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「ああそうそう、貴方先程威勢よく一族郎党皆殺しだーなんて叫んでたけど。」
「皆殺しになるのは貴方のお家の方じゃないかしら。」
「も、も、もっ!申し訳ありませんでした!なんでもします!なんでもしますからっ!命だけはっ!」
父が絶叫した。だがそれをチラリと見た後ふふふと笑ってこう言った。
「だから先ほどから言っているでしょう?私の夫と、彼のお父上。生き返らせてくれたら、ね?」
「そ、そんな!生き返らせるなんて絶対無理ではありませんか!そんな無理難題!」
「お前ら親子はまだ分からぬのか。」
「お前らを生かすための試練だと、まだ思っておるのか?」
「そ。生かすためではないの。そんなに簡単に許されるわけ無いじゃない。それでも…わたくし達の大事な人が帰ってくるなら許してあげようかなって。」
ふふふ。
「人の命を蔑ろにしたんだもの。自分だって蔑ろにされる覚悟はしなきゃ。」
※※※※※※
あれから1ヶ月が経った。俺たち子爵と子爵子息の失踪はほとんど噂にならなかったらしい。
"ああ。あの親子なら、ねえ。恨んでいる方が多すぎてどなたの仕業か分からないのではないかしら"
「そう言われているわよ。ほら!この新聞にも!ついでに貴方のお父上による爵位強奪の為の毒殺事件まで!」
きゃっきゃと嬉しそうに語っているのはあの女だ。
父はもう目も虚ろで話は半分も理解できていないだろう。父はアヤームの希望で、アヤームの父親と同じ毒を飲まされている。
「父よりも薄い毒を。できるだけ長く苦しんで欲しいから。」
薄いとはいえ毒は毒だ。もうあと何日持つのか。
俺か?俺は。
父の看護のために生かされている。
父は"アヤームの父を殺めた方法"で死に逝こうとしている。
俺は。俺は恐らく、父の最期を看取らされた後。
男爵を殺めた方法で責任を取るのだろう。
いや、父は復讐の為だからと随分と長く死ぬに死ねない状態で苦しんでいる。
それを考えれば、俺は…俺は。あの時よりも酷い目にあったあと自ら飛び降りろと命令されるのではないか。自分で想像する未来はとても暗い。なのに。
「だって今があまりに辛いと、ねえ?」
"死が絶望じゃなくて救いになっちゃうじゃない!"
弱っていく父の看病は独りでやらされていたが、決して待遇は悪くない。
俺の身の回りには世話係がいた。綺麗に整えられた部屋、家にいた頃と変わらないほどの豊かな食生活。
凡そ罪人とは思えない扱いだった。
特に、世話係の女は俺に同情的で。
三十になるかならないかの女で、身の回りの世話はテキパキしてくれるし、たわいの無い世間話もしてくれた。
「男の人なら、特に貴族男性なら恥をかかされた事に対して報復するのはそこまで悪い事なのかしら。」
その日、少しの間だけ。いつもの屈強な見張り役がいなかった。
その時に世話係の女がポツリと漏らしたのだ。
「どうにかして助けて差し上げたいけど、わたくしでは大した事ができなくて。」
俺の監禁生活は父が死んでからも続いていた。
頑丈な扉に窓には柵。快適な生活ではあったけど、どう考えても抜け出せるような隙はなかった。
その事で少しずつ気が緩んでいたのだろう、見張りの男がいない時間が増えてきた。
既に世話係の女は抱き込んでいる。
なぜ見張りの男がいない時間があるのか。
いなくなる時間はあらかじめ分かるのか。
女に協力させて抜け出せる隙はないか、必死で調べた。そしてとうとう明日。
「お祝い事があるらしくて、そちらの方に人が駆り出されるようです。」
そう聞いたのは3日前だ。
聞けば扉に鍵をかけさえすれば多少の警備の薄さはカバーできると考えたようだ。
…だが、俺にはこの女がいる。予定が筒抜けで、鍵を持っている味方がいるのだ。
逃げ出したあと?とりあえずはこの女に匿わせる。そして。
「父が残した財産を隠してあるんだ。それで2人遠くへ逃げよう。」
この女は俺に心酔している。そしてここから抜け出せば俺の財産で、俺に愛される生活が手に入ると本気で思っている。
だから。昨日のうちに財産の隠し場所を教えて持って来させたのだ。父は堂々としているようで、いつ兄の殺害がバレてしまうか怯えていたのだろう。
いざという時持ち出せるように宝石を買い漁り、すぐに持って逃げられる準備をしていたのだ。
それさえあれば!俺独りなら充分暮らしていけるくらいの金にはなるだろう。
しっかりと胸のポケットに隠し、女が呼びに来るのを待つ。
「申し訳ございません、お待たせいたしました。さあ!」
ハハハ!どうだ!俺は!俺は逃げ出せたぞ!
お前らなんぞに俺様が殺せるものか!逃げ出してもぬけの殻になった部屋を見て地団駄でも踏めばいい!
「こちらに馬車を用意しています!外から覗かれないように窓を潰しているのであまり乗り心地は良くないですが…」
「今は見つからないのが1番だからな、よくそこまで考えてくれた。」
中に入ると薄暗いが、まあ仕方ないだろう。
ガチャリ、外から鍵をかけられた?
焦っていると御者の横に座った女が小窓から話しかける。
「少し物騒な地域を通るのです。目立つ所に鍵が見えると襲撃を諦めると聞いていますから。しばらく我慢してください。」
そして小窓も閉められてしまった。すると、薄暗い車内が更に暗くなってしまった。
仕方がない。一か八かの逃亡なんだ。あまり文句も言えまい。
そう考えるうちに眠ってしまった。
※※※※※※
ガタン!大きく揺れたかと思うと馬車が止まった。すっかり寝入っていたのだが揺れで目が覚めた。
カタンと御者席の小窓が開く。
「タッキィミ様、ここでおしまいです。鍵を開けて参ります。」
おしまい?そうか、ここで乗り換えるのか。でないと馬車から足が付いてしまうからな。
そう思っていると扉が空き…
「サプラーイズ!」
あ、あの女が…
「ふふふ。驚いて声も出ないってところかしら。」
「な、なんで!なんでお前がここにっ!」
「周りをよく見てみろ。」
女に気を取られていたが、周囲には沢山の人がいた。
そしてここは…
「こ、ここはっ」
「覚えていたか。そう、ここは…」
俺がポダロッサを突き落とした所。
「なっなんで?!なんでバレたっ!」
「もう!本当に頭が悪いのね。決まってるじゃない!」
「わたくし、貴方にちゃんと言ったわよ!」
「だって今があまりに辛いと、ねえ?"絶望じゃなくて救いになっちゃうじゃない!"って!」
「あ、ああっ!ああああーっ!!」
もうあと一歩だったのに!もうちょっとで抜け出せたのに!
「あの、あなたは本気で私が味方だと思っていたのですか?」
振り向くと世話係の女がいた。まさか、まさか!
「お、おまっ、おまえっ!騙したのかっ!」
「私の母はポダロッサ様の乳母をしていました。…私はっ!私はあの方の乳兄弟です!」
「タルティーヌ様が今すぐ殺してやりたい!と憤る私を宥めてくださって。毎日殺してやりたいと思いながら!お前に特大の絶望を与えるために!」
「アヤーム、後ろにいるわね?出てきなさい。」
アヤームまで。
「アヤーム!なあアヤーム!お前の親父も死んだ、俺の親父も死んだ!もうお前の血縁者はほとんどいないんだぞ!唯一の従兄弟を!見捨てるのか!」
アヤームは呆気に取られたあと、堪え切れないとばかりにぷぷっと吹き出した。
「従兄弟?お前の親父も死んだ?正気か?」
「アヤーム!」
「俺の父はお前の父親が殺したんだ。お前だって知ってただろう?だっていつも言ってたじゃないか。」
"お前が逆らったらお前の母親も同じ病気で苦しんで死ぬ事になるぞ"
「って。それにさあ、もうそろそろ10年になるか?お前達が子爵家を乗っ取ってからずっとさ、タッキィミ様って呼ばせてたじゃないか。しかも人前ではあるじなんて呼ばせてたしな。」
「父親を殺されて、母親も殺してやろうかと脅されて。お前の鬼畜の所業の後始末なんていう汚れ仕事までやらされて!どうやって肉親の情を維持できると思うんだよ。」
「なっ!そんな、そんなの!殺される方が間抜けなんだよ!それに、母親の事で脅されっていうけど!お前たちだって出ていけば良かったじゃないか!」
「出ていけば?ああお前は知らないのか。一度出て行こうとした事。お前の母親に邪魔されてな。」
"いきなり子爵家の家政なんて取り仕切れる訳ないじゃない!その女!絶対逃がさないで!"
「そ、それは俺じゃない!母さんじゃないか!ならその罪は母さんが償うべきだろう!」
「償ったわよ?」




