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悪女令嬢は、断罪式のあとで領収書を切る  作者: 海空
第五章 聖女様は、正しすぎる
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第92話 皇女殿下は、山賊を道路設備に数えない

 帝国北西部、ガルド街道。


「おかしい」


 アレクシアは宿場町の役場で、三枚の報告書を机に並べた。


「何がでしょう」


 地方官が尋ねる。


「去年、橋を補強した」


「はい」


「除雪隊も増やした」


「はい」


「中継所の書類も減らした」


「はい」


「なのに荷物が遅い」


「……はい」


「なぜだ」


「冬ですので」


「去年も冬だったぞ」


「帝国北部ですので」


「去年も帝国北部だったぞ」


 地方官が黙った。


 アレクシアは腕を組む。


「私を馬鹿だと思っているか?」


「滅相もございません!」


「なら、冬を二回説明に使うな」


 ◇


 帝国の物流改革は、概ね順調だった。


 橋。


 道路。


 郵便。


 倉庫。


 雪。


 税。


 以前なら問題が起きるたび、「増やせ」「建てろ」「兵を出せ」で済ませていたところを、今はまず詰まっている場所を見る。


 クラリスに散々やられた結果である。


『増やす前に、今あるものがなぜ動いていないのか見てください』


 あの声が時々、頭の中で勝手に再生される。


「……腹が立つな」


「何か?」


「独り言だ」


 ◇


 ガルド街道の輸送時間。


 春、平均二・四日。


 夏、二・三日。


 秋、二・五日。


 冬。


 三・九日。


 雪のせいなら分かる。


 ところが区間別に見ると、妙だった。


「ここだ」


 アレクシアが地図を叩く。


 ガルド宿から北へ二十三キロ。


 山間部。


 《白樺峠》


「除雪状況は?」


「良好です」


「道路損傷」


「軽微」


「橋」


「問題ありません」


「馬車事故」


「今年二件。いずれも軽傷です」


「なのに、この区間だけ平均九時間遅れる」


「はい」


「何がある?」


 地方官は少し考えてから答えた。


「……山です」


「帰るぞ」


「お待ちください!」


 ◇


 商人を呼んだ。


 三人。


 全員。


 最初は同じことを言った。


「雪です」


「道が悪くて」


「冬ですから」


 アレクシアは一人ずつ顔を見た。


「除雪記録では、お前たちが通った日は積雪六センチだ」


「山では天気が」


「前後の馬車は定刻で通っている」


「……」


「荷物は?」


「布です」


「遅れた理由は?」


「……」


 商人。


 黙る。


 アレクシアは槍を持っていない。


 それでも、なぜか相手は槍を向けられたような顔をした。


「怒らん」


「本当ですか」


「内容による」


「それ、怒る人の言い方です」


「早く言え」


 ◇


「通行料です」


「街道税か?」


「違います」


「では?」


 商人が小さく言った。


「山賊です」


 ◇


 部屋。


 静かになる。


「いつから」


「半年ほど前から」


「なぜ報告しない」


「殺されてはいません」


「質問の答えになっていない」


「荷物も全部は取られません」


「全部でなければいいのか?」


「一台につき銀貨二枚です」


 アレクシアの眉が動いた。


「定額?」


「はい」


「山賊が?」


「はい」


「領収書は?」


「出ません」


「そこではないでしょう」


 地方官が思わず言った。


「分かっている!」


 ◇


 詳しく聞く。


 白樺峠。


 山賊。


 十数人。


 馬車。


 止める。


 銀貨二枚。


 払えば。


 通す。


 抵抗。


 しなければ。


 荷。


 取らない。


 人。


 傷つけない。


 女。


 子ども。


 乗っていても。


 同じ。


「妙に規律正しいな」


「はい」


「払わなければ?」


「荷物を一部取られます」


「護衛がいたら?」


「避けます」


「軍用馬車」


「出ません」


 アレクシアは椅子にもたれた。


「完全に商売になっているではないか」


 ◇


 なぜ報告しなかった。


 理由。


 聞けば。


 もっと。


 腹が立つ。


「軍に届ければ、大ごとになります」


「山賊は大ごとだ」


「討伐隊が来ます」


「来るだろうな」


「街道が封鎖されます」


「……」


「調査。捜索。戦闘。場合によっては数週間」


 商人。


 言う。


「銀貨二枚払った方が早いんです」


 ◇


 アレクシアは何も言わなかった。


 なるほど。


 だから数字に出ない。


 盗難。


 ほぼゼロ。


 死者。


 ゼロ。


 重大事故。


 ゼロ。


 街道。


 通行可能。


 表向き。


 正常。


 ただし。


 商人たちは山賊に銀貨二枚を払い、見つからないよう脇道へ誘導され、そこで十分から一時間ほど止められる。


 馬車。


 列。


 できる。


 結果。


 平均九時間。


 遅れる。


「九時間は長すぎません?」


 地方官。


「一台ならな」


 アレクシア。


 地図を見る。


「順番待ちだ」


「山賊に?」


「山賊に」


 地方官が頭を抱えた。


「我が帝国は、山賊の料金所に渋滞させられていたのですか」


「そういうことだ」


 ◇


 討伐。


 簡単。


 兵。


 五十。


 出す。


 山。


 囲む。


 終わり。


 以前のアレクシアなら、その日の午後には出発していた。


「兵を――」


 言いかけて。


 止まる。


 商人。


 見る。


「山賊がいなくなれば、困ることはあるか?」


「はい?」


「何でもいい」


「山賊がいなくなって困る?」


 商人三人。


 顔。


 見合わせる。


 一人。


 言った。


「……雪崩」


「何だ?」


「知らせてくれます」


 ◇


 話。


 変わった。


 白樺峠。


 冬。


 危険。


 雪崩。


 落石。


 倒木。


 山賊。


 山。


 知る。


 危険。


 あれば。


 馬車。


 止める。


 迂回。


 させる。


「銀貨二枚で?」


「はい」


「……」


「あと」


「まだあるのか」


「車輪が壊れた時、直してくれたことが」


「山賊が?」


「はい」


「銀貨二枚で?」


「追加料金でした」


「そこは取るのか!」


 ◇


 別の商人。


「薬師もいます」


「山賊に?」


「たぶん」


「怪我をした御者を診てもらいました」


「料金は?」


「銀貨一枚」


「医療費まで明朗会計だな!」


 地方官が完全に混乱している。


 ◇


 アレクシア。


 考える。


 山賊。


 犯罪。


 間違いない。


 街道。


 勝手。


 料金。


 取る。


 許せない。


 ただ。


 彼ら。


 何者。


 なのか。


「調べる」


「討伐ではなく?」


「まず見る」


 ◇


 翌朝。


 アレクシア。


 普通の旅装。


 槍。


 布。


 巻く。


 兵。


 四人。


 離して。


 歩かせる。


 商人。


 一台。


 借りる。


「皇女殿下自ら囮になる必要がありますか?」


 副官。


 聞く。


「私が行けば早い」


「そういうところは変わっておられませんね」


「何がだ」


「いえ」


 ◇


 白樺峠。


 雪。


 白い。


 空。


 青い。


 寒い。


「肉は?」


 アレクシア。


 聞く。


「何の話です?」


「昼飯」


「まだ朝です」


「準備の話だ」


「干し肉があります」


「よし」


 ◇


 二時間。


 何も。


 ない。


 三時間。


 ない。


「出ないな」


「皇女殿下の顔が知られているのでは?」


「変装した」


「髪を帽子に入れただけですが」


「十分だろう」


「十分ではありません」


 ◇


 四時間目。


 道。


 前。


 木。


 倒れている。


 御者。


 止まる。


「来ます」


 森。


 人影。


 六。


 七。


 十。


 弓。


 持つ。


 男。


 女。


 混じる。


「悪いな」


 先頭。


 三十代。


 男。


 言う。


「通行料だ」


「いくらだ」


「銀貨二枚」


「高い」


「半年変えてねえ」


「物価は上がっているぞ」


「良心的だろ」


「山賊が価格安定を誇るな」


 ◇


 男。


 アレクシア。


 見る。


「……あんた」


「何だ」


「どっかで」


 帽子。


 風。


 飛ぶ。


 金髪。


 出る。


「……」


「……」


「皇女?」


「そうだ」


「散れ!」


 ◇


 速い。


 山賊。


 逃げる。


「待て!」


「待つ山賊がいるか!」


「正論を言うな!」


 ◇


 森。


 走る。


 アレクシア。


 追う。


 副官。


「殿下!」


「先頭だけ捕る!」


「兵を待ってください!」


「待ったら逃げる!」


「だから討伐隊を!」


「うるさい!」


 ◇


 男。


 速い。


 山。


 慣れる。


 斜面。


 上がる。


 アレクシア。


 槍。


 布。


 外す。


 投げる。


 穂先。


 男。


 横。


 木。


 突き刺さる。


 ドン。


「うおっ!」


「止まれ」


「殺す気か!」


「外した」


「木が半分割れてるぞ!」


「外した」


「わざとだよな!?」


「当然だ」


 ◇


 男。


 剣。


 抜く。


「なら!」


 踏み込む。


 速い。


 悪くない。


 アレクシア。


 槍。


 回す。


 剣。


 弾く。


 石突き。


 腹。


 寸前。


 止める。


「ぐっ」


「終わりだ」


「まだだ!」


 蹴り。


 来る。


 避ける。


 槍。


 払う。


 足。


 崩す。


 男。


 雪。


 転ぶ。


「冷てえ!」


「知らん!」


 ◇


 その時。


 上。


 音。


 する。


 ゴ。


 低い。


 男。


 顔。


 変わる。


「伏せろ!」


「何?」


「雪だ!」


 ◇


 男。


 アレクシア。


 腕。


 引く。


 直後。


 斜面。


 雪。


 崩れる。


 大量。


 ではない。


 小規模。


 それでも。


 人。


 埋める。


 十分。


 男。


 横。


 飛ぶ。


 アレクシア。


 槍。


 雪。


 突き。


 身体。


 支える。


 白。


 視界。


 覆う。


 ◇


 数秒。


 静か。


「……」


 アレクシア。


 雪。


 払う。


「貴様」


「何だよ」


「今、私を助けたな」


「見りゃ分かるだろ」


「山賊が?」


「死なれたら帝国軍が山ごと焼きかねん」


「焼かん!」


「お前ならやりそうだ!」


「誰から聞いた!」


 ◇


 捕縛。


 した。


 ただし。


 すぐ。


 連行。


 しない。


「案内しろ」


「どこへ」


「お前たちの根城」


「嫌だ」


「選べ。案内するか、ここで帝国軍を呼ぶか」


「脅迫だろ」


「皇女のお願いだ」


「もっと悪い!」


 ◇


 山。


 奥。


 根城。


 洞窟。


 ではない。


 集落。


 だった。


 古い。


 伐採小屋。


 十数棟。


 子ども。


 いる。


 老人。


 いる。


 女。


 いる。


 怪我人。


 いる。


「……山賊?」


 アレクシア。


 聞く。


 男。


「そう呼ばれてる」


 ◇


 事情。


 聞く。


 三年前。


 北西部。


 鉱山。


 閉鎖。


 鉄鉱石。


 枯れた。


 鉱山町。


 人口。


 八百。


 仕事。


 消えた。


 国。


 移住。


 支援。


 した。


 でも。


 全員。


 乗れない。


 山仕事。


 しか。


 知らない。


 人。


 残る。


 伐採。


 猟。


 炭。


 街道。


 仕事。


 探す。


 しかし。


 冬季道路管理。


 国。


 業者。


 契約。


 入札。


 必要。


 資格。


 必要。


 保証金。


 必要。


「俺たちは何も持ってなかった」


 男。


 言う。


「山なら知ってた」


 ◇


 最初。


 倒木。


 どかす。


 商人。


 礼。


 銀貨。


 置く。


 次。


 雪崩。


 教える。


 また。


 礼。


 そのうち。


 待つ。


 ようになる。


 さらに。


 取る。


 ようになる。


 そして。


「半年ほど前から?」


「ああ」


「銀貨二枚」


「一枚じゃ足りなくなった」


「何に?」


 男。


 集落。


 見る。


「食うのに」


 ◇


「だから山賊になった?」


「そうだ」


「美談にする気はないぞ」


「してねえよ」


「通行料は犯罪だ」


「分かってる」


「剣も向けた」


「払わねえ奴がいるからな」


「なお悪い」


「そうだな」


 男。


 認める。


 ◇


 アレクシア。


 腹。


 立つ。


 こういう。


 案件。


 嫌い。


 悪い。


 こと。


 している。


 理由。


 ある。


 だから。


 許す。


 では。


 法。


 壊れる。


 全員。


 事情。


 言えば。


 何でも。


 できる。


 でも。


 捕まえて。


 終わり。


 でも。


 半年後。


 別。


 山賊。


 出る。


「……クラリスなら」


 呟く。


「何て言うかな」


 男。


「誰だ?」


「面倒な女だ」


「お前が言うのか」


「貴様、牢を一つ増やすぞ」


 ◇


 その夜。


 集落。


 泊まる。


「殿下」


 副官。


「本気ですか」


「何が」


「山賊の家に」


「逃げたら?」


「兵を置いてあります」


「ならいい」


「毒を盛られたら?」


 アレクシア。


 鍋。


 見る。


「先に頭領が食った」


「それで安全確認を?」


「合理的だ」


「脳筋の毒見ですね」


「何か言ったか」


「いいえ」


 ◇


 鍋。


 鹿肉。


 根菜。


 豆。


 うまい。


「肉」


 アレクシア。


 言う。


「ありますね」


 副官。


「ご機嫌にならないでください」


 ◇


 翌朝。


 集落。


 調べる。


 人数。


 七十三。


 うち。


 実際。


 通行料。


 徴収。


 関与。


 十七。


 武器。


 持って。


 脅した。


 十一。


 直接。


 荷物。


 奪った。


 六。


「全員同罪にはしない」


 アレクシア。


 言う。


「だが、なかったことにもせん」


 頭領。


 頷く。


「分かった」


「十七人は出頭」


「ああ」


「刑は裁判所が決める」


「ああ」


「その上で」


 地図。


 出す。


「残った者」


「……」


「冬季街道管理の仕事をする気はあるか?」


 ◇


 頭領。


 アレクシア。


 見る。


「犯罪者を雇うのか」


「私は雇わん」


「は?」


「帝国が契約する」


「同じだろ」


「違う」


 アレクシア。


 言う。


「皇女の気まぐれで雇えば、私がいなくなったら終わる」


 ◇


 制度。


 変える。


 冬季道路管理。


 入札。


 大規模業者。


 前提。


 だった。


 それを。


 区間。


 分割。


 地域。


 小規模。


 団体。


 参加。


 可能。


 保証金。


 現金。


 だけ。


 ではなく。


 作業実績。


 共同保証。


 認める。


 山岳技能。


 評価。


 項目。


 入れる。


「優遇では?」


 地方官。


 聞く。


「違う」


「しかし彼らのために」


「彼らだけが応募できる条件にするな」


「では?」


「同じ技能を持つ者なら誰でも入れる」


 ◇


「犯罪者には?」


「刑を受けさせる」


「仕事は?」


「刑を終えた後、条件を満たせば応募できる」


「厳しくありません?」


 副官。


「甘くしてどうする」


「事情が」


「事情は刑を考える材料だ」


 アレクシア。


 言う。


「無罪にする魔法ではない」


 ◇


 そして。


 山賊。


 料金所。


 撤去。


 正式。


 冬季。


 監視所。


 作る。


 料金。


 商人。


 直接。


 取らない。


 帝国。


 予算。


 払う。


「銀貨二枚は?」


「廃止だ」


 商人。


 喜ぶ。


「無料!」


「税金から出ている」


「……」


「無料ではない」


「皇女殿下、クラリス様みたいなこと言うようになりましたね」


「誰がだ!」


 ◇


 三か月後。


 ガルド街道。


 冬。


 平均輸送時間。


 三・九日。


 から。


 二・八日。


 雪崩。


 事前通行止め。


 四回。


 死者。


 ゼロ。


 倒木。


 処理。


 平均。


 二時間。


 から。


 四十七分。


「良いですね」


 地方官。


「うむ」


「では、成功事例として《アレクシア式山岳物流改革》を」


「やめろ」


「まだ何も言ってません!」


「言った!」


「途中です!」


「私の名前を付けようとしただろ!」


 ◇


 アレクシア。


 最近。


 リリア。


 話。


 聞いた。


 名前。


 勝手。


 使われる。


「制度に人の名前を付けるな」


「しかし分かりやすく」


「私が間違えたら制度まで間違いになる」


「では名称は?」


 アレクシア。


 考える。


「冬季地域道路管理制度」


「地味ですね」


「道路管理に華やかさが要るか?」


「ありません」


「ならいい」


 ◇


 ただ。


 一つ。


 問題。


 出る。


 元山賊。


 山。


 詳しい。


 評判。


 広がる。


 他地域。


 真似。


 する。


 中には。


 こんな。


 奴。


 出る。


「山賊になれば、後で仕事がもらえる」


 アレクシア。


 報告。


 読む。


「……」


 副官。


「どうします?」


「馬鹿か」


「誰が?」


「そいつらだ!」


 ◇


 すぐ。


 制度。


 修正。


 犯罪。


 経験。


 採用。


 条件。


 しない。


 当然。


 元々。


 山仕事。


 していた。


 人。


 地域住民。


 猟師。


 林業。


 炭焼き。


 鉱山。


 経験者。


 広く。


 対象。


 むしろ。


 犯罪歴。


 なく。


 技能。


 ある。


 人。


 優先。


「最初からそうすれば?」


 副官。


「最初は見えてなかった!」


「認めるんですね」


「間違えたら直せばいいと」


 アレクシア。


 言う。


「聖女が言っていた」


 ◇


 少し。


 止まる。


「便利だな」


「何が?」


「間違えたら直せばいい」


「はい」


「だが」


 アレクシア。


 窓。


 見る。


「槍は」


「はい?」


「刺した後、直せん時がある」


 ◇


 副官。


 黙る。


 アレクシア。


 自分。


 手。


 見る。


 戦。


 知る。


 人。


 死ぬ。


 判断。


 一瞬。


 戻らない。


 だから。


 制度。


 試せる。


 こと。


 少し。


 羨ましい。


「まあ」


 立つ。


「だから制度くらい、直せるうちに直せばいい」


 ◇


 昼。


 食堂。


 肉。


 山盛り。


 副官。


 見る。


「野菜は?」


「ある」


「どこに?」


 アレクシア。


 肉。


 横。


 小さな。


 豆。


 指す。


「これだ」


「それ、付け合わせです」


「野菜だ」


「リリア様に報告します」


「卑怯者!」


 ◇


 そこへ。


 使者。


 入る。


「皇女殿下」


「何だ」


「王国より、クラリス様から」


「手紙?」


「いえ」


 箱。


 大きい。


「何だこれは」


「トルネ村の串焼きだそうです」


 アレクシア。


 立つ。


「何本?」


「三十」


「クラリス!」


 嬉しそう。


「分かっているではないか!」


 副官。


「リリア様にも送られているそうです」


「何本?」


「十本」


「勝った!」


「何の勝負です?」


 ◇


 手紙。


 一枚。


 入る。


 《三十本は部下の皆さんと食べてください。》


「……」


 アレクシア。


 止まる。


「殿下?」


「二十本くらいなら」


「全員で食べます」


「十五」


「全員で」


「十二」


「全員で」


「貴様、山賊より容赦がないな!」


 ◇


 夕方。


 串。


 焼き直す。


 兵。


 役人。


 御者。


 除雪隊。


 一緒。


 食べる。


 アレクシア。


 結局。


 三本。


「美味いな」


「はい」


「何が名物なんだ?」


「特に名物ではないそうです」


「こんなに美味いのに?」


「村の人が食べる普通の串だと」


「……」


 アレクシア。


 少し。


 笑う。


「それでいいか」


 ◇


 夜。


 執務室。


 今日。


 報告。


 最後。


 一枚。


 山賊。


 頭領。


 裁判。


 判決。


 出る。


 強盗未遂。


 恐喝。


 道路妨害。


 情状。


 考慮。


 刑。


 二年。


「二年か」


 副官。


「はい」


「長いと思うか?」


「殿下は?」


「分からん」


 ◇


 正しい。


 刑。


 何年。


 なのか。


 数字。


 一つ。


 決められない。


 被害。


 ある。


 事情。


 ある。


 助けた。


 人。


 いる。


 脅した。


 人。


 いる。


「裁判官の仕事だ」


「はい」


「私が全部決める必要はない」


 副官。


 少し。


 笑う。


「それも成長ですか?」


「殴るぞ」


「戻ってますね」


 ◇


 同じ頃。


 光秩院。


 リリア。


 届いた。


 串。


 見る。


「十本」


「はい」


「四人しかいないのに」


「アレクシア様の十二キロよりは」


「基準がおかしくなってます」


 一本。


 食べる。


「……美味しい」


 もう一本。


 見る。


「比較?」


 ルーメン。


「まだ何も言ってません!」


 ◇


 窓。


 外。


 夜。


 平和。


 リリア。


 串。


 食べながら。


 アレクシア。


 報告。


 読む。


 元山賊。


 仕事。


 制度。


 失敗。


 修正。


 刑。


「間違えたら直す」


 小さく。


 言う。


「でも」


 アレクシア。


 言葉。


 添えてある。


 《槍は刺した後、直せん時がある。》


 リリア。


 串。


 止まる。


 ◇


 夢。


 思い出す。


 子ども。


 言った。


 《死んじゃった人は、どうやって直すの?》


 答え。


 ない。


 間違い。


 全部。


 直せる。


 わけではない。


 だから。


 間違えないよう。


 考える。


 でも。


 間違えたくない。


 から。


 誰か。


 正しい人。


 任せる。


 それも。


 違う。


「難しいなあ」


 リリア。


 呟く。


「何がです?」


「人間」


 ルーメン。


 少し。


 考える。


「今さらですね」


「本当に」


 ◇


 そして。


 その頃。


 光秩院。


 資料室。


 《慈光環・第二観測記録》。


 若い聖職者から。


 上司。


 渡る。


 上司。


 読む。


 顔。


 変わる。


「これは」


 封。


 確認。


 古い。


 本物。


 その中。


 最後。


 まだ。


 誰も。


 リリアへ。


 伝えていない。


 一節。


 ある。


 《慈光環は、使用者一人にのみ作用するとは限らない。》


 次。


 《長く光に晒された共同体は、使用者の“慈悲”を規範として学習する。》


 さらに。


 《やがて環を外しても、共同体は同じ判断を再生する。》


 ◇


 上司。


 窓。


 外。


 見る。


 街。


 静か。


 安全。


 清潔。


 救済。


 行き届く。


 人々。


 最高導師。


 尊敬。


 する。


 そして。


 彼女。


 何も。


 言っていないのに。


 既に。


 各地。


 こう。


 言う。


 《聖女様なら、きっとこうする。》


 ◇


 慈光環は。


 地下で。


 眠っている。


 リリアも。


 触れていない。


 それでも。


 もし。


 記録。


 正しい。


 なら。


 問題。


 聖具。


 封印。


 だけ。


 では。


 終わらない。


 なぜなら。


 光はもう。


 銀の環の中ではなく。


 人と人との間に、移り始めているのだから。

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