覚え書き その11 人間のパーツ
主な登場人物
・海福ブレイド玲奈
主人公の高校1年生の女子。身長が180㎝あるクルド人との「ハーフ」。学校でレイシストにいじめられるルッキズムの持ち主。現代の生物学で否定されている「群選択説」を信奉し動物集団と人間社会の類似性により自己へのいじめと差別を必要悪とみなし、受忍している。肉食を嫌悪しているが本人はヴィーガンではなくバターはOKなベジタリアンだと思っている。小学生のとき学校で飼育していた豚が死んだ責任を負わされて以来、豚に由来する蔑称をつけられる。
・ジンベイ君
身長が2メートルあるジャマイカ人との「ハーフ」。本名:蘭堂駿平太。男は殴るが女は殴らない差別主義者。
最初はパトカー1台に若い男性警官一人しか来なかった。疑わし気にジンベイ君の案内で「現場」に行き死体を確認すると見慣れているのか落ち着いて様子でパトカーに戻ってきて応援を呼んだ。応援といってもワンボックスカータイプのパトカーが1台来ただけだった。中からはマスクをして青い作業着を着た男性と紺のジャケットを着たおそらく刑事らしき男性が下りてきた。どちらも白髪交じりの中年で作業着の男性は最初に来た警官の案内でミカン箱くらいのジェラルミンボックスを持って現場に向かった。
ショート動画の切り抜きで視た刑事ドラマの死体発見現場のように白衣を着た科捜研や灰色のコートを羽織った刑事たちがひしめいている、のとは違っていて少し拍子抜けした。203X年田舎の警察はここまで財政難とは。
「僕たちが見つけた時にはすでにバラバラで死んでいました」
パトカーのライトに照らされながら刑事らしき男性に発見時の状況についてジンベイ君が一通り説明してくれた。
「クマに食い散らからされたようなバラバラ死体、らしいな。それをお前らがやってないことぐらいはわかる」
やや声を張り上げ刑事は威圧的に言ってきた。まあ180cm女子高生と2メートル男子高校生にせいぜい170cmくらいの刑事が舐められてはいけないという姿勢を見せたのだろう
「だったら僕たちは容疑者じゃないでしょ。もう帰してください」
既に20時を過ぎている。頭上には半月が出ているとはいえあたりはかなり暗い。
だがジャケット刑事はそれには応えずにアタシたちから取り上げた生徒手帳を見ながらさらに質問してきた。
「おまえらここは立ち入り禁止のはずだが、どうして見つけた」
この質問にここに連れてきた張本人が応えてくれた。
「放課後に、彼女を連れてヤリに来ただけです。断られましたが。トイレが使えないので林の中で小便をしようとすると、スゴイ臭いがしてあたりを見渡すと松の木の枝にロープが垂れ下がっているのが見えて、嫌な予感がして。近くに行ったら木の側の地面に穴が開いていてバラバラになった死体があったのです」
「おまえら、ヤリにって……。そんな目的のため、わざわざこんな山の中まで来たのか。本当かよ」
「学校でするわけにはいかないでしょう。刑事さん、ここはネットで有名な『ヤリスポット』ですよ」
ジンベイ君の説明に納得したかわからないが、刑事は生徒手帳で肩を叩きながら睨んだ
「立ち入り禁止の場所に勝手に入ったことは高校には明日連絡しておく。いいな。」
勝手に入ったことは紛うことなき事実なのでアタシたちはうなずくしかなかった。
「で、おまえら何人だ」
いきなり刑事が聞いてきた
「それ事件になにか関係があるんですか」
ジンベイ君が尋ねた。まったくなにをこの刑事は聞きだすのだ。
「警察に何か聞かれたら協力しろと教わらなかったのか。素直に応えろ」
「父はクルド人です」「母はジャマイカ出身です」
クルドという言葉に刑事は反応して険しい表情をしながらアタシに質問してきた
「県内でクルド人らしき窃盗グループによる銅ケーブルの盗難事件が数件起きている。何か知ってないか」
「知っているとは何をですか」
「親戚のクルド人でカネに困っている奴はいないか。あるいはクルド人同士で窃盗の計画をしているのを耳にしたことはないか。正直に答えろ。黙っていると犯罪の片棒を担ぐことになる」
「父の親戚は日本には住んでいません。それに父にクルド人の知り合いがいるかも知りません」
「いいか、あとで思い出した、では遅いからな。クルドの連中は、仲間内でいろいろな「仕事」を分担して回しているそうじゃないか。警察に同胞を売るなといわれているのか。父親の仕事は廃棄物回収業者か?ヤード経営者か?」
やたらねちねちと聞いてくる。
「父は東京の介護施設の施設責任者です。4月から東京で働いています。施設での仕事が忙しいからこちらには戻ってきません。刑事さん、学生証の裏に父の連絡先が記載されているし、父の勤務先の名刺もあります。確認してください」
刑事はアタシの生徒手帳から学生証と名刺を取り出し中身を見た後、疑わし気にアタシを見つめたが、急に笑い出した。
「疑って悪かったな。これも仕事だから気を悪くするな」
十分アタシの気を悪くした刑事は次にジンベイ君の学生証の写真と実物をまじまじと見た
「こっちはクルドっぽくないな。ジャマイカなのにドレッドヘアじゃないのか」
「ジャマイカ人は皆ドレッドヘアをしているわけではないです」
不毛なやりとりをしている最中に作業着を着た男性、たぶん鑑識と警官が「現場」から戻ってきた。
死ねばいいのに、と思った人間が実際死ぬのはあまり気分がいいものではない。中学時代、イジメら れていた同級生をうまく騙して性加害を加え自殺未遂に追い込んだクソ教師。鑑識の抱えているジェラルミンボックスにはかつてそいつを構成していたパーツが入っているのだろう。
「仏さん、東京の刑事たちが探していた性犯罪の容疑者だ。新宿のホテルで女子高生と援助交際したが料金で揉めて口論のあげく殴ってそのまま逃げたらしい。余罪もあって東京から自宅周りにいないか探せ、探せとうるさかったがこれで片が付いた。」
「死因は何だ。殺人事件でないなら仕事が楽なのだがな。今更応援を呼ぶのは気が引ける」
刑事が新たな仕事を嫌がっているのを顔に隠さずに尋ねた
「首つり自殺した仏さんをクマが引きずり降ろして食った、そんなところだろう。木に引きちぎられたロープが掛けてあって、あたり一面にクマの毛や足跡がある。一度食べて残りを埋めてまた食うために掘り起こした。クマさんも土葬が嫌いなのだろう。」
そこで警察のご一同は一斉に笑った。
「食い残しもこの箱に収まるくらいしか残っていない。下顎と手足の一部が足りないが見つけるのは明日以降でいいだろう、なんせ今夜はもうすぐ大リーグの日本の決勝があるからな」
再び大人たちは一斉に笑った。
やや場が緩んだのを見てジンベイ君が言った
「僕らも帰りたいのですが」
「帰してやっていいだろう。今のところこいつらから聞き出せることはないのだから」
鑑識の男性が言うと、
「もう帰ってもいい。だが何かあればまた話を聞きに行く」
刑事はそういうと先ほどの「尋問」は必要だったのかと思うくらいあっさりと生徒手帳を返され解放された。大人たちが冗談を言い合いながら車に乗り込む中、アタシたちは自転車を止めた校門に向かった。




