5
「一つ目の試練はね。」
屈強な男たちが入ってくる。
「貴方に罪を認めてもらうところからよ。」
は?罪を認める?どっちの罪のことだ?お前を一晩貸せと言ったことか?……男爵を殺したことか?
「まあいくつかあるんだけど、とりあえずひとつ目から。」
「貴方、先日の夜会でわたくしに声をかけてきたわね?なんだったかしら?たしか…」
"良い女じゃないか。奥で少し相手をしてくれないか。"
「だったわね。本当に下品だわ。」
母が信じられないと言う顔をしている。
だが!だがそれだけでは何の罪にもならない。だから俺は認めた。
「その時は!素敵な女性だと思ったので…つい声を…」
「あら、魅力的に思ってくださったのね。ありがとう。」
なんだ、満更でもなかったのか?
「そこまでは仕方の無いことね。下品な声かけは残念だけど罪ではないもの、でもね。」
"は?お前の夫とやらは俺よりも偉いのか?"
「これはいただけないわね。夫と参加していると断ったご婦人に対しての恫喝だもの。それで何だったかしら?夫が戻って来て男爵だと自己紹介したのよね?」
"俺はドゥーイー子爵子息だ。なあ、お前の妻を今夜貸してくれないか?"
「本当にお下品。普通の殿方は夫がいると分かった時点で引くものよ。それを!断った夫に向かってなんて言ってたっけ?えっと…」
"は?男爵風情が何を言ってるんだ。こういう時は喜んで差し出すもんだろう?だから未だに男爵から抜け出せないんだ。"
「そう言っていたと聞いたぞ。あまりにも酷いから我が家から抗議するか?とも聞いたんだがな。」
「ええおとうさま。その後もしつこくて。子爵に逆らう気か、とかお高く止まりやがってとか。最後には夫に殴りかかろうとしましたの。」
まあ夫はサッと避けましたが。夫人がそう小さく呟いた。
「ですから夫が行方不明になった時、真っ先に貴方を疑ったのよ。」
「……行方不明?」
「ええ、貴方の息子さんとトラブルがあった3日後にね。いまだに見つかっていませんの。」
母に向かって優しく言った後、俺の方に向き直り
「ねえ、主人はどこにいるのかしら?」
と聞かれた。ふん、何も掴まれてないと言う事だな。なら知らぬ存ぜぬだ。
「なっ!俺は、俺はっ確かに女癖が悪い!それに君に声をかけたことも認める!だが!ご主人については何も知らない!」
ガッ!屈強な男に殴られた。
「か!母さん!」
俺ではなく母が。一応女性ということで加減はしてもらったのだろう。唖然としているが意識はしっかりしていそうだ。
「母さんは関係ないだろっ!巻き込むな!」
「関係ない?本当にそう思ってるの?あんたみたいな男を産んで育てたのよ?責任が無いわけないじゃない!」
「じゃあもう一度聞くわね?主人はどこにいるの?」
答えられない。いくら母が殴られても、殺したなんて知られるわけにはいかない。
ガッ!ガッ!今度は母が2回殴られる。先ほどより強めだ。
「タ、タッキィミ…助けて…」
「母さんっ!」
このやりとりがしばらく続いたが、俺は頑として認めなかった。だって、認めたらおしまいだ。母だって殴られてはいるが手加減されているし殺されることはないだろう。
息子のために耐えてくれ!
「……本当に貴方ではないの?」
よし!母さんが耐えてくれたおかげで風向きが変わった!
「ほ、本当です!俺は誓って何も!」
「ふうん?誓って、ねえ。」
にこりと笑った男爵夫人が母に近づき何か囁いている。聞いていた母の顔色が変わった。何を言われたんだ?!
「わたっ、私が代わりに罰を受けます。ですからその子にはっ」
「なっ、何を言ったんだ!なあ母さん!母さん聞いてくれ!俺は何も…確かに女遊びはした!したけど!ここまで酷く拷問されるようなことはしていないんだ!」
母は泣いていた。泣きながら首を振っていた。
「あなたっ、あなたとあなたの父親はっ!なんてことを!」
父親?何を言ってるんだ?この話には一切関わってないぞ。一体何を…っ!
「分かりましたわ。お母様に免じてあなたの第一の試練はなされた事にしましょう。ではお母様、代わりに貴方に。」
母は泣きながら頭を下げて出ていった。その後。
母の断末魔の叫び声が聞こえた。
「母さんを!母さんを殺したのかっ!何の権利があって!母さんはこの件と全く関係がないのに!罪のない人間を殺すだなんて!お前らは狂ってる!」
そう叫んだが、向けられた視線はとても冷たいものだった。
「罪のない人間を殺す。確かに狂っているとしか思えないわね。」
「何を落ち着いて!罪のない人を1人殺したんだぞっ!お前ら!」
「第二の試練に入りましょうか。じゃあ彼が喋らないように猿轡もしてくれる?」
俺は猿轡に手枷足枷、その状態で椅子に縛り付けられた。




