表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣じゃない。どう見ても電動マッサージ機です本当にありがとうございました。 ――なのに異世界では“震界の魔杖”として最強認定された僕、恥ずかしすぎてもう無理なのに魔王軍だけはなぜか倒せる  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

第40話 王都の前で、偽物をぜんぶ終わらせる日

 その日、王都の空は、妙に高かった。


 新堂ユウトは中央広場へ続く大通りの手前で足を止め、ひとつ深く息を吸った。

 朝の冷たさはもう薄れていて、代わりに、どこか張りつめたような乾いた空気が街を包んでいる。


 人が多い。

 多すぎる。


 広場へ向かう人波。

 道端で立ち止まってざわつく者たち。

 噂を確かめに来た者、王宮の告知を見届けたい者、ただ面白半分で集まっている者。理由は違っても、みんな同じ場所を見ている。


 王都中央広場。


 そこに今日は、本物と偽物の決着が持ち込まれる。


「……逃げたい」


 ユウトが本音を漏らすと、隣のレティシアが迷いなく答えた。


「駄目です」


「ちょっとは迷えよ」


「迷う理由がありません」


 銀青の礼装騎士服をまとったレティシアは、今日もいつものようにまっすぐだった。

 でも、その横顔にあるのは、ただの護衛の緊張ではない。王都の前へ立つ者の覚悟みたいなものがあった。


 その少し後ろで、ミリスが腕を組んでいる。


「いまさら逃げても、向こうが“やっぱり隠してる”って言うだけよ」


「分かってる」


「じゃあ行きなさい」


「言い方が雑なんだよな」


 セリーナも学院代表として並んでいる。

 風紀委員長の腕章は、今日に限っていつも以上に目立って見えた。


「学院の生徒も多数見ています」


「うん」


「ですから、今日は曖昧にしないでください」


「分かってるって」


 フィアナは少しだけ緊張した顔をしていたが、その目は揺れていなかった。


「神殿も、今日は最後まで立ちます」


「うん」


「もう、“少しだけなら”って空気を残したくないので」


 その言葉は、彼女がここまで来た証だった。


 そして、少し離れた位置にはベルナデッタ・フロウまでいる。

 上等なドレスを着ているくせに、今日はさすがに商売人の顔ではなく、“王都商会連盟の代表”の顔をしていた。


「市場も今日で線を引きますわ」


「珍しく頼もしいな」


「珍しく、は余計です」


 だが、誰が何を言っても、結局ここで前に出るのは自分なのだ。


 ユウトは大通りの先、広場に立てられた壇を見た。

 王宮の旗。

 騎士団の配置。

 押収された偽物の山。

 その奥に広がる、王都の人、人、人。


「……ほんとに壮大な公開処刑だな」


 ぼそりと言うと、レティシアが小さく息を吐いた。


「今日は処刑ではありません」


「じゃあ何」


「終わらせる日です」


 その言葉だけが、不思議と少し胸に残った。


   ◇


 広場へ出た瞬間、ざわめきが一段高くなった。


「あれが……」

「本物の」

「異邦人」

「王宮が本気で動いたって、本当だったのね」

「今日は全部はっきりするのかしら」


 はっきりするのかしら、じゃない。

 はっきりさせに来たのだ。


 広場の中央には大きな壇が設けられ、その手前に押収された偽物がずらりと並べられていた。


 粗悪な木工模造品。

 疑似品。

 香油。

 祈祷具。

 偽札。

 “本物の作法”をうたう怪文書。

 地下市場から押収した版下まである。


 それらが朝の光の下に並ぶと、逆にひどかった。

 王都の欲と不安と勘違いを、全部形にしたらこうなるのかもしれない。


 壇上へ立ったのは、まず第二王女セレスティアだった。


 淡い色の王族衣装をまとい、扇を閉じて前を見る姿は、やはり“王女”という感じがする。ふだんは食えないし、たまに面白がりすぎるが、こういう時の人心の掴み方だけは本物だ。


「王都の皆へ告げます」


 その声が広場へ通る。


「いま王都に流れている偽物、模造品、怪文書、その多くが意図的に流されたものであり、すでに地下市場と魔王軍系の工作とのつながりが確認されました」


 広場がざわつく。

 ざわつくが、逃げるようなざわめきではない。むしろ、“やっぱりただの流行じゃなかったのか”という驚きだ。


「これより、王宮、騎士団、神殿、魔導院、学院、商会連盟の立ち会いのもと、押収品の最終確認と処分を行います」


 セレスティアは少しだけ間を置き、それから言った。


「そして、本物は一件のみ。市中のものはすべて偽物であると、ここに明示します」


 来た。


 ユウトは心の中だけでうめいた。

 だが今日は、もう逃げないと決めている。


「シンドウ・ユウト」


「はいはい……」


 ぼそっと返しながら、壇の中央へ出る。


 また視線が集まる。

 やっぱりつらい。

 でも昨日までとは少しだけ違った。


 ただ恥ずかしいだけではない。

 偽物に好き勝手された。

 学院も神殿も市場も振り回された。

 だから今日は、その決着をつけに来た。


 ユウトは黒布袋へ手を入れ、本体を取り出した。


 広場の空気が、一瞬だけ息を止めたみたいに静かになる。


 その沈黙の中で、押収品の確認が始まった。


「まず、木工模造品」


 王宮文官が読み上げる。


 ユウトはひとつずつ見ていく。

 形だけ似せた棒。

 微弱刺激の入った疑似品。

 偽祈祷文つきの道具。

 安眠香。

 上流向けとうたった寝具。


「これは違う」

「これも違う」

「これも関係ない」

「ただの香り袋だ」

「ただの布だ」

「それっぽいだけだ」


 ひとつひとつ、地味だが確実に切っていく。


 レティシアは騎士団代表として、危険性の確認を。

 ミリスは魔導加工の有無と“本物に似てもいない”点を。

 フィアナは偽祈祷文と神殿の無関係さを。

 セリーナは学院に流れた怪文書の虚偽性を。

 ベルナデッタは商会連盟として流通経路を断ったことを。


 全員が、それぞれの立場から同じ方向を指している。


 たぶんそれが、今日いちばん大きいことだった。


   ◇


 だが、それで王都がすんなり納得するほど簡単なら、ここまでこじれていない。


「でも!」


 人垣の中から、誰かが声を上げた。


「本物には、やっぱり何かあるんだろ!」


 来たな、とユウトは思った。


 それは当然の問いだ。

 偽物が偽物だとして、本物がただの無関係品であるはずがない。王都の人間がそこを聞きたがるのは、もう止められない。


 ざわめきが広がる。


「神殿で楽になった人は」

「地下の呪いを払ったって」

「王宮が管理するほどのものなら」

「じゃあ、やっぱり……」


 嫌な流れだった。

 これまでと同じなら、ここでまた“本物は特別”“独占されている”に転がる。


 セレスティアも、それを読んでいたのだろう。

 だが王女が口を開くより先に、ユウトの方が一歩前へ出ていた。


「あるよ」


 広場が静まる。


 自分でも少し驚いた。

 でも、今日はそれを隠して曖昧にする日ではない。


「ある」


 もう一度言う。


「だから王宮が管理してる」


 ざわめきが引く。

 みんな、次の言葉を待っている。


「でも、それは」


 ユウトは、王都の人々を真正面から見た。


 怖い。

 正直に言えば、やっぱり怖い。

 けれど、逃げながら終わらせるには、ここまで来すぎた。


「だからって、お前らが勝手に意味を足していいもんじゃない」


 その言葉は、広場へまっすぐ落ちた。


「肩とか腰とか、整いとか、夜の作法とか、そういうの全部、勝手に足された意味だ」


 ところどころで息を呑む音がする。

 フィアナは目を見開いていた。

 セリーナは、ほんの少しだけ口元を引き結んだ。


「偽物はそこに乗っかってるだけだ」


 ユウトは続ける。


「本物に何かあるからって、偽物に意味が生まれるわけじゃない」


 そこまで言った時だった。


 広場の後方で、また人のざわめきが揺れた。

 嫌な種類のざわめきだ。


 レティシアが即座に気づく。


「後方警戒!」


 騎士団が動く。

 だが、一瞬遅かった。


 人混みの奥から、黒い紙片がいっせいに舞い上がる。


「またか!」


 ユウトが叫ぶ。


 紙片は風に乗って広場へ散り、地面へ落ちるより早く、表面に文字を浮かび上がらせた。


 《本物を見よ》

 《独占を終わらせよ》

 《王都の前で証明せよ》


「ここで来るかよ!」


 ミリスが舌打ちし、フィアナが祈りに入る。

 セリーナは風紀委員たちへ指示を飛ばし、紙片の回収へ動く。

 レティシアは人混みの中へ目を走らせた。


「いる!」


「どこだ!」


 ユウトも振り返る。


 見えた。


 広場後方、露店の屋根の上。

 細身の影。黒い外套。リグ。


「性格悪すぎるだろ!」


 ユウトの怒鳴りに、リグは遠くから笑うように手を広げた。


 その口は動く。

 距離があるのに、なぜか声だけはよく通った。


「証明しろ、異邦人」


 広場がざわつく。


「王都の前で、偽物ではなく本物だと」


「だから今やってるだろうが!」


「まだ足りない」


 リグが指を鳴らす。


 その瞬間、広場の端々で隠されていたらしい偽物が一斉に唸りを上げた。


 粗悪な振動。

 薄い熱。

 香り。

 そして怪文書の文字が、空気を少しだけざらつかせる。


「っ……!」


 ミリスが声を上げる。


「残党が仕込んでた!」


「広場全体に散らしてたのか!」


 セリーナが叫ぶ。


「この場ごと煽るつもりです!」


 フィアナの祈りが走るが、数が多い。

 レティシアはリグを射抜くように見上げる。


「シンドウ殿!」


「分かってる!」


 ここで止めるしかない。

 王都の前で。

 偽物も、噂も、全部ごと。


 ユウトは黒布袋から本体を構えた。

 そして、迷わず換装する。


 近接型ではない。

 いま必要なのは、広場全体の“偽物っぽさ”を壊すことだ。


 カチリ。


 広域寄りの換装が噛み合う。


「うわ……」


 ベルナデッタが後方で小さく息を呑む。

 それも聞こえたが、今はどうでもいい。


「ミリス!」


「分かってる!」


 ミリスが結晶板を掲げる。


「広場中央の石畳ラインに合わせて! 偽物は全部、そこを基点に“なんとなく繋がってる”!」


「雑すぎるだろ!」


「だから壊せるの!」


 レティシアが前へ出る。


「前は私たちが抑えます!」


 セリーナも叫ぶ。


「紙を踏まないでください! 委員会、回収優先!」


 フィアナは祈りながら、振り向かずに言った。


「シンドウさん!」


「なに!」


「ぜんぶ終わらせてください!」


 その言葉が、妙に腹へ落ちた。


 ぜんぶ終わらせる。

 そうだ。今日はその日だ。


「……やるよ!」


 ユウトは広場の中央石畳へ踏み込み、本体を下へ向けた。


 ぶぉん――


 低く、深い振動が広がる。


 広域型の波が石畳を伝い、散らされた偽物の“つながり”へ触れていく。


 最初に壊れたのは香袋だった。

 次に、疑似品の短棒。

 その次に、紙片の文字が一斉にぶれ、浮いていた文言が崩れる。


「効いてる!」


 ミリスが叫ぶ。


「そのまま!」


 ユウトは歯を食いしばる。


 石畳が唸る。

 腕が痺れる。

 視線が痛い。

 でも、止めない。


「偽物全部、黙れええええ!」


 その叫びと同時に、広場じゅうの疑似品が一斉にびりびりと震え、熱を失い、香りを飛ばし、ただの“それっぽいもの”へ戻っていく。


 紙片の文字も消える。

 怪しいざらつきも抜ける。

 広場の空気が、一気に素に戻った。


 静寂。


 ほんの一瞬だけ、王都中央広場が、音を忘れたみたいに静かになった。


「……すげえ」


 誰かが呟いた。


 それが合図みたいに、広場がどっとざわめく。


 偽物は全部死んだ。

 “それっぽさ”は完全に消えた。

 残ったのは、ただの粗悪品と紙片の山だけ。


 そして、壇の中央に立つユウトと、その手の中の“本物”。


 リグの笑みが、屋根の上で初めてはっきり消えた。


「なるほど」


 低く、しかし少しだけ悔しそうに言う。


「そこまでやるか」


「お前がやらせたんだよ!」


 ユウトが怒鳴る。


「偽物に俺の嫌なもん全部乗せて、王都で勝手に育てて、ここで終わらせないとか思うな!」


 その声が、広場じゅうへ響く。


 レティシアがその隙を逃さなかった。


「弓隊!」


 騎士団の矢が、屋根の上へ一斉に放たれる。


 リグは飛び退き、矢を避ける。

 だが、着地先をセリーナが読んでいた。


「そこです!」


 学院側が路地を封鎖。

 フィアナの祈りが、逃走用の呪紙反応を一瞬だけ鈍らせる。

 ミリスが風圧で足場を崩す。


 そして最後は、レティシアだった。


 広場外縁の石柱を蹴り、一気に高さを取る。

 銀青の軌跡みたいに空を走り、そのままリグの前へ着地した。


「終わりです」


「っ……!」


 リグが短杖を抜く。

 だが、もう遅い。


 短い衝突。

 次の瞬間には、レティシアの剣の柄がリグの手首を打ち、短杖が宙を舞う。さらに回し蹴りみたいに足を払われ、リグの体が石畳へ叩きつけられた。


 騎士団が一斉に押さえる。


 広場の空気が、本当に終わりを知った。


   ◇


 そのあとの王都は、妙なくらい静かだった。


 誰もが、目の前で起きたことを飲み込みきれていないような、そういう静けさ。


 偽物は全部壊れた。

 怪文書の文字は消えた。

 黒幕は捕らえられた。


 そして、それを広場の真ん中でやったのは、結局“本物”の兵装を持つ異邦人だった。


「……勝ったのに」


 ユウトがぼそりと言う。


「なんか、勝った気がしないんだけど」


 その声に、ミリスが珍しく少し笑った。


「あなたらしい感想ね」


「だって絶対、また変な神格化されるだろこれ」


「されるでしょうね」


 ベルナデッタがあっさり言った。


「でも偽物市場は死にましたわ」


「お前はそっちの感想なんだな」


「商人ですもの」


 セリーナは、押収された最後の紙片を見下ろして言う。


「学院の方は、これでだいぶ静まると思います」


「よかったな」


「ええ。ようやく“隠している側”ではなく、“止めた側”になれます」


 その言い方に、ここまでの苦労がにじんでいた。


 フィアナは、広場の端で回収された偽祈祷文を見つめながら、小さく息を吐く。


「神殿も、これでちゃんと前へ進めると思います」


「うん」


「……たぶん、かなり怒られますけど」


「そこはまあ、頑張れ」


 フィアナは少しだけ笑った。


 レティシアは、捕縛されたリグが運ばれていくのを見送り、それからユウトへ向き直る。


「お疲れさまでした」


「疲れたよ」


「でしょうね」


「でも、ほんとに終わったのか?」


「王都の偽物騒動は、ひとまず」


「ひとまず、かあ」


 そこが現実的だった。


   ◇


 その日の夕刻、王宮から正式な声明が出た。


 地下市場摘発。

 魔王軍諜報員リグの拘束。

 偽物および怪文書の流通停止。

 王都内での兵装関連噂への注意喚起。


 王都はひとまず落ち着く。


 学院は、風紀委員会主導で偽物持ち込み禁止を改めて徹底。

 神殿は、偽祈祷文と“正しい作法”を明確に否定。

 市場は、商会連盟が偽物に近い商品すらしばらく自粛に入る。


 全部、よい方向だ。


 よい方向、なのだが。


「やっぱりそうなるよな」


 夜になって、騎士団本部の客室で、ユウトは机の上の黒布袋を見ながらため息をついた。


 さっきから外が少しざわついている。

 大声ではない。

 でも、通りを歩く人たちの会話が窓の隙間から聞こえてくる。


「やっぱり本物は格が違う」

「偽物が全部止まったもの」

「王都を守ったんだって」

「じゃあ、ほんとうに……」


「……ほらな」


 勝った。

 終わらせた。

 でも、“神格化”だけはさらに進んだ気がする。


 ノックがして、レティシアが入ってきた。


「まだ起きていましたか」


「うん」


「少し、王宮からの話があります」


「今?」


「今です」


「嫌な予感しかしないな」


 レティシアは、ほんの少しだけ言いにくそうにした。


「殿下は、今回の件で方針を一段進めるつもりのようです」


「進める?」


「はい。隠す段階は終わりだと」


 ユウトは顔をしかめる。


「……それ、どういう意味」


「王都防衛への正式参加、王立学院への特別出入り、神殿・魔導院との共同監督下での運用」


 沈黙。


「国家案件じゃん」


「ええ」


「やだなあ……」


「そうでしょうね」


 だが、そこへさらに別のノックが重なった。


 今度はフィアナとセリーナ、そして少し遅れてミリスまで入ってくる。

 今日は全員、顔が疲れている。

 それでも、どこか少しだけ、吹っ切れたような顔でもあった。


「なに、この打ち上げ前みたいな空気」


 ユウトが言うと、ミリスが肩をすくめる。


「打ち上げというより、次の地獄の共有」


「嫌すぎるな」


 セリーナが真面目に言う。


「学院としては、今後もあなたに協力を要請することになると思います」


「やっぱり」


「ですが、今回の件で少なくとも“あなたが隠したがっている側”ではないことは、かなり浸透しました」


「それはよかったのか……?」


「私には、よかったです」


 その言葉は、少しだけうれしかった。


 フィアナも柔らかく笑う。


「神殿もです。これからは、ちゃんと止めるところからやり直します」


「うん」


「あと」


 彼女は少しだけ照れたように付け加える。


「わたし、前みたいに“少しだけなら”って言わないようにします」


「そこは本気で助かる」


「そんなにですか」


「そんなにだよ」


 ミリスは机の上の黒布袋を見た。


「それと、解析も続けるわよ」


「やっぱり?」


「今回ので終わるわけないでしょ。本物の方はむしろ、ここからが本番」


「言い方が重いな」


「重いもの」


 そして最後に、レティシアが静かに言った。


「少なくとも、いまは王都の偽物騒動に決着がつきました」


 それだけは、たしかに本当だった。


 完全に平穏になるわけじゃない。

 神格化も残る。

 王宮はもっと前へ出そうとする。

 魔王軍だって、これで終わるとは思えない。


 でも、ひとつの騒動は終わった。


 偽物と怪文書と、恥ずかしい噂に振り回された王都炎上編は、たしかにここで一区切りついたのだ。


「……そっか」


 ユウトは、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。


「じゃあ、今日はもう寝るか」


「賛成です」


 フィアナが言う。


「同意します」


 セリーナも言う。


「そうしなさい」


 ミリスが言う。


「明日からまた忙しいでしょうし」


 レティシアまで言う。


「明日から、なんだよなあ……」


 最後にそれだけ漏らして、ユウトは少し笑った。


 王都の偽物は潰えた。

 でも、自分の静かな日常までは戻ってこない。


 それでも、少なくとも今日は。


 偽物に好き勝手されて終わる日ではなかった。


 窓の外では、王都の夜が静かに更けていく。

 昼のざわめきも、偽物の声も、怪文書の文字も、今夜は少しだけ遠かった。


 そして物語は、ここでいったん幕を下ろす。


 異邦の兵装を持ち込み、

 勘違いされ、

 神格化され、

 恥ずかしい噂で削られながらも、

 最後にはちゃんと偽物を終わらせたひとりの男の、王都での最初の大騒動として。


 ――ただし、その先にもっと大きな地獄が待っていることを、彼はまだ半分しか分かっていない。


 これで完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ