新しい友人達と
皇孫フィルンハルト皇子との茶会に参加したミレイユとその友人達。
皇族に大公女、公爵と高位貴族ばかり集まるその場に、位の低い自分が居ていいのだろうかと萎縮してしまう子爵令嬢のルミアだったが、友人達に背を押され、フィルンハルト達にも暖かく迎えられたルミアは場に馴染み、和やかな雰囲気の中茶会が始まった。
「わぁ、なんて良い香りのお茶でしょうか」
「これって、小さいけどクリームパン? 皇室はもうレシピを頂いてるのね。羨ましい……」
ルミアは良い香りのお茶に感嘆の声を漏らし、ラーナフェルトは大公家で食べて以来虜になっているクリームパンに羨ましいと口にする。
大公家の方針で、新しいレシピを提供するのは皇室を優先している。皇室から発信させる事で権威を高めたいという思惑もあるのだ。
「リーゼロッテ嬢、ミレイユに近づきすぎじゃないかな?」
「あーら殿下、私達は親友ですもの、このくらいの距離は当然でございますわ! それより殿下こそ、殿方がその様にうら若きご令嬢に近づかれるのはどうかと思いますわよ?」
「はは、これはまた熾烈な争いだね」
東屋で繰り広げられる大公女を巡る皇孫と公爵令嬢の鍔迫り合い。アルバートは眼鏡を押し上げながら、呆れとも感心ともつかない苦笑を漏らした。
そして同時に思う、二人とも随分変わったなと、フィルンハルトはこれまで他人に執着するような態度を見せた事が無い。そんな彼が親友である自分にさえ牽制の視線を向け、その執着ぶりはかつての彼からは想像できない程のものだ。
そしてリーゼロッテといえばフィルンハルトの婚約者候補として、完璧な令嬢を目指すべく、常に気を張り詰めている様な姿がアルバートには痛々しく感じられたのだ。しかし彼女はミレイユと過ごすうちに素を出せるようになったのか、見違えるほど自然な笑顔を見せる年頃の少女になっていた。
二人のあまりに急激な変化に驚きを覚えつつも、いい傾向かと笑うアルバートは隣に座るレイシェルに声をかけようとしたが、彼は水色の瞳を大きく見開いて呆然としている。
その視線の先にはミレイユ、正確にはミレイユの手元に置かれたお菓子やクリームパン等が置かれた皿があった。
『ふみゅぅ……お腹ペコペコで我慢できませんー……ミレイユちゃん、ちょっと分けてくださいですぅ……』
「い、いいけど、バレないようにね……」
『ありがとうですっ、ミレイユちゃんしか見えないし聞こえないから大丈夫ですっ』
左右をフィルンハルトとリーゼロッテに挟まれ困惑気味だったミレイユ。彼女の手元に置かれた皿へとふわりと飛んできたユーリィは、小声で了解してくれたミレイユの許しを得ると、クッキーの欠片を抱えてパクリと口に含む。その様をレイシェルは凝視しポカンと口を開けているのだ。
「た、大公女殿下……あ、貴方のお手元に居るその子は……?」
「へ……? レ、レイシェル候子、い、いきなり何を……」
「レイと呼んで下さって結構です。その子はもしかして、精霊様ですか!?」
『ふぇっ!? み、見えてるのですかぁ!?』
震える指先で、クッキーを頬張り幸せそうな表情を浮かべているユーリィを指し示して問いかけるレイシェル。その口調からは普段の落ち着きが消え失せ、代わりに抑えきれない興奮が滲み出ていた。
マズイ、完全にバレてる。ユーリィは自分から姿を見せない限りは契約している自分以外には見えない筈なのに。ミレイユは表情を引き攣らせながらも否定しようとするが、ユーリィが素っ頓狂な声を上げて事態は悪化する。
「レイ、急にどうしたんですの?」
「ええ、見えていますよ! あああ、精霊様と言葉が交わせるなんて!」
ミレイユの隣に座るリーゼロッテが怪訝そうな顔で疑問を口にするが、レイシェルは目を輝かせてユーリィへと声をかける。隣に座るアルバートの目には彼がテーブルに向かって話し掛けているようにしか見えず、何を言い出すのやらと目を丸くしている。
『ま、まさか見えるなんてー……あの子のご先祖様が精霊との契りを交わした事があるのかな』
「こ、これは隠せないね……皆にも姿を見せてあげて、ユーリィ」
『は、はいですぅ……み、見える人が居るなんて思わなかったですぅ……』
ミレイユを守るよう遣わされた時から彼女にはユーリィが認識できるが、ごく稀に契約していなくても精霊を認識できる者が居る。高い魔力を有したり、過去に精霊と契約した者が先祖に居たら見える場合がある。代々宮廷魔術師の重鎮を輩出するハーレンツ家の令息であるレイシェルは、この条件を二つとも達成していたのだ。
これ以上は誤魔化せない、観念してミレイユが姿を現すように告げると淡い輝きが広がり彼女の手元に人形のように小さな少女が姿を見せる。金色の髪をツインテールにした可愛らしい精霊の姿に、ルミアとリーゼロッテが思わず可愛いと声を漏らし、ラーナフェルトは驚愕に目を見開き衝撃を受けていた。
『は、初めまして、私ミレイユちゃんの友達で、光の精霊のユーリィって言います』
「精霊、まさか実物を見れるなんて……」
「父上達から話は聞いていたけど、実際に見れるとはね」
ペコリとお辞儀するユーリィを眼鏡の位置を調整しながら食い入るように見るアルバート。自分の常識を超えた存在に感銘を受けている様子だ。
フィルンハルトは父やミレイユの兄である叔父セルヴェンから、彼女が精霊と友誼を結んでいるとは聞いていた。しかし自分も見れるようになるとは思わなかったのだ。
ユーリィは周囲の反応に困惑した表情を浮かべながら、どうしようとミレイユへ助けを求めるような視線を送る。
「ユーリィ様! ぼ、僕はレイシェルと申しますっ!」
『ふみゅっ、よ、よろしくです』
「あぁぁっ、なんて幸運なんだ僕は! 父さんだってこんな経験した事無い筈っ!」
興奮気味にユーリィへ自己紹介するレイシェル。その言動は普段の穏やかな性格の天才少年のイメージを覆すものだ。アルバートや他の面々は驚きを通り越して呆れている。
「レイにこんな一面があるなんて……ってどうしましたのラーナ?」
「か、可愛い……ちっちゃく、可愛い……だ、抱きしめてみたい」
「ラ、ラーナさん?」
「ああ気にしないでルミア。この子可愛い物が大好きなのですわ」
「そ、そうですか……い、意外ですね」
眼鏡越しにキラキラとした瞳でユーリィを見つめ、興奮気味なレイシェル。それを呆れ気味に眺めていたリーゼロッテは、隣に座る友人の異変に気づいた。
いつもはクールな表情を崩さないラーナが、珍しく興奮気味で顔を上気させ瞳を潤ませている。その視線はテーブルの上にちょこんと座る、手のひらサイズのユーリィに釘付けだった。
思わず呟かれたその言葉にルミアが恐る恐る声をかけるが返事はなく、彼女の代わりにリーゼロッテが、気にしないでと言って首を横に振る。ラーナは普段の知的で凛とした姿とは裏腹に、可愛らしい物には目がなく、特にこういった愛らしい存在には滅法弱いのだ。
ミレイユの友人である精霊ユーリィ。光の精霊の存在に興奮するレイシェルと、その愛らしさに釘付けになるラーナフェルト。彼らの反応に困惑するミレイユは、どうやってこの場を収めようか頭を悩ませている。
「あー、もうどうしよう……」
ミレイユの友人である精霊ユーリィ。光の精霊の存在に興奮するレイシェルと、その愛らしさに釘付けになるラーナフェルト。彼らの反応に困惑するミレイユは、どうやってこの場を収めようか頭を悩ませていた。




