第8話 命令には背けない
ダンジョン調査から一週間が過ぎた。その間に、内務省と魔法省及び王立魔法学院の関係者による会議が行われていたとカルロスから聞いている。
そして、今日。オレは何故かユースティーナと父オライオン王弟殿下の執務室にいた。カルロスと知らない金髪の女性もいる。そして、父は、指示書を持っていた。
「いくつかのダンジョンが階級を上げることになった。ただ、問題はそれ以外だ」
それ以外、と聞いて首を傾げる。カルロスは「森とか海、川、そういう所にも、魔物はおるからなぁ」と、言った。
つまり、ダンジョン外の調査が必要ということらしい。父はため息をつき、その指示書を机に置いた。
「街中やその道中の調査が今進んではいるのだが、正直に報告してくるとも思えん。なので、お前達が調査して来なさい。期限は一年、行って欲しい場所は、カルロスに聞きなさい」
「何で、行かなきゃねーんだよ」
ふんっと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
しかし、父は話を進めていく。
「移動は、魔車を使いなさい。正式名称は魔導車だが。まぁ、馬車よりは移動は楽だろう。一応、馬車利用もできるような仕組みになっている」
「あれ、免許いらないのか?」
オレは、勝手に乗って人にぶつかってやろうか、何という危ない思想が頭の中に浮かんでいた。僕が「それは間違っている」と、ストップをかけて来る。父は、そういえば、と思い出したように言った。
「ん? あぁ、まだ開発途中だしな。法律は馬車と変わらない。しかし、ウェイン、人は轢くなよ。危ないからな。あと、そんなにスピードは出ない。馬車の速度とそう変わらないだろうがな。いや、少し早いか?」
「大丈夫や、俺とこいつで動かすからな、一切運転はさせんよ。その代わり、魔力の補充は手伝って貰う形になるか」
父はカルロスに「頼んだぞ」と、声を掛けた。父はどうにも俺に何処かに行かせたいらしい。厄介払いでもさせるんだろうか。
「ジゼルだ、探索家のギフトを持つ。ギフト魔法は魔物探知、ダンジョン出入口の発見、魔法攻撃力のアップだな」
奏多はこの世界がゲームを原作としたものなのじゃないかと思い始める。この、何かがアップするとか、ゲームとかで誰を探索に連れて行く感じの物にありそうな気がする。と、なると。オレは悪役なのだろうなと自覚した。
いや、呪いの効果的にそうならないとおかしい。
ただ、オレとしては今が重要なので、そんな思考はほったらかして「面倒なことを頼まれたな」と、ふんッと鼻を鳴らした。
「そうでしょうか。これから、国民の為に動かれるとお聞きしております」
「はぁ、なんだよ!?」
オレは不満だ。どうして、そんなことをしなくちゃいけない。怒りが湧いてくる。父は、椅子から立ち上がり、オレの側に来た。そして、顔を手で固定して目を合わせて来る。
「ウェイン、メリル神の言う事を忘れたのか、お前は。人と関われ、信頼され信頼しろ。そう言われなかったか? ウェインは、問題から目を背けているんだな」
下を向きたくてもむけない。真っすぐなオレンジの強い金色の目が、俺を射抜く。本当は嫌な結末を夢見て飛び起きてしまうぐらいには辛かった。それを、口に出せないから、言えない。
この旅は、何をオレに与えてくれるのか。
「苦しいかもしれない。でも、向き合わないと、お前は人を殺めてしまう可能性だってある。そんな人になって欲しくない。私は、そんな子に育てるつもりはない」
「でも、嫌だ。どうせ、負ける。オレは、そんなに強くない」
「そうか? 今だって、色んなことに一人で耐えているんじゃないか? 耐えすぎて、苦しくなってしまう前に、ユースティーナの手を握りなさい」
父は彼女の手を握れと言う。カルロスも「そうや」と、頷いた。ユースティーナも、勝手に手を握って来る。振り払おうと、動かしてもがっしりと握られている。それを、振り払う気力はなかった。
「神が言うにはお前が瀕死になった状態で門が開くと言ったから。まぁ、そうなると、魔神からしたら格好の餌食だろう。魔力の枯渇、それは防がないとな。死に掛けた人間を私は知っている」
「分かったよ」
「いい子だ、頑張ろう。私もキャンディも、お前を大切に思っている。忘れないでくれ。一人じゃない、人と関わることを恐れないでくれ」
父に頭を撫でられて、オレは立ち尽くした。
一週間前の、魔物を狩る事を望む心。その心は、受け入れて良いものなのか、叱りつけるべきなのか、僕自身まだ理解していない。だって、この国で当然のことだ。
魔物を狩るということは、この人たちにとって、正しいことだ。それをしたくないというのは、この世界に住む人たちを拒絶することである。奏多は、そう思っている。
だから、オレは……それを、受け入れた。魔物を狩ることはする。しかし、人は狩らない、殺さない。
人として、手を出さない。そう決めたとき、肩に手が置かれた。
ユースティーナの手だ。
「大丈夫よ、私が何かあれば止めてあげる。だから、信じて。これだけは、信じて頂戴。貴方が、優しいことは知っているわ」
「わーったよ。行けばいいんだろ、行けば。オレの心がどう動くかなんか、知らねぇからな」
「それは、誰にも分らないだろう。私自身も私の心さえ完全に理解は出来ていないからな。それでいいんだよ」
父の言葉は温かく、オレはその温もりを失いたくはないなと思えた。
「ちゃんと、考えてみるけど。期待なんかするなよ!」
「それでいい。生きることが出来る道がある。悲観的になりすぎるな。どちらにしろ、お前が死んだら一大事だ。私だって、国だって、お前を生かす方向に導く」
父はユースティーナへと、声を掛ける。その表情は、明るく前向きなものだった。オレが、現実から目をそらしているうちに、父は色々と考えていたのだろう。だから、ダンジョンに連れて行って、魔物を倒させた。
「この子を頼む。信じて、愛してやってくれ。悪い事をすれば、叱ってやってくれ。君が一番の頼りだからな」
「えぇ。お任せ下さい。頑張ります!」
ユースティーナの前向きな声に、オレは戸惑うばかり。どうして、そんなに前向きになれるのだろうか。前までは「意地悪ばかりの貴方なんて、嫌い!」と、言ってきていたのに。
「ウェイン様、よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく」
この日、オレはため息をつき、旅立ちを受け入れることになった。準備に取り掛かる必要があるだろう。と、憂鬱な気分になるが「準備なら、済んでるで」と、非常に呑気で、気楽な声がした。オレの心とは、正反対のそれに、ため息が出た。




