友人達との集い
大公家のタウンハウスで開かれた夜会。そこでミレイユに接近してきた、神殿派の筆頭格であるオクトラド侯爵家令息ハーロン。
自分を懐柔しようと話しかけてくる少年への対応に苦慮していた彼女を救ったのは、ユージェン候子とアルバート公子だった。
「助かりました、ユージェン、アルバート……正直困ってたんです」
「大恩ある貴方をお守りするのは当然です。お気になさらず」
「露骨すぎるんですよね彼、大方神殿からの指示でしょう」
ハーロン候子への対応に苦慮していたところで来てくれた二人に礼を述べるミレイユ。
彼女の微笑みにユージェンは少し顔を赤くしながら視線を逸らして応え、アルバートは赤面している友人を見て苦笑しつつも推測を述べる。
この大公女はフィルンハルト皇子だけでなく、いつの間にかユージェンまで夢中にさせているようなのだ。これを見たらフィルがどんな顔をするやらと彼はまた苦笑した。
ミレイユ達はリーゼロッテ達の集まる場へと向かう、そこには三人に加えて宮廷魔術師団長の令息であるレイシェルも居た。
「ミレイユ様、今日はお招きいただきありがとうございます。ユーリィもこんばんは」
「ようこそレイシェル」
『レイ君、こんばんはですっ』
リーゼやラーナと談笑していたレイシェル。彼はミレイユ、そして彼女の傍らを飛んでいる小さな精霊ユーリィへと挨拶をする。
彼女の姿は周りの招待客達には見えず、彼女の祝福を受けたミレイユの友人達にしか見えない。
「レイ、ユーリィって誰の事だ? ここには僕らと大公女殿下しか……」
「あ、そっか、ユージェンはまだユーリィの祝福を貰ってないんだった」
ただユージェンだけは彼女から祝福を受けていない為、何を言っているんだと首を傾げている。
周りの大人たちに見えないようにミレイユ達が円陣を組むと、こっそりとユーリィが姿を見せた。
「なっ……た、大公女殿下、この子は?」
「私や皆の友達、光の精霊ユーリィよ。ユージェンのお母様を蝕んでいるのが呪いだって教えてくれたのもこの子なの」
「そうでしたか……初めましてユーリィ、ユージェン・アインウェルだ。母上を助けてくれてありがとう」
『どういたしましてですっ、ねぇミレイユちゃん、ユー君にも祝福を上げていいですか? 一人だけ仲間外れはダメですっ』
突然現れたユーリィに驚くも、彼女が自分の母親を救う一助を担ったと聞いて、深く頭を下げて感謝の言葉を口にする。
にっこりと笑う小さな精霊は、ユージェンにも祝福を渡したいとミレイユに訴えかけた。
ユーリィの言う事も最もだと頷いたミレイユは、皆と共にホールを出て控え室に移動する。
『ユー君にも祝福をあげますっ、これで皆と一緒ですっ』
フワリと宙を飛んだユーリィが片手を掲げて魔力を解放すると、淡い輝きが降り注ぎユージェンの身体を優しく包み込む。
精霊の授ける祝福、それ受けた者には幸運が訪れ、危険から守って貰えると言い伝えられているものだ。
「ああ、やはり幻想的で素晴らしい光だっ、また見れるなんて感激ですっ!」
「落ち着けレイ……ところで君、魔術師団長殿にバレてないだろうね?」
「も、勿論っ、ちょっと怪しまれたけどなんとか誤魔化したよ! もしバレたらミレイユ様の所に突撃しに行くのは目に見えてるからさぁ」
「あ、あははは……そ、それはちょっと勘弁してほしいかな」
祝福の輝きを見て興奮を隠さぬレイシェンに苦笑するアルバート。
祝福を授かった事をバレてないだろうなという問いにレイシェンは、父である魔術師団長にバレたら大騒ぎになるから、なんとか誤魔化したと答える。
「これが精霊の祝福……ありがとうユーリィ」
『えへへっ、ユー君も私とお友達になって欲しいですっ』
「喜んで、これからよろしくな」
『はいですっ、またお友達が増えて嬉しいです♪』
自分を包み込む淡い輝きを見つめ驚いていたユージェン。彼が友達になってくれると聞いて、ユーリィは嬉しそうに宙を飛んで回り、それを見上げるミレイユ達は皆笑顔を浮かべた。
その後は控え室を出て、皆で談笑しながら皇帝一家の到着を待つミレイユ達。
「ルミア嬢、この間君が教えてくれた本、なかなか面白かったよ」
「それは良かったです、アル様にお借りした本もどれも素敵な本で、続きが気になります」
「またうちの屋敷においでよ。母上も君なら大歓迎だと言っていたから」
ルミアと親しげに言葉を交わすアルバート。ルミアも彼から借りた本がとても面白かったと嬉しそうに微笑んでいる。
「ルミアとアルバートっていつの間にあんなに仲良くなったの?」
「二人とも読書好き、というか本の虫ですからね、共通の趣味で意気投合したみたいです」
「個人的にお屋敷に招かれて、宰相閣下や奥様にも良くして頂いたってルミア言ってましたわ」
二人がいつの間にあんなに親しくなったのだろうかと聞けば、ラーナフェルトとリーゼロッテが答える。
共通の趣味で意気投合した二人は互いの屋敷を行き来し、お気に入りの本について語り合い、同じく読書家である宰相であるクライスト公爵や夫人にも気に入られたというのだ。
ミレイユが前世でプレイした恋愛ゲーム『スターライト・ロンド』でも、アルバートルートのライバルキャラが居た筈だが、ルミアでは無かったとミレイユは記憶している。
またゲーム本来の未来に影響を及ぼしそうな事が起きているが、ミレイユはそれに対し何か行動を起こす気はもう無かった。
侍女長に呪い殺されそうになっていた、ユージェンの母である侯爵夫人を救った際の出来事で彼女は己の気持に整理をつけたのだ。この世界はゲームではない、人々はちゃんと生きている。ならば前世の知識など参考程度にしておいて、自由に生き人々と接していこうと決めたのだ。
「帝国皇帝、レイグランデ・アークトゥルス陛下並びにセフィリア皇后陛下、皇太子殿下ご一家がご入場されます!」
談笑していたミレイユ達は、皇帝の到着を告げる侍従の声に振り向く。広間の扉が開かれ皇帝と皇后、そして皇太子夫妻とフィルンハルトが入場してくる。
それに合わせてホール中の貴族達が一斉に礼をとり皇帝一家を出迎える、皇帝は悠然と手を挙げて応えながら大公夫妻の元へと歩く。
本来ならば第一皇子であるヴァーロット一家も招待される筈だが、しばらく前に皇宮内で第一皇子妃アレクサンドラが、ミレイユへ威圧的な態度を取り理不尽な要求をした事があり、皇后と自分との協定を破るような要求と、愛娘に対する態度に激怒した大公妃は報復として皇太子一家だけ招待したのだ。
「ようこそ兄上、今宵は楽しんでいってください」
「ああ、招待ありがとう弟よ」
弟であるハーヴェント大公に対し鷹揚に頷き言葉を交わす皇帝。
皇后と大公妃、そして大公子夫妻も皇太子夫妻と歓談を始める中、皇孫であるフィルンハルト皇子は大公一家に挨拶した後に、まっすぐミレイユ達の元へと近づいていく。
「フィル様、今宵はお越しいただきありがとうございます」
「ああ、招待ありがとうミレイユ。今日も綺麗だね」
「ふふっ、ありがとうございます」
ミレイユと挨拶を交わした後、続いて友人達とも言葉を交わすフィルンハルト。
幼い頃からの気の置けない友人達だけでなく、ミレイユを通じて知り合ったルミアも彼のお気に入りだ。
「アル、ルミア嬢、皇室図書館に隣国で流行している小説を沢山蔵書に入れてもらったよ。今度見においでよ」
「この間君が面白いと言ってた作家の物かい? それは楽しみだね」
「はいっ、私も楽しみですっ」
皇子に大公女、そして皇党派の重鎮たる公爵、侯爵の令息令嬢たる彼らの中に一人子爵令嬢であるルミアが居るのは傍から見れば場違いなように見えるが、彼らは気にした様子もない。
だがそれを面白くないと思う者達も当然居る、皇党派に属する貴族の子女の一部は、フィルンハルトやアルバートと親しげに談笑するルミアへと、気付かれないようにしながら嫉妬の視線を向けている。
皇太子の長男であり、皇帝のお気に入りの孫であるフィルンハルト。そして次代の宰相候補と言われる天才アルバートは貴族の子女達からも人気が高い。
特にルミアとアルバートの距離が近いのが気に入らない令嬢は多い。子爵令嬢が気軽に接していい相手ではないと皆思っているのだ。
「すみませんミレイユ様、少し両親の所に行ってきます」
共に来ているベーレント子爵夫妻の元に行ってくると離れたルミアだったが、しばらく経っても戻ってこず、ミレイユ達は首を傾げる。
探しに行くと告げたアルバートに皆も着いていく、中庭へと続く扉を押し開けると、夜の冷気が頬を撫でた。
広間の喧騒が遠のき、代わりに噴水の水音と庭木を揺らす風の音が耳に届く。篝火の灯りが石畳に揺れる影を落とす中を歩くミレイユ達、彼女達の歩く先に何人かの令嬢の姿があった。
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