第7話 父によるスパルタ教育
「第四級ダンジョンは、ボスが出ないことが一番の認定基準だ」
「まぁ、行ってみれば分るわ。開けるで!」
地下三階のダンジョンを駆け抜け、とうとうこの時だった。オレは、父の後に続いた。そして、開け放たれた扉から続く廊下を歩く。どことなく薄暗く、ひんやりとしており霧が立ち込めていた。
「あかんな、これ。この先、ヌシおるわ」
「レベル上げか。さて、ウェイン、ユースティーナ、行くぞ」
父が、そのまま廊下の先にある扉を開けた。すると、そこにはぷよぷよとした、スライムが現れた。半径五メートルはある気がする、おまんじゅうのような形にウサギの尻尾と耳が生えている。しかし、その色が可笑しかった。オレンジ色をしたスライムは、電気を纏っている。しかし、今まで見て来たスライムの大半は半透明なのだが。
「呪われヌシか、解呪師の出番やな」
「私の出番ですか?」
「どういうこと?」
父は、扉を閉めてカルロスに「説明してやれ」と、促した。
「魔物が纏ってることが多い。魔物は負の感情を引き付けやすいからな、そう言うモノが多い場所やと、魔物が負の感情を貯め込み圧縮するんや。そう言う器官を持っとるねん。そして、呪いにレベルアップや」
「そうして、更に魔物が強化される。これは君たちを連れ出したのは判断ミスか」
父が頭を抱える。しかし、カルロスは頭を振った。
「いい機会や、何事も経験やし、どーにかなるやろって思ってやればいい。俺もおるし、貴方様もおる」
「まったく……お前は、昔から軽いやつだな」
「俺のこと拾ったん、貴方様やないですか。俺に言われても知りませんわ」
カルロスは父に軽口を叩く。なにか、事情があるらしい。そして、父は「では、行くか」と、オレらを見る。
「杖を持ちなさい。そして、私たちの言うことを聞くこと。いいか?」
「わーったよ」
「えぇ、勿論ですわ」
背中を押される形で、オレは扉を開けて向かった。
「ピギィ!」
へんてこな、声をあげてスライムは雷を落とした。父は、それをはじく。
「結界術は私の専門でね!」
父は、雷の方向を変えて安全な場所へと落とす。それに苛立ったらしい魔物はピョンピョンとその雷の罠を落として、足元に電気の罠を巻いた。そして「ピギィ、キュィイ」と、甲高い鳴き声を出す。
「解呪師というのは、浄化師とも呼ばれる。呪いの類を解除するのは、負の感情を浄化しているからとも言われるんだ。ウェイン、ユースティーナを導いてやりなさい」
「え、嫌だ」
オレはすぐに拒絶した。が、父はオレの首元を掴み自分の前に放り出した。目の前には、どう動こうか悩んでいるらしいスライムがいる。ユースティーナが「えぇ!」と、声をあげ、焦りを見せた。
「ウェイン、あの、オライオン様!?」
「ティナ、すまないが。教育だ、ウェインあれを止めろ。お前の、力で、止めろ」
「あぁ、スパルタすぎるんとちゃいますか。まだ、掴み始めた所ですやん」
カルロスは警戒を強めながら、ウェインを護ろうとする。父は首を振り、オレの背中を押してきた。どうせ、出来ないのにと言う悲観的な考えがよぎる。これも、呪いのせいかは分からない。
「絵魔師は実戦での経験が成長の要だ。ウェイン、人を護れるようになれ、何かがあれば、私もカルロスもいる。何故、私がこの四人で来たのか、考えろ」
「ふん、別にオレが傷ついても」
「どうでもいいわけないだろ、ウェイン。前を向け、考えろ!」
父は、話しながら杖を振り雷を退けた。内心、凄いなと思うけれど、言葉には出来ない。
「何があっても、生きなければならない。それは、時に危険で困難な時もある。経験を積め、ウェイン。お前ならいける、絵魔師は想像と創造だ。後は、それを作ることが出来る魔力さえあればいい。ウェイン、やれ、やってみろ」
「わーったよ、やればいいんだろ」
ユースティーナが、オレの服を持つ。でも「離せよ」と、手をはらった。それでも彼女は「頑張って」と、言う。今も、カルロスが一人で魔物の相手をしているが。
オレは、仕方なく杖を出した。魔法の基礎は、本で読んだぐらいだ。水は火に強く、火は風に強い。風は土に強く、土は雷に強い。そして、雷は水に強い。なら、選ぶは土だ。
「描け、ウェイン。絵魔師は想像力が成長のカギだ」
頭の中で描く、無数の石の槍。土属性と風属性で動きを足す。
尖らせたもの、針のような物を思い描く。そして、それを飛ばすイメージを作る。
「魔法の素よ、自然のキャンバスに、魔物を突き刺す石の槍を描け!」
ウェインはイメージを強く持つ、変えずに一定に保つ。がっつりと、魔力は持っていかれた。ただ、意思通りに槍は魔物に向かって飛んだ。全部は刺さらず、あちらこちらに散らばり、刺さっていないものは魔力の粒になり自然へと消えて行った。
「ぴぎゃあぁ!」
しかし、刺さった所から黒いものが流れ落ちる。ドロドロとした、汚いものだ。あれを見ると、何だか落ち着く。落ち着いてはいけないもの、それは聞いて理解したはずなのに、あれが流れ落ちていることにほっとする。心がおかしい。
痛いのか、こっちに突撃してくる魔物を父が弾く。オレは、向おうとしてくる魔物の視線の先、体の向きから移動する。
今の自分を理解しているからこそ「チッ」と、舌打ちをした。魔物は今も、どたどたと動いている。オレは、もう一度避けるために動く。ユースティーナも「ついて行くわ!」と、くっついてくる。
父も守れる場所に、移動している。が、後ろから「もう一回だ」と、声がする。
まだ、目を吊り上げて動けるだけ、元気なのだ。
「まだ倒すのには弱いな、ウェイン。行けるか?」
ギリッと歯を食いしばる。オレは今非常に、このすました顔のバカ親父を殴ってやりたい。が、僕としては人を殴ってはいけないと理解している。だから、今は目の前の魔物に意識を向けた。だが、オレは今父への意識もそうだが、魔物のこともずたずたにしたくて仕方ない。
「発想力次第って、結構むずいもんやな、ウェイン。どないするんや」
「なぁ、カルロス。土は植物も含むのか?」
「えぇ、そうよ。土は、植物を含むわ。植物術師が土が七の時にしか、ギフトを受けられないもの」
カルロスが「えぇことや」と、嬉しそうにつぶやく。
「魔法の素よ、自然のキャンバスに魔物を縛る蔦を描け、その蔦は動きを封じよ」
ウェインは咄嗟に思い出した事を付け足す。効果を付け加える。蔦が、魔物を縛るように伸び、魔物を縛る。魔物はブンッ、と蔦に突撃してくる。オレは、もう一度、指示を出し魔法を使った。
そして、魔物は内容物が流れ出たのか、大人しくなり、ユースティーナは前に出た。
「魔物が抱く呪いを解呪せよ、浄化」
光の玉が魔物にぶつかりに行く。そして、魔物はその光に押し切られていった。スライムだった、魔物は全ての内容物が洩れ、その中にあった核はオレンジ色に戻っていた。これは、確か魔力鉱石だったか。
「解呪師の仕事と聖女の仕事は、異なる。解呪師は魔物の浄化、呪いの解呪。聖女は治癒、土地の浄化、神との交流になる。それと、ウェインはよくやった」
父がややこしい事を言っているが、足に力が入らない。ストンッと、座り込んでしまった。
魔物を倒した達成感は、もっともっとと魔物を殺すことを要求してくる。心臓はバクバクと煩く、ズキッと稀に痛みを連れて来る。
「魔力の使い過ぎや、ユースティーナ、悪いけど与えたって」
「えぇ、渡してあげる。その方が、呪いも落ち着くでしょ?」
ユースティーナが微笑み近づいてくるが、オレは怖い。
「要らない、お前の魔力なんか必要ない!!」
「あら、じゃあ、立ってみなさいよ!」
オレは何とか立とうとするが、ふらついて立てなかった。力を入れても、頭がふらふらする。
「ほら、駄目でしょう?」
「要らない、必要ない」
それでも、彼女の魔力を注ぎ込まれた時、温もりが全身を駆け巡る。その時、また心臓が痛む。ぎゅっと締め付けられるような、感覚が襲って来た。
ウェインの意識は、彼女が安心したような笑みと父の温かな手だった。
「さぁ、帰ろう。帰りは私たちに任せなさい。ウェイン、ユースティーナと手を繋いで」
「ちっ……」
ウェインは今度こそ、手を繋ぐ。ユースティーナは笑って受け入れた。でも、やはり離したくてしかたない。ユースティーナが、うれしそうなことが気に食わない。




