次々現れる攻略対象
皇后の回復を祝って開かれた茶会に大公妃達と参加したミレイユ。皇后や大公妃が使っている大公家で作られた特別な化粧品。それの情報を聞いた貴婦人達は皆色めき立ち、ミレイユに向けられた視線はさながら獲物を狙う猛禽類のそれで、怖くなった彼女は友人達と共に皇后宮を離れ、会う約束をしている皇子フィルンハルトの元へと向かうのだった。
「あー、怖かったぁ……」
「み、皆様凄い怖い目でみ、見てこられましたね……」
「うちのお母様まで居ましたねあの中に……でも肌の手入れは人一倍気を使う人だから、無理も無いかしら」
「ラーナのお母様も? 私のお母様もそんな事を言ってらしたわ」
皇后宮から離れたところで足を止め、怖かったぁと胸を抑えて声を漏らす大公女ミレイユ。彼女の後を着いて来ていたルミアも怯えた様子だ。
自分達に凄まじい視線を向けてきた貴婦人達の中に、自分の母親を見てしまったラーナフェルトとリーゼロッテも乾いた笑みを浮かべていた。
あれってまだ増産するかは検討してる段階でそれにはユーリィの協力も不可欠だ。社交界シーズンが終わって大公城に帰ったら、お義父様達と相談しなきゃとミレイユは考え込む。
「ようこそミレイユ。それにリーゼロッテ嬢、ラーナフェルト嬢、ルミア嬢もよく来てくたね」
侍従達の案内により皇宮の一画にある東屋へと来た四人を出迎えたのは、皇孫であるフィルンハルト・アークトゥルス皇子だ。そして彼の他に二人の少年が彼女達を出迎えた。
「紹介しよう、僕の友人達だ」
「アルバート・クライストです。ミレイユ大公女殿下、お会いできて光栄です」
「レイシェル・ハーレンツと申します」
皇子の左右に立つ二人の少年が、彼女達にそれぞれ挨拶をする。エルヴィンは黒髪に眼鏡をかけた青い瞳、レイシェルは水色の髪と瞳、二人とも線の細い美少年で、二人を前にしたルミアが頬をポッと赤らめている。リーゼロッテとラーナフェルトは二人と顔見知りらしく軽くカーテシーをして挨拶した。
「ミ、ミレイユ・アーグランドですわ。宰相閣下のご令息と、宮廷魔法師団長殿のご令息に会えて嬉しく思いますわ」
(アルバートとレイシェルっ!? な、なんで攻略対象二人も居るのよっ!?)
見事な動作でカーテシーをして挨拶するミレイユだったが、心中では叫びたい気分だった。宰相令息でフィルンハルト皇子のブレーンであるアルバート。宮廷魔法師団長の長男で、将来を嘱望される天才魔法使いレイシェル。二人ともミレイユが前世でプレイしたゲーム、『スターライト・ロンド』の攻略対象キャラで、魔法学園に入学したヒロインと交流を深め恋仲になる少年達である。
ミレイユはゲームの世界には存在しない大公女というイレギュラー、まして前世では前編すらクリアする前に事故で死んでしまった為、ゲームの展開を壊すような行動は避けたいのだが、攻略対象のキャラから接触を持たれると防ぎようが無い。またこうなってしまったかとミレイユは溜息をつきたくなった。
「やぁリーゼ、ラーナ、この前の夜会以来だね」
「ご無沙汰してます、お二人とも」
「ええお久しぶり、アル」
「お久しぶりですわ、レイもお元気そうで何よりです」
宰相の息子であり公爵家嫡男であるアルバート、そして侯爵家令息のレイシェルは同格の貴族であるリーゼロッテやラーナフェルトとは幼馴染で、共に皇孫フィルンハルトの友人だ。
「あ、あわわ……わ、私なんかが、こんな場にい、居ていいのかな……」
皇子に大公女、周りも公爵家と侯爵家の令嬢令息、東部に豊かな領地を持つ貴族とはいえ、子爵家の令嬢である自分がこんな場に居ていいのだろうかとルミアはすっかり委縮してしまっている。
ミレイユはそれに気付き、彼女の手を控えめに握って大丈夫よと微笑みかけた。リーゼロッテが気にする事はありませんわと笑みを向け、ラーナフェルトもそっと背中をポンと叩く。
親しい友人からの後押しに勇気を貰ったルミアは、フィルンハルト達に向けてスカートの端を摘んでカーテシーをした。
「ベーレント子爵家のルミアです。皇孫殿下のお茶会に参加できる事、光栄でございます。アルバート様、レイシェル様も宜しくお願いします」
「ありがとうルミア嬢、どうぞ緊張なさらずに……さぁ、皆も座って欲しい」
フィルンハルトが優雅な笑みを浮かべてルミアを歓迎し、皆を席へと導く。
「今日はあくまで私的なお茶会だ。肩肘を張らずに楽しんでほしい」
「そうそう、フィルのお茶会は堅苦しくなくていいよね」
アルバートが眼鏡の奥の青い瞳を細めて微笑む。彼の口調には親しみが込められており、緊張しているルミアを和ませようという配慮が感じられた。
「ベーレント子爵家といえば、蜂蜜が有名ですね。かの領地で取れる蜂蜜は他領の物より上質だと評判です」
「へぇ、ルミアの領地蜂蜜が有名なんだ。ならあれを試してもらう候補になるね……」
蜂蜜の話を出したのはレイシェルで、それを聞いたミレイユは大公領で実践中の養蜂技術を広めるのに良いかもしれないと考え込む。
「ミレイユ様、あれというのは?」
「ええと、今大公領で養蜂という技術を試験中なんです。蜜蜂達を人間の作った巣箱に住ませて、中に入れた枠に作られた巣を取り出してそれから蜜を取る。巣を丸ごと壊して蜜を集める従来のやり方より効率的だと思いますわ」
「ほう、それは興味深いです。先頃皇室を通じて広められ始めた新しいパンの作り方も貴方が考案されたとか……もしやその養蜂技術も?」
養蜂技術に興味津々な様子のアルバート。大公家で現在進めている養蜂技術の試験は結果が良好であれば新たな産業として皇室や他領に広めていく予定だ。
パンの事まで知っていて褒め称える彼にミレイユは照れた様子で顔を赤くする。
「アルバート、ミレイユをあまり困らせないでくれ」
「ああ、すまない。つい興味が先立ってしまった」
もっと話を聞きたいといった様子の彼へと、フィルンハルトが静かにしかし有無を言わせぬ口調で口を挟んだ。
そのエメラルドのような色の瞳は親友であるアルバートに向けられているにもかかわらず、どこか鋭さを帯びている。
アルバートは眼鏡を押し上げながら素直に引き下がったが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。皇子の反応をどこか楽しんでいるようでもある。
彼が大公女に入れ込んでいるというのは聞いてはいたが、これは重傷だなと苦笑している。
数日前に開かれた令息や令嬢達を集めた場でも、お披露目パーティーの前に大公女へ罵声を浴びせ暴力を振るった、オルフィア伯爵家の双子の事をこき下ろすような発言をしていた。もうあの双子は子供達の集まる会などに招待される事もないだろう。
「お義父様と相談してからになるけど、ルミアのお父様に頼みたい事が出来そうね。上手くいけばルミアの領地がもっと豊かになると思うわ」
「は、はいっ、ち、父にも伝えておきますっ」
どうせ広めるなら最初は友人の領地が良い、品質の良い蜂蜜が採れる条件が整っているのなら猶更だ。自領の発展に繋がるような話と聞いて、ルミアは何度も頷きながら父にも伝えますと答える。
「さぁ、お茶会を始めよう。今日は新しい茶葉が手に入ったんだ。香りが良いから皆にも気に入ってもらえるといいのだが……」
東屋のテーブルにはすでに茶器と菓子が用意されており、侍従達により香り高く淹れられた紅茶が注がれ茶会が始まった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この話を気に入って頂けたら、評価やブックマーク、ご感想を頂けましたら執筆の励みになりますので是非お願いします。




