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精霊王様からのご褒美(チートアイテム)

 完成した温室で咲き誇る花の蜜、それを求めて集まってきた蜜蜂達とユーリィを通じて言葉を交わしたミレイユ。

 彼女は前世の知識で得た養蜂技術を再現しようと、大公家の職人に巣箱や巣枠を作らせそこに住む事を蜂達に提案した。


 

 「なるほど、この巣枠を取り出してここから蜜を採取する訳ですか、これは画期的ですね」

 「今までみたいに蜂の巣を壊さなくていいから効率も良いと思うの。ここではユーリィから声をかけて、断ってから取り出してもらうけど、煙を焚くと蜂達は大人しくなるから、その間に巣枠を入れ替えるといいかな」

 「ありがとうございます、早速大公領の蜜採りを生業としている者達にこれを試させてみます」


 新たに造らせた巣箱を前に説明をするミレイユに対し、大公子補佐官であるハインツや文官達はこれは素晴らしいと感嘆の声を漏らす。

 この技術が確立されればこれまでより効率良く蜂蜜などが採取でき、新たな産業になるだろうと文官達はミレイユのアイデアを褒め称える。


 「素晴らしいです公女殿下。貴重な薬草の栽培だけでなく、高価な蜂蜜の効率良い生産方法をご提案くださるとは!」

 「大公殿下達もきっとお喜びになります。お嬢様は大公家に幸福をもたらすお方ですね!」

 

 文官達の賞賛の言葉に照れていたミレイユだったが、ふと何かに気が付き首を傾げた。

 

 「ねぇユーリィ、温室の花も含めて、ここの花の蜜ってそんなに特別な物なの?」

 『勿論ですっ、最近は他の蜜蜂までやって来て、取り合いになったり温室に入ろうとしてる他所の子をよく見かけるですっ』

 「そ、そうなんだ……前に使った鑑定魔法で調べたら何か分かったりするかな?」

 『鑑定魔法……? あ、ああぁぁっ! わ、忘れてたですっ!』

 

 ここの花の蜜はそんなに美味しいのかな? と尋ねてみれば、こんな美味しい蜜は他所には無いです、取り合いですよと熱く語る精霊ユーリィ。

 以前姉を狙った事件の際に、彼女が毒入りの紅茶に鑑定魔法をかけていた事を思い出し、使ってもらえるかと尋ねれば、何かを思い出したユーリィは素っ頓狂な声を上げる。


 「ど、どうしたのユーリィ?」

 『ご、ごめんなさいミレイユちゃん、リモーネ様から預かっていた物を渡すの忘れてたですっ』


 慌てるユーリィが口にしたのは、彼女の主である光の精霊王リモーネの名だ。

 私に渡す物? なんだろうかと首を傾げているミレイユを、こっちに来てくださいと人々から離れた場所に誘導すると、ユーリィは空に手を掲げ、現れた物を両手で受け止め抱えながら差し出す。


 『大公子妃様を癒したご褒美にって渡すよう頼まれてたのですっ、忘れててごめんなさいです……』

 「あ、謝らなくていいよユーリィ……これって、虫眼鏡?」

 『これは鑑定魔法と同じ効果がある虫眼鏡ですっ、リモーネ様が特別に作ってくれたもので、ミレイユちゃんには他の人には見えない情報まで見える優れモノだって仰ってましたですっ』


 精霊王が作った鑑定魔法が使える虫眼鏡、話を聞くだけでも凄いのだが、自分だけにしか発動しない効果まで付与されていると聞いて驚くミレイユ。

 それを受け取った彼女は、花畑の花の一つにそれを向けてみる。


 【シアサスの花 ミレイユ・アーグランドが光の魔法で活力を与えた花、この花が生み出す蜜はたっぷりの甘みと栄養を含んでいる。 採蜜出来れば極上のスイーツや化粧品の材料に!】


 「わわっ、ホ、ホントに見えたっ、しかも用途まで出て来たよ」

 『それがミレイユちゃんにだけ見える情報ですかね。大事な物だから盗まれたりしても戻って来るように帰還の魔法をかけて……これで大丈夫っと、ミレイユちゃん温室の花を調べに行きませんか?』

 「ありがとうユーリィ。そうだね、すごく楽しそう、行ってみよう!」


 虫眼鏡を通して見える花の側に文字が浮かび上がり、鑑定情報が表示された事に驚くミレイユ。

 この虫眼鏡で色んなものを鑑定してみたい、その衝動に駆られたミレイユはハインツ達に声をかけると温室へと向かう。

 温室に咲く花々や薬草を鑑定して、こんな効果があるのかと興奮するミレイユは、庭師の老人が首を傾げているのを見止めた。

 

 「ダグ爺、どうしたの?」

 「これは公女様、実は変わった薬草がいつの間にか生えてまして、こりゃ何の薬草なのかと首を傾げてまして……あっしも大公家で薬草を扱わせてもらって長いですが、コイツは初めて見ました」

 『あ、これって……前に私が精霊界にお出かけした時に集めてきて植えた種です。この花の蜜が美味しくて吸いたくなって……勝手に植えてごめんなさいです』

 「そういう事だったんだ。気にしないでユーリィ……ダグ爺でも知らないような薬草なのね。これで調べてみようっと」

 

 この温室の管理頭であるダグザと言葉を交わすミレイユ。彼曰く見た事もない様な薬草が、いつの間にか複数生えていたとの事だ。

 それは自分が植えたものだというユーリィの言葉に興味を覚えたミレイユは、魔法の虫眼鏡を取り出しその薬草へと向ける。


 【スキンクア草  本来は精霊界にしか生えない、肌に潤いと美肌効果をもたらす貴重な薬草。 これを蒸留して作る化粧水や香油を使えば肌の張りと潤いが蘇り、肌がきっと若返る筈!】


 「ふぇ……美肌、効果……? わ、若返る……?」

 「お嬢様、どうかしましたかい?」

 「あ、あのねダグ爺、これって鑑定魔法が使える虫眼鏡なんだけど、見てみてよ」


 いきなり現れた大量の情報に思わず間の抜けた声を漏らしてしまうミレイユ。

 首を傾げるダグザへと虫眼鏡を手渡して、彼にも薬草の鑑定をさせる。


 「ほう、どれどれ……へぇ、これはスキンクア草って呼ぶんですかい。肌に潤いと美肌効果……こりゃ便利な道具ですなぁ」

 (あ、あれ?途中までしかダグ爺は見えてないのかな? も、もしかしてリモーネ様の言ってた私にしか見えない情報って、ぜ、前世の知識と組み合わせた情報っ!? 何これ凄いよ、チートアイテムだ!)

 「ダグ爺ちょっと待って、もう一回見て!」


 興奮気味のミレイユに促され、ダグザは再び虫眼鏡越しにスキンクアを見る。しかし何度覗いても彼には「肌に潤いと美肌効果」という情報しか見えていない様子だった。


 (やっぱりそうだ……私がだけ見える部分は前世の知識と連動してるんだ!)


 ミレイユの心臓が高鳴った。この特殊な虫眼鏡があれば、自分が知っている前世の知識が、この世界で活用できるかもしれないのだ。

 精霊王様からのご褒美はとんでもないチートアイテムだった。これは帰還の魔法かけてもらって正解だよねと思わず虫眼鏡を握り締める。


 「ユーリィ、この薬草って他でも生えるのかな?」

 『多分無理ですねー、ミレイユちゃんの強い魔力が染みこんだこの土に、私も魔法かけてやっと育つんですっ』

 「そこまでしないと育たないんだ……」


 この薬草には凄い価値がある。これが沢山増やせるのかと問いかければ、ユーリィは首を捻った後に多分無理だと告げる。ミレイユと自分が力を与えてようやく育つという言に、大量生産は難しそうだなぁと顔を顰める。だが本来はこの世界に存在しない薬草なのだ。無理も無いかもしれない。


 「そんな貴重な物持ってきて大丈夫なの?」

 『ふぇ? 精霊界なら沢山生えてるので大丈夫ですっ、土の精霊王様にも持ち出しの許可を貰いましたけど、「絶対に育たないと思うぞ、やれるものならやってみろ」って言われちゃいました』

 「それを栽培成功しちゃったと、ユーリィガッツあるね」

 『えへへっ、美味しい蜜の為ならこんなの苦にならないですっ……これこれ、堪んないですぅ! 精霊界で生えてるのより美味しい気がしますっ♪』


 ちゃんと許可を取って精霊界から持ち出したと語るユーリィは、開花している花へと魔法をかけ蜜を取り出し、それをペロリと舐めると幸せそうに顔を綻ばせる。

 

 「あらミレイユ、ここで何をしているの?」

 「あ、お義母様ごきげんよう。ユーリィから貰った鑑定の虫眼鏡を使って薬草を調べてたんです」


 不意に声をかけられ顔を上げると、そこにはメルヴィア大公妃や女官達が立っていた、彼女達はこの温室内で茶会を開いていたのだ。


 「これは大公妃様、珍しい薬草が生えて、何なのかお嬢様が調べてくださったんです。なんでも、肌を潤わせ美しくする効果があるそうです」

 「潤い……美しく、なる……?」

 「「「!!!」」」


 ダグザが嬉しそうに伝えた内容を聞いた大公妃の目が鋭くなり、女官達も食い入るようにその薬草を見つめる。

 獲物を狙う猛禽類のような鋭い視線に思わずぴゃっと声を上げて後退るミレイユだったが、自分は前世で若くして死んだけど、自分に良くしてくれたバイト先の女店長さんが美容マニアで、若い頃からスキンケアをしないといけないなど、美容について色々教えてくれたから、彼女達が抱えているだろう肌の悩みについては理解できた。

 でもやっぱり皆の視線がちょっと怖い、心なしかギラギラしてる。


 「どんな風に活用すればいいのかしら?」

 「錬金術師のレグルス師に研究を依頼しましょう」

 「そうね、普段から私達の化粧品を作ってくれている彼らに頼むのが一番かしら」

 「それも大事ですが、継続的に栽培できるものかも調査しませんと」


 スキンクア草の生えた畑の前で議論を交わす大公妃と女官達。五十代の大公妃を筆頭に彼女達は皆高年の女性達だ。日々の肌のケアにも苦心しており、この薬草でどんな化粧品が出来るのかと熱く語り合う。


 「あ、あのお義母様、この薬草を収穫して蒸留してそれに手を加えれば、化粧水や香油が出来る筈です。そ、それを使ってみるのはどうでしょうか?」

 「それは素晴らしい考えね! ダグザ、この薬草をもっと育てて欲しいわ。ミレイユ、貴方も魔法で彼の手助けをしてあげてちょうだい」

 「太公妃様、この薬草の種は精霊様が持ってこられた物でして……」

 「ユーリィ、また種を集めてきてもらえるかな?」

 『任せてくださいですっ!』


 大公妃からの指示に深々とダグザは一礼し、ミレイユもサポートをしますとユーリィと共に頭を下げた。

 翌日には温室内の一区画にユーリィが集めてきた種が植えられ、ミレイユが光魔法を使えば程なくして芽が出てすくすくと成長していき始めた。

 ちなみに他の場所でも栽培を試みてみたが、ユーリィの言う通り芽すら出ず、ミレイユが定期的に光魔法を行使しているこの温室の環境内でしか育たない貴重な薬草だと判断される。

 新しい畑にスキンクア草が生えだすと、元々生えていた物は収穫され、城内に工房を持つ錬金術師の元へと運ばれた。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


 ユーリィの持ち込んだ薬草に目を輝かせる女官達、そのイーグルアイぶりにミレイユはプルプルと震えていますw


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