第79話 悪女令嬢は、温泉に二泊する
「クラリス様。確認なんですけど」
「何でしょう」
「視察ですよね?」
「もちろんです」
「どうして着替えが三日分あるんです?」
「二泊するからです」
「どうして二泊?」
「一泊では比較できません」
ルシアンは馬車の向かい側で、しばらくクラリスを見つめた。
「何と何を?」
「一日目と二日目を」
「その理屈、強すぎません?」
「調査ですから」
隣ではヨルが窓から鼻先を出していた。
山へ入ってから、空気が変わっている。
湿った森の匂い。
川。
硫黄。
そして、どこかの宿から漂ってくる焼き魚。
「わふ」
「まだです」
「わふ」
「宿に着いてから」
「わふ」
「クラリス様」
「はい?」
「ヨルとは普通に会話成立するんですね」
「長い付き合いですので」
セバスが御者台から淡々と付け加えた。
「なお、ヨル様のお荷物にも三日分の干し肉が入っております」
「クラリス様」
「非常食です」
「絶対違う」
◇
王国西部、温泉町アルネ。
人口、およそ四千二百。
山間を流れるアルネ川に沿って、大小二十三軒の宿が並ぶ。
歴史は古い。
百八十年ほど前、猟師が傷ついた鹿の入る湯だまりを見つけたのが始まりだという。
王都から馬車で二日。
ラゼルからなら半日。
湯量は豊富。
泉質も評判がいい。
川魚、山菜、茸、鹿肉。
秋には紅葉。
冬には雪。
観光地としての材料は揃っていた。
そして資料によれば、この五年間でアルネを訪れた観光客は三割増えている。
にもかかわらず。
旅館の売上は、平均一割減。
廃業した宿、四軒。
土産物店、三軒閉店。
若者の町外流出も止まっていない。
「またですね」
ルシアンが資料をめくった。
「何がです?」
「数字だけ見ると、よく分からない町」
「だから来たのです」
「温泉があるからでは?」
「それもあります」
「認めた!」
クラリスは窓の外を見た。
「仕事と楽しみを分けすぎるから、人生は疲れるのです」
「急に人生論で押し切った!」
◇
宿は《山灯屋》。
三階建ての古い木造旅館だった。
玄関を入ると、磨かれた床。大きな柱。囲炉裏。
派手ではない。
だが、手入れされている。
「いらっしゃいませ」
女将のサーラは五十八歳。
小柄だが、声がよく通った。
「王都からお話は伺っております。地域振興の調査だとか」
「お世話になります」
「二泊?」
「はい」
「珍しいねえ」
サーラが笑った。
クラリスの耳が動いた。
「珍しい?」
「今のお客さんは一泊が多いからね。いや、一泊ならまだいい方か」
「どういうことです?」
「日帰りさ」
◇
部屋へ案内される途中、クラリスは廊下の窓から川沿いを見た。
人はいる。
かなりいる。
橋の上で景色を見る者。
饅頭を食べる者。
共同浴場へ向かう者。
馬車も多い。
「賑わっていますね」
「昼間はね」
サーラはそう言った。
「夜になると、見てみな」
その言葉を、クラリスは帳面の端に書いた。
◇
「まず何をします?」
部屋へ荷物を置くなり、ルシアンが聞いた。
「温泉です」
「即答!」
「長旅の疲労が判断力を鈍らせます」
「それっぽい!」
「事実です」
「その後は?」
「町を歩きます」
「ちゃんと仕事するんだ……」
「何だと思っているのです?」
「半分くらい湯治」
「失礼ですね」
クラリスは浴衣代わりの宿着を手に取った。
「三割です」
「あるんだ!」
◇
問題はヨルだった。
山灯屋には小さな貸切露天風呂があり、宿の裏庭には昔から猟犬などを洗うための湯場も残っていた。
サーラが笑う。
「その子なら裏の湯場を使っていいよ」
「ヨル、温泉です」
「……」
ヨル。
一歩下がる。
「入りません?」
「……わふ」
「嫌?」
ヨルはさらに一歩下がった。
「巨大な魔獣と戦う黒曜餓狼が、お湯は嫌なんですか?」
「わふ!」
「怒った」
結局。
セバスとルシアンまで動員された。
「ヨル、逃げないでください!」
「わふ!」
「ルシアン様、そちらを!」
「僕、魔術使っていいです!?」
「駄目です。宿を壊します」
「戦闘より大変なんですけど!」
十分後。
ヨルは湯に入っていた。
耳。
ぺたん。
顔。
不満。
「気持ちいいでしょう?」
「……」
「ヨル?」
「……わふ」
五分後。
顎が湯船の縁に乗った。
十分後。
目が細くなった。
二十分後。
「ヨル、出ますよ」
「……」
「ヨル?」
「……わふ」
「今度は出ない!」
サーラが腹を抱えて笑っていた。
◇
午後。
クラリスたちは町を歩いた。
観光客は多かった。
共同浴場。
足湯。
土産物屋。
食べ歩き。
橋のたもとには《アルネ温泉へようこそ》という新しい案内板がある。
五年前、王国の観光振興事業に採択された。
広告費。
街道沿いの案内板。
日帰り客向け共同浴場の改修。
ラゼルからの乗合馬車への補助。
結果。
来訪者数は増えた。
「成功してますね」
ルシアンが言った。
「来訪者を増やす、という目的なら」
「でも旅館は儲かってない」
「はい」
クラリスは饅頭屋へ入った。
「いらっしゃい!」
「一つください」
「クラリス様、食べ歩きですか?」
「価格調査です」
「もういいです、その万能語」
一口。
温かい。
中には甘い豆餡。
「……おいしい」
「完全に観光客の顔してます」
「ルシアン様も?」
「食べます」
「調査ですね」
「調査です」
二人。
少しだけ。
悪い顔をした。
◇
饅頭屋の主人に聞く。
「お客さん、増えました?」
「増えた増えた。ありがたいよ」
「売上も?」
「うちはね」
「旅館は?」
「ああ……」
主人の声が少し落ちた。
「泊まらねえんだよ」
朝、ラゼルを出る。
昼前にアルネへ着く。
共同浴場に入る。
饅頭を食べる。
土産を買う。
夕方の馬車でラゼルへ戻る。
「一人が町で使う金は?」
「昔より減ったんじゃないかね。宿代と夕飯がないから」
観光客数。
増加。
一人当たり消費。
減少。
なるほど。
だが、それだけでもない気がした。
◇
次に入ったのは土産物屋だった。
棚には木彫りの鹿。
温泉石鹸。
山葡萄の菓子。
薬草茶。
クラリスは石鹸を手に取った。
「これはアルネで?」
「いや、王都だよ」
「こちらの菓子は?」
「ラゼルの工房」
「木彫りは?」
「北部の工房」
「アルネのものは?」
店主が棚の端を指した。
「薬草茶くらいかな」
「……」
ルシアンも気づいた。
「観光客がお金を使っても、町の外へ出ていく?」
「一部は、ですね」
土産屋が悪いわけではない。
安定して仕入れられる商品を売っているだけだ。
だが、観光客が増えたという数字だけでは、その金がどこへ流れるかまでは見えない。
クラリスは薬草茶を一袋買った。
「これは?」
「私物です」
「今日は素直!」
◇
夕方。
六時。
サーラの言った意味が分かった。
町から。
人が消えた。
共同浴場が閉まり始める。
乗合馬車が出る。
昼間あれほど賑わっていた橋の上には、ほとんど誰もいない。
土産物屋も戸を閉める。
川沿いの灯籠だけが、ぽつぽつと灯った。
「……静かですね」
ルシアンが言った。
「ですね」
「悪くはないですけど」
「ええ」
むしろ。
美しい。
川音。
湯煙。
灯籠。
山。
夜風。
昼よりずっと、この町らしい。
「もったいないですね」
クラリスが呟いた。
「何が?」
「一番いい時間に、誰もいません」
◇
夕食。
川魚の塩焼き。
茸と鶏肉の鍋。
山菜。
豆腐。
小さな器に入った鹿肉の煮込み。
ルシアンが黙った。
「どうしました?」
「おいしいです」
「そうですね」
「日帰り客」
「これ食べずに帰ってるんですよね?」
「そうなりますね」
「もったいない」
「でしょう?」
ヨルは鹿肉を見つめている。
「これは私のです」
「わふ」
「駄目です」
「わふ」
「……一口だけ」
「クラリス様」
「何です?」
「リリア様がいたら怒りますよ」
「なぜ?」
「ヨルだけ甘やかすから」
「リリア様も相当甘やかしていましたよ」
「それはそう」
セバスが鹿肉を別皿に取り分けた。
「味付け前のものを女将よりいただいております」
「セバス!」
「わふ!」
「最強の味方いた!」
◇
食後。
クラリスは女将に帳簿を見せてもらった。
宿泊客。
五年前より二十二パーセント減。
食事のみの利用も減。
燃料費は上昇。
人件費も上昇。
「客室を減らしたんですか?」
「働く人がいなくてね」
「求人は?」
「出してるよ」
「給金は?」
「昔より上げた」
「それでも?」
「若い子が来ない」
クラリスは、ラゼルのパン屋の息子を思い出した。
「勤務時間は?」
「朝六時から、夜十時くらい」
「……長いですね」
「旅館だからねえ」
サーラは苦笑した。
「朝飯出して、部屋片づけて、昼の客を見て、夕飯出して、風呂を見て。昔は家族総出でやった」
「今は?」
「娘は王都。息子はラゼル。帰ってこいとは言えないよ」
「なぜ?」
「この働き方を継げって言うことになるから」
クラリスは黙った。
まただ。
客が足りない。
だけではない。
◇
「もし宿泊客が倍になったら?」
クラリスが聞いた。
サーラは即答した。
「困る」
ルシアンが顔を上げた。
「え?」
「回せないよ。今でも満室の日は大変なんだから」
「でも町は、宿泊客を増やしたいと」
「町はね」
「女将さんは?」
「売上は欲しい。でも客室全部埋めたいわけじゃない」
「……」
「変かい?」
「いいえ」
クラリスは少し笑った。
「むしろ、今日一番参考になりました」
◇
翌朝。
朝食の後。
「クラリス様」
「はい」
「今日、何します?」
「もう一度温泉に入ります」
「調査?」
「昨日との比較です」
「本当に言った!」
しかし、その後はきちんと働いた。
宿の従業員。
共同浴場の番台。
土産物屋。
川魚を卸す漁師。
薬草農家。
乗合馬車の御者。
町役場。
そして、観光客にも話を聞いた。
「どうして泊まらないんです?」
若い夫婦。
「宿が高いから」
「泊まりたいとは?」
「泊まりたいですよ。でも子ども二人いるし」
別の老夫婦。
「昔は泊まったよ。今は日帰りで十分」
若い女性三人組。
「夜って何かあるんですか?」
「何か?」
「お店とか」
「……」
「夕方には閉まるって聞いたので」
これは痛かった。
泊まらないから夜の店がない。
夜の店がないから泊まらない。
また、輪になっている。
◇
昼過ぎ。
町役場で観光振興会議が開かれた。
町長。
旅館組合。
商店。
共同浴場。
交通業者。
農家。
クラリスは最初に聞いた。
「目標は何です?」
観光担当官が答える。
「来訪者数を、三年間でさらに二割増加させます」
「なぜ?」
「……観光振興ですので」
「来訪者が増えれば、町は豊かになりますか?」
「それは当然――」
言いかけて。
止まる。
クラリスが机に数字を並べた。
来訪者。
三割増。
宿泊者。
二割減。
平均滞在時間。
短縮。
一人当たり推定消費額。
減少。
町内産品比率。
低い。
旅館従業員。
減少。
「人は増えています」
クラリスは言った。
「でも、町に残るお金と時間が減っています」
誰も口を開かなかった。
「ですから、観光客を増やすこと自体を目標にするのを、一度やめませんか?」
観光担当官が困惑する。
「では、何を目標に?」
「それを今日、決めるのです」
◇
旅館組合からは、宿泊客を増やしたいという声。
だが、サーラが言った。
「ただ増やすのは無理だよ。人手がない」
商店側からは、夜まで客が残ってほしい。
しかし、夜まで店を開ける人手がない。
農家は、もっと地元食材を旅館に使ってほしい。
旅館側は、毎日安定して納品できないと困る。
交通業者は、最終便を遅くすれば宿泊客がさらに減る可能性があると言った。
「難しいですね」
ルシアンが小声で言う。
「町ですから」
「もっと綺麗な答えがあると思ってました」
「そんなものがあれば、私たちは呼ばれていません」
◇
そこで、一人の若い旅館従業員が手を挙げた。
「泊まる人を増やすんじゃなくて」
全員が見る。
「泊まりたい人が、泊まりやすくするのは?」
「どう違う?」
「今の宿って、全部夕食と朝食付きが基本ですよね」
「ああ」
「食事なしなら、もう少し安くできません?」
旅館組合がざわついた。
「それじゃ料理の売上が」
「でも今、その人たちゼロですよ。日帰りで帰ってるから」
クラリスは口を挟まなかった。
続けさせる。
「食事なしの客が町で食べれば、夜の店にも客が出るかもしれない。逆に、料理を食べたい人には今までどおり出す」
サーラが腕を組む。
「部屋だけなら、夕食の人手は減らせるね」
別の宿主。
「朝食も町のパン屋と組めば?」
パン屋。
「朝ならできる」
薬草農家。
「うちの茶も置けるぞ」
川魚屋。
「夕方に焼き魚売るか?」
「酒も欲しいな」
「お前が飲みたいだけだろ」
笑い。
また。
小さなものが。
繋がり始める。
◇
「クラリス様」
観光担当官が聞いた。
「これが正解でしょうか?」
クラリスは首を振った。
「分かりません」
「分からない?」
「やってみないと」
「ですが、王国へ提出する計画書には――」
「《試行》と書けばいいでしょう」
「そんなので?」
「最初から成功すると書くから、失敗を隠したくなるのです」
クラリスは黒板に書いた。
三か月。
食事なし宿泊。
町内夕食券。
地元産品の朝市。
夜八時まで開ける店は、毎日ではなく曜日交代。
宿と農家の共同仕入れ。
最終的に見る数字は。
来訪者数だけではない。
宿泊率。
平均滞在時間。
町内消費。
地元商品の販売額。
従業員の労働時間。
そして。
「最後の一つは?」
担当官が聞く。
「続けたいと思う人の数です」
「数字にできます?」
「簡単な聞き取りでいいです」
「そんな曖昧なものを?」
「人が嫌になったら終わる事業ですから」
◇
二泊目。
クラリスは再び露天風呂にいた。
山の向こうへ日が落ちる。
川音。
湯煙。
「……」
極楽。
いや。
調査。
あくまで。
調査である。
隣の仕切りの向こうから、ルシアンの声がした。
「クラリス様ー」
「何です?」
「これ、本当に二泊必要でしたー?」
「必要でした」
「どのへんがー?」
「二日目の方が肩まで浸かる時間が長いことが分かりました」
「完全に湯治じゃないですか!」
裏庭。
「わふぅ……」
ヨルも、湯に溶けていた。
昨日あれほど嫌がった黒曜餓狼。
今日は自分から入った。
セバスが湯の温度を確認している。
「ヨル様。そろそろ」
「……」
「お上がりに」
「……わふ」
「拒否されました」
「セバスでも駄目なんだ!」
◇
三日目の朝。
出発前。
サーラがクラリスに小さな包みを渡した。
「薬草茶。持っていきな」
「お代を」
「いらないよ」
「払います」
「世話になったから」
「では、調査協力のお礼として私から宿代を余計に――」
「面倒くさい客だねえ!」
結局。
普通に買った。
「クラリス様らしいですね」
ルシアンが笑う。
「ただでもらうと、次に来た時に客として来づらくなります」
「次も来る気なんです?」
「事後監査が必要です」
「温泉に入りたいだけでは?」
「三か月後です」
「もう予定入れてる!」
◇
馬車がアルネを出る。
クラリスは帳面を開いた。
今回。
書いたのは三行。
《人を呼ぶことと、町を豊かにすることは同じではない。》
《客に長くいてほしいなら、そこで暮らす人も長く働ける町にする。》
そして。
最後。
少し考えて。
《観光とは、暮らしを見世物にすることではない。暮らしの一部を、客と分け合うこと。》
「クラリス様」
「はい」
「いいこと書いてるところ悪いんですけど」
「何です?」
「ヨル、乗ってません」
「え?」
馬車。
止まる。
◇
山灯屋。
裏庭。
湯煙。
黒い耳。
ぷか。
「……わふぅ」
「ヨル!!」
黒曜餓狼。
まさかの。
温泉延長。
セバスが無言で迎えに戻った。
◇
同じ日の午後。
遠く離れた聖協国では、リリアが南部共同井戸の反対意見を読んでいた。
工事を止めれば、金貨百二十枚の損失。
だが、住民が井戸の位置を嫌がった理由は単純だった。
「ここ、お墓なんですか?」
「正確には、昔の共同墓地跡です」
「計画書には?」
「《未利用地》と」
リリアの眉が下がった。
「未利用……」
土地は使われていない。
建物もない。
所有者もいない。
だから地図では。
空白。
けれど。
村人にとっては違った。
「位置を変えましょう」
リリアは言った。
「百二十枚、失いますが」
「はい」
「評議会から理由を求められます」
「説明します」
「聖女様の判断として?」
リリアは少し考えた。
「いいえ」
首を振る。
「村の人たちの判断です」
職員が書類を書き直す。
その時。
別の役人が小声で言った。
「でも、聖女様がそうおっしゃった、と書いた方が早く通りますよ」
リリアの手が止まった。
「……早く?」
「はい。今の聖女様のお名前なら、財務側も強くは言いません」
ほんの一瞬。
十一人の子どもが頭をよぎった。
あの時も。
自分の名前を使った。
薬が届いた。
全員。
助かった。
「……」
でも。
リリアは首を振った。
「今回は、やめましょう」
「なぜです?」
「私が言ったから動く制度にしたくないので」
「承知しました」
職員は素直に下がった。
リリアは、まだ。
自分で止められた。
◇
その夜。
最高評議会。
別室。
共同井戸の変更申請が回ってきた。
「金貨百二十枚の損失か」
「ですが、リリア様が現地住民の意向を尊重すべきと」
「聖女様が?」
「はい」
「なら、通そう」
書類。
承認。
リリアの知らないところで。
理由が一つ。
省略された。
《村人が望んだから》
ではなく。
《聖女様が望んだから》
結果は。
同じだった。
墓地は守られた。
村人も喜んだ。
誰も傷つかなかった。
だから。
誰も。
その省略を。
問題だとは思わなかった。
◇
一方。
王国へ戻る馬車。
湯上がりのヨルが、クラリスの足元で爆睡していた。
「クラリス様」
「はい」
「次の町は?」
セバスが依頼書を確認する。
「農村地域でございます」
「問題は?」
「若者の流出と、特産品の価格低迷」
クラリスは窓の外を見る。
葡萄畑。
麦畑。
遠く。
小さな村。
「では今度は」
帳面を閉じた。
「売れないものを、高く売る方法でも考えましょうか」
ヨル。
寝たまま。
「……わふ」
「食べ物とは限りませんよ」
片耳だけ。
ぴくり。
動いた。
地方商業コンサル編。
次の帳簿は。
畑の中にあった。




