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ガチャリ。
先ほどの男達が入ってくる。
「ではお手洗いにお連れします。そこまでは足枷だけ外します。手洗いの前まで来たら手枷を外します。」
足枷を外される。それだけで随分と身体が軽くなった。
手洗いまでの道のりはそこそこあった。どうせなら手枷が外れてから逃げた方がいいに決まっている。必死で周囲を見渡して逃げやすそうな場所を確認した。
「ではここで手枷を外します。申し訳ありませんが、鍵を内側からかけることはできません、ご了承下さい。」
「当然だろう、気にするな。」
ふん、鍵は掛からないとはいえドアは閉められるのだな。
逃げ出せそうな窓はないか確認したが、やはり窓は高い位置にしかなかった。となれば先ほど見た窓から逃げるしかないな。
「……良いものがあるじゃないか。」
コンコン。
「そろそろよろしいですか。」
そう言ってドアが開く。と、同時に。
ガッ!
「ウワワッ!」
修繕に使った時にでも片付け忘れたのだろう。置き忘れていた金槌で襲いかかった。
幸い男達は二人しかいない上に武器は持っていなかった。
1発ずつ殴っただけで蹲り動けなくなった。
今のうちだ!当たりをつけておいた廊下の窓から難なく逃げ出せた。
全速力で走りここまでは追ってこられないだろう、と言うところまで来て。
「ハッハッハッハ!何が試練だ!俺はお前らなんかとは頭の出来が違うんだ!男爵風情が子爵家を怒らせたらどうなるか身を持って知らせてやる!」
そう叫んでから屋敷に帰った。
「ち!父上っ!ただいま戻りました!今まであの男爵家の奴らに監禁されていました!忌々しい奴らだ!しかも!しかも母上がアイツらに殺されました!アイツら!一族郎党皆殺しだ!」
「あら、お母様が亡くなったのは貴方が見捨てたからじゃなくて?」
真っ暗だった屋敷に火が灯った。なぜ、なぜ……
「何故お前がいる……?」
「あらいやだ、準備に時間がかかるって言ったでしょう?」
じゃあ、じゃあ俺が屋敷に戻ってこられたのも…
「うふふ。頭の出来が違うと大変ね。そんなに都合良く武器やら開いている窓やらあるわけないじゃない。」
まさか、まさか……全部掌の上だったというのか?
「!父上っ!父上はっ!まさか父上まで手にかけたのか!」
「やだわ。貴方じゃないのよ。人の命をそんなに気軽に弄ばないわよ。」
返す言葉が無くて固まっていると、父が運ばれて来た。
手足を拘束されたまま椅子に縛り付けられている。あの女のそばまで運ばれると猿轡を外された。
「さあ、最後の試練よ。これは親子で協力してもらおうと思って。」
「これを乗り越えれば貴方たちは自由の身よ。もしダメだったら…」
ふふふ。
確かに笑っているはずなのに。背筋がどんどん冷たくなっていく。
だがここは俺の家だ。少し勢いづいて言い返す。
「勿体ぶるな!俺はもう2つも試練を乗り越えたんだ!さっさと最後の試練を言え!」
俺が怒鳴ると途端に笑顔が消えた。
「まあ。あれで試練を乗り越えたつもりだったのね。」
「タルティーヌ、さっさと済ませてしまおう。こやつらの顔を見ておると胃がもたれてくる。」
※※※※※※
「……は?」
「聞こえなかった?最後の試練はね。」
何を言っているのだ?この女は。隣の父親も、馬鹿じゃないのか?
「貴方が殺した主人を生き返らせて?」
「あのなぁ、お前さ、今の状況を分かっているのか?お前の旦那が死んだのはご愁傷様だけどさ。殺したのは従者だって聞いただろ?」
なんだ、爵位が下がると知能も下がるのか?
「お前は今、子爵子息を冤罪で拉致監禁した上、命を賭けた試練とやらを与えようとしてるの。分かる?」
「だそうよ?」
どこかに声をかけると予想外の声が返ってきた。
「冤罪ではありません。私の母の命を盾に罪を被るように脅迫してきたのです。」
「ア、アヤームっ?なんでっ!お前は死んだんじゃないのか?!」
「まあ!何度も言わせないでちょうだい。わたくしは貴方達とは違うの。気軽に人の命を奪ったりしないのよ?」
「冤罪を被りかけた彼からも貴方に試練を出すそうよ。」
「は?お前!従者の分際で何を!」
俺の恫喝を無視して話し出した。
「お前が…いや、お前とお前の父親が殺した俺の父を生き返らせてくれ。」
は?
「いや、な、何を言ってるんだ、お前の父親は病気で」
「彼の話を聞いてな、我が家の手のものが調べ直したんだ。」
「そうね、とても残念な話だけど、子爵程度の低位貴族だとお家乗っ取りがあったとしても見過ごされてしまうのよね。」
「だが、これだけ揃えば話は別だ。…彼の許可を取って墓を開かせて貰った。あれだけ急性の毒物を使うとな、多少年月が経っても痕跡が残ってしまうんだよ。」
は、何を言っている?証拠?今更か?
いや!そんなことより何よりも許せないのは!
「低位貴族…?何を!男爵の分際で何を言うのか!」
女の眼が驚きで丸くなる。
「まさか、まさかおとうさま!本当にこの方達はご存知なかったの?」
驚愕の表情で父親に問いかける。
「ああそのまさかのようだな。……今度陛下には低位貴族に対してももっと教育に力を入れるよう進言しておくか。」
陛下…?
「改めて名乗らせていただこうかしら。わたくし、ポダロッサ・マルシュ男爵の妻、タルティーヌ・マルシュでございます。」
「父の引退後、夫が跡を継ぎアグベージェ侯爵となる予定なの。」
「その顔は…はあ。どうやら理解できておらんな。…彼はそもそも婿入り前は隣国のベルサリテ侯爵家の次男でな。アグベージェを継ぐまでの間、爵位がないと何かと不便であろう、という陛下のお気遣いで男爵位を一時的に賜っておったのだ。」
な、なんだと…隣国の侯爵?アグベージェ侯爵を継ぐ?
「そう。貴方が弄んだ男は次期侯爵なのよ。……人の命の重さに爵位は関係ないわ。ないけど!」
グッと睨んだ女が言う。
「我が侯爵家にはね、償いをさせるために使える資金が潤沢にあるの。」
「そもそも証拠もあるから罪を逃れることはできないんだがな。」
証拠?いや!証拠なんて残ってない!あるとすれば…
「アヤーム!アヤームの証言だけじゃないか!そいつが罪を逃れたくて!俺のせいに!」
「……貴方は確かに頭の出来がわたくしたちとは違うようね。ねえ、もう少し状況整理してごらんなさいよ。」
小馬鹿にした言い方にムッとする。
「だって!だってコイツ、お前らの前で認めたじゃないか!自分がやったって!なんでそれが嘘だって分かるんだよ!」
「貴方が罪を擦りつけようとしたアヤーム。何故バレないと思ったの?」
「は?だって!自分で罪を認めて!その後お前らに…」
…あ、ああ!
「そう。彼、生きてるもの。口封じはそもそも失敗よね?そしてね。」
女がまた一人招き入れた。アレは…
「母をな、保護してくれたんだ。あの時、あの部屋に入った時。もう母の安全は確保できていたんだ。」
「なっ」
「彼に頼んで一芝居打ってもらったの。でね、わたくしたちは隣の部屋で聞いていたの。」
貴方が彼に身代わりになれって脅しているところ。
そ、そんな。もうあの時には全てバレていたと…?
折り返しまで来ましたー。よければ最後までご覧ください!




