お披露目パーティー④ 伯爵家への制裁
ハーヴェント大公の誕生日祝い、ミレイユの大公女としてお披露目を行ったパーティは大成功に終わった。
皇孫である麗しいフィルンハルト皇子と彼女のダンスは素晴らしく、招待客は万雷の拍手で皇子と大公女を讃えた。
「今日は来てくださりありがとうございますエル兄さん。フィルがダンスに誘ってくれた事で、ミレイユにも箔が着きました」
「ああ、私達も楽しかったよセルヴェン。父上にもあの子の事を話しておくよ」
パーティーが終わり帰ろうとしたところで言葉を交わす大公子と皇太子。
ミレイユによる皇后の治療については出来るだけ早い日程で行おうと、従兄弟である彼らは打ち合わせをする。
「ところで、あんな可愛らしいミレイユ嬢を襲った不届き者が拘束されているそうだね」
「耳が早いですね。この後その件は処理します。あの一家の件が片付けばすぐにでも登城させて、叔母上の治療を彼女に頼みたいところです」
「ミレイユ嬢が……襲われた? どういう事です叔父様?」
「フィルか、あの子の元家族であるオルフィア伯爵家の子供達が、パーティーが始まる前に彼女を襲い、口汚い言葉を浴びせたり暴力を振るったんだ」
皇太子達の側で聞いていたフィルンハルトが声を尖らせる。自分のダンスパートナーであり大公家の家族となった少女を害した存在がいる事、しかもそれが元家族だという事実に皇子は怒りを露わにした。
「オルフィア伯爵家……ああ、あの考えなしで世間知らずの双子の事か。ふぅん、そうですか……これは明後日のお茶会の話題が出来たな」
オルフィア伯爵家の双子サーリャとラアイズ、傲慢な性格をしているあの双子は何かと問題行動が多く、揉め事を起こしすこぶる評判は悪い。
前々からあの双子は気に入らなかったんですよと酷薄な笑みを浮かべる皇子。彼らの所業を知らしめればより孤立するだろうと暗に告げる。
「あまり派手にやるなよ、あくまでこの件は大公家が片づけるのだから」
「分かっていますよ……帰る前にミレイユ嬢にご挨拶してきます」
父からの言葉に分かっていますと微笑む皇子は、失礼しますと一礼して大公夫妻と共に帰る招待客を見送っているミレイユの元へと歩き出す。
「やれやれ、彼女の事を気に入ったとはマリアから聞いていたが、あれはかなり入れ込んでるな」
「ミレイユにはまだそういうのは早いですよ兄さん。まだ貴族としての生活にも慣れていないんです」
「分かってるさ、だがこの調子だとフィルを可愛がっている父上が、早晩縁談をと言い出すぞ」
妻から息子が大公女の事を気に入ったと聞いていた皇太子は、早くも狙いを定め始めた息子の姿に苦笑いを浮かべる。
大公家としてもミレイユを嫁がせるなら信頼の置ける相手が良い、だがセルヴェンからしたらまだ落ち着いてもいないのにと複雑そうだ。
そもそも目に入れても痛くないという程に、彼女の事を可愛がっている父ハーヴェント大公が嫁に出す選択肢を選ぶか、と彼も苦笑を浮かべた。
「ミレイユ嬢、今日は素敵な一時をありがとうございました。落ち着きましたら僕の主催するお茶会にもご招待しますので、ぜひお越しくださいね」
「あ、ありがとうございますフィルンハルト殿下。機会があれば是非参加させて頂きます」
「……次にお会いする時は、フィルと呼んでくださいね」
「っ!? で、殿下、それは……」
「父上達が待っていますのでこれで失礼します。またお会いしましょう」
ミレイユの元に来たフィルンハルトは挨拶をすると彼女の耳元に顔を寄せ声を落とした。そしてすぐさま退くと片目を瞑り、父上達が待っていますからこれで、と爽やかに別れを告げて皇太子夫妻の元に戻っていった。その甘い声と仕草に、顔を真っ赤にして硬直するミレイユは、メイン攻略対象ハンパ無いと心中で呻くのだった。
パーティーが終了後、ミレイユが大公妃や大公子妃と共に湯浴みに向かう中、大公親子はオルフィア伯爵一家が拘束されている一室へと向かう。
彼らが辿り着いた部屋では、オルフィア伯爵夫妻、そして四人の子供達が騎士達に取り囲まれていた。
「さてオルフィア伯爵、貴公の子供達が我が娘に随分と無礼を働いてくれたようだな。危うく今日のお披露目が台無しになるところだったぞ?」
「お、お待ちください大公殿下! な、なぜあの出来損ないが大公殿下の養女に? わ、私は大公子殿下の魔法実験の検体にされたものとばかり……」
「ああ、あの噂を信じてたのか、愚かな男だな。ミレイユを引き取ったのは、その稀有な才能に気付いてたからさ、彼女は希少な光魔法の使い手だ」
入室しソファーに座る大公親子、一番先頭に座らされガタガタと身体を震わせている伯爵へと大公が言葉を投げかければ、何故あの娘が大公女になどなっているのですかと伯爵は喚き立てる。
その無様な有様と、一部は当たっていたが噂を信じ娘を手放した間抜けな伯爵に、ミレイユが希少な光魔法の使い手だと冷笑を浮かべて教えてやる大公子。
それを聞いたオルフィア伯爵は愕然とし床に崩れ落ちた。光魔法の使い手、それに気付けていれば伯爵家にどれ程の富がもたらされただろうか、教会に高値で売り渡すも良し、その希少な才を使って皇室にも取り入る事も出来た筈だ。
「う、嘘……そ、そんな筈がありませんわ! あ、あの平民の出来損ないに魔法の才など有る筈がっ!」
「認めたくないだろうが事実だよ。しかも彼女はその中でも更に稀なる才を持っている、その力で死の淵にいた我が妻アシェラを癒し救ってくれた。ミレイユに大公家は返しても返しきれない程の恩を受けたのだよ。だから父上は娘として迎えたんだ」
「そういう訳で、あの子は私達の大切な家族だ。ゆえに貴様らの犯した罪は重いぞ」
そんな訳がある筈が無いとヒステリックに喚く伯爵夫人を冷ややかな目で見つつ、ミレイユは誰も救う事の出来なかった大公子妃を癒したのだと語る。
ここまで言えば自分達の犯した罪が理解できただろうと、大公は凄絶な笑みを浮かべて伯爵一家を見下ろす。
「どの様に処分いたしますか、父上」
「そうだなぁ、兄上に働きかけてまた貴族裁判を開くかな、大公女を傷つけたのだ。爵位剥奪と領地財産を失う事は免れんな」
「お、お待ちください大公殿下! ど、どうか、どうかそれだけはご勘弁頂けないでしょうか!? こ、この通りですっ! お、お前達も早く殿下にお詫びするのだ!」
「も、申し訳ありません大公殿下!」
「どうか愚かな私達をお許しください!」
「大公女殿下にも謝罪いたします、どうかお許しを!」
大公女を傷つけた罪で貴族裁判に掛ける準備を進めると言葉を交わす大公親子に対して、オルフィア伯爵が縋りつく。
このままではオルフィア伯爵家が潰れてしまうと伯爵は必死の形相で土下座し、自分の子供達にも頭を下げるように命じる。
大公親子の冷たい視線に耐え切れず長女エリザ、次女サーリャ、そして末弟のラアイズ、実行犯である子供達は土下座し必死に許しを請おうとした。
「さて、どうしたものかなセルヴェン」
「条件付きでなら許してやるのはどうでしょうか、この条件を呑むのなら、貴族裁判まで開いて彼らの罪を追求しないと」
しかし大公親子がそれを易々と許す筈もなく、大公が面白がる様に息子に意見を振ると、そうですねと考え込んだ大公子は条件付きならばと語る。
貴族裁判を回避できる、その可能性に伯爵は思わず顔を上げるが、大公親子は変わらず彼らに冷たい視線を向けている。
「条件とは、我が大公家の娘になったミレイユへの一切の接触と、ここで聞いた彼女に関する事について口外を禁ずるといったところかな。勿論誓約魔法を使わせてもらう。この条件が吞めるのなら、多少の賠償金で許してやるのはどうでしょう? 流石にこの短期間に二度も貴族裁判を起こして他家を潰すのは、大公家としてもあまり外聞がよくありません」
「私としては甘すぎると思うが、お前がそう言うのならその案にしよう。伯爵、息子の提示した条件を呑めるか?」
「は、はい! お受け致します! 寛大な御心に感謝いたします大公殿下!」
「ならばすぐに誓約魔法を施す準備をしよう、魔導士を呼べ」
「畏まりました、父上」
その程度の条件で伯爵家が助かるのなら安い物だと、縋りつくように大公の条件を受け入れる。
ミレイユの今後の為に、彼らとの関係を断ち切っておく必要がある。誓約魔法はその禁を破ろうとすると、死ぬほどの苦痛を味わう強力な戒めだが、助かりたいと考える伯爵家の者達には選択の余地など無い。
これで伯爵家からミレイユを切り離す事が出来、ここで話した事も一切口外出来ない故秘密も守られる。思惑通りに進んだ事にセルヴェンは笑みを深くした。
騎士が連れてきた魔導士によって伯爵家一家全員に誓約魔法が施され、解放された彼らは逃げるように大公邸を後にする。
「愚かな連中だ、これから待つのが生き地獄だとも知らず」
「何処へ行っても針の筵でしょうね。どちらを選んでも彼らを待つのは惨めな末路ですよ」
大公邸の敷地を出ていく伯爵家の馬車を眺めながら、愚かな連中だと吐き捨てる大公。
この場で罪を問わなかったとして、大公女を襲ったという事実は既にあの場に集った貴族達に知れ渡り、参加していない貴族達にもすぐに広まるだろう。
取引や付き合いなどを切られ、社交界で孤立する事は避けられない。二つの選択肢、どちらを選んでも彼らを待つのは破滅しかないのだ。
「さて、一番面倒な事は片付いた。お披露目を見事にこなした可愛い娘を労ってやらねばな」
「ええ、たっぷり褒めてやりましょう。私達の愛しい家族を」
ようやくゆっくり出来ると肩を鳴らした大公は、湯浴みに行っているだろう愛娘を労ってやらねばと笑い、大公子もそれに笑顔で頷く。
「ふぇぇ……つ、疲れたぁ……」
「お疲れ様です、お嬢様」
「奥様と若奥様から素晴らしいお披露目だったとお聞きしております、本当にお疲れ様でした」
湯船に浸かり疲れたと声を漏らすミレイユ。彼女の身体を洗うリンディとマーサは本当にお疲れ様でしたと彼女を労う。
『ミレイユちゃん、お疲れ様ですっ、すごく綺麗でしたですっ』
「ユーリィの魔法のお陰だよ、ありがとうね」
湯船の側でふわふわと飛んでいる精霊ユーリィの言葉に、貴方のお陰だよと微笑むミレイユ。彼女の魔法が無ければドレスは台無しになったままだったのだから。
「私が、大公女……本当になっちゃったんだな」
(フィルンハルト殿下にも出会っちゃったし、なんかグイグイ迫って来るし、こ、これからどうなっちゃうんだろう)
この世界の元である、前世でプレイした『スターライト・ロンド』、前編をプレイした段階ではミレイユなんてキャラは居なかった。
恐らくモブだろう筈の自分が大公女になり、メイン攻略対象であるフィルンハルト皇子とダンスをする羽目になってしまった。この先の展開はどうなるのだろうかとミレイユは心中で声を漏らした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
罪を軽くする代わりに誓約魔法を受けたオルフィア伯爵家の人々。だが彼らの罪は許されたわけではなく、これから転げ落ちるように没落していきます。
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