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次に入って来たのは、アイツだった。
「……アヤーム。」
コイツも散々殴られたのだろう。だがこれで分かった。コイツが!コイツが殴られたぐらいで主人を売ったんだ!
向かい合うようにアヤームが座らされた。
そして猿轡だけ外された。…今から何が始まるのか。恐怖に震えていた。
その時、夫人に何か伝えられた。夫人は顔色を変え父親に何事か告げる。
「少し用事ができたの。第二の試練はお預けね。できるだけ早く帰ってくるからいい子にしているのよ。」
そう言って俺とアヤームだけを残して全員慌ただしく去っていった。
誰もいなくなった事を確かめると、俺は怒りをぶちまけた。
「おい、おいっ!アヤーム!答えろ!お前が俺のことを漏らしたのか!」
殴られてぐったりしているアヤームに怒鳴りつける。
「お前!自分の立場が分かっているのかっ!お前もお前の母親も!俺が命を握ってるんだ!これ以上アイツらに余計なこと言うなよっ!母親が死んでもいいのかっ!」
そこまで言うとぐったりしていたアヤームがこちらを向いた。
「母…母だけは…お願いします、酷いことしないで…おれ…おれにできることなら何でも…」
そこで閃いた。そうか、罪を償うのは俺でなくてもいいじゃないか。
「分かった。じゃあこうしよう。例の件がバレた。……アイツを殺したことだよ。まだ俺は何も吐いてない。俺は関与してないって言い続けてる。だから。」
頭を上げてこちらを見たのを確認してから告げた。
「お前がやった事にしろ。そうだな…主人を馬鹿にされて憤った事にでもしておけ。忠義は大事だからな。俺は既婚者に声をかけてしまったことを恥じていて、お前が馬鹿にされたと怒っているのを宥めていた側だったんだ。」
「信用してもらえなかったら…母親がどうなるかくらいは分かってるな。」
「……分かりました。」
話はまとまった。主人の一大事なんだ、侍従なら身を投げ出して庇うのが当然だ。
俺は当たり前の指示を出してやっただけだ。
「お待たせしたわね。……何かあったの?」
「夫人!夫人!本当に申し訳ありません!貴方の夫の件です!なんとアヤームがっ!あああれほど宥めていたのに!」
「夫人、申し訳ありませんでした。タッキィミ様の名誉が傷つけられたのが許せなくて貴方の夫を…」
「じゃあ、貴方が私の夫を!?」
まあ100%嘘ってわけでもない。誘拐の実行犯はコイツだからな。コイツの人相書きを持って聞いてまわれば誘拐の時の目撃情報くらい出るだろ?
裏付けが取れたら流石に信用するだろうから一石二鳥だな。
「本当はここで2人を拷問して真実を問い詰めるつもりだったんだけど…。じゃあ貴方。貴方には責任を取ってもらうわ。……夫の居場所を聞き出してからね。」
そうしてアヤームは連れて行かれた。それに皆がついて行ったから俺はまた放置されていた。
はは。笑いが止まらない。アイツの父親を殺して爵位を奪うと父から聞いた時は上手くいくのか不安だったが。
これで爵位の件で嗅ぎ回る輩はいなくなった。
…ああ、アイツの母親はどうしよう?アイツが死んでしまえば脅しにも使えない、ただの居候だからな。ふん、どうせ心配する者もいないんだ。適当にその辺に埋めるか。
この屋敷を出た後の事をぼんやりと考えていたら、アイツの叫び声が響き渡ってやがて消えた。
アイツも死んだ、か。
これで憂いも消えたな。まさかこの男爵家に感謝することになるとはな。
※※※※※※
「貴方の侍従から夫の居場所を聞き出したわ。今我が家の手のものが探しに行ってるの。」
できるだけ後悔しているように頭を下げる。
「俺の…俺の侍従が申し訳ありませんでした!普段から俺の名誉に関してすごく気にしているやつでして…。今までにも些細な事でトラブルを起こしていたのです。そのくらいの事は放置して良い、といつも言い聞かせていたのですが。」
さあ、これで俺の罪は晴れたぞ!さっさと解放しろ!
「…………」
な、なんだ?この沈黙は。不気味に思いながらも次の言葉を待つ。しばらく待ち、やっと発せられた言葉は。
「では第三の試練ね。」
「は?いやいや、貴方の旦那さんについて、俺は関係ないと分かったでしょう?もう試練は必要ないのでは?」
「関係ない?」
「だって!そうじゃないか!主人を慮ってとはいえ、俺は宥めていた側だぞ?何故これ以上の試練を!」
「お前が品行方正であれば起きなかった出来事だ。彼だって…忠君であることは認めるが、主人がこれほど愚かでなければあんな道に進むことはなかったろうからな。」
父親まで出て来た。ああ鬱陶しい!ここを出たら覚えておけ!男爵ごとき、子爵家の力で潰してやる!
「分かりました。それで貴方達の気が済むのなら。」
にっこり笑った夫人が言う。
「次は準備に少し時間がかかるの。もうしばらくお待ちになっていて。」
そう言って出て行き、また一人になった。
今度はやたらと待たされる。何が準備だ!お前の夫を殺したのはアヤームだろ!これ以上俺に罰を与える権利なんてあるのか?
イライラとしながら待つがなかなか誰もやってこない。
と、ガチャリとドアが開き屈強な男達が入って来た。
「な、なんだ!俺は何もしていないんだぞ!」
流石の俺も体格で敵わない男達には腰が引ける。
「我が主人から食事の世話を仰せつかりました。」
「は?食事の世話に何だってお前達みたいなむさ苦しい男が!」
「侍女に世話をさせて襲われてはたまりませんからな。」
グッと堪える。ここは我慢だ。
「そ、そんな襲うだなんて!確かに諸君らの主人の奥方に声はかけたが、無体は働いていないぞ!」
俺の抗議は全く相手にされない。聞こえていないかのようだ。
「お食事はお気に召さなかったようですね。それでは下げさせていただきます。」
抗議に気を取られていたせいで食事が下げられてしまった。
「20分後、お手洗いにお連れします。その際には足枷手枷を外す事になりますが、よくよく考えて行動して下さい。」
手枷足枷が外される?もしかしてとんでもないチャンスじゃないのか?
今の俺は不当に拉致されている被害者だ。とりあえず逃げ出せば!罪に問われるどころか逆恨みされた被害者としてアイツらを罪に問えるかもしれない!
その瞬間を想像してシミュレーションを始めた。




