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誰よりも愛する人の為に (セルヴェン視点)

今回はセルヴェン視点の一人称小説となります。

 「ごめんなさいっ、ごめんなさい……」

 「アシェラ、君が悪い訳じゃない。自分を責めるな……」

 「で、でも私はっ、あ、貴方に子供を抱かせてあげる事すら出来なかった、妻として失格よ……!」


 憔悴しきった表情でうわ言のように謝罪を繰り返す妻アシェラを抱きしめ、君は悪くないと何度も言い聞かせる。彼女の双眸は今は涙すら流れ尽きたのか乾ききって虚ろだった。


 私セルヴェン・アーグランドとアシェラはこの国の貴族では珍しい恋愛結婚だった。学生時代に知り合い恋仲に落ちた私達だったが、彼女が子爵家出身という事、そして私の父であるハーヴェント大公が公爵家の一つと婚約話を進めていた為、彼女を紹介した際は両親に反対されてしまった。

 これまで父には従順な息子ですごしてきたが、これだけは譲れない。私は初めて父に反抗し、言い争いの末に私達は決闘をした。


 父はこの国屈指の魔法の使い手だが、私は死力を尽くしてあの人に挑んだ。激闘の末に私が勝利したが、父は最後に手を抜いていたようだ。でなければ、若輩である私があの人に勝てる筈がない。

 約束は約束だと結婚は認めてもらい、その後は両親に受け入れて貰えるよう二人で努力し、両親はアシェラの事を受け入れてくれ、良い関係を築けるようになった。

 

 彼女の事を妬む者も多かったが、彼女はそんな者達に怯む事無くいつも凛とした佇まいで堂々と私の隣に立つ、その姿が堪らなく愛おしくて、この愛しい女性と生涯共に生きていくと決意した。

 結婚し幸せな日々を送る中、彼女の妊娠が分かった時、私は嬉しさのあまり彼女を抱きしめて泣いてしまうほど喜んだ。初孫を期待する両親と共に、子供が生まれるのを心待ちにしていた。


 だが幸せな日々はあまりにもあっけなく崩れ去った。彼女の出産は本人も危ぶまれる程の難産になり、そうして生まれた娘は3日と持たず息を引き取った。

 娘が死んでしまった事を知った妻は泣き叫び、、自責の念に囚われ塞ぎ込むようになった。私や両親に子供を抱かせてやれなかったへの謝罪をうわ言のように繰り返す彼女。



 「見ろ、大公子妃がお出ましだ」

 「子もまともに産めぬ女など……だから私はあちらの縁談を進めるべきだと……」

 「すっかり窶れてしまって……殿下の隣に立って恥ずかしくないのかしら……」


 皇宮で主催されたパーティー。その日は体調がよく久しぶりに共に出席した妻に向けられたのは、心無い言葉の数々。そんな彼女の耳に貴族たちの非難の声は嫌でも届いてしまう。

 かつての彼女なら、凛とした態度で怯みはしなかっただろう。だが今の彼女は辛そうに俯くばかり。私は彼女を支えるように腰を抱き、会場の奥へと進む。

 あの空気の中あそこに残れば症状が悪くなる。私は従者を呼び彼女を控え室へ連れて行かせた。


 この日を境に彼女はますます表舞台に立つのをやめ、部屋に引き籠るようになった。彼女が弱っている事を知った者達は彼女を貶めるような話を広める。

 何処からかその話を聞いてアシェラは憔悴していき、家族で食事をとる場にすら出れなくなってしまった。

 そして彼女は病に倒れ、治療を試みたが芳しくなく、病状は次第に悪化していき、彼女はベッドから起き上がる事も出来なくなった。


 ここぞとばかりに大公子妃の地位を狙う女達がすり寄ってきた。彼女達の親だけでなく、家臣達からも側室を迎えるべきではなどと言われる日々。

 煩い連中だ、この欲深く醜い豚を一匹絞め殺せば皆黙るだろうか、そんな考えが頭を過ってしまい。私はその考えを振り払うように頭を振る。

 大公子としての政務をこなしながら、病床の妻の元を見舞い、医師達と共に彼女を治す様々な手立てを試みるも全て結果は芳しくない。そして病状が悪化したアシェラは一日の殆どを目を開ける事すらない生ける屍の様な存在になってしまった。


 「アシェラ……目を開けてくれ、君まで居なくなったら、私はどうしたらいいんだ……」


 どうか私を一人にしないでくれ、彼女の手を握り締めながら涙ながらに語りかけるも、目を閉じたままの彼女は何も答えない。

 妻を助けられぬという無力感と、日々向けられる悪意は私の精神を摩耗させていく。


 「何故だっ!? 何故こんなに手を尽くしているのにアシェラは目覚めないのだ!?」

 「落ち着いてくださいセルヴェン! 彼らは彼らなりに最善を尽くそうとしているんですよ!」

 

 アシェラが目覚めぬ苛立ちから声を荒げ医師達に詰め寄る私を、身を張って止めようとする補佐官であるハインツ。

 幼い頃から付き合いのある彼の訴えに私は我に返り、医師達や彼にすまないと頭を下げる。彼らとて妻を助けようと必死なのに、これでは八つ当たりのようだと己を恥じる。


 医学でダメならば、魔法ならば彼女を救えるのでは、そう考えた政務の合間を縫って城内の図書館に籠り、古代の書物を読み解き使えそうな魔法を見つけては魔法実験を繰り返す。

 だがそれも無駄な徒労であり、何をしてもアシェラは回復せず、一日の殆どを目を開ける事すらなく眠って過ごしている。

 美しかった藍色の髪はすっかり艶を失い痛み、人々が羨んでいた美貌もやつれ果ててしまった、痛々しい姿の彼女の前で、どうか死なないでくれと祈る事しか出来なかった。

 

 私は次第に荒み始め、声を荒げる事も多くなりその度にハインツや父に止められるという日々を過ごす。アシェラの死を望むかのように新たな大公妃候補を選べだの、側室をと言い寄ってくる輩を八つ裂きにしてやりたい衝動に駆られる事も多かった。

 そんな日々が続いたある日、オルフィア伯爵家との取引を進める案件が私に回ってきたのだが、資料を持ってこさせると告げる側近に対し、自分であちらに出向いて確認をしたいと私は告げた。

 何故かは分からなかったが、そうしたいと思ってしまった。今思えば何かに思考を誘導されたかのようだった。



 

 『た、大公子様……わ、私の声聞こえますかぁ?』

 「……? 君は、精霊か?」

 『はいです、ユーリィって言います。大公子様ですよね? い、一緒に来て欲しいのです』

 

 オルフィア伯爵家に赴き資料の確認する作業を中座して、中庭に立った私の耳元で囁かれる小さな声。

 何事かとそちらに視線を向ければ、金色の髪をツインテールにした小さな少女が宙に浮いている。その姿からして、伝承にある精霊だろう。百年以上人前に姿を見せた事のない彼女の姿に驚きを覚えるも、これはただ事では無いなと考え彼女の後を着いて中庭の奥へと進む。彼女に案内された先には、幼い少女が待っていた。

 使用人だろうか、着ている服はボロボロで髪も薄汚れている、身体も酷くやせ細っている。


 「あ、あの……は、初めまして、私はミレイユと申します。た、大変失礼な事だとは思いますが、そ、その……お手を貸して頂けませんか?」


 おどおどとした様子で名乗った少女の願いに、私は反射的に片手を差し出す。きっと精霊が私を導いたのは彼女に会わせる為だ。ならばその思惑どおりに動くべきだ。

 しばし躊躇した後に、意を決したように小さな両手で私の手を握る少女。彼女が意識を集中させるように目を閉じた直後、彼女の手が淡く輝き、暖かい力が自分の中に流れ込んでくるのを感じ取る私。

 これは光魔法だろうか、常に纏わりついていた倦怠感がなくなり、頭痛に悩まされた頭がスッキリしていく、そして心に渦巻いていた黒い感情が薄れていく。こんな心地いい力があったのかと、その暖かい力の心地よさに私は目を細める。

 ずっと祈り続けていた彼女だったが、身体に生じた疲労感を堪えきれず手を放してしまう。

 

 なんて優しく暖かい光だろうか、光が消えていく己の手を名残惜しそうに見つめていた私は、少女の方へと視線を向ける。この優しい力ならばアシェラを、最愛の妻を救えるのではと考えた。

 それがミレイユ、後に義妹となる少女との出会いだった。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


 目覚めぬ妻に彼女への誹謗中傷、新しい妻を娶れとすり寄る者達によって精神を摩耗させていたセルヴェン。ミレイユと出会わなければ、1週間もしない内にアシェラを失い、闇堕ちルートに突入する状況でした。


 この話を気に入って頂けたら、評価やブックマーク、ご感想を頂けましたら執筆の励みになりますので是非お願いします。

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