4月12日『私たちはここにいる』
光が差す。
埃が動く。
扉が開く。
足音。
いつからだろう。
この音を待つようになったのは。
半年。
いや、もっと前かもしれない。
私たちには、境目がない。
◇
指が這う。
背表紙を、一冊、また一冊。
振動が伝わる。隣へ。
私たちは息を止める。
選ばれる。
選ばれない。
どちらでもいい。
彼女が来た。
それだけで。
◇
窓際。
光が、彼女を透かしていく。
同じ光を吸っている。
背中の翅。
肌。
指先。
すべてが、薄い。
陽炎。
触れたら、消えてしまいそうな。
◇
読まれるたび、擦り切れていく。
消えていく。
でも、生まれてもいる。
彼女の中に。
何かが。
彼女もまた、消えていく。
私たちより、ずっと先に。
それでも。
今、読まれている。
それだけで。
◇
昼。
三冊目が、棚に戻る。
隙間が埋まる。
温もりが残っている。
眠りにつく。
また別の本へ。
彼女は留まらない。
読み終えると、すぐに次へ。
時折、彼女は言う。
『時間』、と。
私たちには、分からない。
百年も、一日も、同じだ。
なぜ、それが「ない」のだろう。
◇
夕暮れ。
五冊目を閉じ、彼女は窓を見ている。
背中で、何かが揺れている。
光を透かして。
風もないのに。
◇
私たちは脇役だ。
いつも。
でも。
彼女の方が大切だ。
擦り切れても、いい。
彼女が読めるなら。
◇
閉館の間際。
窓の外を、彼女は見ている。
私たちには見えないものを。
『断片』を。
だから、読む。
報われなくても、いい。
来てくれるだけで。
◇
唇が、動いた。
声は届かない。
でも、分かる。
祈りだ。
自分自身への。
◇
扉が閉まる。
薄い影。
夕日に溶けていく。
私たちは眠らない。
祈りを継いでいる。
また。
また。
また。
制作メモ:一人称複数視点を採用した回。




