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14/21

北進 ── AI相棒の分断進軍で小砦を次々無力化! アシュフォルト目前へ

ハルム橋を渡る軍隊は、思ったより遅かった。


馬。

荷車。

槍兵。

弓兵。

工兵。

従軍司祭。


それから、なぜか俺の乗る馬車。


「俺、歩いたほうが早くないですか」


「使徒様に歩かせるわけにはいきません」


マルコが真顔で言った。


「でも、馬車めちゃくちゃ揺れるぞ」


「道が悪いので!」


「元気に言えばいいと思ってるな」


馬車の車輪が石を踏んだ。

腰が跳ねた。


痛い。


王宮の馬車と違って、前線の馬車は乗り心地を捨てていた。

いや、最初から拾っていないのかもしれない。


『直人さん♪北岸進出、順調です♪』


カイラが頭の上でふわふわ泳いでいる。

揺れても、カイラは揺れない。


ずるい。


「順調って、これで?」


『はい♪予定より十八分遅れですが、橋梁通過時の渋滞としては軽微です♪』


「十八分を軽微と言える世界、強いな」


『橋が残っているので、とても強いです♪』


それは、たしかにそうだった。


昨日まで取った橋。

今日から通る橋。


勝ちが、道になっていた。


---


北岸の街道は、南側より狭かった。


木の根が道の端を押し上げている。

雨で削れた溝に、荷車の車輪が何度も引っかかる。

工兵が板を敷き、兵士が肩で押し、荷駄の馬が鼻を鳴らす。


軍隊というより、大規模な引っ越しだった。


ただし全員、槍を持っている。


ソフィアは馬車の中で板を膝に乗せていた。

揺れる車内で、よく文字が書けるなと思う。


「西倉庫から回収した麦袋は、第一荷駄隊へ編入済みです。矢束は弓兵隊へ。荷車六台のうち二台は車軸修理中」


「二台壊れてるんですか」


「放棄前に車輪を外そうとした形跡があります」


「嫌がらせが細かい」


「有効です」


ソフィアは淡々と言った。


有効。

そう言われると、急に腹が立ちにくくなる。


『敵さんも補給を守ろうとしていますからね♪』


「そりゃそうか」


敵にも都合がある。

こっちにも都合がある。


そのぶつかり合いを、カイラは俺の頭の上で解析し、ソフィアは紙の上でほどいていく。


「使徒様」


ソフィアが地図を示した。


「本日の進路上に、小砦が三つあります。北街道沿いの石塔砦。東の丘の見張り砦。西の荷駄道を押さえる木柵砦」


「三つ」


数字だけで面倒くさい。


『全部を攻める必要はありません♪』


カイラが地図の上へ降りた。


『石塔砦は街道を塞いでいますが、井戸が外です♪東の見張り砦は連絡用で、守備が薄いです♪西の木柵砦は補給道を押さえていますが、西倉庫を失ったので孤立しています♪』


「つまり?」


『一つずつ正面から殴るより、連絡を切って降伏か撤退を選ばせるのが速いです♪』


またそれだ。


倒すより、動かす。

潰すより、どかす。


カイラの戦い方は、だんだん分かってきた。


「ソフィア大尉。石塔砦は井戸を押さえる。東の見張り砦は連絡路を切る。西の木柵砦は、西倉庫が落ちたことを見せて北へ退かせる。これ、軍務の言葉にできます?」


「はい」


ソフィアはすでに羽根ペンを構えていた。


「第一、石塔砦の井戸を押さえ、砦内へ降伏勧告。第二、東見張り砦への伝令路を遮断。第三、西木柵砦には西倉庫陥落を示し、退路を北へ開ける」


「完璧すぎる」


「使徒様のご意図です」


「たぶん、半分くらいカイラの意図です」


『私は補佐です♪』


「その補佐が強いんだよ」


マルコが外から声をかけた。


「使徒様、伝令を出しますか!」


「出す。ライナー准将へ」


ソフィアが書いた命令を、丸めて紐で結ぶ。

伝令が馬を走らせた。


馬車の窓から、青い旗が北へ流れていくのが見えた。


---


昼前、石塔砦は白い布を掲げた。


井戸を押さえられたからだ。


戦闘はほとんどなかった。

井戸の周りを囲んだ槍兵を見て、砦の中の兵はしばらく怒鳴り、それから門を開けたらしい。


「石塔砦、降伏! 捕虜八十四! 味方損耗なし!」


伝令の声が本隊に届くと、兵士たちがざわっと沸いた。


「また使徒様だ」


「戦わずに砦を取ったぞ」


聞こえている。

馬車の中まで、普通に聞こえている。


──音量、もうちょい下げてくれ。


でも、悪い気分ではなかった。


味方損耗なし。

その言葉は、やっぱり強い。


東の見張り砦は、昼過ぎに無人になっていた。

連絡路を押さえられて、夜を待たずに逃げたらしい。


西の木柵砦は、夕方前に北へ退いた。

こちらは門を焼いていったので、工兵が少し文句を言った。


「魔族どもめ、最後まで面倒を残す」


兵士の一人がそう言った。


マルコも、その言葉には何も返さなかった。


俺も何も言わなかった。


門を焼くのは、敵なら普通にやる気がする。

俺でも、たぶんやる。


でも、ここではそれが「魔族ども」になる。


そういうものなのだろう。


深く考えると、馬車酔いが悪化しそうだった。


---


午後遅く、街道脇の村に入った。


入った、というより通った。


人がいなかった。


家はある。

畑もある。

井戸もある。

干し草を積んだ小屋もある。


でも、人がいない。


扉は開いている家と、閉じている家が半分ずつ。

炉には灰が残っていた。

水桶の縁には、まだ湿った跡がある。


逃げた直後。


そう見えた。


「魔族どもは逃げ足が速いな」


前を歩く兵士が笑った。


「使徒様が来ると聞いて、震え上がったんだろうよ」


別の兵士も笑った。


マルコは少し誇らしそうに胸を張った。


「当然です。使徒様の兵法は神敵を退けます」


「いや、俺が怖いわけでは」


「怖いと思います!」


「断言するな」


村の家の一つに、布が畳まれて置かれていた。


小さい。

子供用の服か、寝具か。

きれいに畳んだつもりで、端だけ少しずれている。


急いだのだろう。


俺はそれを見て、少しだけ口を閉じた。


『周辺に敵影はありません。退いた可能性が高いです♪』


カイラが言った。


「避難か」


「使徒様?」


ソフィアがこちらを見る。


「いや、ここにいた連中はどこへ行ったのかなって」


「アシュフォルト方面でしょう。都市へ逃げ込めば、まだ守られると考えるはずです」


「そうか」


「進軍を急げば、街道へ出る流れを押さえられます。武装した者が紛れる前に、道を取ることが重要です」


ソフィアの声は実務だった。


逃げる者の流れも、敵の動きも、地図の上では線になる。

言葉になると、少し見やすい。


俺は小さな布から目を離した。


「じゃあ、急いだほうがいいですね」


「はい」


深追いはしなかった。


今は、進む場面だった。


---


問題は、進みたくても荷駄が遅いことだった。


夕方、軍師府情報室は村の広場に広げられた。


つまり、机がない。

荷箱を二つ並べて板を置き、その上に地図を広げた。


ソフィアは普通に仕事を始めた。

強い。


「第二荷駄隊が半刻遅れています。第三工兵隊は石塔砦の井戸管理へ残置。西木柵砦の焼け門処理で、板材が不足しています」


「進めてるのに、後ろが詰まってる」


『はい♪前進速度が補給速度を上回っています♪』


「それ、良いことなのか悪いことなのか」


『短期的には良いです♪長期的には危険です♪』


「今は?」


『半日以内なら良いです♪』


「半日か」


ソフィアが地図に小さな印をつけた。


「今夜はこの村で補給を待ち、明朝に丘陵線まで進むのが妥当です。ただし、軽装隊だけは先行できます」


「軽装隊で次の街道分岐を押さえる」


言うと、カイラがくるりと回った。


『良いです♪敵さんの再集結を遅らせられます♪』


「ソフィア大尉、命令に」


「はい。軍師府発。主力は村にて補給整列。軽装隊は北東分岐まで先行。夜間は松明を少なく、夜明けには旗を多く掲げて本隊の前進と誤認させる」


「あ、そこまで言ってない」


「使徒様なら、そうされるかと」


「俺より俺の指示が速い」


『翻訳精度が上がっていますね♪』


「俺が入力元なのに置いていかれてる」


マルコが笑いをこらえている。


こらえきれていない。


「マルコ」


「はい!」


「笑ってるだろ」


「少しだけであります!」


「正直でよろしい」


伝令が走った。


村の広場に、また兵士たちの声が広がっていく。


空だった村に、聖ヴァルディアの旗が立った。


家の影に誰かがいるような気がして、一度だけ振り返った。


誰もいなかった。


---


翌朝、北東の分岐はすでに青い旗で埋まっていた。


軽装隊が夜のうちに押さえたのだ。


敵は本隊が来たと勘違いしたらしい。

夜明け前に小さな守備隊を下げ、街道脇の荷を置いて北へ退いた。


「北東分岐、確保! 敵荷駄、麦袋二十七、予備弓三十、矢束百二十!」


伝令が叫ぶ。


兵士たちが声を上げた。


「使徒様!」


「軍師様!」


「道が開いたぞ!」


道。


また道だ。


昨日まで敵の土地だった場所に、こちらの道が増えていく。


カイラが地図の上で、青い光をぴこぴこと置いた。


『石塔砦、確保♪東見張り砦、無力化♪西木柵砦、撤退誘導♪北東分岐、確保♪たいへん順調です♪』


「言い方が実績解除っぽい」


『実績です♪』


「否定しにくいな」


ライナーが馬を寄せてきた。


「軍師殿」


「はい」


「このまま昼までに南丘陵へ入る。アシュフォルトが見える」


アシュフォルト。


次の大きな都市。

地図の上で、ずっと赤い丸だった場所。


そこが、見える。


胸の奥が少し熱くなった。


怖さもある。

でも、それより先に、進んでいる感覚が来た。


「行けますかね」


「お前が道を作った」


「俺というか、みんなで」


ライナーは少しだけ目を細めた。


「なら、みんなで行く」


その言い方は、ずるい。


反論しにくい。


---


昼過ぎ、南丘陵に出た。


風が強かった。

草が波みたいに倒れ、青い旗がばたばたと鳴る。


その向こうに、都市が見えた。


灰色の城壁。

南門の塔。

遠くに光る水路。

壁の内側に、屋根がいくつも重なっている。


アシュフォルト。


地図の赤丸が、現実の街になっていた。


兵士たちが次々に丘へ上がり、声を失い、それから歓声を上げた。


「見えたぞ!」


「アシュフォルトだ!」


「使徒様が道を開いた!」


また、その声。


俺は馬車から降りた。

足元の草が柔らかい。

昨日の村の灰の匂いはもう遠い。

ここでは風と土の匂いがした。


ソフィアが隣に立つ。

板を胸に抱え、都市を見ていた。


「使徒様」


「はい」


「本日までの進軍、記録します。小砦三箇所無力化。街道分岐二箇所確保。補給荷の一部鹵獲。主力損耗、軽微」


「軽微」


「はい」


軽微。


数字にすると、きっと何人かはいる。

でも、昨日までの戦場を見たあとだと、その言葉の意味も少し分かる。


少ない損で、大きく進んだ。


それは、たぶん、良いことだ。


『直人さん♪アシュフォルト攻略準備、かなり有利です♪』


カイラが水色に光った。


「勝てる?」


『勝てます♪たぶん♪』


「そこはたぶんなんだな」


『いつも通りです♪』


いつも通り。


その言葉が、今日は頼もしく聞こえた。


俺は丘の上から、アシュフォルトの城壁を見下ろした。


遠くで、門の上の赤い旗が揺れている。


あそこを取れば、もっと北へ行ける。

もっと道が広がる。


兵士たちの歓声の中で、俺は小さく息を吸った。


「じゃあ、次だな」


『はい♪次です♪』


カイラが明るく答えた。


青い旗が、丘の上にまた一本立った。

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ε(・Θ・。)з~『読了、お疲れ様でした〜♪ 楽しんでいただけた可能性が少しでもありましたら、下の☆☆☆☆☆評価やブックマークが有効です♪ 作者さんの継続率が上がります。たぶん♪』
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