錬金術と化粧品作り
大公城内の温室で発見された珍しい薬草、それはユーリィが精霊界から持ってきた、本来はこの世界には存在しない植物だった。
精霊王から貰った虫眼鏡で鑑定した結果、その薬草には肌を潤わせ美しくするという効果があると分かり、大公妃や女官達の熱烈な要望により更なる栽培と、それを使った化粧品を作る事になった。
収穫されたスキンクア草の蒸留作業、それを見学する為にミレイユは大公城の敷地内にある錬金術師の工房へと出かける。
「ようこそ公女殿下、私は大公家で錬金術師を務めておりますレグルスと申します」
「こんにちはレグルス、今日は蒸留器を見せてくれてありがとう」
「いえいえ、大公妃殿下からこの件が成功したら、来年度の予算を増額するよう働きかけるとお言葉を頂きました。このようなチャンスを頂き公女殿下には感謝するばかりです」
上品なお辞儀をしながら笑顔を見せるのは、四十代くらいの紳士風の中年男性。
錬金術師レグルス、彼は優れた錬金術師であり大公家お抱えの研究員でもあるのだ。
「温室で新しく発見された薬草を使った化粧水ですか、それに香油までも作れるなんて、どのような物が出来るか楽しみです」
「純度の高い魔力水を使ってもらえると、いい効果が期待できるんだよね?」
「おお、それをご存じとは、もしや殿下は錬金術にご興味が?」
「う、うん……そんなところ」
(ホントは精霊王様に貰った虫眼鏡で見た情報です。ズルしてますごめんなさい)
錬金術の知識に興味があるのかとキラリと眼鏡を輝かせるレグルスに対し、ズルしてますと心中で謝罪するミレイユ。
工房内の壁一面に並ぶ硝子の瓶や陶器の壺。乾燥した薬草の束が天井から吊るされ、微かに甘く、それでいて清涼な香りが漂っている。石造りの床は掃き清められ、所々に描かれた魔法陣が淡く光を宿していた。
「こちらが、本日使用する蒸留器でございます」
レグルスの案内で奥へ進むと、部屋の中央に据えられた大きな銅製の蒸留器が目に入った。丸みを帯びた釜の部分には細かな彫刻が施され、そこから伸びる管が螺旋状に絡みながら冷却槽へと続いている。
「この蒸留器は、我が師の代から伝わるものでして、蒸気を逃さぬよう内部に微細な魔法陣が刻まれております。これにより、薬草の有効成分をほとんど損なうことなく抽出できるのです」
レグルスの説明を聞きながら、ミレイユは蒸留器のすぐそばまで歩み寄った。釜の横に置かれた籠の中には、朝摘みされたばかりのスキンクア草が細かき刻まれ山と積まれている。
「聞けばこれは大公城内の温室でしか栽培できないとか……」
「そうみたい。そもそもこの薬草自体、ユーリィが蜜が飲みたくて精霊界から種を持ってきたから、普通は存在しないんだって」
「そ、そのような希少な素材を扱わせて頂けるのは、錬金術を志す者として光栄でございます! 決して無駄には致しません」
「薬草の生産が安定してきたら、他の用途がないか研究しても良いってお義母様は仰ってたわ」
「ありがとうございます! この錬金工房の総力を持って大公妃殿下のご期待に沿えるよう努力致します!」
この薬草が普通では存在しないと聞き色めき立つレグルスやその弟子達。彼らのテンションの高さにちょっとミレイユは退き気味だ。
だがそれもしょうがないかと理解する彼女。世界で自分達だけがこの素材を扱えるなんて研究者からしたら垂涎ものだろう。
弟子たちが蒸留器内に刻んだ薬草と魔力水を注ぎ、レグルスが魔力を注入すると蒸留釜に火が着いた。
銅製の釜の中で、細かく刻まれたスキンクア草が湯の中でゆっくりと踊っている。魔法で管理された火加減は絶妙で液体は静かに、しかし確実に沸騰へと向かっていた。
やがて立ち上る白い蒸気がらせん状の管を通り、冷やされて透明な雫が機材の器に一滴、また一滴と落ち始める。工房内にふわりと爽やかな香りが広がり初め、その良い匂いにミレイユは顔を綻ばせた。
「すごく良い匂い、リラックスできそう」
「蒸留された液体は分離用の機材に通すことで、精油と蒸留水を分け取っていきます」
レグルスが嬉しそうに手順を説明していく。蒸留液が更に分離器へと流れ分離される工程を興味深く見るミレイユ。
更に何回か蒸留を繰り返し、蒸留水と精油が精製されていく。それに更に手を加えて化粧水と香油になった物が小瓶に詰められていく。
「鑑定魔法をかけた結果、有害なものは一切なく安全が確認できました。ですが大公妃殿下がお使いになる前に、誰かが試してみた方が良いかと」
「効能とか実際に使ってみて、どんな事が起きるか確認するのは必要だよね」
(念の為虫眼鏡でも鑑定してみよう。私にしか見えない情報もあるかも)
ミレイユは精霊王に貰った虫眼鏡を取り出すと小瓶が並べられた作業台の上を覗き込む。
【スキンクアの化粧水 スキンクア草の蒸留水をベースに作った化粧品。 純度の高い魔力水と希少な素材によって効能が倍増。肌にハリと潤いをもたらし、継続的に使用すればお肌が若返る事間違いなし!】
【スキンクアの香油 スキンクア草の精油をベースに作った香油。 心を落ち着かせる優しい香と高い保湿効果をもたらす。 髪に使えばしっとり潤いツヤツヤにし、ダメージから髪をしっかり守ってくれる】
お肌が若返ること間違いなし、虫眼鏡越しに見える情報に思わず目が点になり、コシコシと目を擦ってもう一度見るが、同じ情報が表示されいる。
(お、思ってた以上にヤバい物出来てない? 効果次第じゃ皆欲しがって取り合いになっちゃいそう)
現状スキンクア草はミレイユが定期的に成長促進の魔法を使っていてあの温室でしか栽培できない。他の場所でも植えてみたりそこに光魔法を使ってみたが、発芽しても収穫できる程まで成長には至らなかったのだ。かといってあの温室には他にも貴重な薬草を栽培しているので、これ以上栽培範囲を広げるのは色々検討しなければならない。
出来上がる量もそれほど多くないから、取り合いになってしまいそうだ。
「誰かに試してもらってから、お義母様とお姉様に使ってもらうのがいいかな?」
「それが宜しいと思います。一週間ほど使用して、毎日状態を確認させていただき、それで問題がなければ妃殿下達にお使い頂ければ」
「そうだね、まずは試してみてくれる人を探さないとね」
ミレイユがモニター探さなきゃと呟くと、周りで作業をしていた女性錬金術師達がジッと見つめてくるが、その視線には気付かないフリをする。
大公妃に近い年齢の側役の人に頼んだ方が言いかなと言えば、彼女達は一斉にガックリと肩を落としていた。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
作られた化粧水や香油を鑑定したミレイユは、その効果内容に宇宙猫みたいな顔してましたw
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