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悪女令嬢は、断罪式のあとで領収書を切る  作者: 海空
第五章 聖女様は、正しすぎる
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95/119

第89話 最高導師は、隣国のパンまで数えない

 影響人口。


 二十七万。


 数字は、一枚の紙に収まった。


 人間は、収まらない。


 北方三州。


 今年。


 春。


 長雨。


 夏。


 低温。


 秋。


 早霜。


 麦。


 平年比。


 五十八パーセント。


 豆。


 六十四。


 芋。


 七十一。


 家畜。


 飼料不足。


 既に。


 冬前。


 売却。


 始まる。


「現在の備蓄は?」


 リリア。


 聞く。


「通常消費で、約三か月半」


「冬は?」


「五か月以上続きます」


「配給を絞れば?」


「四か月半」


「一か月」


「はい」


 足りない。


 ◇


 机。


 地図。


 広げる。


 北。


 山。


 西。


 海。


 東。


 隣国。


 ヴァレリア王国。


 人口。


 百六十万。


 穀倉地帯。


 今年。


 豊作。


 推定余剰。


 十分。


「売ってもらえない?」


「輸出禁止令が出ています」


「いつ?」


「二か月前です」


「理由は?」


「国内備蓄の確保」


「今年、豊作なのに?」


「昨年が凶作でした」


 ◇


 資料。


 読む。


 ヴァレリア。


 前年。


 大雪。


 物流。


 停止。


 食料価格。


 三倍。


 都市。


 暴動。


 死者。


 百二十一。


 栄養失調。


 多数。


 今年。


 豊作。


 だから。


 政府。


 決めた。


 国外。


 売らない。


 備える。


 国民。


 支持。


 高い。


「……」


 リリア。


 紙。


 置く。


「正しいですね」


「はい」


 ルーメン。


 答える。


「少なくとも、ヴァレリア政府から見れば」


「去年、人が死んでる」


「はい」


「今年の麦を残したい」


「当然でしょう」


 ◇


 会議。


 光秩院。


 財務。


 農政。


 外交。


 医療。


 救済。


 集まる。


「輸出禁止解除を要求しましょう」


 外交官。


「要求?」


「人道的見地から」


「向こうも人道的見地です」


「しかし現実にこちらは不足しています」


「向こうは去年不足した」


「今年は余っています」


「来年は?」


「……」


 誰も。


 答えられない。


 ◇


「輸出禁止を破らせれば」


 リリア。


 言う。


「ヴァレリアの人たちは、政府にこう思います」


 少し。


 考える。


「去年、私たちが苦しんだのに。また他国を優先するのか、って」


「はい」


「それ」


「私たちが決めていいことじゃない」


 ◇


 別。


 案。


「高値を提示します」


「いくら?」


「市場価格の二倍」


「駄目です」


「なぜ?」


「出てきます」


「何が?」


「麦が」


「それが目的では?」


「違います」


 リリア。


 首。


 振る。


「二倍で買ったら、ヴァレリア国内の商人が売りたくなる」


「当然です」


「国内価格が上がる」


「……」


「お金のある私たちが、向こうの人のパンを買い取ることになる」


 ◇


 沈黙。


「じゃあ」


 農政官。


「どうするんです?」


「分かりません」


 最高導師。


 即答。


 会議。


 少し。


 空気。


 緩む。


「分からないので」


 リリア。


「まず、こちら側でできることを全部出してください」


 ◇


 倉庫。


 再点検。


 する。


 公的備蓄。


 民間備蓄。


 教会。


 修道院。


 軍。


 商人。


 学校。


 救済院。


 数字。


 集める。


 すると。


 少し。


 出る。


「四千二百トン?」


「はい」


「どこから?」


「各地に分散していた非常備蓄です」


「使える?」


「全部は無理です」


「なぜ?」


「災害用です」


「今は?」


 担当官。


 黙る。


「……災害です」


「ですよね」


 ◇


 ただし。


 全部。


 北へ。


 送れば。


 南。


 西。


 東。


 災害。


 起きた時。


 ない。


「何割?」


「三割なら」


「理由は?」


「各地域の最低備蓄を維持できます」


「じゃあ三割」


「四割なら?」


「リリア様」


「聞いただけです」


 ◇


 三割。


 移送。


 決定。


 次。


 廃棄。


「廃棄?」


「都市部で、パンや野菜など」


「どのくらい?」


 数字。


 出る。


 リリア。


 顔。


 変わる。


「こんなに?」


「流通上、どうしても」


「北で足りないのに?」


「運べば費用が」


「費用?」


 声。


 少し。


 強くなる。


 ルーメン。


 見る。


 リリア。


 気づく。


「……ごめんなさい。続きを」


 ◇


 腐る。


 もの。


 ある。


 輸送。


 時間。


 かかる。


 全部。


 回収。


 非効率。


 だから。


 保存。


 できる。


 もの。


 限定。


 パン。


 乾燥。


 ラスク。


 野菜。


 塩漬け。


 豆。


 乾燥。


 加工。


 都市。


 職人。


 協力。


「強制?」


「いいえ」


 リリア。


「買い取ります」


「寄付を募れば?」


「寄付したい人は寄付で。でも最初から善意を予算に入れないでください」


 ◇


 次。


 家畜。


 北。


 冬。


 飼料。


 足りない。


 大量。


 死ぬ。


 なら。


 冬前。


 一部。


 食肉。


 加工。


 保存。


 頭数。


 減らす。


「農家が嫌がります」


「当然です」


 家畜。


 資産。


 家族。


 種。


 来年。


 再建。


 必要。


「買い取り保証」


「予算が」


「出してください」


「最高導師府だけでは」


「財務院と議会へ」


「時間が」


「緊急権限なら」


 言って。


 リリア。


 止まる。


 ◇


 最高導師。


 緊急権限。


 ある。


 就任。


 すぐ。


 自分。


 制限。


 した。


 一定額。


 超える。


 複数承認。


 必要。


 今回。


 超える。


「議会を待てば」


「最短で十二日」


「十二日」


「はい」


 北。


 もう。


 配給。


 減る。


 十二日。


 長い。


 ◇


 頭。


 奥。


 微か。


 声。


 ――救える。


 リリア。


 目。


 閉じる。


「最高導師?」


「……大丈夫です」


 ◇


「緊急枠の上限までは、今日使います」


「残りは?」


「議会へ」


「間に合わない可能性が」


「分かっています」


 声。


 また。


 する。


 ――救える。


 リリア。


 拳。


 握る。


「でも」


 自分。


 言う。


「私が自分で作った制限を、最初の大きな危機で破ったら」


 誰も。


 何も。


 言わない。


「次の最高導師も」


 続ける。


「《前の人もやった》って言えます」


 ◇


 だから。


 破らない。


 ただし。


 待たない。


「議会を今日招集してください」


「今日!?」


「はい」


「地方議員が」


「遠隔魔術通信」


「設備が」


「軍の通信網を借ります」


「軍が嫌がります」


「お願いしてください」


「断られたら?」


「私がお願いしに行きます」


「それは脅しになりません?」


「……」


 リリア。


 止まる。


「ルーメン」


「はい」


「最近そういうところ上手くなりましたね」


「お仕えして長いので」


「嫌な成長」


 ◇


 軍。


 承諾。


 した。


 議会。


 夜。


 緊急招集。


 北方食糧対策。


 予算。


 提出。


 議員。


 反対。


 当然。


 いる。


「金額が大きすぎる!」


「はい」


「南部で災害が起きたらどうする!」


「その通りです」


「家畜の買い取りまで国がするのか!」


「必要だと思っています」


「一度やれば、次も求められる!」


「それもあります」


 リリア。


 全部。


 受ける。


 ◇


「では」


 議員。


 苛立つ。


「最高導師は何を削る?」


 リリア。


「光秩院の今年度建設事業」


 会場。


 ざわ。


「新中央礼拝堂」


「それは!」


「延期」


「最高導師就任記念事業ですよ!」


「だから?」


「……」


「なくても誰も死にません」


 ◇


 さらに。


 式典。


 削る。


 装飾。


 削る。


 地方施設。


 ただし。


 医療。


 削らない。


 教育。


 削らない。


 水。


 削らない。


「救済予算だけ守る?」


「いいえ」


「では基準は?」


「止めた時」


 リリア。


「誰の生活が、どれくらい壊れるか」


 ◇


 深夜。


 可決。


 全会一致。


 ではない。


 賛成。


 百八十二。


 反対。


 五十一。


 棄権。


 十七。


 リリア。


 数字。


 見る。


「よかった」


 ルーメン。


「何がです?」


「反対が五十一」


「そこ?」


「はい」


「普通、可決を喜びません?」


「もちろん喜んでます」


 ◇


 翌朝。


 北へ。


 輸送。


 始まる。


 でも。


 足りない。


 計算。


 し直す。


 不足。


 縮む。


 しかし。


 まだ。


 大きい。


「二十七万人全員が飢えるわけではありません」


 医療官。


「分かっています」


「死亡予測も幅があります」


「どのくらい?」


 低位。


 数百。


 中位。


 二千。


 最悪。


 七千以上。


 数字。


 幅。


 大きい。


 未来。


 分からない。


 ◇


 リリア。


 数字。


 見る。


 二千。


 頭。


 勝手。


 人。


 変える。


 ナナ。


 眼帯。


 ミナ。


 赤い靴。


 孤児院。


 子ども。


 老人。


 診療所。


 薄いスープ。


 名前。


 知らない。


 二千人。


 ――救える。


「……」


 リリア。


 立つ。


「ヴァレリアへ行きます」


 ◇


「交渉団を送ります」


 外交官。


「私も行きます」


「最高導師自ら?」


「駄目?」


「政治的圧力になります」


 リリア。


 止まる。


「……なりますね」


「はい」


「じゃあ」


 考える。


「最初は行きません」


 ◇


 交渉団。


 送る。


 要求。


 ではない。


 相談。


 輸出禁止そのものの撤廃は求めない。


 ヴァレリア国内の安全備蓄量を共同で算定する。


 その基準を超えた分だけ購入を協議する。


 市場価格をつり上げない。


 国内向け価格と同等を基本にする。


 来年度、聖協国側が豊作なら優先供給契約を結ぶ。


「相互備蓄?」


「はい」


「今年助けてもらって」


「来年は、こちらが助けるかもしれない」


 ◇


 返事。


 三日。


 後。


 拒否。


 理由。


 簡潔。


 《昨年の飢饉を経験した我が国民に、国外供給への理解を得ることは困難である。》


 リリア。


 読む。


「……そうですよね」


 怒らない。


 ◇


 光秩院。


 一部。


 苛立つ。


「人道危機です!」


「向こうにも事情があります」


「余剰があるのに!」


「余剰かどうかを決めるのは向こうです」


「しかし死者が!」


「分かってます!」


 リリア。


 声。


 響く。


 会議。


 静か。


「……」


 自分。


 驚く。


「ごめんなさい」


 ◇


 夜。


 眠れない。


 慈光環。


 地下。


 ある。


 触らない。


 でも。


 声。


 する。


 ――救える。


「分かってる」


 暗い。


 部屋。


 リリア。


 一人。


「分かってるよ」


 ◇


 翌朝。


 新しい。


 報告。


 北部。


 十一歳。


 少年。


 栄養失調。


 死亡。


 食糧不足。


 直接。


 原因。


 とは。


 断定。


 できない。


 元々。


 病気。


 あった。


 でも。


 リリア。


 名前。


 読む。


 オットー・ライネル。


 十一歳。


「……」


 紙。


 置く。


 ◇


「ヴァレリアへ行きます」


 もう一度。


 言う。


 外交官。


 止める。


「圧力になります」


「はい」


「最高導師が行けば、向こうは断りにくくなる」


「はい」


「それでも?」


 リリア。


 長く。


 黙る。


「行きます」


 ◇


 初めて。


 だった。


 相手。


 断りにくくなる。


 分かって。


 自分の肩書き。


 使う。


 それでも。


 行く。


「理由を、記録してください」


「何と?」


「最高導師本人が行くことで、外交上の圧力が生じる可能性を認識している」


「……そこまで?」


「書いてください」


 そして。


 もう一つ。


「交渉が終わったら、ヴァレリア側に」


「はい」


「私が来たことで、不当に圧力を感じたか聞いてください」


「本人を前に?」


「私はいないところで」


 ◇


 ヴァレリア王国。


 首都。


 雪。


 降る。


 国王。


 エドガー四世。


 五十四歳。


 痩せた。


 男。


 冷たい。


 人。


 ではない。


 去年。


 飢饉。


 自ら。


 配給所。


 回った。


 暴動。


 止めるため。


 兵。


 出す。


 拒否。


 した。


 国民。


 人気。


 高い。


「最高導師殿」


「突然すみません」


「本当に突然だ」


「はい」


「外交官だけで済ませてほしかった」


「はい」


 リリア。


 頭。


 下げる。


「その通りだと思います」


 ◇


「なら、なぜ来た」


「こちらで」


 リリア。


 言う。


「人が死に始めたからです」


 国王。


 顔。


 変わらない。


「我が国でも去年死んだ」


「読みました」


「百二十一人」


「はい」


「数字ではない」


「はい」


「私の知っている者もいた」


「……はい」


「今年」


 国王。


 机。


 叩かない。


 静か。


「ようやく倉庫が満ちた」


「はい」


「民は安心している」


「はい」


「それを」


 リリア。


 見る。


「お前たちは、出せと言う」


 ◇


「出してください」


 リリア。


 答える。


 国王。


 目。


 細く。


「だが」


「はい」


「全部とは言いません」


「当然だ」


「ヴァレリアの人が、今年と来年を安心して暮らせる量」


「誰が決める」


「ヴァレリアが」


 国王。


 少し。


 止まる。


「こちらではないのか」


「はい」


「余剰の計算を押しつけない?」


「しません」


「では我が国が《余剰はゼロだ》と言えば?」


 リリア。


 息。


 吸う。


「帰ります」


 ◇


 国王。


 意外。


 顔。


「帰る?」


「はい」


「北方で人が死んでも?」


 リリア。


 胸。


 痛い。


 声。


 する。


 ――救える。


 でも。


「はい」


 答える。


「あなたの国の倉庫を、私のものにはできません」


 ◇


「なら何をしに来た」


「聞きに」


「何を」


「去年」


 リリア。


「何が一番困ったんですか?」


 ◇


 国王。


 沈黙。


「食糧不足だ」


「その中で」


「……輸送」


 地図。


 出る。


 北部。


 雪。


 道路。


 止まる。


 倉庫。


 南。


 穀倉。


 ある。


 でも。


 北。


 届かない。


「食糧自体は?」


「国全体では、最後まで完全には尽きなかった」


 リリア。


 顔。


 上げる。


「じゃあ」


「何だ」


「今年の不安は」


「また届かなくなること?」


 ◇


 国王。


 黙る。


 調べる。


 ヴァレリア。


 備蓄。


 多い。


 ただ。


 偏っている。


 南部。


 巨大倉庫。


 北部。


 少ない。


 国民。


 求めている。


 総量。


 ではなく。


 届く安心。


「道路」


 リリア。


 言う。


「こちらで手伝えます」


「は?」


「除雪」


「……」


「光秩院に、寒冷地救済隊があります」


「それで麦を買う?」


「違います」


「交換条件だろ」


「違います」


「では」


「去年困ったことを減らします」


「麦を出さなくても?」


 リリア。


 少し。


 笑う。


「はい」


 ◇


「なぜ」


「来年」


 リリア。


「私たちが豊作で、ヴァレリアが凶作かもしれないから」


 国王。


 黙る。


「その時」


 リリア。


「私たちの道が雪で止まっていたら、困るでしょう?」


「……」


「だから」


 地図。


 指。


「道を一緒に直しませんか」


 ◇


 交渉。


 三日。


 続く。


 麦。


 話。


 あまり。


 しない。


 道路。


 倉庫。


 分散。


 冬季輸送。


 共同。


 備蓄。


 互い。


 災害。


 時。


 融通。


 契約。


 作る。


 そして。


 三日目。


 ヴァレリア。


 農政大臣。


 言う。


「今年」


「はい」


「南部備蓄の一部」


 リリア。


 顔。


 上げる。


「安全備蓄を再計算した」


「はい」


「十二万トン」


「……」


「国外供給可能と判断する」


 ◇


 リリア。


 すぐ。


 喜ばない。


「国民へ説明できますか?」


「する」


「反対は?」


「出る」


「大丈夫?」


 国王。


 少し。


 笑う。


「それを決めるのは我々だ」


 リリア。


 止まる。


 そして。


 頭。


 下げる。


「はい」


 ◇


 十二万トン。


 全部。


 聖協国。


 買わない。


 周辺。


 不足地域。


 含める。


 価格。


 国内価格。


 基準。


 輸送。


 共同。


 費用。


 分担。


 翌年。


 相互扶助。


 協定。


 締結。


 ◇


 北方。


 麦。


 届く。


 袋。


 降ろす。


 人。


 並ぶ。


 パン。


 焼く。


 スープ。


 少し。


 濃くなる。


 冬。


 越える。


 死亡。


 予測。


 大きく。


 下回る。


 ◇


 新聞。


 見出し。


 踊る。


 《最高導師リリア、十二万トンの奇跡》


「違う」


 リリア。


 新聞。


 机。


 置く。


「何が?」


 ルーメン。


「道路の話したら、向こうが出してくれた」


「それを外交交渉と言います」


「でも奇跡じゃない」


「はい」


「ヴァレリアが出した」


「はい」


「農政大臣が計算した」


「はい」


「農家が作った」


「はい」


「運んだ人もいる」


「はい」


「私の十二万トンじゃない」


「訂正要求します?」


「してください」


 ◇


 支持率。


 上がる。


 九十三パーセント。


「……」


 リリア。


 数字。


 見る。


「嫌そうですね」


「嫌ではないです」


「では?」


「怖い」


 ◇


 ヴァレリア。


 交渉後。


 聞き取り。


 届く。


 《最高導師本人の訪問に、圧力を感じたか。》


 国王。


 回答。


 《感じた。》


 リリア。


 読む。


 手。


 止まる。


 次。


 《ただし、圧力を感じたことと、合意内容に納得していることは両立する。》


 さらに。


 《次回は外交官を先に寄越せ。最高導師は最後に来い。》


 リリア。


 少し。


 笑う。


「怒られました」


「よかったですね」


「はい」


 ◇


 ノート。


 開く。


 書く。


 《正しい目的でも、自分の立場は圧力になる。》


 《相手が納得した結果と、納得するまでの過程は別に監査する。》


 《助けてもらったことを、自分の功績にしない。》


 そして。


 少し。


 考える。


 もう一つ。


 《隣国のパンまで、自分の救済対象だと思わない。》


 ◇


 その夜。


 久しぶり。


 よく。


 眠れた。


 声。


 しない。


 ――救える。


 聞こえない。


 たぶん。


 正しい。


 選択。


 できた。


 そう。


 思った。


 ◇


 王国。


 クラリス。


 報告。


 読む。


「十二万トン」


「すごいですね」


 ルシアン。


「ええ」


「リリア様、やりましたね」


「はい」


 クラリス。


 笑う。


 本当に。


 嬉しい。


「とても良い交渉です」


 ◇


 ヨル。


 足元。


 寝る。


「わふ……」


 クラリス。


 撫でる。


 そして。


 新聞。


 別。


 記事。


 見る。


 《最高導師が動けば、国境すら開く。》


 クラリス。


 指。


 止まる。


「……」


「どうしました?」


「いえ」


 記事。


 畳む。


「リリア様は、まだ大丈夫です」


「まだ?」


「はい」


 ◇


 問題。


 リリア。


 ではない。


 成功。


 する。


 こと。


 だった。


 児童診査。


 成功。


 感染症隔離。


 成功。


 食糧危機。


 成功。


 権力制限。


 成功。


 反対票。


 守る。


 制度。


 作る。


 全部。


 うまく。


 いく。


 だから。


 周囲。


 学ぶ。


 《迷ったら、最高導師に任せればいい。》


 本人。


 そんなこと。


 一度も。


 言っていない。


 それでも。


 ◇


 光秩院。


 地方支部。


 小さな。


 会議。


 水路。


 改修。


 二案。


 ある。


 住民。


 割れる。


「最高導師様なら、どちらを選ばれるでしょう」


 一人。


 言う。


「おそらく、こちらでは?」


「では、それで」


 誰も。


 リリア。


 聞いていない。


 本人。


 知らない。


 でも。


 決まる。


 ◇


 別。


 町。


 学校。


 給食。


 肉。


 減らす。


 野菜。


 増やす。


 理由。


 健康。


 予算。


「最高導師様も、子どもの健康を大事にしておられる」


 校長。


 言う。


「では」


 決まる。


 リリア。


 知らない。


 ◇


 別。


 救済院。


 夜間。


 外出。


 制限。


「安全のためです」


「最高導師様も、命を守ることを最優先にされている」


 決まる。


 本人。


 知らない。


 ◇


 その頃。


 リリア。


 食堂。


 パン。


 食べる。


「今日のスープ濃い!」


「北方支援が落ち着きましたので」


「よかった」


 笑う。


 何も。


 知らない。


 ◇


 慈光環。


 封印。


 されたまま。


 触れていない。


 声。


 聞こえない。


 なのに。


 彼女の慈悲は。


 もう。


 彼女の中だけに。


 なかった。


 「聖女様なら、こうする。」


 それが。


 各地。


 小さな。


 判断。


 変え始める。


 そして。


 正しさが。


 本当に怖くなるのは。


 正しい人が命令した時ではない。


 その人が何も言わなくても、周りが先に正しくなろうとした時だった。

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