第二話。死神とダンス②ーまさかの再演ー
皆様、こんにちは。
神威重工です。
前回、死神との初対面を無事に乗り切った私。
普通なら、ここで病院へ行くところでしょう。
しかし、私は違いました。
何しろ、ただの肩こりだと思っていたのですから。
そんな私のもとへ、早くも死神が再訪問。
……。
お前、そんなに暇なのか?
それでは、第二公演をお楽しみください。
人生には、一度経験すれば十分な出来事がある。
交通事故。
財布の紛失。
そして、死神とのダンス。
普通、一度死にかければ、人間は少し賢くなるものだろう。
ところが、世の中には学習能力というものが著しく欠如した人間がいる。
……。
私である。
さて。
前回、私は焼肉帰りに猛烈な胸の痛みに襲われた。
近くのミニストップへ避難し、運転席で30分ほど悶絶。
その横では、双子の中学生がソフトクリームを美味しそうに食べていた。
私のソフトクリームだけが液体となり、人生初となる死神とのダンスは終了した。
めでたし、めでたし。
……。
となるはずだった。
私はそのまま帰宅した。
痛みは完全に消えていた。
あれほど苦しんだというのに、何事もなかったかのように日常生活へ戻ったのである。
しかも、私の認識では、あれは単なる肩こりだった。
少々ひどい肩こり。
いや、かなりひどい肩こり。
……。
胸を握りつぶすほど痛い肩こりとは、一体何なんだよ!!!
今ならそう思う。
しかし、当時は大真面目だった。
人間の思い込みとは、実に恐ろしい。
さて。
家に帰り、夕飯を食べた。
風呂にでも入ろうかと思っていた頃だった。
突然。
ドカーン!!!
「ぐあっ……!!!」
来た。
また来た。
胸が痛い。
肩も痛い。
背中まで痛い。
先ほどとまったく同じである。
普通なら、ここで気がつくだろう。
夕方にも同じ激痛があった。
30分も苦しんだ。
そして、再び同じ症状が現れた。
これは明らかにおかしい。
病院へ行かなければ。
……。
ところが、私は違った。
「また肩こりか……」
……。
…………。
お前、少しは疑えよ!!!
まったく、見事なまでの一貫性である。
一度肩こりだと決めたら、何が起きても肩こり。
胸が痛かろうが、背中が痛かろうが、関係ない。
私の頭の中では、すでに診断が確定していた。
恐るべき自己診断能力である。
もちろん、完全に間違っている。
さて。
肩こりならば、対処方法は簡単だ。
揉めばよい。
私は息子を呼んだ。
そして、肩を揉んでもらうことにした。
何とも素晴らしい父親である。
先ほど、ソフトクリームを食べていた息子が、今度は父親のマッサージ係となった。
私は肩を揉ませた。
続いて、背中もマッサージしてもらった。
しかし。
まったく効かない。
痛みが引く気配すらない。
「…………」
おかしい。
肩を揉んでいるのに、肩こりが治らない。
背中まで揉んでもらっているのに、胸まで痛い。
普通なら、ここで何かがおかしいと気づくはずである。
だが、私が考えたのは別のことだった。
「この肩こり、相当ひどいな……」
……。
…………。
だから肩こりじゃねえんだよ!!!
今の私なら、当時の自分を正座させて説教してやりたい。
しかし、当時の私は本気だった。
息子のマッサージでは歯が立たない。
となれば、次の手を考えなければならない。
そこで私は、ある名案を思いついた。
そうだ! 風呂に入ろう!
……。
素晴らしい。
実に素晴らしい判断である。
肩こりには温泉。
肩こりには入浴。
身体を温めれば血行が良くなる。
何とも理にかなった考え方ではないか。
ただし。
本当に肩こりだった場合に限る。
私は風呂に入った。
湯船につかり、身体を温める。
これで少しは楽になるはずだ。
ところが。
まったく変わらない。
胸が痛い。
肩も痛い。
背中まで痛い。
相変わらずの激痛である。
「…………」
おかしい。
温めているのに治らない。
これは一体どういうことだろう。
私は少し考えた。
そして、一つの結論に達した。
「お湯の温度が低いのか?」
……。
…………。
違う!!! そうじゃない!!!
しかし、当時の私は大真面目だった。
温めても治らない。
ならば、もっと温めればよい。
実に単純明快な発想である。
私は風呂の温度を上げた。
これならどうだ。
身体は温まる。
お湯は熱くなる。
だが。
痛みはまったく変わらない。
……。
何ということでしょう。
我が家の給湯設備では、この肩こりに太刀打ちできないのである。
いや。
給湯器は悪くない。
息子のマッサージも悪くない。
そもそも、肩こりではないのだ。
ところが、そんなことは夢にも思わない。
私は湯船の中で、再び胸を握りしめた。
痛い。
とにかく痛い。
猛烈に痛い。
あのミニストップで味わった痛みが、そのまま帰ってきたようだった。
ただし、今回は少し違う。
前回は駐車場だった。
今回は自宅の風呂場である。
前回は双子がソフトクリームを食べていた。
今回は、私が湯船につかっている。
場所が変わっただけで、やっていることはほとんど同じだった。
胸を握りしめながら、ひたすら痛みに耐えている。
……。
ところで。
死神というものは、随分と律儀な性格らしい。
一度訪問しただけでは満足できなかったのだろうか。
夕方に一度。
そして早朝にもう一度。
しかも、事前の連絡は一切ない。
突然やって来て、こちらの都合もお構いなしに大騒ぎを始める。
……。
お前、アポイント忘れてるぞ!!!
いや、笑い事ではない。
当時の私は、本当に死にかけていたのである。
ただ、本人だけがそれを知らない。
だからこそ、今振り返ると恐ろしい。
そして、あまりにも間抜けだ。
さて。
そうして風呂の中で激痛と格闘すること、およそ30分。
突然だった。
痛みが消えた。
「…………?」
またである。
先ほどまで猛烈に痛かった胸が、嘘のように楽になった。
肩も痛くない。
背中も痛くない。
あれほど苦しんでいたのに、何事もなかったかのように元に戻った。
おお!
治った!
……。
だから治ってねえんだよ!!!
今なら分かる。
しかし、当時の私には分からなかった。
夕方の発作も30分ほどで消えた。
今回も30分ほどで消えた。
つまり、私の中ではこういう結論になった。
「この肩こり、30分くらいで治るんだな」
……。
…………。
そんな都合のいい肩こりがあるか!!!
まったく、救いようがない。
しかし、痛みが消えると、本当に何ともないのである。
先ほどまでの激痛が、まるで嘘のようだ。
これがまた厄介だった。
痛みが続いていれば、さすがの私も何かを考えたかもしれない。
だが、痛みは消えた。
本人は元気になった。
そして、先ほどまで死神と踊っていたことなど、すっかり忘れてしまう。
実に便利な頭である。
さて。
風呂から上がった私は、いつもの生活へ戻った。
そして。
酒を飲んだ。
……。
…………。
おい!!!
ここまで読んで、呆れている方もいるだろう。
当然である。
夕方に30分。
夜にも30分。
合計で約1時間も猛烈な胸の痛みに襲われた男が、病院にも行かず、風呂上がりに酒を飲んでいるのだ。
何とも素晴らしい危機管理能力である。
もし、あのとき死神が本当にそばにいたのなら、さぞ困惑したことだろう。
「…………」
「こいつ、まだ飲むのか?」
そんな声が聞こえてきそうである。
もちろん、実際に聞こえたわけではない。
聞こえていたら、それはそれで大問題だ。
いずれにせよ、私は酒を飲み、そのまま寝た。
心筋梗塞の危険など、まったく考えていなかった。
本人としては、ひどい肩こりが二回あっただけの一日である。
それにしても、よく眠る気になったものだ。
今となっては、自分でも信じられない。
普通、一日に二回もあれほどの痛みに襲われたら、怖くて眠れないのではないだろうか。
ところが私は寝た。
実に平和である。
……。
本人の頭の中だけは。
こうして、死神との二度目のダンスは終了した。
初回公演はミニストップの駐車場。
第二公演は自宅の風呂場。
どちらも約30分。
そして、どちらも本人の判断で病院へは行かなかった。
まったく学習能力のない男である。
ただし、これだけは言っておきたい。
後に心筋梗塞と判明したからこそ、こうして笑い話にしているが、当時の判断は非常に危険だった。
繰り返す強い胸や背中の痛みは、心筋梗塞などの重大な病気の警告である場合がある。
痛みが一度消えたからといって、安心してよいわけではない。
同じような症状があれば、私のようにマッサージや入浴で済ませようとせず、すぐに119番へ連絡してほしい。
特に、激しい胸の痛みがある状態での入浴や飲酒など、真似してはいけない。
さて。
夕方の初回公演。
夜の再演。
これでようやく、長い一日が終わった。
私も死神も、さぞ疲れたことだろう。
……。
いや。
どうやら、死神はまだ満足していなかったらしい。
なぜなら。
翌朝、午前4時30分。
三度目のダンスが始まるのである。
……。
…………。
お前、いい加減にしろよ!!!
それにしても。
夕方にソフトクリーム。
夜に風呂と酒。
そして翌朝には、再び死神。
何とも充実した一日ではないか。
……。
そんな充実はいらねえんだよ!!!
こうして、死神との第二公演も幕を閉じた。
めでたし、めでたし。
……。
もちろん、まったくめでたくない。
私はまだ知らなかった。
三度目の公演が、これまでとは少し違う展開になることを。
――第2話・完――
次回「死神とダンス③ ―早朝4時30分の招待状―」
いかがでしたでしょうか。
死にかけた男が、息子に肩を揉ませ、風呂の温度を上げ、最後には酒を飲んで寝る。
……。
誰か、この男を病院へ連れて行ってください。
ちなみに、すべて実話です。
そして、死神とのダンスはまだ終わりません。
次回、午前4時30分。
ついに第三公演が開幕いたします。
お楽しみに!?




