魔法の勉強
今日と明日は2話投稿します
アシェラ大公妃の治療以外の時間に、大公家の人々からこの世界の常識や作法などを学ぶミレイユ。
今日は新たな教師として、魔法について教えてくれる魔法学者との初顔合わせの日だ。
「ははははは、初めましてミレイユ嬢! 大公家にお仕えしている魔法学者のミンディアと申します。大公子殿下のご指示により、きょ、きょきょきょ今日から貴方の魔法の先生を務めさせていただきます!」
「ミ、ミレイユです。よ、よろしくお願いします」
「はははははいっ、こここちらこそっ! ひ、光魔法の素養のある御方を指導できるなんて、こ、光栄ですっ!」
長い黒髪を三つ編みのおさげにした、度の高い眼鏡をかけた二十歳くらいの若い女性。魔法学者であるミンディアは興奮した様子を隠さず、その様子にちょっと引いてしまっているミレイユ。
側に立っていたハインツが溜息を一つ吐くと、興奮した様子のミンディアの頭を軽く叩く。
「い、いったぁぁぁっ!? な、なな何するんですか兄さん!?」
「少しは落ち着けミンディア。ミレイユ嬢がドン引きしてるぞ」
「えええっ!?お、お嬢様申し訳ありません! つい興奮してしまって……」
「すいません、彼女は私の妹なんですが、重度の魔法オタクでして……ミレイユ嬢は希少属性である光魔法の素養があるから興奮してるんです」
彼女はハインツの妹で、幼少期は兄と共にセルヴェンの側役を務めていた大公家の信頼厚い人物だが、重度の魔法オタクで一度スイッチが入ると暴走気味になる悪癖がある。
ミンディアは顔を真っ赤にして深々と頭を下げ、そのあまりに素直な謝罪にミレイユは思わず小さく笑みをこぼす。
「ふふ、大丈夫です。ミンディア先生が魔法が大好きなんだなってよく分かりましたから」
「な、なんてお優しいお言葉……! ありがとうございます、お嬢様!」
感激に目を潤ませるミンディアの手を取り、ミレイユはにこりと微笑んだ。兄であるハインツは、そんな二人の様子を微笑ましく見守っている。
「早速講義を始めていきたいところですが、その前に一つ質問を……お嬢様は何がきっかけで光魔法が覚醒したんですか?」
「え、えっと、これ言っていいのかな……あのその……ひ、光の精霊王様が、私の眠っていた力を目覚めさせてくれたんです。それで大公子様達を助けて欲しいってお願いされて」
「せ、せせせせ精霊王っ!? ひ、光の精霊王とは、伝承にあるリモーネ様っ!?ど、どんなお姿をされてましたか!? く、詳しくご説明を……」
「落ち着けこのバカっ! また暴走しやがって!」
「いたたたたっ!? ご、ごめんなさい兄さんっ、つい取り乱してしまいました……」
光の精霊王と会った、それを聞いた途端に飛び付かんばかりの勢いでミレイユに尋ねてくる。
落ち着けとハインツに再び頭を叩かれたミンディアがしゅんと項垂れる。その様子にミレイユはクスクスと笑う。
だが妹のこの反応は無理も無いかとハインツは顔を顰める。精霊ですら殆ど人の前に姿を見せる事が無いのだ。ましてや精霊王など建国史に登場するくらいなのだから。
「ミレイユ嬢、言う必要はありません。むしろ精霊王と直に会っただなんて広まったら、面倒な事になりますから」
「や、やっぱりですか? ごめんなさい先生、教える事は出来ないです……」
「そ、そんなぁ……でも仕方ないですよね。困らせるような事を言ってすみませんお嬢様」
精霊王に力を目覚めさせてもらった、希少属性である光魔法の使い手。まず間違いなく神殿が聖女認定して囲い込もうとするだろう。
権勢と金の亡者である彼らは、自分達の利益の為に帝国の内政にすら干渉しようとしてくる欲深い連中だ。これは主にも報告して注意すべき案件だなとハインツは考え込む。
気を取り直して授業を始めましょうと語るミンディアは黒板に文字を書いていく。
「まずは魔法についての基礎知識からいきましょう。魔法の属性は大きく分けて8つ、火、水、土、風、氷、雷が一般的な属性魔法で、光と闇は希少属性とされています」
「闇も希少属性なのですか」
「ええ、もっとも闇魔法は、悪魔達と契約しなければ使えない外法で禁忌とされています。使用した者は神殿の異端審問にかけられるでしょうね」
闇魔法は人の心を操ったり、人の命を奪いそれを己の力に出来るなど、他の属性には出来ない事が出来るが、それを使用するには悪魔に生贄を捧げて契約しなければならないと語るミンディア。
「大抵の人は一人一属性の魔法の才に目覚めますが、皇室の血統を受け継ぐ方々は複数属性を扱える事が多いです。皇帝陛下と皇太子殿下は火、水、土、風の四大元素を、大公殿下と大公子殿下は氷や雷、炎の属性魔法を使う事が出来ます」
自分の生まれた家、オルフィア伯爵家は代々優秀な炎の魔法使いを輩出している大家だった事を思い出すミレイユ。
皇室の血統が別格である証、大抵は一属性しか使えない魔法の素質を、複数有している事だ。
それは魔法が物を言うこの世界において、多大なアドバンテージを生み出す。皇室と大公、それぞれの継承者は圧倒的な魔力を有し、為政者であると同時に強大な戦力でもあるのだ。
「先生、質問なんですが、どうして大公殿下はアークトゥルス姓ではないのですか? 皇帝陛下とご兄弟なのに……」
「はい、現皇帝レイグランデ・アークトゥルス陛下と大公殿下は実のご兄弟ですが、後継者争いになる事を嫌がった殿下が、早々に皇帝陛下を次期皇帝として支持し、自分はお子に恵まれなかったアーグランド大公家に養子に入られ、大公位を継承されたのです」
現皇帝と大公は年が少し離れているが仲の良い兄弟だった。だが周囲はそれぞれを担ぎ上げ皇位を巡って争いを起こそうとしていた。仲の良い兄と争う事を良しとしなかったハーヴェント皇子は自ら皇位継承争いから退く事を宣言し、分家筋であるアーグランド大公家に入り大公位を継承したのだ。
「さて、お嬢様の光属性についてですが、使用できる方は現在国内でも十人居るか居ないかですね。当代の聖女様を筆頭にその殆どが神殿に所属しています」
神殿、それはこのアークトゥルス帝国を中心に大陸の広い範囲に布教されている神とその御使いである精霊王を信仰する組織の事だ。
自分の属性はそんなに希少なのか、もしかして自分も神殿に連れていかれてしまうのかなと不安げな表情を浮かべているミレイユへと差し出される一冊の本。
「これは……?」
「六代前の皇帝陛下の妹君が、お嬢様と同じ光属性の使い手で、ご自分の知識を書物に書き綴られていたのです。当家の図書館にその写しが秘蔵されていたのを、お嬢様のご教育の為にお借りしました。前例が無い訳じゃないんです。そのお方は当時の筆頭公爵家に嫁がれて、神殿に属する事はなかったそうです。きっと大公子殿下が良い方法を考えてくれる筈ですよ」
ミンディアの言葉に、ミレイユはどこか救われたような表情を見せる。神殿に属さなくても光魔法を修める道があるのだと知り、胸のつかえが少しだけ下りた気がした。
「ありがとうございます、ミンディア先生。この本、大切に読ませていただきます」
「はい!何かわからないことがあれば、遠慮なく聞いてくださいね。あ、もちろん精霊王様のことは聞きませんから!」
ぱたぱたと手を振る仕草がどこか小動物めいていて、ミレイユは思わず口元をほころばせる。ハインツはそんな二人に小さく息を吐きつつも、穏やかな眼差しで見守っていた。
「まずはお嬢様の力の確認をしたく思います。光属性の魔法は大きく分けて攻撃系の魔法、傷を癒す治癒魔法、瘴気や呪いなどを浄化する魔法などが主にあります。お話によると、お嬢様にはそれ以外のお力もあると聞いてますが」
「は、はいっ、リモーネ様からは、他人の弱った心身を癒して、病気も治せるって話でした」
「それはすごい! 今まで確認された文献の中で、人の病を治せるというのは類を見ないお力です。機会があればこの目で拝見したいです!」
瞳を輝かせ身を乗り出すミンディアにミレイユは驚き、ハインツがまた苦笑するが、今度は自重したようでコホンと咳ばらいをする彼女。
「もう一つ主要な魔法として挙げられるのが、植物に活力を与え成長を促す魔法ですね。初歩はこれの練習から始まるそうです」
「この本にもそう書いてありますね。これなら出来るかな……」
攻撃魔法は怖いし、怪我人も居ないのに治癒魔法は試せない。浄化魔法なんて尚更だ。ミンディアは用意していた少し萎れかけている鉢植えの花を取り出す。
ミレイユは早速、本に書かれた手順に従い、鉢植えの花へ手をかざした。そして手の平に集めた光を分け与えるイメージして目を閉じる。
「恵みの光よ」
「おおっ、これは……」
やがてミレイユの手の平に生じた光から、降り注ぐような淡い光の粒がふわりと花に降りそそぐ。それは見ているだけで心が洗われるような暖かな輝きだった。
すると萎れかけていた花が僅かに瑞々しさを取り戻していくのを見たミンディアは感嘆の声を上げる。
「す、素晴らしい! 既に癒しのお力を使えるから大丈夫だとは思ってましたが、普通ならいきなり魔法の行使は難しいんです。お嬢様には才能がありますね!」
「そんな、褒めすぎですよ先生」
「褒めすぎなんかじゃありません!これなら初歩の治癒魔法もすぐに扱えるようになるはずです。さすがお嬢様ですっ!」
興奮した様子で喜んでくれるミンディアに、ミレイユは嬉しそうに微笑む。
ハインツはそんな二人のやり取りを微笑ましく眺めながら、これなら妹に任せても問題は無さそうだと考えた。
ミレイユはその日教わった成長促進の魔法の練習がしたくて自分の部屋の周囲の花などにかけて回り、翌日に急成長したそれを見て使用人が驚きちょっとした騒ぎになるのだった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この話を気に入って頂けたら、評価やブックマーク、ご感想を是非お願いします。




