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ミレイユ・アーグランドという少女

 皇帝の実弟であるハーヴェント・アーグランド大公が養女と迎えた少女ミレイユ。突然養女に迎え入れられた謎の少女に貴族社会は皆注目し、その素性を調べようとした。

 元はオルフィア伯爵家の出身で半分平民の血が流れているという情報が流れたが、それは些細な事だと吹き飛ぶような事実が貴族社会に広がる。


 彼女は希少な光属性の魔法を使い、神殿の聖職者達でも難しいとされる病を癒す力を持っているというのだ。大公家のお茶会で起きた事件をきっかけにその情報は広まった。


 現に心身を病み病床に臥していたアシェラ大公子妃は彼女の尽力で快復し、社交界への復帰を果たしている。一時は命すらも危ぶまれていた筈の彼女の回復ぶりに、貴族達は驚くばかりだった。


 それだけではない、大公女は病に倒れ公務から離れていた帝国皇后セフィリアの治療にも関わり、彼女が倒れた理由が貴族社会に広まりつつあった白粉に含まれた毒だと見抜いた。

 白粉は貴族社会に広く流行しており、皇后と同様の症状を発し始めていた事例も少なくなく、それを発見したミレイユは貴婦人達から感謝され、彼女の名声は高まる。

 

 そして大公家で開かれた茶会でエーデヴァルト前公爵夫人が心臓の発作によって命の危機に瀕した時にも、大公女が癒しの力を行使し救い、それ以降前公爵夫人の病は快復に向かいつつあるという。

 それはミレイユの力が神殿の光魔法の使い手達と比べても別格だという事を物語っていた。ともすれば、当代聖女であるエーファニアよりも上かもしれないと……。


 「私の持病も治してもらえないかしら」

 「神殿に高い金を払っても、病は治りが悪いからなぁ、儂らにもその力をお恵み頂きたいものだ」

 「皇党派の集まりでは、癒してもらうどころか、健康に関する相談を聞いてもらえたらしいぞ、羨ましい限りだ」


 自分の病も治してもらいたい。彼女が伯爵家の身分のままなら頼みやすいのに、などと溜息を漏らす貴族達。

 彼女はこの帝国において皇室に次ぐ権勢を誇る東部の盟主、アーグランド大公家の娘だ。そして大公夫妻は彼女の事を目に入れても痛くない程溺愛しているというのだ。おいそれと頼む事も出来ない。


 だが皇党派の結束を促すパーティーに出席した大公女は、参加者の中で持病がある者の相談を受け、癒しの力を行使すると共に病に関する助言などもしてくれたというのだ。

  太公女の施した癒しによって症状が改善したという者も少なくなく、鞍替えを考える貴族すら現れる程である。


 神殿が希少な才を持つ彼女を聖女として囲い込もうとするが、神殿で受けた洗礼の儀では彼女には神に選ばれた証である聖痕は現れず、神殿は彼女を引き入れる事に失敗した。

 


 ミレイユ大公女の才はそれだけでは終わらない。彼女は大公領でその光魔法の力を使い、輸入に頼っていた貴重な薬草の栽培に成功し大公家に富をもたらした。

 そして大公城内で栽培された貴重な薬草で作った化粧品を使った大公家や皇室の女性は、若返ったかと思う程美しく瑞々しい肌をしており、貴族の婦人達はどうにかしてあれを手に入れれないものかと羨望の視線を向けている。

 

 それ以外にも大公女は従来とは全く違った、柔らかなパンの作り方を考案し、皇室から広められたそのレシピによって、帝国の食生活は大きく変わりつつある。

 他にも彼女の考えたレシピは皇室を通じて公開され、皇室と大公家の権威は高まるばかりだ。


 皇室と距離を取る門閥派や、神殿と近しい貴族達は苦い思いでそれを見る事しか出来ない。自分達も彼女のもたらした美味な物などを享受しているのだから。

 

 だが希少な力に、様々な物を生み出す才を持つ彼女を味方に引き入れれば、どれだけの利益が自分達にもたらされるだろうと考える欲深い貴族達は少なからずいる。

 自分の子供を近づかせ、あわよくば彼女の婚約者にと画策する者もいたが、皇室も皇孫フィルンハルトの婚約者にと動き出しており、婚約者争いは皇党派、門閥派、神殿派と様々な勢力が参加し、本人のあずかり知らぬところで激化していた。


 それでも彼女の友人になり、甘い汁を吸えないかと考える家もあったが、彼女の周囲は既にエーデヴァルト公爵家を筆頭にクライスト公爵家、シュトラール侯爵家やハーレンツ侯爵家の令息令嬢、皇党派の子息達で周りを固められており、それも難しい状況だ。

 

 社交界シーズンの最中に、大公家から新たに皇室へともたらされた養蜂という技術、従来のやり方と違い継続的に蜂蜜を採取できる技術であるそれは大公領や、大公家に連なるベーレント子爵領で実験が進められ、いずれは帝国中に広まるだろう。それを考えたのもミレイユ大公女だという事に貴族達はどれ程の才があるのだと皆驚く。


 その副産物として大公家お抱えの商人が売り出したのが、特別な蜂蜜を使った化粧水だ。試供品が広く配られ、それを試した貴婦人達は自分達の肌の具合が劇的に改善された事に目の色を変え、正式に売り出された化粧水はあっという間に完売し奪い合いが起きる程となった。


 

 ミレイユ・アーグランド、その名は現在アークトゥルス帝国の貴族社会において知らぬ者は居ないという程有名な少女となった。

 

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