


正面から攻めていない。

壁も壊していない。

火も出ていない。


それなのに、砦が一つ、地図の上で青くなる。


「ミルゼン小砦、武装解除! 捕虜百二十六!」


「やった」


思わず声が出た。


ソフィアがこちらを見る。


「はい、北見様」


小さな声だった。

周りには聞こえないくらいの声。


心臓に悪い。


でも、悪くない。


『勝利です♪』


カイラが頭の上で跳ねた。


「勝利だな」


今度は素直に言えた。


---


ただ、勝つと仕事が増える。


これはもう、この世界の法則らしい。


夕方前、軍師府の机には報告が積み上がった。


ミルゼン小砦の武装解除。

捕虜の移送。

橋の見張り交代。

東石塔の水場管理。

荷車の通行表。

負傷兵の搬送。


それから、街道保護者名簿。


「はい。街道沿いで身元確認した者を、南倉庫へ移します」


ソフィアはいつもの声で言った。


「飯は足りますか」


「今夜分は。明日以降は、荷車の往復を増やす必要があります」


往復を増やす。

言い方は簡単だが、実際に走るのは荷車と馬と人だ。


『荷車数が不足しています♪』


カイラが地図の南側に水色の点を並べた。


アシュフォルト。

ハルム橋。

南の旧国境線。

さらにその南のガルシス砦。


点と点を結ぶ線が、長い。


前はもっと短かった気がする。


「荷車が足りない」


口に出すと、ソフィアがすぐに頷いた。


「はい。食料、矢束、医薬、捕虜移送、負傷兵搬送、橋材。すべて同じ荷駄隊を使っています」


「荷駄隊って、増やせないんですか」


「すぐには難しいかと」


真面目に返された。


「ですよね」


マルコが腕を組んだ。


「馬も疲れております!」


「馬も急には増えないか」


「増えません!」


分かってる。

でも言いたかった。


ライナーが地図を見たまま言った。


「市内の荷車を使う」


部屋が少し静かになった。


ソフィアが板を見る。


「商人組合から借り上げる形にできます。代価は軍票で」


「軍票」


また新しい言葉だ。


「後で王国が支払う証文です」


「なるほど」


現代日本人としては、ちょっと不安になる仕組みだ。

でも今は、それで荷車が増える。


「借りられるなら、借りましょう。食料と医薬を優先。矢と橋材は時間を分ける。捕虜と負傷兵は同じ便にしない」


言いながら、カイラの線を見る。


『良いです♪混載すると遅延と揉め事が増えます♪目的地ごとに分けましょう♪』


「行き先ごとに分ける。炊事場、礼拝天幕、南倉庫、橋材置き場」


ソフィアが命令文へ直す。


「市内荷車を軍票で借り上げ。食料と医薬を優先輸送。矢束、橋材は時刻を分ける。捕虜移送と負傷兵搬送は別便」


「それです」


ソフィアのペンが止まった。


少しだけ、目が合う。


仕事中だ。


分かっている。


でも、目が合うだけで少し楽になる。


---


荷駄場は、夕方になっても騒がしかった。


南門の外に荷車が並び、兵士が札をつけ、荷駄隊が行き先を叫ぶ。


「炊事場行き、東側!」


「医薬は礼拝天幕へ!」


「南倉庫行きは西側に回せ!」


荷車の列が、少しずつ分かれていく。

昨日より列が長い。

でも、昨日より混乱は少ない。


それが、かなり嬉しい。


「使徒様、回っております!」


マルコが声を張った。


「見れば分かる!」


「はい! 見ていただきたく!」


元気だ。


荷駄隊長が走ってきた。

額に汗をかいているが、顔は明るい。


「軍師殿、商人組合の荷車、十五台出ました! あと十台、夜までに来ます!」


「助かります」


「助かるのはこっちです。列が分かれてりゃ、怒鳴る回数が減ります」


怒鳴る回数。


それは分かりやすい成果だった。


兵士たちも分かっているらしい。


「また使徒様の差配だ」


「荷車まで勝たせるのか」


「次は鍋も勝つぞ」


何に勝つんだ、鍋は。


でも、笑いが起きた。


笑いながら荷車が動いていく。

これは、かなりいい。


ソフィアが隣に立った。


「北見様」


小さい声。


すぐに背筋が伸びる。


「はい」


「今日は、よく召し上がってください」


「そこですか」


「はい。明日も、地図を見るお仕事がありますから」


彼女の顔は真面目だった。

でも、目元が少しだけ笑っている。


「分かりました。食べます」


「よろしいです」


よろしいらしい。


軍師なのに、食事で許可をもらっている。


いや、悪くない。


---


夜、軍師府に戻ると、勝利報告がまた増えていた。


西荷橋、確保。

東石塔、降伏。

ミルゼン小砦、武装解除。

北街道、通行可能。


その下に、補給報告。


荷車二十五台、追加。

食料便、二便増。

医薬便、一便増。

橋材、翌朝へ延期。


勝った分だけ、報告が増える。

報告が増えた分だけ、次の仕事が見える。


面倒だ。


でも、嫌ではなかった。


地図の青い札は、朝よりずっと北へ広がっている。

アシュフォルトはもう、落とした都市ではなく、次へ進むための場所になっていた。


「広がりましたね」


ソフィアが言った。


「はい」


俺は地図を見た。


青い札。

水色の線。

荷車の印。

小さな旗。


全部が、少しずつ北へ伸びている。


「勝ってるな」


小さく言った。


『はい♪勝っています♪』


カイラが答える。


ソフィアは俺の声を聞いて、静かに頷いた。


「使徒様の進軍は、さらに北へ」


また使徒様だ。


でも、今日はその言葉を否定しなかった。


北見様と呼ぶ声も、使徒様と呼ぶ声も、どちらも同じ人から出ている。


それが少しだけ、嬉しかった。


下の広場から歓声が上がる。


「ミルゼンが開いたぞ!」


「使徒様!」


「北へ道が伸びた!」


俺は窓辺に立ち、片手を上げた。


歓声がさらに大きくなる。


前より、手を上げるのが自然になっていた。


それが、少し誇らしかった。

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ε(・Θ・。)з~『読了、お疲れ様でした〜♪ 楽しんでいただけた可能性が少しでもありましたら、下の☆☆☆☆☆評価やブックマークが有効です♪ 作者さんの継続率が上がります。たぶん♪』
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