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「お、お願いしますっ!なんでもっ、なんでもしますから命だけはっ!!」
ガッ!
思い切り鼻を殴ってやった。
「お前、俺にどれだけ恥をかかせたと思ってるんだ。何が命だけはっ!だよ。その前にする事があるだろう!」
髪を持って倒れ込んでいる男を立たせる。
そのまま腹を思いっきり蹴ってやると蹲って動かなくなった。
下働きに水を持って来させて勢いよくかけたら目を覚ました。
「誰が寝ていいって言った?」
そう言ってまた殴った。
「で、なんでもするんだって?」
血まみれな顔で必死に頷く。顔が腫れ上がっていて上手く喋れないようだ。
「じゃあ誠意を見せてくれ。傷ついた俺の名誉を回復するためにはどうしたらいいと思う?」
必死に何か言っているようだが、顔の腫れのせいで言葉になっていない。本当に無様なやつだ。こんなに必死に命乞いするくらいなら最初から逆らわなければ良いものを。やはり男爵風情だと頭の回転も良くないんだろうな。
「多少お前に頭を下げられたくらいで回復できるもんじゃないんだよ。どうすれば俺は名誉を回復できる?」
更に言い募るが、そもそも生きたまま解放する気はない。だってそんなことをしたら俺の所業がバレてしまうではないか。
「潔くさ、そっから飛び降りてみたら?それなら俺だって納得できんだけど。」
男が絶望的な顔をする。
「だーかーらー。どうすれば誠意を見せられるか考えてって言ってるの。貴族ってのは恥をかかされたらちゃんと報復しないと他の貴族から舐められるんだよ。」
「り、両親に連絡をとらせてもらえればっ、お金、お金を言い値で支払えますっ!」
「…あのさあ、お前聞いてた?名誉の回復の話をしてるの。金はまた別の話でしょ?お前はどう誠意を見せるのかって聞いてるの!」
そもそも男爵風情が!子爵子息である俺に満足に迷惑料なんか出せるわけないだろう。本当に頭の回転の鈍いやつだ。
ガッ!また蹴りを入れる。
「おい!こいつの事崖っぷちまで連れてってやって」
崖ギリギリに立たせる。
「で、どうやったら誠意を見せられるって?」
何も言えないようだ。
多分もう頭も回らないんだろうな。絶望させ過ぎたか。崖の下を虚な目でじっと見つめたまま動かなくなった。
「やっぱりさ、俺の名誉に対する償いならお前の命くらいはかけて貰わないと誠意にはならないよな。」
ゆっくりとこちらを向いて、震えながら頷いた。
「やっと決心できたか。じゃあさっさとやってくれ。」
だが下を見たまま動かない。決心したんじゃないのかよ。
「さっさと飛び降りろよ!」
トン。軽くこづいてやったらそのまま落ちていった。
ふう、自分で飛び降りる気概もないなんて。なら上の人間に逆らうなんて真似するんじゃねえよ。
その場にいた下働きたちに念のため宣言しておく。
「おい!お前ら余計なことは喋るんじゃないぞ!あいつは俺にかけた迷惑に対して自主的に自分の命で償ったんだ。俺は誠意をどうやって見せてくれるんだ?って聞いただけだからな。」
※※※※※※
はぁっはぁっ!
こ、ここまでくればもう大丈夫か…。
もう無理だ。いくら貴族だからってやっていい範疇を超えている。
次期子爵?冗談じゃないよ!あんな人を人とも思わない人間に仕えてたら命がいくつあっても足りない!
それに…それに!自分の命で償わせた?自分の名誉を傷つけた事に誠意を見せろって言っただけ?
名誉を傷つけたって…アンタがしつこく声をかけていた女の夫が抗議しただけじゃないか!
相手が男爵だからって一晩人妻を差し出せって…!
周囲の人間も眉を顰めてたぞ。しかも!恥をかかされたってのも!断わられた時に掴み掛かろうとしたアンタが避けられて転んだだけじゃないか。確かにあまりの無様さに失笑があちらこちらから漏れてたから恥ずかしかったんだろうけど。
あんなことで誠意だなんだなんて。
逆恨みも甚だしいけど、捕まえてこいと言われたら逆らえない。多少殴る蹴るすれば納得するだろうと思っていたのにまさか殺すなんて!
もう限界だよ。俺も罰を受ける覚悟はできている。
俺は亡くなった男爵の家へと逃げ込んだ。




