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或る司書の逸話  作者: セドカンナレオ / クローディア
12/30

4月12日『私たちはここにいる』

挿絵(By みてみん)

 光が差す。

 

 埃が動く。

 

 扉が開く。


 足音。


 いつからだろう。


 この音を待つようになったのは。


 半年。


 いや、もっと前かもしれない。


 私たちには、境目がない。


           ◇


 指が這う。


 背表紙を、一冊、また一冊。


 振動が伝わる。隣へ。


 私たちは息を止める。


 選ばれる。

  選ばれない。


 どちらでもいい。


 彼女が来た。


 それだけで。


           ◇


 窓際。


 光が、彼女を透かしていく。


 同じ光を吸っている。


 背中の翅。

  肌。

   指先。


 すべてが、薄い。


 陽炎。


 触れたら、消えてしまいそうな。


           ◇


 読まれるたび、擦り切れていく。


 消えていく。


 でも、生まれてもいる。


 彼女の中に。


 何かが。


 彼女もまた、消えていく。


 私たちより、ずっと先に。


 それでも。


 今、読まれている。


 それだけで。


           ◇


 昼。


 三冊目が、棚に戻る。


 隙間が埋まる。


 温もりが残っている。


 眠りにつく。


 また別の本へ。


 彼女は留まらない。


 読み終えると、すぐに次へ。


 時折、彼女は言う。


 『時間』、と。


 私たちには、分からない。


 百年も、一日も、同じだ。


 なぜ、それが「ない」のだろう。


           ◇


 夕暮れ。


 五冊目を閉じ、彼女は窓を見ている。


 背中で、何かが揺れている。


 光を透かして。


 風もないのに。


           ◇


 私たちは脇役だ。


 いつも。


 でも。


 彼女の方が大切だ。


 擦り切れても、いい。


 彼女が読めるなら。


           ◇


 閉館の間際。


 窓の外を、彼女は見ている。


 私たちには見えないものを。


 『断片』を。


 だから、読む。


 報われなくても、いい。


 来てくれるだけで。


           ◇


 唇が、動いた。


 声は届かない。


 でも、分かる。


 祈りだ。


 自分自身への。


           ◇


 扉が閉まる。


 薄い影。


 夕日に溶けていく。


 私たちは眠らない。


 祈りを継いでいる。


 また。

  また。

   また。


制作メモ:一人称複数視点を採用した回。

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