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私が大公女!? (8/19 加筆修正)

8/19 加筆修正を行いました。

 大公子妃アシェラが目覚めた後も、ミレイユは彼女の元へ足繫く通って日々癒しの力を行使する。その甲斐もあって数日後にはアシェラはベッドから起き上がる事が出来るようになり、食事も取れるようになった事で、やせ細っていた身体は順調に回復し健康を取り戻していった。


 「……どうですか?」

 「ええ、楽になったわ。本当に貴方の癒しの力は凄いわね。心も温かくなって、また頑張ろうって気持ちが湧いてくるの」

 

 椅子に座ったアシェラの対面に座り、その手を握りながら祈りを捧げるように目を閉じていたミレイユ。

 目を開けた彼女が尋ねると、アシェラは随分楽になったと微笑む。一週間ほど前までは目を開ける事さえなかった彼女の回復ぶりは目を見張るものがある。

 それも全て貴方のお陰よと微笑むアシェラに、照れくさそうにミレイユは頬を赤らめた。


 「半年前に産んだ娘は、三日もしない内に冷たくなってしまった……子供を待ち望んでいたあの人に抱かせてあげる事すら出来なかった」

 「アシェラ様……」

 「辛かった、苦しかった、申し訳なかった。あの人に、孫を期待していたお義父様とお義母様の期待に応えられなかった自分が嫌で、消えてしまいたかった」


 貴族達は子も満足産めぬ女など大公子妃に相応しくないと誹謗中傷し、人前に出る事すら怖くて部屋に閉じこもるようになり、やがて病を患いベッドから起き上がる事すら出来なくなった。

 それを救ってくれたのは貴方よとアシェラはミレイユをそっと抱きしめる。

 

 「貴方が私を目覚めさせてくれたから、私は夫やお義父様達にどれだけ愛されているか知れたの。怖い、なんて言っていられない、私は今度こそ子供を産みたい。この世で一番愛しているセルヴェンに子供を抱かせてあげたい。私を認めてくれ、愛してくれたお義父様とお義母様に孫を抱かせてあげたい。だから私、もう一度頑張るわ。周りの心無い声なんて、もう気にしない」

 

 夫と義父達に絶対に子供を抱かせてあげたいのとアシェラは力強く言った。そんな彼女の姿は眩しく見え、同じ女性としてミレイユはアシェラを格好いいと思った。


 「ちょっと昔話をしようかしら、実は私達の結婚って、最初はお義父様達に反対されてたの」

 「え、ええっ!? そ、そうだったんですか? そ、そんな風に見えません……」


 結婚を反対されていた、アシェラのその言葉にミレイユは驚いて目を見開く。アシェラが目覚めて以降、大公夫妻は毎日のように彼女の元へ足を運び具合はどうだと優しく声をかけていた。

 てっきり昔からアシェラの事を気に入っているのかと思っていたミレイユに彼女は言葉を続ける。


 「私は子爵家の出身なの。学園でセルヴェンと出会って恋に落ちたけど、子爵令嬢と大公子なんて釣り合う筈がないって陰口を叩かれたわ。大公家の跡取りとして将来を有望されてるセルヴェンの妻には、高位貴族の娘が望ましいって、お義父様にも反対されたの」

 「そ、それで……どうなったんですか?」

 「幾ら説得しようとしても聞く耳を持たないお義父様に、あの人がキレて決闘を申し込んだわ。自分が勝ったら結婚を認めろ、負けたら諦めてやるって、売り言葉に買い言葉でお義父様も乗っちゃって、その日の内に大公領のお城にある練兵場で親子の決闘が始まったの」


 「え、ええっ! た、大公様とセルヴェン様が決闘を……!?」


 想像を絶する展開に、ミレイユは思わず声を上ずらせた。ミンディアから聞いた話では、大公親子は並の貴族が一属性しか使えない中で炎、氷、雷の三属性を操る事が出来る規格外の存在だ。そんな二人の決闘なんてどうなったのかと顔を青褪めさせている。


 「両者譲らず、炎が、氷が、雷が何時間も練兵場の中で荒れ狂ったわ。最終的にはセルヴェンが勝利したけど、広大な練兵場が半壊した程の凄まじい戦いだったの……お義父様は約束を守って、私達の結婚を認めてくれた、そこからは私の頑張りよ。あの人達に認めてもらえるように頑張ったの」


 今のとても仲のいい家族のやり取りからは想像もできない壮絶なやり取りに、そんな事があったんですねと思わず声を漏らすミレイユに、クスクスとアシェラは笑う。


 「ぶつかった分だけ、私達は互いを理解できたわ。セルヴェンだけじゃなく、お義父様もお義母様も私のかけがえのない家族なの、だからあの人達に、今度こそ孫を抱かせてあげたいわ」

 「ならまずは、お身体もお心も健やかにしないとダメですね」

 「ええそうね。まだしばらくはお世話になるわ、ミレイユさん」


 よろしく頼むわねと微笑むアシェラに、ミレイユもお任せくださいと胸を叩いて笑った。 


 回復目覚ましいアシェラは、最近では以前の日課だった大公妃との散歩やお茶会などもこなすようになり、元気になった義娘の姿に彼女が病にかかって以来塞ぎ込みがちだった大公妃も笑顔を取り戻し、それを大公親子も微笑ましそうに見つめていた。


 今日はミレイユも誘われ、東屋で開かれた茶会に参加している。

 

 「短い期間しか学んでないのに、様になっているわねミレイユさん。貴方の指導のお陰ねシンシア」

 「お義母様の仰る通りね。もう少し学べばお茶会に出ても問題ないくらいの素晴らしい作法だわ」

 「勿体ないお言葉です大公妃様、アシェラ様。ミレイユ嬢が努力されたからですよ」

 「お褒めくださりありがとうございます」


 アシェラ付きの侍女に教わった作法でお茶を飲むミレイユを、二人は様になっているわと侍女やメイド達と共に褒め、彼女はその賞賛に微笑んでいたが、彼女の肩に乗っていたユーリィが表情を強張らせて耳元で囁いた。


 『ミレイユちゃん、今アシェラ様の紅茶を淹れたメイド、何か変な物を入れたですっ』

 「え……? アシェラ様、それを飲んじゃダメですっ!」

 

 大公家ではミレイユの前以外ではなかなか姿を見せないユーリィ。姿を隠したままだった精霊は新たにカップに紅茶を注いでいるメイドが怪しい動きをしていたと告げる。

 毒かもしれない、彼女の言葉に即座に判断したミレイユがカップに口を着けようとしていたアシェラへと叫べば、紅茶を淹れたメイドが何故気付いたのかとばかりに顔を引き攣らせた。

  

 「その者を捕えなさい!」

 

 逃げ出そうとしたメイドは、大公妃の指示で護衛の騎士達に即座に取り押さえられる。騒ぎを聞きつけ人が集まってくる中、ユーリィは置かれたままのカップに鑑定魔法をかけていた。

 その結果は、アシェラの紅茶に子供が産めなくなるような毒が入れられていた。その事をミレイユが伝えれば大公妃達は顔を青褪めさせる。


 「ユーリィが教えてくれたんです。あのメイドが怪しい動きをしていたと」

 「貴方の小さなお友達のお陰で助かったわ……本当にありがとう」

 「アシェラさんの言うとおりね、また貴方達に助けられたわ」


 自分が狙われたという事に顔を引き攣らせ震えていたアシェラだったが、貴方とユーリィのお陰で助かったとミレイユの身体をギュッと抱きしめ、よく伝えてくれましたと大公妃も彼女の頭を優しく撫でて労う。

 

 後から駆け付けたハインツ達が直ちにメイドへの尋問や調査を進め、その結果彼女の部屋から使用された毒物だけでなく、驚くべきものが発見された、それは大公家に最近すり寄り続けていた侯爵家とのやり取りの手紙だった。


 メイドは死産の後塞ぎ込んでいたアシェラに対し、弱いものだが身体を確実に蝕む毒を盛り彼女を原因不明の病と見せかけて殺害しようとした。その指示内容が書かれた手紙を、メイドはいざという時に切り捨てられぬよう自分が生き残る為の手札として処分せずにいた。その結果、アシェラを亡き者にして自分の娘を大公子妃にしようと画策した侯爵家の陰謀が明らかになった。

 毒で死ぬ筈だったアシェラが奇跡的な回復を遂げた事に焦った侯爵家は、メイドに命じて彼女が子供を産めぬ身体にしようと強力な毒を盛ろうとしたのだ。


 「あの男め、子を産めぬ女など相応しくないとアシェラの事を散々詰っておいて、その裏でこんな事をやっていたとはな……余程死にたいらしい」

 「父上、簡単に死なせてはいけません。奴は生き地獄に叩き落として我が大公家に、アシェラに手を出した事を一生後悔させてやりましょう」

 「ああ、そうだな。セルヴェン、お前はハインツと共に証拠集めを進めろ。私は兄上に働きかけ貴族裁判を起こす手続きをする」

 「承知しました。こちらはお任せください」

  

 その陰謀を知った大公親子は激怒し、証拠集めが進むと直ちに貴族裁判が開かれることになり、拘束された侯爵は大公子妃毒殺を目論んだ罪で爵位を剝奪され、一族も平民に落され財産の全てを奪われ、当人は奴隷として囚人達が働かされる鉱山へと送られる事になった。

 

 一度ならず二度も大公子妃を救ったミレイユを、そしてその手助けをしたユーリィを大公一家や使用人達は口々に褒め、使用人達とも打ち解けたユーリィ。


 『クッキー美味しいですぅ♪』

 「ふふ、好きなだけ食べてねユーリィ」

 『ありがとうございます、アシェラ様っ』


 大公家の人々の前では姿を現すようになったユーリィは、大公妃と大公子妃のお茶会に参加してお菓子を分けてもらったり、使用人達からもお菓子を貰って幸せそうに頬張っている姿が良く見られるようになった。

 

 

 

 すっかり回復した大公子妃、彼女の快気を祝して屋敷内の人間でパーティが開かれる事になった。

 その立役者であるミレイユは可愛らしいドレスを着て、大公一家の側で集まった皆と談笑している。最初は遠慮がちだった彼女も、今では皆と笑顔で話せるようになり、口々に彼女を褒め称える使用人達の言葉に嬉しそうに微笑んでいた。

 パーティの最中に集まった人々の前で、大公子妃を癒した事に感謝を述べた大公は彼女が驚くような提案をする。


 「ミレイユ嬢、君には本当に感謝している。義娘を、息子を救ってくれてありがとう。君が居なければどうなっていた事か……君は我がアーグランド大公家の恩人だ。その恩に報いる為に……君に、私達夫婦の養女になって欲しいんだ」

 「わ、私が、大公殿下ご夫妻の……?」

 「ああ、君さえ良ければの話だが……ただでさえ希少な光魔法に、他人の心や身体を癒す力、それを狙う悪い輩も居るだろう。だが私達夫婦の養女になれば、そういう輩から庇護する事が出来る」


 日に日にやせ細り弱っていく大公子妃、そんな彼女を救おうと必死に足掻くも、何の成果もあがらず荒んでいく息子が救われた。その事に大公は深い感謝の念を抱いている。


 彼女を養女に迎える事は、息子夫婦とも相談して決めた事だ。彼女は国内でも使い手が数える程しか居ない光魔法の使い手、それも他人の心や身体を癒し病まで治す希少なものだ。

 このまま外に出れば間違いなくその力を狙う貴族が現れる。伯爵家もその力で利益を得る為に彼女を取り戻そうとするだろう。そして権勢や富を求める神殿も聖女と称して囲い込もうとする筈だ。そんな者達から守る為に大公家に迎えようと決めたのである。


 「そ、そんな、私なんかが……そんなお話をお受けしてしまっても、よろしいんでしょうか……?」

 「私は大賛成よ、こんなに可愛らしい娘ができるなんて嬉しいわ」

 「もちろん私も大歓迎だ、アシェラもそう思うだろう?」

 「ええ、貴方にはいっぱい恩返しがしたいの、貴方が家族になってくれるのならどんなに素敵な事かしら」


 驚愕に目を見開きしどろもどろになるミレイユ、だが大公一家は口々に大歓迎だと賛成の意を示す。ああ、この人達が自分の家族になってくれる。こんなに優しい人達が、自分の家族になる。

 顔を俯かせフルフルと身体を震わせていたミレイユは顔を上げ、溢れる涙を抑えきれないままに、大きく頷いた。


 「私なんかが大公家に養女になれるなんて、本当に夢みたいで……あ、ありがとうございます。皆さんっ」

 「こちらこそよろしくね、可愛いミレイユ」

 「ああ、改めてよろしくミレイユ……今日から君は私たちの大切な娘だ」


 感極まったミレイユの小さな身体を、大公夫妻が抱きしめる。二人の腕の中で嬉しさのあまり涙を零すミレイユへと、セルヴェンとアシェラ、そして集まった大公家の人々が口々に祝いながら手を叩き祝福する。

 幸せになりたい、そう願い続けた少女は、大公家の優しい人々に家族に迎えられる事になった。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

 短編で描いたパートが終了しましたので、ここからは完全新作の投稿となります。


 8/19 セルヴェンとアシェラの結婚に関するエピソードを追加しました。

 ここでは仲のいい大公一家ですが、本来進む未来では、アシェラの死によりセルヴェンは狂い、彼を諫めようとした大公夫妻は彼に殺害されました。

 いずれはこの闇堕ち展開も、IFエピソードとして書いてみたいですね。


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