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第3話 神様が言うには呪い

 光が収まり、恐る恐る開いた先で見た人影は……人型の神様かもしれない。

 青みがかった銀髪、髪が波のように揺らめく。なんなく、オレはこの人が神であると認識した。


「メリル神様っ」


 父か、だれかが神の名前を呼ぶ。オレが感覚的に理解していたことが事実となった。


「ほぉ、流石は絵魔師のギフトを授かる者、人型で呼び出すか。しかも、魔神に呪われた状態で……」

「おい……っ」


 口答えしようとして、オレは何とか口を閉じた。口答えしてはならない、相手は神だ。


「お前は、魔神に呪われている」

「呪い……? 魔界の神のことか?」


 離れたところで、父が息を呑む。口答えしたくて堪らなくなった。


「なんだよ、勝手に出てきて、めんどくせぇこと言うなよ」

「その通り、魔界の神の事だ。ウェイン、こちらを見ろ、私を見ろ……」


 神は、輝かしいほどに光る神の目を、オレへと向けた。その目には、すべてが見透かされていた。


 息苦しいほどの力に、取り押さえられる。動けなかった、動こうとすると力に戻される。魔力は体の中で暴れ、吐き気と動機を起こさせる。

 ただ、手や足は封じられても、口は開く、なら……。謝るしかない。謝るな、必要ない、という心を押しのけて、なんとか口を開いた。


「ご、ごめんなさ、い。だから、許して」

「ふん……謝れるか。ならば、解ける可能性はあるようだな」

「ひっ……。解ける?」


 ウェインは、ようやく離されて、ほっと息を吐いて吸う。それを、十回もすればもとに戻った。


「解呪師もしくは聖女のギフトを持つもの、それと関係を築きなさい、人を信頼し、人を愛し、他者へと慈しみを持ちなさい」


 神は厳かに重く言葉を紡ぐ。


「多くの人と関わりなさい、頼りにされなさい……。そうすれば、その呪いは軽くなる。いずれ、解けるだろう」

「やっ、無理だ……そんなの、苦しっい」


 それをしろと言われるだけで苦しい。

 苦しいと言うだけで苦しい。嫌だ、何もできない。どうせ、捨てられる運命の身なのだから、しなくていい。そう、心は語りかけてくる。


「そうしなければ、お前は自分の意思で動くことはどんどんできなくなっていくぞ……。おまえは人として恥じるべきことを正しいことだと認識し、悪事を働く。そして、人に殺され……魔神に食われる」


 神はオレの前から動こうとしない。それでも、オレには常に何かを当てられているような気がする。居心地が悪い、胃がムカムカとしてくる。


「お前の魔力は、精霊へ力を渡すのに適しているからな。神は人を直接的に殺してはならぬ、それは魔界も世界も同じだ。誰かがお前を殺したとき、それは魔神にとってよい食事となろう。魔神は魔王を強くする、何せ魔王の契約精霊は魔神だからな」


 大臣の誰かが「そんなっ……」と、口に出した。神はオレの目を見る。


 「今でさえ、苦しいのではないか。人を愛せず、愛されることもできず、人を拒み、孤立していく……」


 そんな事、言わないで。ポロリッと、涙が流れてくる。辞めて、言わないで、苦しいよ、そんな事を口から吐けない。心が、吐かせてくれないのだ。


「その呪いは、自分の中へ邪気を溜めるための……悪い呪いだ。しかし、解呪する力を持つものがそばにいればいい」


 下を向き、自身のなかで暴れる魔力を少しでも落ち着かせようと深呼吸した。そして、口を開く。


「そんな人居ない、このオレにいると思うのか? オレは……どうせ、呪いに殺されるんだ」


 居るわけがない。そう、叫んでやろうかと心は訴える。困らせてやればいいのだと。


 そんなとき、父が「居る」と、声を出した。


「ユースティーナが、そうだ。ユースティーナが、解呪師だ……ウェイン」


 手を伸ばしていいのだろうか、彼女に。本当に? 嫌われているのに……。本当に、オレなんか、好きなのか? 昨日の話が耳に残っている。でも、信じきることなんてできない。


「……。オレは……だって」

「そうだな。酷いことをしてきた。そう、言いたいのだな?」

「うん」


 なんせ、ここに、彼女の父親もいるのだ。こんな、オレに会わせることもきっとしないだろう。苦しいのに、涙が出るだけで声を上げることもできない。


「……そもそも、死ぬべきではないだろうがな」


 ウェインは、その人を見上げる。輝かしい神の目は今は怖くなかった。そして、神は何かをオレに渡してくる。


「お前は、この世界の、要石の役割を担う一人とされた。お前が弱れば、この世界は魔物の大群を呼び込むことになろう」

「どういうことなのか、さっぱりわかんねぇよ」

「お前が死ねば、魔界の大門の一つが完全に開く。つまり、魔物が多く住まう異世界と繋がる扉が開くのだ、そこには魔王がいる。開けば、こちらに来て自由に悪事を働くであろう」


 神に差し出された虹色の宝石を受け取る。先ほどの青の宝石とよく似ていた。

 今度は誰もが唖然としている。神の話を、当然のように皆が聞いている。しかし、父が声を張った。


「メリル様、お尋ねしたい。弱ればというのは、肉体的に、もしくは、精神的に……どちらなのですか」

「両方だ。この様子では、精神面はボロボロであろうな。既に門は開き始めている……。要石の役割を与えられたのは一人ではない……この世界に三箇所、最低でも三人はいるだろう」


 ヒッ、と喉が鳴る。誰かが「何故だ。何故、この子が選ばれたのですか」と、言った。


「我らの世界の最高神の御心は、彼女のみ知るものである……。我らも世界新から知らされた者しか知らん。我はお前のみだ」

「オ、レ、オレは……ど、うすれば……」


 輝かしい目は弱々しいオレを見る。


「人として正しくあろうとしろ。人に丁寧に接し、温もりを持って人と関わることだ」

「そ、そんなの……できるわけねぇし」


 カラカラと、絵馬が鳴る。まるで、何かが語りかけているかのように鳴っていた。

 助けてよ、本当に貴方が神だと言うなら……。この苦しみから。それは、切実な願いである。


 俺の考えに目の前の神は、顔を歪める。


「魔神は魔界の神だ、こちらとて、手が出せんのだ」


 その言葉を聞いて、ウェインは足に力が入らなくなった。自分のなかで暴れる魔力に勝てなかったのだ。


 バシャンッと、音を立てて崩れ落ち水に浸ったウェインは、強烈な眠気に襲われ、水に浸かったまま、ぼーっとしていた。

 父の僕を呼ぶ声がする。その声すら嘘だと思った。


 あぁ、この悲しい考えが、呪いのせいと言うならば……どうして、こうも……苦しいのだろう。感情を消してくれればいいのに。そう、思ってしまう。


 まだ、意識が残るとき……お父さまの温もりがそばにあった。抱えられて強く抱きしめられた時、意識は眠りについた。



 ウェインは、やっぱり寝ていたらしい。

 目が覚めれば、ベッドの上だった。病院とかでもない、正真正銘の自室である。カルロスのコーヒーミルクの髪が見え、名前を呼ぶと振り向いた。


「案外早いお目覚めやったな。メリル神の言うことには、清めの水が体調を崩させたんやろうってさ。癒師にも見せたし、安心してえぇで」

「手の早いことで、そんなに大切にしたいの」

「そら、大切やろ……。ウェインも継承権を持っとるのに。だから、お前も王子やろ?」


 大切なのか、とため息をつく。


「それに、お前は世界のために生き残らなあかんからな」

「……。そうかよ」


 カルロスを呼び寄せて、彼が持つ本をひったくる。すると、そこには魔法基礎と書いてあった。


「……。勉強させるのかよ、結局」

「そりゃ、そうやろ……。甘えてたらあかんで」


 チッと舌打ちして、その基礎の本を開く。そんな時、ノックが聞こえた。それにイラつき「チッ」と舌が鳴った。

世界観・用語説明


メリル神:海神でありイーリス王国の守護神、シャチの姿とドラゴンの姿を持つ。世界神の一つ下のランクの神様。

世界神:この世界を形作った神様、直下に海神、陸神、太陽神を持つ。ウェインを魔界の要石に選んだ神様。

魔神:魔界を形作った神様、世界神と敵対しているらしい。神は人を直接やれないので、ウェインに呪いをかけて自分の餌にしようと企んでいるようだ。

魔界:魔神が作り、魔王が統治する世界。魔物がいっぱい。


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