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断頭台に散った悪役令嬢は、現代でプログラマーとなり乙女ゲームに『真の救済エンド』を実装する  作者: あとりえむ


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第9話

深夜の静寂が満ちる学園。


本来、プログラム上のルーチンでは、午後十時を過ぎれば全キャラクターは寮の自室に固定され、移動フラグは「False」に書き換えられるはずだった。


だが、莉奈のモニターに映るセレスティアとクライヴは、月光に照らされた中庭を音もなく進んでいた。


莉奈の指が、コンソール画面上で最後のコマンドを叩く。


「アンロック。……ここからは、あなたたちの時間よ」


神崎が設計した「清廉潔白な学園生活」という見せかけの平穏。

その裏側に潜り込むための、莉奈だけの秘密のバイパスだ。


画面の中の二人は、昼間の華やかな喧騒が嘘のように静まり返った回廊を、影に溶けるようにして歩んでいく。


クライヴの立ち絵は、莉奈が密かに調整した「隠密」補正によって、周囲の風景と不自然なほど馴染んでいた。

それはバグではなく、莉奈がコードの隙間にねじ込んだ、この理不尽な世界への宣戦布告だった。


セレスティアの足取りは、前世で処刑台へと向かった時よりもずっと確かで、迷いがない。


莉奈はモニターの青白い光に顔を照らされながら、自らが生み出した「共犯者」たちの背中を、熱を帯びた瞳で見つめていた。


今夜、この場所で、神崎が書き損じた──あるいは意図的に隠蔽した王国の真実が暴かれることになる。


マウスをクリックする音だけが、莉奈の部屋に小さく響いた。



二人が立ち止まったのは、厚い石造りの扉の前だった。

王族の直轄領である地下禁書庫。


本来、ここには王家の紋章を持つ許可証と、高位の魔術師による認証がなければ一歩も足を踏み入れることはできない。


だが、莉奈は事前にクライヴのステータス画面を開き、未使用のスキルポイントを「概念干渉:解錠」という自作の非正規スキルへと無理やり割り振っていた。


「クライヴ、やって」


莉奈の囁きに呼応するように、画面の中のクライヴが扉に手を触れる。


本来なら警報の魔法が発動し、衛兵が駆けつけるはずの場面だ。

しかし、莉奈が構築したバイパスコードが、認証システムを一時的な「メンテナンスモード」へと誤認させる。


青い火花が一度だけ散り、重厚な扉が音もなく滑るように開いた。


「……信じられません。このような禁域を、これほど容易く」


クライヴの驚愕の台詞がウィンドウに浮かぶ。

二人が踏み込んだ先には、埃を被った膨大な台帳と、怪しく光る魔道具の保管庫が広がっていた。


「驚くのはこれからですわ、クライヴ。表向きの平和が、どれほど汚れた手足に支えられているのかを、その目に焼き付けなさい」


セレスティアの言葉は冷たく、そして鋭い。

莉奈はモニターを食い入るように見つめ、キーボードを叩いて情報の検索を開始した。


この図書館そのものが一つの巨大なデータベースだ。

莉奈は「アルフレッド」と「アリシア」というキーワードを軸に、物語の裏側に隠された黒いインクのシミを炙り出し始めた。


莉奈の視線が、モニター上を走る文字の羅列を捉えた。

検索クエリが弾き出したのは、公文書の体裁を借りた汚職の迷宮だった。


画面の中、セレスティアが書棚の奥から一冊の赤い手帳を引き出す。

そこには、王太子アルフレッドが軍事予算を偽造し、禁止された呪具を秘密裏に買い漁っていた詳細な記録が刻まれたいた。


「殿下が……これほどの額を?」


クライヴの絶句する台詞が流れる。だが、本当のバグはそこではなかった。

莉奈がさらに深層の暗号化されたフォルダを強制解除した瞬間、紫色の封蝋がされた一通の書簡がスキャニングされた。


それは、聖女アリシアと隣国の諜報機関エクリプスとの間で交わされた密約。

彼女が人々の前で見せる癒やしの奇跡の正体は、隣国の最新魔法デバイスによる偽装工作であることが、技術仕様書と共に露呈した。


彼女は聖女などではない。

王国の混乱を招くために送り込まれた、高度な技術を持つ工作員だったのだ。


「ただの意地悪な女だと思っていたけれど……まさか、国家そのものを売り払うつもりだったなんてね」


莉奈の指が凍りつく。

神崎の書いた完璧なヒロインの裏側に、ここまでの毒が仕込まれていたとは。


いや、神崎自身も気づいていないのかもしれない。


莉奈がプログラムの隙間を縫って掘り起こしたこの真実は、今や公式のシナリオを塗り替え、物語を全く別の方向へと加速させようとしていた。


画面の奥で、アリシアの立ち絵が薄笑いを浮かべているように見える。

だが、その仮面を引き剥がすための鋭利な刃は、今、莉奈の手の中に揃った。


セレスティアは、震える手で資料を握りしめるクライヴの肩に、そっと手を置いた。


「驚くことはありませんわ。光が強ければ強いほど、その足元にはドロドロとした影が溜まるもの。彼女が聖女なら、私はその奇跡を剥ぎ取る剥製師になりましょう」


彼女の言葉は、冷たい氷の刃のように、深夜の禁書庫に響き渡った。


アリシアが作り上げた偽りの救済も、アルフレッドが私欲のために歪めた正義も。

それらすべてを白日の下に晒し、最も華やかな舞台で、彼らが最も信じている場所から引きずり落とす。


莉奈はモニターの前で、入手した「隣国との密約」と「裏帳簿」のデータファイルを、セレスティアのインベントリの最上段へとドラッグした。


システム上、それはただのフラグ情報の塊に過ぎない。


だが、莉奈の手によって命を吹き込まれたそのコードは、今や王国の運命を切り裂く死神の鎌へと姿を変えていた。


「さあ、パーティーの準備を始めましょうか。主役たちが、自分たちの破滅に気づかないうちに」


莉奈はキーボードから指を離し、背もたれに深く体を預けた。

暗い部屋の中で、モニターの光が彼女の冷徹な笑みを青白く照らし出す。


復讐のカードはすべて揃った。

あとは、誰にも邪魔されない最高のタイミングで、この「バグ」だらけの世界を崩壊させるだけだ。

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