アーグランド印の化粧水
大公城へ一度戻り、試験中だった養蜂の確認をしたミレイユ。巣枠に作られた蜂の巣からは良質な蜜がたっぷりと取れ、ユリウスはそれを活用した化粧品を製造する事を思いついた。
翌日には錬金術師のレグルスから準備が整ったと連絡を受け、ミレイユもそれを確認する為に大公城の敷地内にある錬金工房へと赴いた。
「これは大公女殿下、お待ちしておりました」
「レグルス、今日はよろしくお願いね」
「ユリウス君から話は伺っております。事前にこちらでも鑑定魔法で調べさせて頂きましたが、本当に良質な蜂蜜でした。あれを化粧品になさるのですか?」
「うん、ここでは魔力水と薬草で作った蒸留水で化粧水を作っていたでしょう? あれに混ぜたら上手くいくと思うの」
出迎えた錬金術師レグルスと言葉を交わしながら工房内を歩くミレイユ。この工房内ではスキンクア草の化粧品以外にも、城の女官達が使う物なども製造していると聞いている。
その化粧水に蜂蜜を加えれば、保湿能力に優れた化粧水が出来る筈だとミレイユは考えていた。
「殿下の光魔法で育った花から集めた蜜ですが、鑑定魔法でも通常流通している物より高品質だと鑑定結果が出ています。きっと良い物が出来るでしょう」
「出来るといいなぁ、ユリウスがそれを販売して資金作りをしたいって言ってたから」
「ご期待に沿えるよう最善を尽くします。殿下のお陰でスキンクア草の化粧品作りに成功し、大公妃殿下からは報奨金と来年度の予算増額も確約して頂きました。改めて感謝申し上げます」
深々とお辞儀をするレグルスに気にしなくていいのよ、と軽く手を振って見せるミレイユ。
彼の働きに対する正当な評価が大公妃から下されているであろう事はミレイユにとっても嬉しい事のようだ。
作業が行われる場所には既に材料が集められ、肌にいい薬草を蒸留して作った蒸留水や蜂蜜などが用意されていた。
「ベースの化粧水の効能も高い物なので、分量を分けた物を幾つか作りテストしたいと考えています」
「蜂蜜が少量で済むならそれなりに数も揃えれそうね」
レグルスの弟子達が通常の化粧水を作る作業を進める中言葉を交わすミレイユ達。
蒸留された水には薬効成分を含む素材が混ぜ入れられ、まずは少量蜂蜜が加えられる。
出来上がったそれにレグルスが鑑定魔法をかけ効能を調べていく。
「これは素晴らしいですね。従来の化粧水より保湿の効能が高まっています」
「肌が乾燥しやすい人には嬉しい効果だね。私も見てみようかな」
従来の化粧品より高品質の物が出来たと満足そうに語るレグルスに頷き、ミレイユも鑑定の虫眼鏡を取り出して鑑定してみる。
【蜂蜜入り化粧水 光魔法で育った花の蜜を使っており、高い保湿成分で肌を潤わせ、肌荒れなど癒す効果があり、継続して使用すればプルプルツヤツヤ肌に!】
「は、肌荒れも治す効能があるんだこれ……」
(継続するとプルプルツヤツヤ肌、スキンクア草の化粧水までとはいかないけど、これ取り合いになりそうだなぁ)
鑑定の虫眼鏡に映し出された詳細な情報に目を瞬かせるミレイユ。
肌荒れも治す効能がある、それを聞いた女性の錬金術師達もピクッと一斉に反応する。
蜂蜜の分量の違うものを幾つか作り確認するも、少量混ぜるだけで十分効果があるという事が最終的に確認できた。
「それなりに数が出来そうかな?」
「ええ、販売も可能な量が生産できます。試供品を城内の女官の方々や我が弟子達に使ってもらい、効能の確認や副作用などが無いか確認の上で量産に入ります」
並べられた試作品の入った小瓶を前に、今回は多くの人に試してもらって効果を確認しようと言葉を交わすミレイユとレグルス。
レグルスが製作した蜂蜜入り化粧水の試供品は早速城内の女官や錬金工房の女性弟子たちに配布された。最初は半信半疑だった彼女たちだったが、使い始めて数日も経たないうちにその効果は瞬く間に広がっていく。
「あら、アナタ今日は肌の調子が良さそうね」
「これがね、大公女殿下が作られた例の化粧水を使ったのよ。たった二日なのにこの違い!」
城内の廊下ですれ違う女官たちの会話はもっぱらその話題で持ちきりになる。
特に乾燥肌に悩んでいた年配の女官が、長年の悩みから解放されたと喜びの声を上げたことで評判は決定的となった。
「私なんて、長年気になっていた小じわが薄くなった気がするの」
「この香りもほのかに甘くて素敵よね。きつくないから仕事中でも気にならないわ」
継続して使用すると本当に肌の調子が良くなり、もっと欲しいと言い出す者も多数居た。
「先生! これ、本当に販売されるんですよね?」
「私、お給料が入ったら絶対買います!」
「私も! 家族にも使わせてあげたいわ」
錬金工房でも弟子たちの間で評判は上々だ。レグルスは弟子たちの熱心な様子に目を細めながら、詳細な記録を取っていく。
副作用の報告は一切なくむしろ従来の化粧水よりも肌なじみが良く、保湿効果が長続きするという声が大半を占めていた。
「試験結果は上々ですね。今回集められた物は全て化粧水に使用し、利益を確保したいと考えていますがいかがでしょうか」
「こんなに皆が喜んでくれるのなら、まずはそうしようか。蜂がまた増えたし、次の収穫には纏まった量が採れるだろうから、食べるのに使うのはそれからにしよう」
城内中の女性からいつ売り出すのだと問い合わせを受けているユリウスは出来る限り増産したいと提案し、これだけ喜んでくれるのならとミレイユも承認する。
美味しい蜂蜜が食べれない事を少々ユーリィが残念がったものの、蜂蜜入り化粧水は量産され大公城内の女性向けに売り出されると皆挙って購入していった。
「半分は大公城内に提供し、もう半分は帝都に戻り次第大公家と取引のある商人に卸し貴族のご婦人方向けに販売いたします」
あっと驚くような利益を上げてみせますと不敵に笑うユリウスの言葉通り、しばらくして帝都で試供品を配り評判を広めた上で発売されたそれは、瞬く間に完売したとの報告を受けた。
大公家謹製の印の施されたそれは、その後も増産され売り出される度に飛ぶように売れ、ミレイユの資金源の一つになるのだった。




