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悪女令嬢は、断罪式のあとで領収書を切る  作者: 海空
第一章 断罪式のあとで、王宮を精算する
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5/22

第4話 悪評の出どころを辿りました

 噂には、足がある。


 王宮では昔から、そう言われている。


 誰が言い出したか分からない。

 どこから歩いてきたかも分からない。

 気づけば廊下を渡り、階段を上り、厨房に入り、侍女部屋を抜け、夜会の扇の陰までたどり着いている。


 けれどクラリスは、少し違うと思っていた。


 噂に足はない。


 足があるのは、人間だ。


 噂は勝手に歩かない。

 誰かが運ぶ。

 誰かが少し温める。

 誰かが言いやすい形に畳む。

 誰かが、聞きたがっている人の前へ差し出す。


 つまり噂とは、感情の配達物である。


 そして、配達物である以上、経路がある。


「お嬢様、本当にこちらから始めますか」


 老執事セバスが、小会議室の扉の前で言った。


 第三回目の確認会。


 王宮東棟の小会議室には、今日も細長い机が置かれている。

 王妃エレノア、王太子レオンハルト、聖女候補リリア、会計院長、監査官ユリウス。


 そして、クラリス。


 本来であれば、今日は王宮慈善基金の使途確認から始める予定だった。


 だが、クラリスは順番を変えた。


「慈善基金は逃げません」


「お金は、逃げる者の影に隠れることがございます」


「ええ。だから先に影を見ます」


 クラリスは資料を抱え直した。


 表紙には、こう記されている。


『クラリス・フォン・アルベルティーナ嬢に関する悪評流通記録』


 セバスは、わずかに眉を上げた。


「なかなか、趣のある表題でございます」


「悪趣味かしら」


「いえ。王宮らしいです」


 その言い方が、いちばん悪趣味だった。


 クラリスは小さく笑い、扉を開けた。


 部屋の空気は、最初から重かった。


 レオンハルトは明らかに苛立っている。

 リリアは前回渡された資料の写しを抱えていた。目元は赤いが、今日は泣いていない。

 王妃はいつものように美しく、いつものように何を考えているか分からない。


 会計院長だけが、資料の表紙を見るなり、口元を歪めた。


「今日は金ではなく、噂かね」


「はい」


 クラリスは席についた。


「王宮慈善基金の確認に入る前に、私が『悪女』と呼ばれるに至った経緯を整理いたします」


 レオンハルトが鼻で笑った。


「そんなもの、今さら何の意味がある」


「意味はございます」


 クラリスは、資料を開いた。


「悪評によって発言の信用を落とされた者が、金銭や手続きの不正を指摘しても、『あの悪女がまた誰かを陥れようとしている』と受け取られるからです」


 会計院長が、低く唸った。


「なるほど。証言能力の毀損か」


「はい」


 クラリスは頷いた。


「帳簿を読む前に、帳簿を読む者の人格を潰しておく。よくある手法です」


 王妃の扇が、静かに止まった。


 レオンハルトが机を叩く。


「君は、王宮が組織的に君を貶めたと言いたいのか」


「いいえ」


「ならば何だ」


「王宮は、組織的に貶めるほど勤勉ではありません」


 会計院長が、危うく茶を吹きかけた。


 ユリウスは、今回は最初から下を向いている。


 王妃だけが、表情を変えなかった。


「ただし」


 クラリスは続けた。


「怠慢な場所では、悪評が育ちやすくなります。誰も止めないからです」


 リリアが小さく息をのんだ。


 クラリスは、第一項目を読み上げる。


「悪評一。『クラリス嬢は侍女に冷酷である』」


 レオンハルトが言った。


「それは有名な話だ。君は侍女たちにも恐れられていた」


「はい。恐れられていたと思います」


 クラリスはあっさり認めた。


 レオンハルトは、勝ち誇ったように顔を上げる。


「ほら見ろ」


「ただし、理由が違います」


「理由?」


「当時、王宮侍女の勤務表には、実在しない休憩時間が記されておりました」


 会計院長の目が鋭くなる。


「実在しない休憩時間?」


「はい。帳簿上は昼食休憩一刻。しかし実際には、夜会準備や王族衣装の確認に追われ、休憩できない侍女が多くいました。にもかかわらず、勤務表上は休憩済みとして処理されていた」


 クラリスは別紙を出した。


「私はそれを修正するよう侍女長に申し入れました」


「それがなぜ、冷酷という話になる」


 会計院長が尋ねる。


「休憩時間を正しく記録すると、人員不足が明らかになります。すると、侍女長の管理責任が問われます」


 クラリスは、淡々と言った。


「その後、侍女部屋でこういう話が広まりました。『クラリス様は、休憩時間まで細かく監視なさる』と」


 リリアが、はっと顔を上げた。


「それ、私……聞いたことがあります」


 レオンハルトがリリアを見る。


「リリア?」


 リリアは資料を抱えたまま、小さく言った。


「王宮に来てすぐ、侍女の方が言っていました。クラリス様は休憩にも口を出すから気をつけて、と」


 クラリスは、彼女を見た。


「その侍女の名は覚えていますか」


「たしか……エマさん、だったと思います」


 ユリウスが、すぐに手元の名簿を確認した。


「エマ・ローレン。東棟付き侍女。現在は王妃付きの衣装管理補佐です」


 王妃の扇が、ほんの少し動いた。


 クラリスは続ける。


「エマは、当時侍女長の姪でした」


 部屋が静まる。


「つまり、管理責任を問われる側の身内が噂を流した、ということかね」


 会計院長が言う。


「断定はいたしません」


 クラリスは言った。


「ただ、最初に確認できる発言者です」


「十分だ」


 会計院長は低く呟いた。


 レオンハルトは眉をひそめた。


「だとしても、君が冷たいことに変わりはない」


「殿下」


 クラリスは王太子を見た。


「休憩を記録することは、冷たいことですか」


「それは……」


「記録しなければ、侍女たちは休めませんでした」


 レオンハルトは黙った。


 リリアも黙った。


 クラリスは頁をめくる。


「悪評二。『クラリス嬢はリリア様のドレスをわざと地味にした』」


 リリアの肩が跳ねた。


 レオンハルトがすぐに顔を上げる。


「それは本当だろう。リリアが初めて王宮の茶会に出た日、君は彼女に白いドレスを着せなかった」


「はい」


「認めるのか」


「認めます」


 クラリスは、あまりにも静かに答えた。


「ただし、理由がございます」


 リリアは、不安そうにクラリスを見ていた。


 クラリスは、資料の中から一枚の布見本を取り出す。


 淡いクリーム色の絹。


「リリア様。あの日、あなたの体調は万全ではありませんでした」


「え……」


「王宮医師の診断書が残っております。軽い貧血、日光による眩暈、長時間立位を避けること」


 リリアの顔に、記憶が戻ってくる。


「あ……はい。少し、ふらついて」


「当初予定されていた白絹のドレスは、胸元に銀糸刺繍が多く、重さがありました。加えて、その日の茶会は庭園で行われ、白地に銀糸は日光を反射します」


 クラリスは布見本を机に置いた。


「そのため、侍女と衣装係に相談し、軽いクリーム色のドレスへ変更しました」


 リリアは小さく呟いた。


「たしかに、あの日……途中で座らせてもらって、楽でした」


 レオンハルトが困惑する。


「だが、君はリリアを目立たせたくなかったのだろう」


「目立たせたくなかったのなら、茶会の席順を下座にします」


 クラリスは即答した。


「実際には、リリア様は王妃陛下に近い席におりました」


 会計院長が、資料を覗く。


「席次表も残っているな」


「はい」


 クラリスはレオンハルトを見た。


「殿下。私はリリア様を地味にしたのではありません。倒れないようにしたのです」


 リリアの目が揺れた。


 彼女は唇を噛み、俯いた。


「私……あの日、殿下に言いました。クラリス様が、私には白が似合わないって思ったのかもって」


 レオンハルトが言葉を失う。


「でも、それは……私が勝手に」


「はい」


 クラリスは静かに言った。


「あなたが勝手に不安になり、殿下が勝手に怒り、それを侍女たちが勝手に物語にしました」


 リリアの肩が震えた。


「そして私は、勝手に悪女になりました」


 その言葉は、部屋の空気を少しだけ冷たくした。


 責める声ではなかった。


 事実を置く声だった。


「ごめんなさい……」


 リリアが小さく言った。


 レオンハルトが驚く。


「リリア、君が謝る必要はない」


 リリアは首を横に振った。


「でも、言いました。私、たしかに言いました」


 クラリスは、彼女を見た。


 この少女は、泣くだけではないらしい。


 そう思った。


 遅いかもしれない。

 足りないかもしれない。

 それでも、自分の発言を自分のものとして持とうとしている。


 それは、王太子よりずっと勇気がある。


「謝罪は受け取ります」


 クラリスは言った。


「ですが、次からは不安を噂にする前に、本人へ確認してください」


「はい……」


「白が似合うかどうかは、鏡が決めることです。悪女ではありません」


 ユリウスが、また肩を震わせた。


 会計院長が低く言う。


「監査官」


「申し訳ございません」


 クラリスは、第三項目へ進む。


「悪評三。『クラリス嬢は慈善事業を嫌っている』」


 王妃の表情が、そこで初めてわずかに動いた。


 慈善基金。


 次に開く予定だった資料と、直接つながる悪評だった。


「これは、特に広く流通しておりました」


 クラリスは言う。


「理由は、私が王宮主催の慈善事業において、支出明細の提出を求め続けたためです」


 王妃が、静かに口を開く。


「慈善事業には、迅速さも必要です」


「はい」


「いちいち明細を求めていては、救える者も救えません」


「その通りです」


 クラリスは頷いた。


 王妃の目が細くなる。


「では」


「ですので私は、事前承認額を設けるよう提案しました」


 クラリスは別紙を出す。


「一定額までは現場判断で支出可能。後日、簡易報告書を提出。それ以上の支出には、目的、支出先、責任者を記録する。これなら迅速さと透明性を両立できます」


 会計院長が、その書類を手に取った。


「……これは、よくできている」


「提出しましたが、採用されませんでした」


「誰に」


 会計院長の声が低くなる。


 クラリスは、一瞬だけ王妃を見た。


「王妃陛下主催慈善委員会へ」


 王妃は、扇を開いた。


「記憶にありません」


「はい」


 クラリスは答えた。


「提出から三日後、委員会書記より『クラリス嬢は善意を帳簿で縛ろうとしている』という言葉が出ました」


 会計院長が、目を細める。


「書記の名は」


「マルティナ・ヴェルシュ」


 ユリウスが名簿を確認する。


「王妃陛下主催慈善委員会、第一書記。現在も在籍しています」


 王妃の扇が、そこで止まった。


 レオンハルトが不満げに言う。


「善意を帳簿で縛る。間違ってはいないだろう」


 クラリスは、王太子を見た。


「殿下。帳簿は善意を縛るものではありません」


「では何だ」


「善意の行き先を迷子にしないための地図です」


 その言葉に、リリアが顔を上げた。


 前回の砂糖菓子の件を思い出したのかもしれない。


 黒パン。

 干し果物。

 消えかけた孤児院の朝食。


 善意は、美しい。


 だが、善意という名の馬車に地図を持たせなければ、目的地ではなく、目立つ広場に着いてしまう。


「慈善を嫌っていたのではありません」


 クラリスは言った。


「慈善の名で、誰かが帳簿を見なくなることを恐れていました」


 王妃は黙っている。


 会計院長は、深く息を吐いた。


「次回の慈善基金確認は、荒れそうだな」


「はい」


 クラリスは静かに答えた。


「花瓶が割れない部屋に変更した方がよいかもしれません」


 ユリウスが、また下を向いた。


 会計院長は、今度は注意しなかった。


 レオンハルトが苛立った声を上げる。


「結局、君は自分が正しかったと言いたいだけだ」


「いいえ」


「では何だ」


「私は、間違っていた部分も確認したいのです」


 部屋が静まった。


 リリアが、意外そうにクラリスを見る。


 クラリスは、資料の最後の頁を開いた。


「悪評四。『クラリス嬢は誰にも心を開かない』」


 レオンハルトが、少しだけ気まずそうな顔をした。


 それは、彼自身が何度も口にした言葉だったからだろう。


「これは、半分は事実です」


 クラリスは言った。


 会計院長が眉を上げる。


「半分?」


「はい。私は、誰にでも心を開く性格ではございません」


 セバスが、後ろで小さく頷いた。


「ただし、心を開かなかったのではなく、開く場所を間違えないようにしておりました」


 クラリスは、ほんの少しだけ遠くを見た。


 十年間。


 王太子の婚約者として、彼の隣に立った。


 隣国の使節には笑顔を向けた。

 貴族夫人には礼を尽くした。

 侍女には指示を出した。

 文官には締切を伝えた。

 会計院には資料を届けた。


 正しくあろうとした。


 けれど、正しさだけで人は温まらない。


 それも、分かっていた。


 分かっていて、できなかったことがある。


「私が近寄りがたい令嬢であったことは、否定いたしません」


 クラリスは言った。


「その点で、誰かを不安にさせたなら、私にも至らない部分がございました」


 リリアが、目を見開いた。


 レオンハルトも驚いている。


 王妃だけが、静かにクラリスを見ていた。


「ですが」


 クラリスは続けた。


「近寄りがたいことと、罪があることは別です」


 その声は、静かだった。


「笑わないことは、罪ではありません。泣かないことも、罪ではありません。愛想が薄いことも、証拠なく断罪される理由にはなりません」


 部屋の空気が、少し変わった。


 リリアが資料を抱え直す。


「私……クラリス様のこと、怖い人だと思っていました」


「はい」


「でも、怖い人だと思ったことと、本当に悪い人だと決めることは……違ったのかもしれません」


 クラリスは、ほんの少しだけ目を細めた。


「その違いが分かるなら、リリア様はまだ大丈夫です」


 リリアの目に、また涙が浮かぶ。


 けれど今度の涙は、誰かを動かすためのものではないように見えた。


 自分の中に置き場を探している涙だった。


 レオンハルトは、不満そうにリリアを見る。


「君まで、クラリスの言葉に惑わされるのか」


「殿下」


 リリアは小さく言った。


「私、少し考えたいです」


「何を」


「自分が聞いた話と、自分が見たものが、同じだったのか」


 レオンハルトは、言葉を失った。


 クラリスは、その様子を見ていた。


 王太子は、リリアを守っているつもりなのだろう。


 だが実際には、彼女を自分の物語の中に閉じ込めようとしている。


 健気で、可哀想で、自分を愛してくれる聖女。


 その役からリリアが一歩でも外れると、彼は途端に不安になる。


 真実の愛とは、相手を自分の筋書きに置くことではない。


 少なくとも、クラリスはそう思う。


 経験者ではないが。


 いや。


 一応、婚約者ではあった。


 書類上は。


「本日の確認は以上です」


 クラリスは資料を閉じた。


 会計院長が頷く。


「悪評の初期流通経路は、侍女部屋、衣装係、慈善委員会書記室。この三つか」


「はい」


「見事に、次回の慈善基金と繋がっているな」


「偶然ではないと思います」


 クラリスは言った。


「お金が濁る場所では、たいてい言葉も濁ります」


 王妃エレノアが、そこで初めてはっきりとクラリスの名を呼んだ。


「クラリス」


「はい」


「あなたは、どこまで見るつもりです」


 部屋の空気が止まる。


 クラリスは、王妃を見た。


 美しい人だった。


 国を守るために、何人もの感情を棚に上げてきた人。

 クラリスの有能さを知りながら、便利に使った人。

 王太子を愛しながら、その未熟さを直視しきれなかった人。


 敵ではない。


 だが、越えなければならない壁だった。


「帳簿の端までです」


 クラリスは答えた。


「その先に誰の名前があっても?」


「はい」


 王妃の扇が、ゆっくり閉じた。


「悪女ですね」


 その言葉に、レオンハルトが顔を上げた。


 だがクラリスは、もう傷つかなかった。


「はい」


 彼女は静かに微笑んだ。


「ですので、噂ではなく記録で参ります」


 会議は終わった。


 王妃は何も言わず部屋を出た。

 レオンハルトはリリアの手を取ろうとしたが、リリアは資料を抱えていたため、少し遅れた。

 その小さな遅れに、王太子は気づかなかった。


 会計院長は、ユリウスへ短く指示を出した。


「慈善委員会の過去五年分の支出明細を用意しろ」


「はい」


「あと、書記マルティナの承認印も確認だ」


「承知しました」


 ユリウスは返事をしてから、少し迷い、クラリスに向き直った。


「クラリス様」


「何でしょう」


「その……侍女の休憩記録の件ですが」


「はい」


「あれで、助かった者は多かったと思います」


 クラリスは、少しだけ瞬きした。


 ユリウスは慌てて続けた。


「当時、私の妹が王宮の下働きにおりまして。休憩が記録されるようになってから、倒れる者が減ったと聞いています」


「そうでしたか」


「はい」


 ユリウスは、少し笑った。


「だから、少なくとも妹にとって、クラリス様は悪女ではありません」


 クラリスは、すぐには返事をしなかった。


 そんな言葉をもらう準備をしていなかった。


 褒め言葉は、請求書より扱いが難しい。


 セバスが後ろで、たいへん満足そうにしている気配がした。


「ありがとう、ユリウス監査官」


 クラリスは、ようやくそう言った。


 ユリウスは頭を下げ、会計院長を追って出ていった。


 小会議室に、クラリスとセバスだけが残る。


「お嬢様」


「何かしら」


「よろしゅうございましたね」


「何が」


「悪評の出どころを辿ったら、感謝の出どころにも当たりました」


 クラリスは、しばらく黙った。


 それから、窓の外を見た。


 王宮の庭には、今日も花が咲いている。


 花は美しい。


 だが、多すぎる花は何かを隠す。


 ならば、適量がいい。


 少しの花と、十分な記録。

 人が人を見誤らないためには、たぶんそのくらいがちょうどいい。


「次は慈善基金ね」


「はい。花瓶の少ない部屋を手配してございます」


「セバス」


「はい」


「割れる前提なのね」


「王宮でございますので」


 クラリスは、少しだけ笑った。


 悪評は、今日すべて消えたわけではない。


 消えないだろう。


 一度染み込んだ噂は、古いワインの染みのように残る。


 けれど、染みの下にある布の色を確認することはできる。


 誰かが悪女と呼んだ。


 誰かが冷たいと言った。


 誰かが心を開かないと決めた。


 それでも。


 記録は残る。


 休めなかった侍女の時間。

 倒れずに済んだ少女のドレス。

 迷子になりかけた善意の行き先。

 そして、悪女と呼ばれながらも、誰かを守っていた事実。


 クラリスは資料をまとめ、立ち上がった。


 噂には足がない。


 足があるのは、人間だ。


 ならば、人間の足で、噂の出どころまで戻ればいい。


 そこに、誰かが落とした責任がある。


 クラリスはそれを拾う。


 怒るためではない。


 精算するために。


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