ご婦人方からの熱視線
ミレイユも参加した皇后セフィリアの治療は順調に進み、彼女は公務に復帰できる程までに回復した。
今日は皇宮で皇后の回復を祝う茶会が開かれ、多くの貴婦人達に混じりアーグランド大公家の女性達も参加している。
「ミレイユ大公女殿下、貴方があの白粉が原因だと突きとめてくださったお陰で、私も大事に至るまでに使うのを止める事が出来ました。感謝申し上げます」
「私もですわ、皇宮の医師団の公開された治療法のお陰で酷くなる前に回復出来ました」
「お褒め頂きありがとうございます。皆様のお肌が大事になる前に治って良かったです」
皇后宮で開かれた茶会。ミレイユは何人もの貴婦人達から感謝の言葉を送られていた。
ミレイユが毒性の物質が含まれていると見抜いた鉛入りの白粉、それは貴族社会や金持ちの婦人達に広く普及していた。
皇帝の命により調査が行われた結果、あれを製造販売を独占的に行っていた商人は、婦人達からのクレームなどから、あれに毒性が含まれている事を途中で知ったらしい。
だがそこで販売を中止せず、より値段を吊り上げた上で増産し、利益を得るだけ得て国外に逃亡する計画を立てていた。
その報告を受けた皇帝レイグランデは激怒し、直ちに商人は拘束されその罪を大々的に公表し、市中を引き回された上で処刑され、製造に関わった者達も厳しく罰せられたそうだ。
皇帝は皇后の治療過程で得られた情報などを元に作られた治療法を広く公開させ、被害を受けた女性達への支援を推し進め、その結果迅速な対応に皇室の評価は高まっている。そして原因を突き止めたミレイユの名は皇帝によって広められ、彼女の名声も高まっているのだ。
「ミレイユ様凄いですわ。来る人来る人がミレイユ様にお礼を言いに来られてます」
「お父様からお聞きしたのだけど、例の白粉の毒は多くのご婦人達に被害を出していたの。それの原因を突き止めたミレイユ様だから当然ね」
「流石はミレイユ様ですわ! お母様もあの白粉は購入されていたんです。多く使う前で良かったと申しておりましたの」
「も、もう、皆まで……照れちゃうよぉ……」
友人関係となった子爵令嬢ルミアは婦人方が口々にミレイユを褒め称える事に感嘆の声を漏らす。法務大臣を父に持つラーナフェルト侯爵令嬢と、公爵令嬢リーゼロッテはあの事件を収束に導いたミレイユの事を称賛する。彼女達の母親などもミレイユに直々に礼を言いに来ていた。ここ最近ミレイユは貴族社会に顔を出す度に感謝をされ続けている。
やがて皇后セフィリアが皇太子妃マリアーナと共に会場へと入ってくる。集まる貴婦人達は皇后の姿に驚き目を見開く、白粉の毒によって酷い状態になっていたという話だった彼女の肌が、とても瑞々しく美しいのだ。濃い金色の髪も艶やかな光を帯び、50代半ばとは思えない程若々しく見えるのだ。
そして皇太子妃マリアーナの肌や髪も目を見張る程美しく、元々若い子女達の人気の高い彼女を前に思わず声を漏らす夫人もいた。
他の貴族に先立ち、母であるメルヴィア大公妃と姉大公子妃アシェラと共に皇后達に挨拶するミレイユ。
「皇后陛下、今日はお招きいただきありがとうございます」
「ああ、よく来てくれたわねミレイユ。大公家が用意してくれた化粧水や香油のお陰でこんなに早く復帰できたわ。お肌の調子が本当に良くて、まるで若返った様な気分だわ」
「化粧水や香油がお肌に合ったようで何よりです。大公家から今後定期的に献上するようにしますので、そちらをお使いください」
カーテシーをして挨拶をするミレイユに微笑む皇后。アーグランド大公家が彼女の治療の為に提供した化粧水・香油は劇的な効果をもたらし医師達の見立てよりも大幅に早く皇后は復帰できたのだ。貴方のお陰よと抱きしめてくれた皇后に、はにかむ様に微笑むミレイユ。
「私もこれを使ってから本当に調子が良いの。なんだか学生の頃に戻ったみたい」
「マリア姉様ったら大袈裟な……とは言えないのですよね。私もあれを使ってから肌も髪も調子が良くて、支度がし易くなりましたわ」
皇太子妃と大公子妃の会話からもアーグランド大公家が用意した化粧水の事が話題に上がり、周りの貴婦人達はそれに聞き耳を立てている。
皇后だけでなく大公妃も五十代前半とは思えない若々しく美しい肌をしているのだ。その秘訣が化粧水なのではと誰もが考えている、現に皇室と大公家の女性達は誰も肌の具合が良さそうに見えるのだから。
「ミレイユ様、皇后陛下が仰られた化粧水ってなんですか?」
「鉛入りの白粉のせいで、皇后陛下のお肌の状態はかなり悪かったの、だから癒しの力による治療以外にも出来ないかなって、大公家で作った化粧水を送って貰ったの。お義母様や姉様はあれを使ってから凄くお肌の具合が良いって褒めてくれたから」
「大公家で作ったものですか」
「そうよラーナ、大公城の温室で珍しい薬草が育って、それを使った化粧水や香油を作ったの」
母達と別れ友人達の待つ席へと戻って来たミレイユ。親しい友人で席を囲む中ルミアが尋ねれば、大公家の錬金術師に作らせた化粧水が非常に効果が高いのだと彼女に答える。
ミレイユとその友人達の会話から、思いがけずその情報が聞けた貴婦人達の一部は色めき立つ、もしそれが手に入るのなら自分達も使ってみたいと考えるのは、肌の悩みを抱える女性としては当然の心理だろう。
「それは貴重な薬草なんですの?」
「うん……今のところ大公城の温室以外ではちゃんと育たなかったから、今のところは作れる量は限られてるかな。社交界シーズンが終わってお城に戻ったら、増やせるかどうかお義父様や兄様と相談する予定よ」
リーゼロッテの問いに今の大量に栽培する事が出来ないと答えると、途端に肩を落とす貴婦人達。だがそれでも手に入らないだろうかと視線を向けてくる貴婦人達の視線を感じてミレイユはちょっと、いやかなり怖いと感じていた。皆スリンクア草の話を聞いた時の女官達のような獲物を狙う猛禽類のような目をしている。イーグルアイ怖いと内心彼女はプルプルと震えている。
「そ、そろそろ私達はい、移動しましょうか」
「そうですね。ルミア、リーゼ、私達も向かいましょう。フィルンハルト殿下がお待ちの筈です」
皇后への挨拶は皆済ませたので、会う約束をしていた皇孫フィルンハルト皇子の元へと向かうのだ。早く移動しよう、そう目で訴えてみればラーナフェルトは心得たとばかりに頷き、他の二人を促して歩き出す。
未練と期待がたっぷりと籠った視線を向けられながら四人の少女は皇后宮の庭から退出していく。
「……あの化粧品、ある程度数を揃えれたら、皇党派の拡大に役立つかもしれないわね」
「メルヴィア貴方なんて事を考え……でも悪くないわね」
ミレイユに熱い視線を向けている多くの貴婦人達の姿を見つめて呟くように漏らす大公妃。
皇党派とはアークトゥルス皇室を支持する貴族達の派閥の事だ。この国の貴族は大きく分けて三つの派閥に別れている。皇党派に加えて、古参貴族などを中心とした皇党派と対立関係にある門閥派、そして国内で権勢拡大を狙う神殿にすり寄っている神殿派だ。
皇党派の勢力の拡大や結束を高める為に、生産量をある程度確保出来れば、あの化粧品などを下賜するのだ。
自分達の姿を見れば、その効果を一目瞭然だ。貴族家では家内では夫人の方が権力を持っている家も多い、夫人や娘達から頼まれれば動く貴族は居るだろう。
悪くない案ねと考え込むような仕草をする皇后に、この件は夫である大公と協議しますとメルヴィアは伝える。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回語られた貴族派閥の一つ、門閥派はゲームだと闇堕ちして悪魔と契約したセルヴェン大公が、闇魔法で操り自分の手駒として扱った勢力になります。闇堕ちが回避された今、物語にどうかかわって来るのか…
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