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汝、右の頬を打たれたら。  作者: ハシドイ リラ


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4

「侯爵閣下、男爵夫人。わたくしが!わたくしのせいで!この子は道を踏み外してしまったのです!どうか、どうかこの子に与える罰はわたくしが受けますので……許してやって下さい…。」


「いえ!いえ!それは違います!確かに母のことを気にかけてはいました、逆らうとどうなるのかと恐ろしくも思っていました!けど!拉致を指示されて従ったのは!私の意思です!」




男爵夫人はここ数日で判明した自身の夫の様子を聞き、嘆き苦しんでいたが。


「お二人とも、何を勘違いなさっているの?悪いのはね、あの男なの。わたくしを手に入れられなかったことを逆恨みし、たったそれだけのことで人を一人殺そうとしたの。…ここでわたくし達が仲間割れしている場合ではないわ。」


強い人だ。俺に、俺にこの強さがあれば…!


「彼女の言う通りだ。君たちの問題はとりあえず後回しだ。先に我々の復讐に付き合ってもらうよ。」


そうだな、罰を受けるとしても今じゃない。

自分のしてしまった事の後始末を先につけよう。



俺の唯一の弱点である母の安全が確保できた。

それならば後は。あの外道に罪を償わせれば良い。

ここ数年、俺も母も素直にあいつらに従っていたからな。油断していたのか母が保護されたこともまだ気が付いていない。だから"新しい事業について話し合いたい"と侯爵家から打診があったと言うとあっさりと騙されてくれたのだ。



※※※※※※



「少し落ち着いたかしら?ドゥーイー子爵令息。」


「はい。」


今は余計な事は言うまい。3つ、なんでも言うことを聞くなんて言ってしまったんだ。相手が捲れて3つから4つ!なんて増やされないようしばらく機嫌を取らなくては。

待遇は悪くない。もちろん子爵子息である俺にとっては随分質素なものだ。だが清潔な部屋に食事もまともなものだ。下手に不満を口にしてこれより悪い待遇になったら堪らないからな、文句は言わない事にした。


「では移動してもらうわ。あ、念のため手枷と足枷は付けてもらうわよ。何せ貴方。」


「女と見れば見境ないんですってね。……あの日も後でいろんな方に声をかけられたわ。」


"あの下半身に脳みそが付いてるクソッタレが転ばされるのを見て本当にスッキリしたわ!って"


ふふふ、と小馬鹿にしたように笑われる。


「そんな人が近くにいるのに両手足が自由なんて恐ろしくて恐ろしくて。」


なんて無礼な!今は囚われているから大人しくしてやっているが、所詮お前なぞ男爵夫人だろうが!

3つの試練を済ませて子爵家に戻ったら覚えておけ!お前なんぞ組み敷いて無茶苦茶にしてやる!


「さあ、こちらが1つ目の試練ですよ。」


扉が開く。そこには…


「母上?!」


母がいた。椅子に縛り付けられ、口には猿轡。

あまりの卑怯さに思わず叫ぶ。


「おい!お前ら!卑怯じゃないか!母上は関係ないだろう!」


「関係ない?」


背後から低い、地を這うような声が聞こえた。

あいつの父親だ。


「関係ないわけがないだろう。この女が、お前のような人もどきを産まなければ被害に遭う女性もいなかった!」


母はまだ状況を理解できていないようだ。……だって本当に何も知らないからな。

()()()()()()()()は。


母は何か話そうともがいている。それを見て猿轡だけ外された。


「人もどきとはなんですか!この子は!この子は次期子爵ですよ!それをこんな…罪人のような格好をさせて!」



「あらいやだ、お母様は本当に何も知らないのね。この男、嫌がる女性を身分を盾にして襲うとんでもなく卑劣な男なのよ。」


「なっ!俺はそんなことしていない!どこにそんな証拠が!」


そもそもそう言うことをする場は弁えていた。間違っても高位貴族の女は襲ってはいけない。だから平民か、男爵程度の低位貴族の女が集まる場でしかやっていない。

終わった後には侍従がそれなりの金を渡して、事件にしないようにしっかり言含めていたしな。


……この会話ではっきりした。男爵を殺したことはバレていない。この拉致は、貞操を脅かされかけた夫人が父親に泣きついて復讐を考えているだけだと。

なんだ、案外薄情ではないか。夫が1週間以上行方不明なのに自分のことが優先なんて。その程度の仲ならば俺の言う事に従っておけば良かったのに!

だが、この女は想像以上に気が強かったようだ。


「貴方ね、()()()()のもみ消しなんて穴だらけなのよ。」


…は?この女、今子爵風情と言ったか?


「何を!何を偉そうに!男爵夫人風情が!ああそうだ、男爵はもう死んだんだったな!じゃあお前なんかただの平民だろうが!」


つい口をついて出てしまった。


「そう、わたくしの旦那様は死んでしまったのね。」


マズい!マズいマズい!あいつはまだ発見されていないんだった!しまった!


「そうか、息子の行方を知っているんだな。しかも"死んでいる"と。」



「い、いいえっ!違いますっ!先日から行方不明と聞いていて!もう随分経つので亡くなっていたとばかり!本当に申し訳ありません!」


慌てて誤魔化すが、2人とも疑いの眼を向けている。


「……まあいい。それはまた後で。ともかく第一の試練だ。」


誤魔化せたのか?とりあえず母の前での追求は逃れられた。


一つ目の試練はね。


そう言って話し始めた試練の内容に困惑した。

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