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16/21

集会 ── AI相棒の補給整理で軍が加速! 教母の集会で使徒様神話が止まらない

アシュフォルトが落ちた翌朝。


市庁舎で俺を待っていたのは、剣でも槍でもなかった。


紙の山だった。


本当に、紙の山だった。


市庁舎の一室に机が並び、地図が広げられ、補給表が積まれ、木箱が置かれ、紐で縛られた帳簿が壁際に積み上がっている。


都市を落としたら、次は書類が攻めてきた。


「使徒様、こちらが南門の通行表です」


ソフィアが一枚置く。


「こちらが東水門の使用許可。こちらが西街道の封鎖状況。こちらが捕虜の移送予定。こちらが倉庫の在庫です」


一枚。

一枚。

また一枚。


机の上が、あっという間に白くなった。


「昨日、アシュフォルト、落としたんですよね」


「はい」


「今日、なんで役所をやってるんですか」


「アシュフォルトを落としたからです」


正論が強い。


『占領直後は、情報と物流の同期が重要です♪』


カイラが頭の上でくるりと回った。


「同期って言うと、急に会社感が出る」


『都市運営は大きな業務システムです♪』


「言い方」


マルコが扉の横で胸を張った。


「使徒様、朝食であります!」


「ありがとう。置く場所ある?」


マルコは机を見た。


黙った。


「ないよな」


「膝の上でどうでしょう!」


「俺が? 飯が?」


「両方であります!」


元気だけで押してくるな。


パンと豆の皿を片手で受け取りながら、俺は地図を見た。


南門。

東水門。

西街道。


昨日、青い光が置かれた三つの場所。

今日は、全部が荷車の詰まりになっていた。


勝った場所が、そのまま仕事になる。


なるほど。

戦争、面倒くさい。


「南門に荷車が集中しています」


ソフィアが地図に木札を置いた。


「城内に入る荷、城外へ出る空荷、捕虜移送、負傷兵の搬送。すべて南門を使っているため、渋滞しています」


「渋滞」


異世界で聞きたくない単語だった。


『ボトルネックですね♪』


「それも聞きたくない」


カイラは水色の尾びれで地図を示した。


『南門は入城専用にして、空荷の退出は東水門へ回すのが良いです♪西街道はまだ安全確認が不足しているので、軽装隊と伝令だけに限定します♪』


「南門は入るだけ。空の荷車は東水門から出す。西街道はまだ細く使う」


俺が口に出すと、ソフィアがすぐに軍務の言葉へ変えた。


「南門を進入専用。東水門を退出路。西街道は伝令および軽装隊に限定。荷駄隊は時刻を分けて通行」


「あと、橋のほうは?」


『ハルム橋から来る荷車を三組に分けると待機時間が減ります♪第一組は食料、第二組は矢束と工具、第三組は医薬と布です♪』


「荷物の種類で分けるのか」


『はい♪目的地が違うので、最初から分けると仕分けが減ります♪』


それは分かる。


現代でも、荷物を全部同じ箱に入れたらあとで地獄を見る。


「食料、矢と工具、医薬と布。この三つで分ける。先に分けて持ってきたほうが、市内で迷わない」


ソフィアの羽根ペンが走った。


「承知しました。軍師府発、補給路再編命令としてまとめます」


ライナーが壁際で腕を組んでいた。


いつからいたのか分からない。

この人はたまに気配が薄い。


「それでよい」


「確認早いですね」


「昨日の勝ち筋と同じだ。入口を分け、敵の判断を割った。今日は味方の荷を分け、味方の混乱を減らす」


「なるほど」


自分でやったことを、人に説明されて理解する。


なんか変な気分だ。


『直人さんの指示、汎用性がありますね♪』


「俺の指示っていうか、お前の整理だけどな」


『質問が良いのです♪』


「褒め方が上手い」


ライナーが小さく笑った。


本当に少しだけ。


「軍師殿」


「はい」


「補給は戦だ。よく見た」


短い。


でも、胸に来た。


敵を倒した時より、少し違うところが温かくなった。


褒められ方にも種類があるらしい。


昼過ぎには、南門前の混乱が少しずつほどけた。


荷車の列が三つに分かれる。


食料の荷車には麦束の印。

矢と工具の荷車には黒い木札。

医薬と布の荷車には白い布。


門の前で怒鳴っていた兵士たちが、怒鳴る回数を減らした。


それだけで、かなり平和に見える。


「第一荷駄隊、通過!」


「食料は北倉庫へ!」


「空荷は東水門へ回せ!」


声が流れていく。


詰まっていたものが動くと、人間はそれだけで嬉しいらしい。


兵士たちの顔が明るくなっていた。


「おお、進むぞ」


「さすが使徒様の差配だ」


「昨日は門、今日は荷車か」


待て。


荷車で褒められるの、ちょっと地味では。


いや、地味だけど嬉しい。


かなり嬉しい。


マルコが俺の隣で笑った。


「使徒様、飯が早く届くようになりました!」


「それ、兵士には一番大事かもしれないな」


「はい! 腹が減ると祈りの声も小さくなります!」


「そこに繋がるのか」


従軍司祭が、南門脇で光の輪の印を切っていた。


「光の父ユィレオンに感謝を! 使徒様の知恵により、糧は滞りなく届く!」


糧。


パンのことをそう言うと、急に神聖に聞こえる。


俺が昨日まで見ていたのは、麦袋だったのに。


『支持反応、上昇しています♪』


カイラが明るく言った。


「変な指標を出すな」


『士気の上昇としては有用です♪』


「まあ、飯が来るなら士気も上がるか」


『はい♪飯は強いです♪』


そこは妙に人間っぽい結論だった。


夕方前、ソフィアが少し緊張した顔で来た。


板を胸に抱えている。


背筋がいつもよりさらにまっすぐだった。


「使徒様。今夜、南門外の大天幕で、光の声の集会が開かれます」


「光の声」


聞いたことがある。


教母エレノアの民衆運動。


王宮の式典には出ないが、民の集会には出る人たち。


「教母様が、アシュフォルトに到着されました」


「え」


本当に声が出た。


「教母様、来たんですか」


「はい。負傷兵への祈りと、勝利への感謝のために」


前線に来るタイプの偉い人だった。


いや、民の側の人という説明は、そういう意味だったのかもしれない。


「俺も行くんですか」


ソフィアは迷わず頷いた。


「ぜひに、とのお言葉です」


「ぜひに」


断れないやつだ。


『イベント発生ですね♪』


「ゲームっぽく言うな」


マルコが横から身を乗り出した。


「使徒様! 教母様の集会であります! これは、すごいことです!」


「マルコも行くのか」


「もちろんです!」


目が輝いていた。


ソフィアも、静かに目が輝いていた。


二人とも戦場では普通に頼れるのに、教母の話になると少し違う顔になる。


それだけ、すごい人なのだろう。


俺にとっては、手を包んで「四十年待っていた」と言った老婦人だ。


温かくて、優しくて、少し圧が強い人。


「分かりました。行きます」


ソフィアが、ほっとしたように息を吐いた。


「ありがとうございます」


礼を言われることなのか。


たぶん、そうなのだろう。


南門の外に、大きな天幕が立っていた。


白い布。

青い旗。

光の輪の紋章。


天幕の周りには、兵士、従軍司祭、荷駄隊、工兵、商人、志願兵らしき若者たちが集まっていた。


多い。


昨日の歓声も大きかった。

でも、今夜のこれは、別の熱だった。


戦場の勝利というより、祭りに近い。


焼いた麦の匂いがする。

湯気の立つ鍋がある。

負傷兵が毛布に包まれて座っている。

司祭たちが列を作って祈っている。


その奥に、低い壇があった。


エレノア教母は、そこにいた。


王宮で会った時と同じ、粗末な白い衣。

細い身体。

浅黒い肌。

深く皺の刻まれた顔。


ただ、集まった人々の目が、彼女を見るだけで変わった。


ざわめきが、祈りの静けさに変わっていく。


「教母様……」


ソフィアが小さく呟いた。


泣きそうな声だった。


マルコは胸の前で光の輪の印を切った。


俺も、少し遅れて真似した。


動きは、たぶん合っている。


『合っています♪』


「採点ありがとう」


カイラの声で少しだけ肩の力が抜けた。


エレノア教母が、ゆっくり顔を上げた。


大きな声ではない。


なのに、天幕の端まで届く声だった。


「光の父ユィレオンは、道をお開きになりました」


誰も声を出さない。


炎の音だけが聞こえる。


「十四年、閉ざされていた北への道が開きました。私たちはハルム橋を越え、アシュフォルトの門を開きました。光の父の導きによって」


その言葉だけで、兵士たちの背筋が伸びた。


自分たちのしたことを、誰かが大きな意味にしてくれる。


それは、かなり強い。


「そして神は、使徒を、私たちのもとへ送ってくださいました」


視線が集まった。


一斉に。


俺に。


やめてくれ。


とは言えない。


俺は、壇の脇に立たされていた。

見える場所。

また見える場所だ。


エレノア教母が、こちらへ手を伸ばした。


「私は、四十年、待っていました」


出た。


四十年。


相変わらず意味は分からない。


でも、この場の人たちは、その言葉だけで息を呑んだ。


ソフィアも。

マルコも。

ライナーまで、静かに目を伏せている。


「神は、待つ者を見捨てません。祈る者を見捨てません。戦う者を、見捨てません」


教母の声が、少し強くなった。


「使徒様は、勝利を示してくださいました。ならば、私たちは歩みます。恐れず、迷わず、約束された光へ」


約束された光。


約束の地、ではなかった。

少し言い方が違う。


まあ、たぶん同じような意味なのだろう。


今は、詳しく聞く空気ではない。


「使徒様!」


誰かが叫んだ。


すぐに、声が重なった。


「使徒様!」


「軍師様!」


「アシュフォルトの勝利を!」


「光の父に栄光を!」


天幕の空気が揺れた。


音が身体に当たる。


昨日の城壁の歓呼と同じで、同じではない。


昨日の勝利を喜ぶ声だけではなかった。


次も勝てると信じている声だった。


集会の途中で、箱が前へ運ばれてきた。


木箱。

布袋。

革袋。


商人らしき男たちが、それを司祭の前へ置いていく。


「北方軍へ麦百袋を」


「荷車十台を献じます」


「矢柄用の木材を三十束」


「負傷兵のために布を」


献金。


献品。


そういうものらしい。


王都にいる金持ちが遠くで決める話だと思っていた。


でも、実際には、こうして人の前で箱が置かれる。


置いた人間に拍手が起きる。


名前が呼ばれる。


名誉になる。


「すごいな」


思わず言った。


ソフィアが隣で頷いた。


「はい。勝利は、人の心を動かします」


「人の心」


『物資も動きます♪』


カイラがすかさず言った。


「現実的だな」


『大事です♪』


本当に大事だった。


荷車十台は、たぶんかなり強い。


そのあと、若い男たちが前に出た。


まだ兵士の動きではない。

背筋は伸ばしているが、緊張で肩が上がっている。


「志願兵です」


マルコが小声で言った。


「アシュフォルトの勝利を聞いて、来た者たちであります」


「もう?」


「早い者は、昨日の夜には南の宿営地へ」


早い。


噂の移動速度、速すぎる。


司祭が一人ずつ名を聞き、光の輪の印を切る。


若者たちは膝をつき、立ち上がる。


拍手が起こる。


「使徒様が勝利を示された!」


誰かが叫んだ。


「ならば、この戦いは正しい!」


天幕が揺れるほどの声が返った。


「正しい!」


「正しい!」


論理としては、かなり雑だ。


でも、熱としては強かった。


勝っている。

だから正しい。


正しい。

だからもっと勝てる。


そういう輪が、目の前で回っている。


俺はそれを、少し離れたところから見ているつもりだった。


でも、輪の中心に立っているのは、俺だった。


「使徒様」


エレノア教母が、俺を呼んだ。


天幕が静まる。


嫌な予感がした。


いや、悪い意味ではない。


たぶん、話せということだ。


「お言葉を」


来た。


やっぱり来た。


スピーチ。


無理。


会社の朝礼でも嫌だったのに、異世界の宗教集会でスピーチは難易度が高い。


『短くて大丈夫です♪』


カイラが言った。


「短く」


思わず口に出た。


ソフィアが小さく頷いた。


「はい。使徒様のお言葉なら、短くとも届きます」


プレッシャーを増やすな。


俺は一歩前に出た。


人が多い。


顔、顔、顔。


兵士。

司祭。

荷駄隊。

負傷兵。

商人。

志願兵。


みんな、こっちを見ている。


俺は息を吸った。


「俺は」


声が少し裏返った。


一瞬、終わったと思った。


でも、誰も笑わなかった。


むしろ、全員がさらに真剣になった。


それはそれで困る。


「俺は、ひとりで勝ったわけじゃありません」


静かだった。


「橋を守った人がいて、荷車を押した人がいて、門の前に立った人がいて、水門へ走った人がいて、怪我人を運んだ人がいて、祈った人がいる」


言いながら、昨日から今日までの顔が浮かんだ。


ライナー。

ソフィア。

マルコ。

工兵。

伝令。

名前も知らない兵士たち。


カイラは、俺の頭の上で光っている。


見えないけれど、いる。


「だから、次も勝てます」


口が、自然に動いた。


「みんなで動けば、道は開きます」


少しだけ間があった。


本当に少しだけ。


次の瞬間、天幕が爆発した。


「使徒様!」


「使徒様!」


「道は開く!」


「聖ヴァルディアに光を!」


拍手。

足踏み。

祈りの声。


音が一つの塊になって、身体へぶつかってきた。


俺は息を吐いた。


足が少し震えている。


でも、悪くない。


悪くないどころか、かなり気持ちいい。


エレノア教母が、俺の手を両手で包んだ。


あの時と同じ温かさだった。


「ありがとうございます、使徒様」


「いえ、その」


「あなたが来てくださった」


教母は静かに微笑んだ。


「それだけで、皆は前へ歩けるのです」


返事に困った。


でも、天幕の声が大きすぎて、困った顔もたぶん見えなかった。


集会が終わる頃には、夜になっていた。


南門の外には、火がいくつも灯っている。


荷車の列は、昼より整っていた。

志願兵たちは司祭の指示で名を記され、商人たちは献じた物資を荷札に分けていた。


さっきまで祈っていた熱が、そのまま仕事に変わっている。


それが少し、不思議だった。


「すごいですね」


俺が言うと、ソフィアはまっすぐ前を見たまま答えた。


「信じる者は、動きます」


「なるほど」


信じる者は救われる、ではない。


信じる者は、動く。


この世界では、そのほうが正しいのかもしれない。


マルコが干し肉を差し出してきた。


「使徒様、集会後の干し肉であります!」


「それ、いつもと違うのか」


「祈りの後なので、少しありがたいです!」


「便利だな、その理屈」


受け取った。


硬い。

ありがたくても硬いものは硬い。


『直人さん♪志願兵登録、暫定二百十三名です♪献納物資は荷車換算で二十八台分♪』


カイラが嬉しそうに報告した。


「一晩で?」


『はい♪勝利効果、とても大きいです♪』


「勝つと、人も金も荷車も増えるのか」


『増えます♪たぶん♪』


「そのたぶん、雑に頼もしいな」


でも、今日は頼もしさのほうが大きかった。


明日の補給は、今日より少し速く動く。

負傷兵には布が届く。

兵士には飯が届く。

新しい志願兵も来る。


勝ったことが、次に勝つための力に変わっている。


俺は南門の上を見上げた。


青い旗が、夜風で揺れていた。


その下で、誰かがまた叫ぶ。


「使徒様に道を!」


周りが応える。


「光を!」


俺は、軽く手を上げた。


歓声が返ってくる。


昨日より、少し慣れていた。


むしろ、少し誇らしかった。

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ε(・Θ・。)з~『読了、お疲れ様でした〜♪ 楽しんでいただけた可能性が少しでもありましたら、下の☆☆☆☆☆評価やブックマークが有効です♪ 作者さんの継続率が上がります。たぶん♪』
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